2 KAWAIIがいっぱい
――KAWAII!
私は猫モンスターを見て、大きく息をはいた。落ち着かなければ、冷静に対処できる自信がなかったからだ。
姿はケットシーのような半獣人っぽいものではなく、完全な猫。ただし二足歩行で、足には靴を履いている。グレーの毛並みが美しい猫で、剣と盾を装備している。
……初めて見るモンスターだ。
私は〈星の記憶の欠片〉を取り出して、猫モンスターに向ける。これは、対象がレベル50以下であればレベルとジョブがわかる使い捨てアイテムだ。基本的に人間相手に使っていたものだったが、実はモンスターにも使うと名前と属性とレベルがわかる。
〈ネコ剣士〉 属性:無 レベル25
素早さを生かした攻撃をしてくる前衛。
名前はそのままだった。
私は17レベルだから〈ネコ剣士〉の方が強いけど、戦うのはフレイたちだ。そんなに強くないと言っていたから、任せてしまって問題ないだろう。
とはいえ初戦。ということで、私は前衛のフレイとリーナに〈身体強化〉と〈リジェネレーション〉をかけておく。〈リジェネレーション〉は10秒毎に体力を回復してくれるので、しばらく私の支援はなくて大丈夫だろう。
「その隙に……〈身体強化〉!」
私はルーナとトルテ、そして自分にも身体強化をかける。これで動きやすいから、戦闘中も移動中も楽になるはずだ。
ネコを見ると、ちょうどフレイと剣を交えているところだった。カキンと金属のぶつかり合う音を聞きながら、私は周囲にも気を配る。状況把握をすることも、支援の大事な役目だ。
……ほかのモンスターが出てくる気配は、今のところなさそうかな。
私が安堵していると、ルーナがネコに向かって〈アイシクルアロー〉を放った。ネコの足が凍りついて、その隙にリーナの短剣がネコを倒した。さすがは勇者パーティ、あっという間だ。可愛い猫ちゃんを倒すのはちょっと心苦しいけれど、仕方がない。
ネコが光の粒子になって消えた後には、〈壊れた剣先〉が落ちていた。これは剣を持つモンスターがよく落とすドロップアイテムなんだけど、特に価値はないのでお店に売るくらいしか使い道はない。トルテが拾って鞄にしまった。
「ん、問題はなさそうだな。村に着くまで、まだ何回か戦闘があるから……油断しないで行こう。リーナ、引き続き頼む」
「オーケー!」
フレイの言葉にみんなが頷き、リーナは再び走り出す。この先の道の状況や、モンスターの数などを確認してくれる。
「この先に剣士が三匹と、弓も二匹いるわ!」
「弓か……先に倒した方がいいだろうな」
「うん。私とルーナで一匹ずつ仕留めるから、フレイはフォローお願い」
「わかった」
ねこじゃらしの隙間から前方を見ると、確かに〈ネコ剣士〉三匹と〈ネコ弓士〉二匹がいる。フレイも言っていたけれど、遠距離タイプの敵は先に倒すに限る。
「スキルをかけるね。リーナに〈女神の一撃〉、ルーナにも〈女神の一撃〉っと!」
「「ありがとう!!」」
「おお、それは攻撃力がすごく上がるスキルか! それなら問題なく一撃で倒すことができそうだな」
私が使ったスキルを見て、フレイが瞳をキラキラさせている。きっと、またかけてもらいたいと思っているのだろう。
〈女神の一撃〉は、かけた対象の次の攻撃力を二倍にすることができる。なので、強力なスキルを使うときやモンスターを一確したいときによく使う。
「すごい、力がみなぎってくる! 〈円環乱撃〉!!」
「いくわよ、〈絶対零度の吹雪〉!!」
「――って、大技すぎる!!」
リーナとルーナの攻撃を見て、思わず叫んでしまった。間違いなく過剰火力なんだけど……うぅん、倒せたしまあいいのかな……。村はすぐそこで、特別強いモンスターが出るわけでもなさそうだしね。
ちなみに〈猫弓士〉だけではなく、〈ネコ剣士〉も一緒に倒してしまっていた。さすがです。
「でも二人とも、マナの管理もしっかりね。……〈マナレーション〉」
「「「え?」」」
「にゃ?」
「?」
私がスキルを使ったら、全員に驚かれてしまった。
「シャロン、その〈マナレーション〉というのは……初めて見た気がするんだが……?」
「そういえば使ってなかったですね。これは30秒毎にマナを回復してくれるスキルです。レベルが低いから、そんなに回復しないんですけど……まあ、気休めみたいなものです」
「いやいや、十分すごいし頼りになるぞ!?」
「ありがとうございます」
フレイに褒められたので笑顔を返す。やはり支援職として褒められるのは嬉しい。戦闘で必要なスキルはすべて把握しているので、みんなの体力やマナの残りもざっくりと把握することはできている。
この世界はステータスがないので、体力やマナが数値化されていない。それはちょっと不便だけれど、まあ慣れれば意外と雰囲気でなんとかなる。敵が強くないというのもあるけれど。
それからしばらく歩くと、村が見えてきた。
「もしやあれが……!」
「そうにゃ。〈ケットシーの村キャトラ〉にゃ!」
夢にまで見たケットシーの村ああぁ!
私は一気にテンションが上がった。
村は柵でぐるりと囲まれているようで、入り口部分には門番のケットシーがいる。
丸みを帯びた屋根の建物は、人間サイズより少し小さめに作られているようだ。そこかしこに肉球や魚のデザインがあしらわれていて、まさに猫の村! というのが遠目でもわかってしまう。
つまり何が言いたいかというと、とってもKAWAII村ということだ。
「うわあ、知らない人間にゃ!!」
しかしケットシーにとって――人間はKAWAIIわけではない。門番が驚いた声をあげて、トルテが「慌てて帰ってきたから、ちゃんと対策を考えてなかったにゃ」と頭を抱えている。
……わあ、どうしよう。
感想、誤字脱字報告、ありがとうございます。
また、書籍の感想もありがとうございます。頑張ったので嬉しい…!
書籍発売一週間くらいの売り上げが結構続刊の参考にされる気がするので、どうぞよろしくお願いいたします……!




