第4話 ギルドからの依頼
舞台は変わり、今はギルド内の応接室の様な場所に通されている。
エレールから相談された、ギルドからの依頼の内容を聞くためだ。
あまり大人数で対応するのも邪魔になるので、俺とリンネの二人のみで話を聞くことにした。
応接室の中には、俺とリンネが並んで座っており、机を挟んだ反対側にエレールとグライフが座っている。
「さて、早速さっきのお話の続きをさせて頂きたいんだけど、いいかしら?」
「ああ、問題ない」
「……それでは、グライフ、お願い」
「……ああ」
エレールの指示で、グライフは大きな紙をテーブルに広げた。
「……これは、この辺り一帯の地図か?」
「ああ、これはベルンハイム王国の西部の地図だ、お前達に依頼したい仕事に関して説明させてもらうぞ」
グライフは、机に広げた地図の上で説明を始めた。
「……ここと、ここと、ここに印が付けてあるだろう?これは昔から存在しているダンジョンでな。この辺りの冒険者が狩りや探索を続けてきた場所だ」
グライフが指し示した所には赤いインクでバツ印が付けてある。
この辺りには三ヵ所のダンジョンがあるのか、この中には〈大迷宮〉が含まれていない。
(……リンネ達が探索に来た事から、場所が発見されていないとは思えないが……)
本当に把握していないのか、何か他の思惑のためにわざと外しているのか、どちらかはわからないが、今の段階では突っ込まない方が良いだろう。
そう考えている間にもグライフの説明は続いていく。
「この三ヵ所のダンジョンで最近妙な動きがあってな。まず、ダンジョン内の魔物の数が増えてきている。更に、魔物の強さも日に日に増してきている様なんだ。おかげで冒険者達も困っていてな。それぞれのダンジョンはうちのギルドにとっても貴重な収入源だ。何とか原因を突き止めて、元の状態に戻したいと考えている」
「……その原因を突き止めるのが俺達の仕事という事か?」
「ああ、その通りだ、困っている所に常識外れな実力を持つパーティーが現れてくれて非常に有難い、是非君たちに引き受けてくれると助かるんだが」
……なるほど、話はわかった。
後は引き受けるかどうかだが……
(ダンジョン内の魔物が増えたり強くなったりしている原因だが、恐らくダンジョンのボスが変わったんだろうな……)
『NHО』では、各ダンジョンにボスが存在しており、そのボスの強さに応じて、魔物の数や強さは決まる。
そのため、ダンジョンのボスが強くなれば、その分魔物は多くなり、強くなるという理屈だ。
……ただし、通常では、いきなりダンジョンのボスが強くなるなんて考えられない。
考えられるとすれば……
(ボスが資質スキル持ちになったか? ……いや、それだと神が言ってた数と合わない、三ヵ所のダンジョン共にボスが一斉に資質スキルを獲得するなんて、さすがに理屈に合わないな……だとすれば、上方修正か?神もさすがにこんな露骨な事はもうしないと思うが……)
「何にせよ……行くしかないか」
考えても理由はわからないが、原因を掴むには実際にダンジョンに赴くしかないだろう。
ここで、冒険者ギルドに恩を売っておくのも悪くはない。
「わかった、その依頼を受けよう」
「ありがとう、助かるよ、解決してくれた暁には、報酬をたっぷり弾ませてもらおう、また、依頼に関してこちらで協力出来る事は何でも申し出てくれ」
そう言いながらエレールは握手を求めてきた。
「ああ、任せてくれ」
俺は力強くその手を握り返した。
……その後、他の部屋で待っていた仲間達と合流し、冒険者ギルドからの依頼を受けた事と、その内容を伝えた。
仲間達も、俺の意見に同意してくれ、まずは三つあるダンジョンの内の一つに探索に向かうこととなった。
とりあえず今日は宿に一泊し、明日の朝からダンジョン探索へ向かうことになる。
冒険者ギルドの受付で、当座の資金として30000ゴールドを受け取った。
確か、宿が一泊100ゴールド程度だったので、かなりの金額を仮払い金として受け取っている。
これも、俺達への期待の高さの裏返しだろうか。
ギルドの受付嬢のお薦めの宿に宿泊し、明日の出発のために英気を養うことにした。
それぞれの部屋に分かれた後、俺は一人ベッドの上でくつろいでいた。
「……はああ、疲れたな。でも、やっぱりダンジョンの中より、外の世界を旅している方が、ゲームっぽくと面白かったなぁ」
俺は今日一日の出来事を思い出していた。
(冒険者ギルドか、『NHО』の時も利用してたけど、実際に見ると感動しちゃったな)
実際のギルドで依頼を受けた瞬間は、元ゲーマーの俺としては涙が出そうになるほどの、感動の出来事だった。
今まで、神には色々な感情を持っていたが、その瞬間だけは、感謝の気持ちを抱いてしまったのも事実である。
「……まあ、何だかんだで楽しんでるよなぁ……俺」
『さっきからブツブツ何言ってます?』
「うわお!忘れてたわ!」
……しまった。
シオンのことをすっかり忘れてた。
こいつ、首飾りの中でリアルタイムにこちらを見てるんだった。
『いやあ、さっきから一人でブツブツと何をおっしゃってるんだろうと気になって気になって』
「うわぁ、この首飾りって音声切ったりできないのか? このままじゃ、また俺のプライバシーが……」
『だからぁ、魔王様にプライバシーなんて無いって何回言えば気付いてくれる――あれぇ?急に周りが真っ暗に!?』
俺は、首飾りを机の上に置いてその上から、布をそっと被せた。
『いやー!魔王様!魔王様!?真っ暗で何も見えないです!どこ行きました!?わーわーわーわ!!!』
「逆に余計にうるさくなったな!ちょっと静かにしてくれよ!」
……こうして、相変わらずシオンに邪魔されながら、魔王ヤクモの夜は更けていくのであった。
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