第7話 溢れ出る脅威
魔王ヤクモ達が、〈死者の森〉に突入したのと同じくらいの時刻……
アランドラの街では、エレールとグライフがギルド内で打ち合わせをしていた。
「エレール殿、あのヤクモとかいう奴らは一体何者なんでしょうか?」
「……正直わからぬ、ただ……」
「ただ?」
「イムルの街のギルド支部に確認してみたが、ヤクモ一行などというパーティーは所属していないとのことだ」
「な!?やはりあいつら嘘をついてたのか、だとしたら益々怪しいですな!」
「ああ、確かに怪しい……だが、不思議と悪い存在には感じなかった」
エレールは、自嘲気味に話す。
「いや、今の話は忘れてくれ……ギルドのリージョンマスターともいうものが、こんな感情的な発言をするのも何だかな……」
「エレール殿……」
エレールとグライフが魔王ヤクモ達について話し合っている時にそれは起こった――
「エレール殿!グライフ殿!緊急事態です!」
突然、ドアを激しく開け放ち、ギルド所属のものが部屋に乱入してきた。
「どうした?エレール殿との打ち合わせ中だぞ!ノックくらいしたらどうだ?」
「すいません……しかし、正真正銘の緊急事態でして……」
「……はい、アランドラの街に……魔物の大軍が迫っています!」
「何だと!?」
それは風雲急を告げる、最悪の報告だった。
◆◆◆◆
数刻前……
Cランクダンジョン 〈魔蟲の洞窟〉
ここは、多数の邪悪な魔蟲たちが群がる巣窟である。
このダンジョンは、FランクからDランクまでの様々な蟲型の魔物が集団で出現するため、ギルド冒険者のレベル上げの場として昔から有名だった。
アランドラの冒険者は〈魔蟲の洞窟〉から始めろ、といわれるくらいに初心者育成に打ってつけのダンジョンであり、利用者も多かった。
ただし、最近は魔蟲たちの強さが跳ね上がり、EからCランクの魔物が出現するようになってしまい、多数の冒険者が犠牲になるほどには危険なダンジョンへと変わり果てた……
今、その〈魔蟲の洞窟〉の入口から多数の魔物たちが溢れ出るように這い出してきた。
大小様々な種類の魔蟲たちが、一心不乱にとある方向へ向かっている。
その群れを上空から見つめている存在がいた。
「ふふふ、これでアランドラの街もおしまいだな、このザルガデウスの手に掛かれば人間共など、一瞬で全滅させてくれるわ」
ザルガデウスと名乗る魔人は狂ったように進軍を続ける魔蟲たちを見ながら満足そうに微笑んでいた……
◆◆◆◆
同時刻……
同じくCランクダンジョン 〈サルヴァの古城〉
悪魔系統が多く出現するこのダンジョンでも同様に異変は起こっていた。
今までは、インプやグレムリンなどの小悪魔の系統に属するようなFランクからEランクの魔物が多く出現するダンジョンだったが、いつしかそれより上のDランクやCランクの悪魔系統の魔物が出現するようになり、非常に難易度の高いダンジョンへと変わり果てた。
その古城からも、様々な悪魔系統の魔物がアランドラの街へ向けて進軍を開始している。
こちらは〈魔蟲の洞窟〉とは違い、ある程度統制された悪魔たちが、列をなして行進している。
まるで人間たちの軍隊のようであった。
その軍隊を率いるものも、また魔人である。
「うふふ、こちらも首尾は上々ね、アシュタリテとザルガデウスは上手くやってるんでしょうね」
妖艶な雰囲気を漂わしている魔人、ディクルーゼは怪しげな笑みを浮かべながら、悪魔たちの進軍を見守っていた。
◆◆◆◆
「……何ということだ!? 〈魔蟲の森〉と〈サルヴァの古城〉の魔物たちが一斉にこちらに向かってくるだと!? こんなことは前代未聞だぞ!」
「……魔物の数は、どれくらいいますか?」
「はい!正確な数はわかりませんが、斥候の情報では……少なくとも三千体はいるかと!」
「……さ、三千体だとぉ!?」
普段は冷静なエレールが珍しく声を荒げた。
(馬鹿な……数が多すぎる……)
「すぐに、ベルンハイム騎士団へ救助を要請!イルム支部へも応援を求めろ!ギルドで戦えるものは総員戦闘準備!それ以外のものは住民の避難だ……急げ!」
焦りながらも適格な指示を飛ばし、大規模戦闘の準備を整える。
「ああ……それともう一つ手配をお願いしたい」
最後に思い出したかのように部下に伝える。
その後に、自らも出陣すべく装備を整えていると……
「エレール殿……これは……」
グライフからの問いかけに対して、重い口調で応える……
「ああ……これは……スタンピードだ」
◆◆◆◆
同時刻……
アランドラの街より西部に数キロ地点――
「もうすぐ、アランドラの街だ、二人ともぬかるなよ?」
「ええ、問題ないわよ、誰かさんとは違ってね」
「……っく!奴らさえ現れなければぁ……!」
アランドラの街へ向かって進軍を続ける魔蟲の群れと悪魔の軍を上空から監視する三体の魔人の姿があった。
「せっかく〈死者の森〉のアンデットたちもスタンピードに加勢させたら盤石の布陣だったのにね」
「まあまあ、ディクルーゼよ、私の〈転送魔法〉でアシュタリテだけでも助けることができて良かったではないか、命あっての物種だ、なあアシュタリテよ」
「ああ……すまぬな、助けてもらったことは心から感謝する」
先程、魔王ヤクモ達と交戦し、敗北の上、命からがら逃げ出してきた魔人アシュタリテは、アランドラの街へ向かう魔物の群れの一団へと合流していた。
魔王ヤクモ達が撃破したスケルトンエンペラーは、アンデットの魔物たちを率い、このスタンピードの一翼を担う予定だったのだ。
だがそれも、魔王ヤクモとの邂逅によって台無しにされてしまった。
大将であるスケルトンエンペラーを退治されてしまっては、アンデットたちを率いるものはいない。
入念に準備してきたアシュタリテの作戦は、図らずも魔王ヤクモたちにとって阻止されてしまったのである。
「まあ、これだけの軍勢がいれば問題ないだろう、三千もの魔物の集団を阻止できるだけの戦力はアランドラの街にはあるまいて」
ザルガデウスが勝ち誇っているのを見てディクルーゼも同様に勝利を確信し微笑んでいる。
その様子を見てアシュタリテだけは、一抹の不安を抱えていた。
「万が一、あいつらが出現したら……」
その不安は、先程の苦い敗北に起因していた。
◆◆◆◆
「準備はできたか!?騎士団の救援はいつ頃到着するんだ!?」
「はい!〈通信魔法〉で救援を依頼しましたが、約一日程度かかるようです!」
「……一日か、確実に持たないぞ」
エレールは先程から一時も休まず、対スタンピードの準備に忙殺されていた。
このままでは、確実にアランドラの街は滅ぶ。
そうなれば、数え切れないほどの犠牲者も出てしまう。
それだけは防がなければならない。
「一体、どうすれば!?」
現在、アランドラの街のギルド所属の冒険者たちをかき集めても百人にも満たない。
その中でCランク以上の実力を持つものは、グライフも含めて二十名ほどしかいない。
後は、大抵Dランク、中にはEランク以下の新人冒険者も含まれている。
「戦力が足りなすぎる……」
そうこうしているうちに時は過ぎ、その時はやってきた。
「伝令!伝令ー!魔物の大軍がすぐそこまでやってきました!」
監視役からの報告にその場にいる全員の顔がこわばる。
監視役の担当のギルド職員は見てしまった。
見たこともないくらいの魔物の大軍が、物凄い勢いでこちらに向かってくるところを……
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