第10話 黒角の剣王
読んで頂きありがとうございます。
このエピソードでやっと新たな仲間が出てきます。
こんな感じで様々な仲間を増やして行きますので、引き続きお付き合いよろしくお願いします。
玉座の間に転送されてきた俺たちは、今は居住スペースの食堂にいた。
当然、集落のゴブリン達も全員揃っている。
あの後、無事に玉座の間に転送されてきたゴブリン達は、それはそれは驚いていた様だ。
俺とシオンで、居住スペースの案内を済ませ、今は皆で食事をしている所だ。
やはり、ゴブリン達はかなり空腹だった様なので、歓迎会も兼ねて盛大にご馳走することにした。
メニューは俺の独断と偏見で「ステーキ」にした。だってあいつら全員肉好きそうだし。
調理用ゴーレムが腕によりをかけて作ったステーキが次々と運ばれてくる。
食堂に並んで座ったゴブリン達はそれぞれ落ち着かない様子だったが、目の前に置かれた焼き立てのステーキを見て目を輝かせ始めた。
ゴブリン・ソードマンも例に漏れず、極厚のステーキを前に涎を我慢出来ない様だ。
「ナ、何トイウコトダ!コンナ二ウマソウナ肉ハ初メテダ!」
ただひたすらに感動を隠せない様だ。
全員の前にステーキが並べられたのを確認してから、声を掛ける。
「よし、皆ご苦労だった。とりあえず皆で食事を楽しもうか、詳しい話はそれからだ」
俺は手を合わせて「いただきます」と唱え、ナイフとフォークで切り分けながらステーキを食べ始めた。
俺が食べ始めたのを確認したゴブリン達も各々食事を始めるが、やはり皆手掴みだ。
まあ仕方ないか……いずれ、食事のマナー等も教えられたら良いのだが。
特に、ゴブリン・ソードマンは輪をかけて行儀が悪い、両手に肉の切れ端を掴んでガツガツと貪っている。
「ウ、ウマイゾ!魔王ヨ!ナントイウカ……アリガトウ!」
全力でお礼を言われてしまった。あんな劣悪な環境にいたんだ、こんな上等な肉は初めてだろう。
他のゴブリン達も感動を隠せない様で、それぞれ笑顔を浮かべていた。
ゴブリン・ソードマンに関してはうわ言の様にアリガトウ、アリガトウと呟きながら食べている。
……何かキャラ変わってないか?
やがて、そう長くはない時間をかけて全員が食事を終わらせた。
全員、漏れなく満足な表情を浮かべている、食器は調理用ゴーレムが全て片付けてしまった。
「さて、落ち着いたらそれぞれの部屋を割り当てようか」
集落から来たゴブリンは全員で八名だ。個室の数はまだまだあるので、それぞれに部屋を割り当てる。
ゴブリンキングを退治するまでの仮暮らしの部屋となる訳だ。
それぞれの振り分けを終えた後、玉座の間へ集合する。いよいよ、ゴブリン・ソードマンへ魂の共有を使う時が来た。
玉座の間の大広間に俺とゴブリン・ソードマンが向かい合って立っている。その周囲を他のゴブリン達が囲む様に集まっていた。
「よし、それでは準備は良いか?」
「アア、イツデモ良イゾ」
同胞達の安全も保障された事により、完全に心を決めたみたいだ。
こちらとしても魂の共有を使用するのは初めてだ。否が応でも胸が高鳴るのがわかる。
「よし、行くぞ!魂の共有!」
俺はゴブリン・ソードマンへ向けてスキルを使用した。
『名称 ゴブリン・ソードマンに対して魂の共有が使用されました。対象の眷属化を実行しますか?』
謎の声が頭に響いてきた……答えはもちろんYESだ!
頭の中で答えた瞬間に2人の身体が眩い光を放ち始めた。どうやら眷属化が開始されたらしい。
「うおお!?これは大丈夫なのか!?」
「グオオ!?体ノ中カラパワーガアフレテクルヨウダ!」
「魔王様、初めてのスキル使用で驚かれるかもしれませんが、大丈夫です、そのまま流れに身を任せて下さい」
シオンの言葉に安心し、身を任せる事にした。
そうこうしている内に体の内側から新たな力が湧き上がってくるのを感じ始めた。
恐らく相手のゴブリン・ソードマンも同じ様な感覚を味わっているんだろう。
◆◆◆
魂の共有を使用後、お互いの体が同時に輝き出して五分程は経っただろうか。
どうやら、このスキルは眷属化した相手のみならず、自らにも何らかの影響を与えるのだろう。
俺の体の内側から、ただ事では無い力の奔流を感じながら、事の推移を見守っていた。
ゴブリン・ソードマンは、先程から眩い光に包まれながら僅かずつではあるが、姿形が変化してきている様に見える。
身長は伸び、より人間に近付いている様に見えるが溢れ出す光のせいで、詳細までは確認できずにいた。
そうこうしている内に、俺は妙な感覚を覚えていた。俺とゴブリン・ソードマンの魂が繋がっていく様な何とも言えない感覚だ。
『ゴブリン・ソードマンの眷属化及び進化を確認、新たな名称を設定して下さい』
新たな名称……名前を付けろってことか?
確かに、新たな仲間を種族名とかで呼び続けるのも変だな。
よし、初めての仲間だからな、強そうでかっこいい名前をつけてやるか……
俺はしばらく考えた後に、一つの名前を思い付いた。
俺の世界で強力な鬼を表すある名前を……
「……決めた、お前の名前は〈ラセツ〉だ」
『命名〈ラセツ〉を確認、設定します……眷属化及び進化を終了します』
あれだけ眩しかった光が徐々に収まって行き、遂には全く光が無くなってしまった。
そこに立っていたのは、新たな姿へと変貌を遂げた新たな戦士の姿であった。
以前は170cm程度であった身長は2m近くになっており、身体はより引き締まり凄みを増している。
肌の色こそ緑色のままだが、髪型は真っ白な長髪、そして頭には漆黒に輝く見事な角が2本生えている。
顔は元々は、少し険しい顔をしたゴブリン、という様な感じだったが、かなり人間よりの顔となっている。
精悍な顔付きの青年と言えるだろう。
漆黒の角と同様に黒く輝くの大鎧を纏い、背中に大剣を背負うその姿は、正に鬼である。
「ラセツ?俺がわかるか?」
「……ああ、わかる、わかるぞ!我が主よ!これから我は主の障害となる物全てを切り伏せる刃となる事を誓おう!何なりと命令してくれ!」
そう叫ぶラセツの姿はとても猛々しく、非常に心強かった。
「見違えたなぁ……」
試しに〈鑑定〉してみると、
名称:ラセツ
クラス:ゴブリンジェネラル・ソードマン
ランク:C
Lv:1
HP : 399/399
MP : 262/262
攻撃力 : 288
防御力 : 244
魔法力 : 0
素早さ : 288
スキル :剣王の覚悟
鬼王剣
剣術〈Lv3〉
やばいくらいに強くなっとるがな……
ランクも俺と同じCになり、ステータスも初期の俺と遜色ないレベルまでに向上している。
レベルの項目まで追加されているってことは、これから更に成長する余地があるということだ。
また、スキルに関しても見たことのないスキルが追加されている。
剣王の覚悟:魔王の力となりて、剣の道を究めるべく己を捧げる事を覚悟した者に発現するスキル。剣での攻撃時、与えるダメージを大幅に上昇させる。
鬼王剣:鬼と魔王の力を融合させた新たな剣技、絶大な力にて魔王に仇名す者を排除する。
剣王の覚悟は、剣士であるラセツにこのスキルを合わせたら正に鬼に金棒と言えるスキルだ。
他にも鬼王剣というスキルが追加されている。この2つのスキルは、魔王の眷属となることが獲得の条件の様だが、恐らくラセツのメインスキルとなるだろう。スキルレベルの上昇によって技も増えていくみたいなので、これから更に強力なスキルを覚えていくに違いない。
「ラセツ、これからよろしくな!」
「おう!よろしく頼むぞ!主よ!」
「私からもよろしくお願いしますね!」
シオンと3人で盛り上がっていると……
「あの、すいません?私達はどうすれば?」
ん?これは誰の声だ?……聞き慣れない声に辺りを見回すと、何と連れてきたゴブリンの一人が流暢に言葉を話していた。
「あれ、お前も話せたのか!?」
「い、いいえ、さっきから急に言葉がわかる様になりまして……」
これは驚いた、恐らく魂の共有の影響に間違いは無いだろうが。よく見ると姿形も以前よりも人間味を増している様に見える。
「シオン、これはどういう現象かわかるか?」
「はい、これは恐らく魔王様の眷属化の影響がこのゴブリン達にまで及んだ結果だと思われます。ラセツさん程では無いにせよ、魔王様の巨大な力の影響で他のゴブリン達も進化してしまったのでは?」
「ということは、このゴブリン達も俺の眷属ということになるのか?」
「いいえ、魔王様の系譜に連なる者には間違いありませんが、正確にはラセツさんの直系の眷属ということになりますね」
……なるほど、俺の仲間ということには間違い無いが、直接の眷属では無いということか。
転生して早々に仲間が一気に増えてしまった。
最後に、自らのステータスを確認しておくか、魂の付与の使用中に、自分の力が増加していくのを感じた。どの様に変化したのが確認する必要があるな。
名称:ヤクモ スメラギ
クラス : 見習い魔王
ランク : C
Lv : 20
HP : 1113/1113
MP : 1079/1079
攻撃力 : 1083
防御力 : 774
魔法力 : 960
素早さ : 910
スキル : 魂の共有
鑑定
闇魔法〈Lv3〉
魔王剣
えーと、まず変化としては攻撃力が大幅に上がっているな、これはラセツの影響だろう。
後は、スキルが増えている、〈魔王剣〉か……何かものすごく物騒な名前だがラセツの〈鬼王剣〉と関係があるのかな、詳細を見てみるか。
魔王剣:剣王と魂を共有した時に解放される真なる魔王の剣技、闇の力を纏いし必殺の剣を放つ。
おお、すごいな……魔王専用の必殺剣か、早く試したくてウズウズしてきた。
「これは想像以上のパワーアップだな。ひょっとしたらこのままゴブリンキングくらい倒せるんじゃないか?」
「魔王様、すぐに調子に乗るのはあまり良くないですよー。まあ、気持ちはわかりますけどね」
「主よ、我はゴブリンキングを実際に見たことがあるが、あれは本物の化け物だ。パワーアップした今の我でも勝てるとは思えんな」
すぐに怒られた……やはり世の中そんなに甘くないか。
しかし、そんな甘い考えを抱いてしまう程に、頼もしさをラセツには覚えてしまう。
この調子でパワーアップを重ねて行けばゴブリンキングと言えどもいつかは退治することが出来るだろう。
◆◆◆◆
こうして、俺は一人目の眷属、いや仲間に出会った。
その者は、雄々しく猛々しく、その姿は見る者全てに畏怖を抱かせる。
身の丈程の大剣を自在に操り、魔王に仇名す全ての者を切り払う鬼と化す。
後に魔王の右腕として世界中に恐れられることになる……
その名は 『黒角の剣王 ラセツ』
作品をご覧頂きありがとうございます。
現在、第一部終了まで書き溜めてあるので、しばらくは毎日更新を続けさせて頂きます。
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