3 VS〈クラーケン〉
「〈水中ポーション〉準備、よし」
タルトが作った〈水中ポーション〉の瓶の蓋を開けると、潮の香りがした。一瞬だけざざん……と波の音が聞こえる、幻想的なポーションだ。それを、私たちは一気に飲み干した。
……よし、これで海の中で呼吸ができる!
「〈守護の光〉〈聖女の加護〉〈必殺の光〉〈星の光〉」
「サンキュ!」
私が支援をかけ終わると、ケントが勢いよく水の中へ飛び込んだ。すると、水――海底の中から『オオオォォ……』と低い声が響き渡る。ボス、〈クラーケン〉の声だ。
「私たちもいくよ!」
「はいですにゃ!」
「はい!」
「ん」
水面には〈クラーケン〉の触手が何本も出てきたので、私たちはそれに攻撃をしつつ、ケントを追って飛び込んだ。
「〈空から落ちた瞳は、鋭さを増し敵を撃つ♪〉」
ココアが氷の剣を顕現させ、〈クラーケン〉に攻撃した。
〈海底ダンジョン〉のボス――〈クラーケン〉
この海域を支配すると謡われている。
イカとタコのような見た目で、触手の数は一二本。暗い青色の体をしていて、その体長はゆうに一〇メートルはあるだろうか。
その大きさを見て、思わずこくりと息を飲む。
ルルイエが攻撃し、タルトも〈ポーション投げ〉でダメージを負わせる。しかし、水の中ということもあって、タルトの攻撃はあまり効いていない。火属性の攻撃なので、水中戦ではかなり不利だ。
次は自分の番だとばかりに、〈クラーケン〉が触手を伸ばして私たちに攻撃を仕掛けてくるが、〈守護の光〉が触手をはじいて防ぐ。
「〈挑発〉!!」
ケントが〈クラーケン〉の意識を自分に向け、私たちが攻撃する隙を作ってくれる。ココア、ルルイエ、タルトが一斉に攻撃をすると、〈クラーケン〉の触手の内二本が落ちた。
……初めての水中戦だけど、かなりいい感じ。
私はバタ足で海の中を進み、全員の動きが視界に入るよう少し離れたところにポジションを取る。
……支援のポジション取りは大事だからね。
『オオオオオォォォッ!』
「「「――!?」」」
「にゃっ!」
叫び声を上げた〈クラーケン〉が、残った一〇本の触手を無作為に振り回す。ケントはそれを剣で斬りつけ、ココアとルルイエはスキルを使って弾き返す。
私はタルトに〈守護の光〉をもう一度かけたが、肩に乗ったサラマンダーが『が~っ!』と吠えて吐いた炎で水中の中を一瞬で移動した。
「サラちゃん、すごっ!」
サラマンダーの炎は水中の中でも一切衰えておらず、水の中に炎のゆらめきが美しく映った。水の中だから消えはしないにしても弱い炎になると思ったのに、そんなことはまったくなかった。
タルトはサラマンダーの頭を撫でて、「すごいですにゃ!」と誇らしそうだ。
サラマンダーと他の属性の精霊を集めることはタルトの〈創造者〉になるクエストでもあるけれど、今の時点でサラマンダーを仲間にできるのはものすごいことだと思う。
……だって、ゲームではサラマンダーを連れてる人なんて見たことなかった。
水の中でも一切弱くならない炎。炎の精霊にとって、たかが水は脅威にならないということなのかもしれない。
「――よし! じゃんじゃん行こうか。〈必殺の光〉!」
「にゃ?」
『があ!』
私は試しにサラマンダーに〈必殺の光〉をかけてみた。サラマンダーにスキルが使えるのかはわからないけれど、現実世界となった今、スキルの規制のようなものはかなり緩和されていると思うのだ。
……システム的な理由で使えない、っていうことがないもんね。
〈必殺の光〉は、次の攻撃の威力が3倍になるというスキルだ。
「サラちゃん、思いっきりやってくださいにゃ!」
タルトの掛け声とともに、サラマンダーは大きく息を吸い、ほっぺたが膨らんだ。今までよりも強い攻撃をしようとしていることが、すぐにわかった。
『があああああああっ!』
サラマンダーが今までよりもひときわ大きく吠える。勢いよく吐いた炎は、いつもの五倍ほどの威力があっただろうか。
数メートルの大きな炎の息が、〈クラーケン〉に襲いかかった。一瞬、〈クラーケン〉の周りの水が蒸発した。そして、ジュワッと〈クラーケン〉の体が焼け焦げていく。
「うわ、すげぇ威力」
「今のうちにみんなで一斉攻撃!」
思わず見入ってしまったらしいケントに、私が声をあげるとハッとした。
「〈挑発〉からの〈竜の咆哮〉!!」
「〈ポーション投げ〉にゃっ!」
「〈空から降る悲しみの雨すら、冬の祝福を得れば刃になり私の味方となる♪〉」
「〈飾り切り〉」
サラマンダーに続き、全員が一斉攻撃を食らわせると――〈クラーケン〉はあっさり光の粒子となって消えた。
そしてその場所に残ったドロップアイテムは、大きな大きな――三メートルほどある〈真珠貝〉だった。
「……貝!」
私があんなドロップあったかな? と考えている間もなく、ルルイエが今日一番の速さで〈真珠貝〉のところまで泳いでいった。
……その速さはボス戦でもう少し生かしてほしかった気もするけれど、まあいいか。
「シャロン、おやつだよ」
「おやつ……」
食べる気満々のようだ。そうだと思ってはいたけれど、
「とりあえず、海からあがろうか」
「ん」
そして地上に上がって、〈真珠貝〉どうする会議だ。
「まあ、食べ物なら俺はルルの好きにしていいと思うぞ?」
「シャロン、この貝って何か使い道があるの?」
「ん~~、それがわからないんだよね」
そもそもの話、〈クラーケン〉は水中戦だし、そこまでよいドロップがなかったというかなんというか――まあぶっちゃけ、そこまで人気のボスではなかったのだ。そのため、レアの部類に入るドロップは覚えているが、ほかのものはあまり覚えていない。
なので、今回の〈真珠貝〉は私が覚えていなくてもよいと判断した普通のドロップアイテム……という可能性が濃厚だ。
「…………そうだね、せっかくだし食べようか」
「ん!」
私の言葉に、ぱああっとルルイエの表情がほころぶ。そしてすごい早さでテキパキ調理道具を用意して、貝を焼き始めた。
……この貝、大きさが三メートルくらいあるのに問題なく焼けちゃうんだ。すごい。
ルルイエは浜焼きにするらしくて、熾した火の上に貝を置いて焼いている。キラキラ輝いている貝も、次第に熱を帯びてきて――
『~~~~っ、熱いのですわああああっ!!』
「「「!?」」」
「にゃ!?」
――人魚が、貝の中から飛び出してきた。
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