34 進む〈聖女〉クエスト
突然現れたクエストウィンドウに、私は息を呑む。思わず声を出さなかった私、偉いと思うよ。
……やっぱり〈聖女〉クエストの重要人物は、リロイだったんだね。
しかも教皇――ティティアもしっかり関わっていたようだ。ウィンドウの情報によると、ティティアが鍵をくれるらしいけれど……いったいなんの鍵だろう?
「シャロン」
「え、あ……はい」
考えこんでいたらティティアに名前を呼ばれて、ハッとした。見ると、柔らかな笑みを浮かべたティティアが私の元へ来て、手を取った。
「この度のこと、本当に感謝をしてもしきれません。ありがとうございます」
「いいえ。ご無事で何よりです」
私もつられて頬が緩んだ。
「お礼になるかはわからないのですが……。シャロン、これを」
「これは……鍵、ですよね?」
「はい」
ティティアは隠しポケットの〈魔法の鞄〉から、鍵を取り出した。そのカギは錆びついているけれど、女神フローディアの紋章が刻まれていた。どこの鍵なのか、錆びているためちゃんと使えるのかなど、いろいろわからないことが多い。
……ただ、〈聖女〉クエストに関係があるものってことは確実かな?
私がじっと鍵を見ていると、ティティアの眉が下がった。
「その、お礼に……とは思ったのですけれど、わたしも正確にどこの鍵かはわかっていないのです。ただ、フローディア様のお力を感じることはできますので、本物であることは確かなのですよ」
「女神フローディアの力が……!?」
どこかキーポイントの扉を開ける鍵かと簡単に考えていたけれど、思った以上に重要なものみたいだ。さすがはユニーク職業のクエストだね。
「ありがとうございます、ティティア様。大切にいたします」
「はい」
お礼を告げると、ティティアはほっとしたように胸を撫で下ろした。もしかしたら、私に不要だと言われるのではと思っていたのかもしれない。……錆びてるしね。
私は鍵を受け取ったので、レリーフの欠片――〈古き大聖堂の記憶〉を取り出す。すると、先ほどと違う内容のクエストウィンドウが現れた。うん、ちゃんとクエストが進んでるね。
【ユニーク職業〈聖女〉への転職】
教皇の呪いが解かれるとき、再び〈聖都ツィレ〉に平和が訪れるでしょう。
女神フローディアは、誰よりも平和を愛します。
内容を確認して、私は鍵とレリーフの欠片を一緒にしまう。……うん。これでわかったけど、やっぱり私が〈アークビショップ〉になってティティアとリロイの呪いを解かないといけないみたいだね。
……まあ、〈ヒーラー〉になって〈アークビショップ〉になるだけだから、そこまで大変じゃないかな?
〈聖女〉に転職しようとしていることを考えたら、天と地ほど難易度が違う。〈アークビショップ〉なら、ゲーム時代に何度もやってるもんね。
私たちはお茶を飲んで落ち着くと、今後のことを話し始めた。
「ここまで関わってしまったのですから、私は最後までティティア様とご一緒したいと考えています」
「わたしもですにゃ。まだレベルも低くて、知識もないですが……お役に立ちたいと思っておりますにゃ」
「シャロン、タルト……ありがとうございます」
私とタルトの気持ちを伝えると、ティティアはとても喜んでくれた。最初に助けたときはこんな展開にまでなるとは思って――まあ、嫌な予感はしてたけどね。
ひとまず定期的に〈沈黙の花〉を仕入れて、〈遅延ポーション〉を作らないといけない。それから、私が〈アークビショップ〉になってスキルを使いティティアとリロイの呪いを解く。そうすれば、〈聖女〉クエストも先に進む。
……とはいえ、〈聖女〉クエストのことがなくても、関わってただろうけどね。
ティティアと過ごしたのは短い時間だけれど、とてもいい子だし、何より子どもだし、助け守ってあげなければという思いもある。
今後のことを説明すると、リロイが「それでしたら、立場があった方がいいですね」と告げた。
「立場、ですか?」
「ええ。タルトをティティア様の専属〈錬金術師〉としてはいかがですか? 今は大聖堂がロドニーの手に落ちていますが、ティティア様を慕っているものもいるでしょうから。その立場があるだけで、助けになることもあります」
リロイの提案に、確かにそれはいいと思う。
……というか〈教皇〉の専属〈錬金術師〉とか、大出世だよ……!
私が師匠だというのに、一瞬で弟子に立場を抜かされてしまって笑う。
「にゃにゃっ!? 私は〈錬金術師〉として勉強を始めたばかりですにゃ! そんな、専属なんて恐れ多いですにゃ!」
タルトが思いっきりぶんぶん首を振っている。私だったらハイ喜んで! と言ってしまうけど、タルトは謙虚だね……。私の弟子、とっても謙虚でいい子。
「タルトが戦っている姿は、とても頼もしかったです。ですが……わたしの専属になるのが嫌なら、無理強いはできません」
ティティアが寂しそうに告げたのを見て、タルトは「そんなことないですにゃ!」と咄嗟に声をあげてしまった。
「でしたら、専属〈錬金術師〉として話を進めましょう」
「にゃっ!?」
まんまとにっこり笑うリロイの作戦にしてやられたかたちになり、タルトはピョンッと跳ねて驚いた。
……うん、そんなところがとっても可愛いよ。
「では、タルトはティティア様の専属〈錬金術師〉として頑張らせていただきましょう。それと……私が〈アークビショップ〉になって呪いを解く必要があるので、レベルも上げていきます。ティティア様とリロイ様は、レベルはいくつですか?」
「わたしはレベル10です」
「私は47です」
「なるほど……」
レベル差が±15以内であれば、パーティを組んで経験値を平均して得られるのだけれど、二人のレベルだと私とタルトと組むのは無理だね。というか、ティティアのレベルが低すぎて、よく魔女に殺されなかったと本当に心の底から安堵した。あのとき少しでも遅れていたら、助かっていなかったかもしれない。
「まずは、ティティア様のレベルを上げましょう。私とタルトとパーティを組めるようになったら、一気にリロイ様と組めるまでレベルを上げます」
そうすれば基礎体力や防御力も上がり、今より死にづらくなる。やはり生きる上でレベル上げは大切だ。
「わたしがリロイと組めるくらい強く……できるのでしょうか?」
「もちろんです。レベル上げは得意ですから、任せてください」
「レベル上げが得意なんて話は普通聞きませんが……シャロンは普通ではないですからね。私も支援に努めますので、どうぞよろしくお願いします」
「……はい」
言い方がちょっと引っかかるんですが? リロイ様? そう思いながら、私は頷く。これから本格的に転職するので、忙しくなりそうだ。
ここでエピソード2、一区切りです。
そしてここまでが書籍2巻に収録されております。
加筆修正、書き下ろしなど盛りだくさんです。
どうぞよろしくお願いいたします~!
『回復職の悪役令嬢』
エピソード2 錬金術師のプレイヤー的育成方法
レーベル:MFブックス(KADOKAWA)
イラスト:緋原ヨウ先生
★地図
★職業一覧
プロローグ(タルト視点)
ケットシーの島に到着!
マナ喰い
初めての〈製薬〉
可愛い弟子
二人で旅立ち
タルトの〈冒険の腕輪〉
パーティ結成
〈オーク〉討伐依頼
〈防護マスク〉を手に入れたい
僕の青年
至福の温泉宿
進み始めた〈聖女〉クエスト
エピローグ(ティティア視点)
番外編/大聖堂でのできごと(リロイ視点)
番外編/娘からの手紙(アンジェラ・ココリアラ視点)




