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第9話 一騎当千

 魔物たちの進撃が始まってから約一時間、状況がガラリと変わった。


 「あれは……ヤクモたちが……戻ってきたのか?」

 「ああ、彼らならば、何とかなるかもしれない!」


 エレールとグライフの目の前に突然出現した心強い味方たち。

 彼らの出現によって、戦場の潮目がはっきりと変わる予感がした。


 冒険者や兵士たちは、最初は何が起こっているのかわからなかったが、状況を理解するにつれ、声を張り上げて声援を送った。


 「いやぁ……魔王なのに人間たちからこんなに声援をもらっちゃって……なんの因果だろうなぁ」


 ぽりぽりと頭を掻きながらぼやいていると……


 『まあ、なるようになりますよ!とりあえず目の前の敵を蹴散らしちゃいましょう!』


 胸元の首飾りからシオンがフォローを入れる。


 「ああ、そうだな……」


 とりあえず難しいことは、目の前の障害を排除してから考えよう。

 剣を構えながらそう決意した。


 「……何なんだあいつらは!?一体何者だ!?」

 「わからないわ……前触れもなく急に出現するだなんて……あの青い光はひょっとして〈転送魔法〉!?」

 

 上空でザルガデウスとディクルーゼが混乱している中、事態をいち早く理解したものが一人……


 「あいつらは……〈死者の森〉の時の……やはり現れたかぁ!」


 アシュタリテのみは、前回の屈辱を思い出し、怒りに震えていたのだった。


 「とにかく!たった五人増えたところで何の足しにもならんわぁ!者ども、蹴散らしてしまえ!」


 ザルガデウスの号令で再び、魔物たちが進撃を開始する。


 「さて、いくか……リンネは怪我人を回復してやってくれ、他の皆は、誰が一番魔物を倒せるか、勝負だ」


 「わかりました、〈エリアハイヒール〉!」


 リンネが全体回復魔法を使い、怪我人を癒す。


 「さすがに数が多いなぁ! 〈樹霊障壁〉!」


 魔物たちが一斉に押し寄せてくるがコダマの障壁によって、行く手を遮られてしまう。


 「……〈幻影手裏剣〉……」


 そこへオボロが影を最大まで大きくし、手裏剣を形成し、魔物達の先頭へ投げつける。

 手裏剣は、周囲の魔物を巻き込みながら、軍勢をずたずたにしてしまう。


 「我もいくぞぉ、〈鬼王剣〉!」


 ラセツが、大剣に闘気を纏わせ、魔物たちに斬りかかる。

 一振りで十体程度の魔物を一気に切り伏せながら、魔物の群れの中心へ向かって怒涛の進撃を見せる。


 「さて、俺もいくか……〈魔王剣〉」


 俺もスキルを使用し、剣に漆黒のスキルを纏わせる。

 そのまま、魔物の群れの中へ切り込んでいく。

 突然出現した強力な助っ人が、戦場の流れを完全に変えてしまった。


 戦場で自由自在に暴れまわる四人の戦士に、満身創痍だった味方を一瞬で回復してしまう術士。

 

 魔物たちは、次々に襲い掛かるが、剣で斬り飛ばされ、槍で突き殺され、着実に数を減らしていった。


 「……〈忍法・爆炎陣〉……」


 魔物の軍勢の奥深くまで潜り込んだオボロが、忍術で大爆発を起こす。

 その一撃で百匹近い魔物たちが一瞬で弾け飛んだ。


 「やるなぁ!〈ダークスフィア〉!」


 俺は、両手を上に掲げ、漆黒の球体を形成しそのまま魔物たちに向かって投げつけた。

 更に巨大な爆発が起こり、更に多くの魔物たちを吹き飛ばした。


 「な、なんという強さだ!これなら本当に勝てるかもしれん!」

 「ええ……これほどまでの強さとは思いませんでした。同じBランクとはいえ、私では足元にも及びませんね、正に一騎当千に相応しい!」


 ヤクモたちの鬼神の如き奮戦に、エレールたちが驚きを隠せないでいる。


 「〈神樹槍〉!」

 「〈鬼王剣〉!」

 「……〈魔影操術・槍の型〉……」

 「〈聖輪波動〉!」


 全員がスキルを放ち、敵を駆逐し続けている。

 味方の回復を終えたリンネまで加勢し、もはや手を付けられない。


 「調子に乗るなよ貴様らぁぁ!!!」


 そこへ剣を抜きながらアシュタリテが突っ込んできた。

 

 「むう!?お前はあの時の魔人か!?」


 剣による斬撃をラセツが受け止め、鍔迫り合いのような形になる。


 「貴様らさえこなければ全て上手くいっていたものを!一体何者だ貴様らは!」


 凄まじい形相で怒号を発するアシュタリテ、〈死者の森〉に続き、アランドラでの攻防でも邪魔をされ、その怒りは止まるところを知らない。

 何はともあれ、知りたかった情報を得るチャンスだ。


 「ラセツ、逃がすなよ!そいつには聞きたいことが山ほどあるからな!」

 「承知した!ぬうん!」


 ラセツは、鍔迫り合いの状態から剣を強引に押し込み、アシュタリテの体勢を崩しにかかる。


 「くそぉ、この馬鹿力がぁ!」

 「それは誉め言葉かな?〈鬼王剣〉!」


 体勢を崩したアシュタリテにスキルを使用し追撃しようとした瞬間――


 「〈ダークスフィア〉」


 上空から漆黒の球体が放たれ、ラセツへ迫る。


 「何だ!?」


 咄嗟に〈鬼王剣〉で〈ダークスフィア〉を迎撃する。

 爆発を起こすが、ラセツは無事だった。


 「何奴!?」

 「それはこちらのセリフだ。散々邪魔をしてくれおってからに」


 上空から魔人が二体……ザルガデウスとディクルーゼが降りてくる。


 「あらあら、アシュタリテが言ってた正体不明の五人組ってこいつらのことかしら?」

 「ああ、間違いなくこいつらだ、相当強いから気を付けろよ」

 「それは、こいつらの戦いぶりを見ていたらわかる。何故こんな奴らが急に現れる?」


 三体の魔人は俺たちの出現に動揺を隠しきれないようだ。


 「お前らが、このスタンピードの黒幕だな?ラセツ、大丈夫か?」

 「ああ、問題ない」


 ラセツのもとへ駆けつけるパーティーのメンバーたち。

 

 「さてと……お前らが黒幕だな?やってくれたなぁ」

 「ふん……まだ勝負はわからんぞ、貴様らを倒せば盤面は元通りよ」

 「……させるかよ、こっちもお前らを倒せば、勝ちは決まりだからな、負ける訳にはいかないんだよなぁ!」


 お互い武器を構え合う。

 アシュタリテは剣、ディクルーゼは鋭そうな鞭を使うようだ。

 ザルガデウスは禍々しそうな杖を取り出し構えている。


 「よし、俺があの杖を持っている奴とやる。ラセツはあの剣の魔人、女の魔人はオボロに頼む。コダマとリンネは魔物の群れに対応してくれ」


 それぞれの武器を見て、相性の良さそうな組み合わせを選んだつもりだ。

 ラセツはさっきの鍔迫り合いで全く力負けしてなかったし、あの鞭の攻撃には防御方のコダマよりスピード重視のオボロの方が対応できるだろう。

 そして、中央の一番強そうなやつは俺が直々に倒す。


 コダマとリンネのスキルは、仲間のサポートにより効果を発揮するため、他の冒険者たちの方で力になってもらおう。


 「さて、いよいよ大詰めだな……行くぞ!」


 俺たちは、それぞれの相手に戦闘を仕掛けるために突進していった。


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