11 〈流れ星のポーション〉
「これが〈流れ星のポーション〉か? 本物を見たのは初めてだ」
フレイが「ほほぉ~」と言いながら見ている。その横でルーナ、リーナ、トルテも瞳を輝かせている。わかるよ、〈流れ星のポーション〉はデザインがとってもお洒落だからね。
〈流れ星のポーション〉は、空へ還った魂を流れ星に乗せて体の元まで運んでくるという秘薬だ。
流れ星をモチーフにした蓋の部分からは、キラキラした光が零れ出ている。ゲームのときはあまり気にしていなかったけれど、現実で見るととても綺麗で美しい。
タルトちゃんはつま先立ちで調合鍋の底に転がっている〈流れ星のポーション〉を手に取った。
「これで、わたしの病気も治るのにゃ……?」
「うん」
私は笑顔でしっかりと頷いた。ここで私が不安そうにしていたら、タルトちゃんがもっともっと不安になってしまう。フレイたちも一生懸命頷いてくれている。それを見て安心したのか、タルトちゃんは頷いて蓋に手をかけた。
ゆっくり開けると、中から流れ星のエフェクトが飛びだしてきた。瓶の中の液体はパチパチ音を立てている。ちょっと二度見してしまいたくなるけれど、きっと炭酸なんだろう。たぶん。そうだといいな。〈スキルリセットポーション〉みたいに不味くないといいな……。
タルトちゃんが大きく深呼吸をして、ゆっくり口をつけた。
「ん……!」
目を大きく見開いて、けれどごくりと喉を鳴らしながらも飲み込んだ。すぐにぎゅっと目を閉じて、自分の体を抱きしめている。
「タルト! 大丈夫にゃ!?」
「……っ、体が熱いですにゃ……っ!!」
はあ……っ、と大きく息をはいて、タルトちゃんはトルテに抱きつく。自分の中に溜まった熱を逃がそうともがいているみたいだ。
……見守ることしかできないのがもどかしい。
いったい何分経っただろうか。しかしそれは私の体感で、現実では数十秒ほどしか経ってはいない。
タルトちゃんは呼吸が落ち着くと、トルテから離れて一人で立った。
「気分はどうかな、タルトちゃん」
「……ええと」
私の問いかけに、タルトちゃんはすぐに答えず、手を握ったり開いたりしてみたり、部屋の中を歩いてみたり、しゃがんで立ってなどの動作を繰り返した。普段の自分の体と違うか確認しているみたいだ。最後にぴょんっとジャンプした。
「すごい、すごいですにゃ! 今まではこれだけ動いたらだるくなっていたのに、全然ないですにゃ!」
ぱああぁぁっと、タルトちゃんが今日一番の笑顔を見せてくれた。私もほっとして、「よかったぁ」と気の抜けた顔で笑う。
「タルト、よかったにゃー!」
「元気になってよかった!」
「まさかタルトが自分で薬を作ったのには驚いたけど……よかった、おめでとう」
「おめでとう、タルト!」
トルテ、フレイ、ルーナ、リーナも口々に祝いの言葉を述べて笑顔を見せる。タルトが元気になって、嬉しくて嬉しくて仕方がないのだろう。会ったばかりの私がめちゃくちゃ嬉しいのだから、四人の嬉しさは限界突破しているに違いない。
「すごい、〈流れ星のポーション〉は神秘的ね。……材料はまだあるから、もっと作ることができるの……よね?」
ルーナがぽつりともらした呟きに、私以外の全員がハッとした。
「た、確かに……今なら〈楽園の雫〉があるから、〈流れ星のポーション〉を作ることができる!」
フレイの目がくわっと見開かれて、「もし〈流れ星のポーション〉があれば、厳しかったあのダンジョンも無理して進めるんじゃないか……? もっと強い敵にだって、挑むことが――」とぶつぶつ言っている。いや、それは止めた方がいいと思う。プレイヤーみたいに何百本も〈流れ星のポーション〉を用意できるなら別だけど……。
「ストップストップ、落ち着いてフレイ。確かに〈流れ星のポーション〉は作れるけど、今後、ほかのことで〈楽園の雫〉が必要になるかもしれないでしょ? 安易に全部使っちゃうのはやめた方がいいんじゃないかな」
「む、確かに……」
今度はフレイが悩みだしてしまった。「うぅ~ん」と声をあげて、「でも」とか「いやしかし」という言葉が聞こえてきて思わず苦笑する。
「数個作って持っておくのはいいと思うけどね。たとえば、フレイ、ルーナ、リーナ、トルテ……パーティ四人分とか」
「なるほど! 一本ずつ持っていたら何かあったときに安心だ。そうしよう!」
フレイが「あと五本……いや、六本だ!」と告げた。さらりと二本増えてるんですが?
「タルト、あと六本作れるか? その、病み上がりで大変でなければいいのだが……」
「今すっごく元気だから、大丈夫ですにゃ!」
タルトちゃんはフレイの言葉に満面の笑みで頷いて、「もっと錬金術を使いたいのですにゃ!」と嬉しそうにしている。いい子だ。これは止められないと、私はタルトちゃんを見た。
「やり方はさっきと同じだけど、一人でできそうかな?」
「任せてくださいにゃ!」
ふんすと気合を入れたタルトちゃんが、先ほどと同じ手順で〈製薬〉スキルを使って調合を進めていく。病気が治ったからか、かき混ぜる手が軽やかだ。
しばらくすると、もくもくっと煙が上がってピカッと光る。問題なく〈流れ星のポーション〉を作ることができたみたいだ。
そのまま続けて、フレイの希望通り六本の〈流れ星のポーション〉が完成した。
「できましたにゃ!」
「おお、すごい!」
やりきったタルトちゃんを、フレイが拍手でめちゃくちゃ褒めている。タルトちゃんはあまりにも褒められるので、少し頬が赤い。
フレイは六本の〈流れ星のポーション〉を受け取ると、ルーナ、リーナ、トルテに渡し、タルトちゃんと私に差し出してきた。
「これは二人の分だ」
「え!」
「わたしもですにゃ?」
てっきりパーティのアイテムにするとばかり思っていたので、驚いた。……この世界ではかなり貴重なものなんだけど、私も貰っていいのかな? うぅんと悩んでいると、フレイから「ほら」と急かされて思わず受け取ってしまった。
「あ、ありがとう。でも、私が貰っていいのかな?」
「当たり前だろう? シャロンは私たちのパーティメンバーも同然だからな!」
「……! ありがとう、大事に使うね!」
「ああ」
道案内の依頼を受けていただけで、さらに今は単なる同行者だとばかり思っていたのだけれど……仲間だと言ってもらえることは、思った以上に嬉しいものだった。




