13 Sランク冒険者の優雅な遊び
「こっちこっち」
私がみんなを引き連れてやってきたのは、屋敷の一階の奥にある倉庫だ。
食料の保存や物資。食料や物資の保存がされている至って普通の倉庫だけれど、実は壁にかけらてているスイッチを押すと地下へ続く隠し階段が顔を出すのだ。それを見せると、ケントがうわっと驚いた。
「こんな仕掛けがあるのかよ!! すげ~!」
仕掛けをまじまじと見て、しかしケントは眉をひそめる。
「でも、誰かが倒してたらボスはもういないんじゃないか? 復活するのは、一日後だよな」
「ボスは復活に時間がかかりますにゃ」
「だね」
ケントの言葉に、タルトとココアもうなずいている。
「そうなんだけど、私……思い出しちゃったんだよね」
「ん? 何をだ?」
「ここの存在、フレイたちに伝えてないな……って」
私がここのボス、〈エルンゴアの亡霊〉と戦ったのはフレイたちが寝静まった夜中だ。だからフレイたちは私がボスを倒したことを知らないし、もちろん冒険者ギルドも報告を受けておらず知らないだろう。
この倉庫自体、冒険者たちの手が入ったようにも見えないので、気づいている者はいない可能性が高い。
私が簡単に説明すると、ケントがなるほどなと頷いた。
「別にダンジョンの情報全部をギルドに渡す必要はないし、いいんじゃないか?」
「うん。自力で見つけたものが見つけた人がボスに挑戦するでいいと思うしね」
『わたくしもそう思うのだわ! それに、これだけの屋敷だもの。普通は秘密の通路がるものだし、気づかないのが愚かなのだわ』
……ウンディーネ様、以外に容赦ないお言葉だ。
「ならいっか」
私は笑って、「行こうか」と階段を下りる。
地下の廊下を真っ直ぐ進んだ突き当たりにある重厚な鉄の扉、この奥にいるのがここのダンジョンボス、〈エルンゴアの亡霊〉だ。
「で、誰が一番早く倒すか競争って話だよな」
「うん」
挑めるのは一日一回なので、毎日一人ずつ挑戦するというかたちになる。
「誰から挑戦しよっか? あとボスの情報は――」
「いや、それはなしだ」
私がボスの特徴などを説明しようとしたが、ケントから待ったがかかった。
「今の実力でどれぐらいやれるか試したい。それに、ここのダンジョンボスはそんなに強くないんだろう?」
「ボスの中では弱い部類に入るね。怪我はするかもだけど、重症を負うようなことはないと思うよ」
「なら大丈夫だ」
ケントは自分一人で実力を試したくて、うずうずしているようだ。
「シャロンは支援職なんだし、ボスを知っているのはハンデってことでいいんじゃないか? みんなはどうだ?」
「うん、それでいいと思う」
「賛成ですにゃ!」
「問題ない」
全員一致で、支援職である私へのハンデということになった。くうう、あとで泣きを見てもしらないんだからね!!
「俺からいってもいいか?」
「もちろん」
立候補で、まずはケントがTAチャレンジすることになった。
「支援はなしだよ。頑張ってね!」
「ファイト!」
「倒してくるの待ってますにゃ~!」
「おう!」
私たちの応援を受けたケントが鉄の扉をくぐりボスに挑み――一〇分後に出てきた。
「おかえり、ケント。どうだった?」
「ココア! 強くはなかったけど、飛び道具がさ――って、ダメダメ! お前、何を言わせようとしてんだよ!!」
「残念」
ココアが笑い、ケントは自分の口を手で押さえている。
私はかすり傷のあるケントに回復をかけて、今日の記録を一〇分と記録した。
次に挑むのは、タルトとサラマンダーとウンディーネだ。サラマンダーとウンディーネを従えて立つタルトは、なんだか貫禄があり格好良い。
「え、三人で行くのか!? ずるくないか!?」
「ウンディーネとサラちゃんはタルトの使役している仲間っていうことになってるから、ケントのドラゴンみたいなものだからものなんだよね」
だから別に反則でもなんでもないのだ。
「なるほど確かに」
おそらくこの様子を見ると、ケントはドラゴンを召喚せず剣で戦っていたのだろう。せっかく〈竜騎士〉なのだから、ドラゴンと共に戦ってもいいのにと思うけれど……地下の部屋の中だったから、ドラゴンの召喚もできないと思ってしまったのかもしれない。
「頑張ってきますにゃ!」
『わたくしに任せるのだわ!』
『があ!』
気合を入れたタルトが、ウンディーネとサラマンダーを連れ、鉄の扉の奥へ入った。そして二人と一匹が戻ってきたのは七分後だった。
「お、ケントより三分早い!」
「頑張りましたにゃ~!」
『当然なのだわ!』
『があ~!!』
「くうううぅ……。三分も負けるなんて!!」
誇らしげなタルトの横で、ケントが膝をついて頭を抱えてしまった。
さらに次の日は「わたしの番」とルルイエが前へ出た。
その手には料理包丁を持っているので、闇の女神の力というより、〈料理人〉としてボスと戦うつもりのようだ。
重たい鉄の扉を軽々開け、ルルイエもボスに挑戦し――八分で出てきた。
タルトより少し遅かったけれど、ケントよりは早い。
「まじか」
ルルイエにも負けてしまったケントは、また打ちひしがれてしまった。
そしてさらに次の日。「ついに私の番だね!」とココアがやる気を見せている。
「ココアなら大丈夫だと思うけど、十分気を付けろよ? ポーション類はちゃんと持ってるか?」
「ふふっ、ケントってばお母さんみたい。大丈夫だよ!」
ちょっとだけケントの過保護が発動しているが、微笑ましいだけだ。思わずにやにや見守りたくなってしまう。
重たい鉄の扉を恐る恐る開けて、「行ってきます」とココアが中へ入った。
待っている間に何か飲み物でも……なんて私が考えていたら、三分で扉が開いてココアが出てきた。
「倒せたよ!」
そう言ってピースをするココアに、ケントは目をまん丸大きく見開いて驚いていた。
――そして最終日、私の番だ。
「シャロンがやるのは最後だし、全員見ててもいいんじゃないか?」
「気になりますにゃ!」
「うん。入って入口付近で見てる分には大丈夫だと思うよ」
エルンゴアと戦うのが私一人であれば、ヘイトが向かうこともないはずだ。私は許可を出し、全員一緒に中へ入ってくる。
「じゃあ、行きます!」
「「がんば!!」」
「頑張ってくださいですにゃ~!」
みんなの応援に応えるべく、私はエルンゴアの前へ立つ。二度目ましてだけれど、レベルも上がった今はあのときのような怖さはまったくない。
「いくよ――〈聖女の祈り〉!」
私は前衛として、天使を召喚した。
「あら、シャロン。わたしの力が――って、なにかしら、このアンデッドは」
天使は薙刀に似た聖なる槍で、襲ってきたエルンゴアの攻撃を軽くいなした。よしよし、まさに私の作戦通りだ。
「天使ちゃん、私が攻撃するから前衛よろしく!」
「なっ!」
抗議の声を上げたそうな天使だけれど、それより先にエルンゴアが攻撃をしかけてくるので、私に文句を言うこともできないようだ。
私は自分の〈聖女の加護〉だけかけて、一気にエルンゴアの後ろへ回り込んだ。これだけでもう、勝機が見える。そして〈鞄〉から取り出した〈聖水〉を勢いよくエルンゴアに投げつけた。
『ぐあああぁあぁああっ』
「きゃっ! なんなのですか、この水――って、〈聖水〉ではありませんか!」
天使が文句を言うが、それにより先にエルンゴアがダメージを追い弱体化を受ける。その叫び声に、ケントたち全員が驚いた。
「なんだあれ!? 〈火炎瓶〉か!?」
「爆発してないから、違いますにゃ!」
みんな私が何を投げたのかわからないようで、戸惑っている。エルンゴアと対峙している天使の声は、その叫び声にかき消されて届かなかったようだ。しかしルルイエだけは自分の体をさすり、「あれは〈聖水〉」と当たりを告げた。
どうやら闇の女神というだけあって、〈聖水〉はあまりよく思わないのかもしれない。
「ルルが正解。こいつは亡霊だから、〈聖水〉でダメージを受けるんだよね」
私が答えを口にすると、ケントが「そういうことか!」と手を叩いた。
「もういっちょ行くよ! 天使ちゃん、お願いね!!」
「天使使いが荒すぎるのですよ……っ!」
そう言いつつも、天使は私が残ったありったけの〈聖水〉全部をエルンゴアにかけるのと同時に、槍でその体を一突きした。
『アアアアァァァ……ッ!』
叫び声をあげ、エルンゴアは光の粒子となって消えた――。
「ふう。タイムはどうだった?」
「す、すごいですにゃ! 一分ですにゃ!!」
タルトが驚きながら、タイムを伝えてくれる。天使という、アンデッド系のエルンゴアに対して最強の前衛と〈聖水〉という技を使いはしたが――私の大勝利が確定した。
そして再び食堂へ。
〈エルンゴアの亡霊〉TA優勝者の私に、なんとみんなが思い思いのプレゼントをくれた。
ルルイエはお弁当一〇〇食セット、タルトはポーションセット、ケントは野宿でお役立ちの道具セット、ココアからはティーセットだ。
「わあああ、嬉しすぎる! みんなありがとう!!」
「さすがシャロンって感じだったよ。まさか天使ちゃんを召喚するとは……ハンデなんてまったくいらなかった」
むしろハンデを負うべきとまで言われてしまった。
「アハハ。私も優勝者へのプレゼントに焼き菓子を用意してたんだけど、これは今みんなで食べようか」
ということでTA後、みんなでのんびりお茶会をしてゆったり過ごすことに。
「俺がビリになるとはなぁ~……。結構いい線いってたと思ったのにさ。みんな倒すのが早すぎるんだよ……」
ケントがもそもそお菓子を食べながら項垂れるので、私はヒントをあげることにした。
「入口の〈ゴースト〉を倒した時みたいに、剣に〈聖水〉をかけたらどうなったと思う?」
「え? ……そうか、普通の剣であれだけダメージを受けてたんだから、剣に聖属性を付与すればいいのか! それならもしかして俺、めちゃくちゃ強くなるんじゃないか!?」
「ピンポーン!」
私が拍手すると、ケントが慌てだす。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 明日もう一回挑戦していいか!? てか、絶対したい!!」
必死の様子のケントに、私たちは笑ってもちろんと頷いた。
結果、ケントはエルンゴアを数十秒で倒してしまった。
「なんで最初に気づかなかったんだ、俺のあほおおおおおおおお!!」
というケントの叫び声がエルンゴアの屋敷中に響いたのは言うまでもないだろう。――こうして、私たちの楽しいTA遊びは幕を閉じたのだった。




