1 進め、〈海底トンネル〉!
連載再開しました。
ひとまず区切りがいいところまで、毎日更新します。
私たちは〈ローラルダイト共和国〉の〈熱帯の都バハル〉を後にして、〈漁師の自治区〉を目指している。ここは名前の通り漁師たちで賑わう国で、漁業が盛んだ。
そして今歩いているのは、〈海底トンネル〉。このトンネルは二国の間にある海の中にあるもので、歩いて行くことができる。
360度すべてが透明なトンネルで、まるで海の中を歩いているような錯覚を覚える。水族館などにありそうだなと思う。泳いでる魚がよく見えるのは楽しいけれど、普通の魚だけではなく魔物の魚もいるので……たまにドキッとしてしまう。例外として、ルルイエが「美味しそう」と呟いているくらいだろうか。
私たちのパーティーは以前と変わらず、私こと〈聖女〉シャロンと、〈錬金術師〉で今は〈創造者〉を目指すケットシーのタルト、闇の女神で〈料理人〉のルルイエ、〈竜騎士〉のケントと、〈歌魔法師〉のココアの5人で冒険を続けている。
私の元々の目標は、この『リアズライフオンライン』の景色を堪能するというものなのだけれど、最近ここにとある目標が追加された。
それは、私たちのパーティーメンバー全員が、この世界でたった1人だけがなることのできるユニーク職業の最強パーティを目指すというものだ。言い出したケントは少し恥ずかしそうにしていたけれど、やってやるという気概はものすごく感じている。
今はタルトのユニーク職業〈創造者〉のクエストが解放されたので、それをクリアしつつ、ほかのユニーク職業の道を探している最中だ。
そしてもう一つ!
Sランク冒険者になるということだ。
「なあなあ、シャロン。〈海底トンネル〉を通って〈漁師の自治区〉に行くっていうのはわかったんだけど、これってどれぐらい歩けば着くんだ? 見た限り、ずっと先まで海の中なんだか」
ケントのもっともな問いに、私はうーんと考え込む。
ここを通ったのは初めてではない。ただ、それはゲームの中の話で、現実となった今は――初めてだ。つまり、実際にどれくらい歩けばいいかはわからないということだ。
……地図を見た感じだと、一日じゃ着かなさそう。
「多分、最低一回は野宿するんじゃないかな」
「マジか。ま、ダンジョンで慣れてるしそれはいいけどさ。……逃げ場がないのが怖いよな」
そう言ったケントは、抜け道とかもないのかと周囲をきょろきょろ見回している。確かに、透明な壁の向こうが海のトンネルの中は怖くもある。走った距離に出口はないのだから、なおさら。
「まあ、そうなったらみんなで〈ドコカヘイキタイ〉を使って街に戻ればいいよ」
「それもそうか」
私の提案に、ケントはほっとしたらしく胸をなでおろした。
〈ドコカヘイキタイ〉というアイテムは、パーティメンバー全員を、使用者が最後に滞在した街の〈転移ゲート〉へ転移させるというもの。これを一度使えば、徒歩で帰ろうなんて考えられなくなってしまうド級のアイテムだ。
ココアも私の提案に頷いた。
「すぐに脱出できる安心感は心強いよね。すごい景色で感動してるけど、海の中を歩けるなんて思いもしなかったから……ドキドキしちゃうもん」
「私もこの景色はすごいと思うよ。私たちより大きな魚がたくさん泳いでるんだもん。小さい船なんかじゃ、ぱくりって食べられちゃいそう」
さすがは魔物の魚だ。
……でも、生身であんな大きな魔物どうやって倒せばいいんだろう。
かなり大きな船か、水中で戦うすべがないと無理だ。そんなことを考えていたら、タルトとルルイエの幸せそうな会話が耳に入る。
「お魚がいっぱいで幸せですにゃ~」
「料理したいのに、ここからじゃ魚が取れないのが悲しい」
心配よりも食欲だね。
そこで私はポンと手を叩いた。
「もうしばらく歩いたら、左手に海底ダンジョンの入り口があるよ。そこがちょうど〈ローラルダイト共和国〉と〈漁師の自治区〉の中間地点かな?」
「ダンジョン! いいな、楽しみだ!! もしかしてもしかしなくても、ボスか!?」
ケントの問いに、私は大きく頷いた。
ダンジョンといえばボス、これはお約束だ。ボスを倒してアイテムをゲットしたり、何か発見があるかもしれない。
「よ~し、俄然やる気が出たぞ。走ろうぜ!」
「えっ!?」
なんで走るの!? と思ったのも束の間で、走り出したケントにルルイエも続いた。まさかルルイエがこんなにやる気を見せるとは――!! と思ったけど、「ダンジョンに行けば魚がいるはず」と目を輝かせている。
「確かにダンジョンに行けば魚もいそうだね」
……確かにお魚料理は魅力的だもんね。
ココアとタルトもつられて走り出したのを見て、私も苦笑しつつみんなの後に続いて走る。ついでにこっそり身体能力の上がるスキル〈聖女の加護〉を全員にかけた。
***
「お、ここが入口じゃないか?」
ケントがそう言ったのは、周囲の海の色がだいぶ深くなった頃だった。
地上からの光が届かなくなっているので、時間はもう夜だろう。かなり急いでいたとはいえ、夜に中間地点に来られたのはだいぶいいペースだと思う。
私が告げた通り、左手側には洞窟の入り口があった。中には浅く水が張っていて、小魚がぴちゃんと跳ねている。
それを見たルルイエがふら~っと吸い寄せられるように歩いていくが、私は「ステイ、ステイ!」と待ったをかける。
……まあ、みんなのレベルなら問題はないけど一応ダンジョンだからね。
「ここは歩きながら簡単に説明した通り、名前を〈海底ダンジョン〉。1番奥にボスの〈クラーケン〉がいるよ。タコとイカが合体したみたいな感じかな? 触手の本数が多いから、戦うのはそこそこ苦労するかも」
「攻撃手段が多いってことか! 確かにそれは厄介だな、今までそういう敵はいなかったし……うん」
ケントはどう戦うか脳内でシミュレーションをしているみたいだ。うちの前衛は戦う前にきちんと考えてくれるので、安心感がある。
……ケントの成長には、まだまだ期待できるね!
私はみんなに「行こうか」と告げ、一通りの支援をかけた。
「すごい、貝がたくさんいる」
ダンジョンに入ってまずルルイエの目に映ったのは、貝の形をしたモンスター〈アサリン〉だ。ぱくぱくしていて、水と砂を吐いて攻撃してくるが……そのダメージ量は1だ。
「〈アサリン〉だね。特にいいドロップアイテムはないけど、たまにアサリを落とすかな? それは狙っていいかも」
「アサリ!」
ルルイエの目がいっそう輝きだした。
「わたしに任せて。〈ダークアロー〉〈ダークアロー〉〈ダークアロー〉〈ダークアロー〉〈ダークアロー〉ん、アサリ!」
すぐさまルルイエがアサリの元に走るけれど、眉をへにょんとさせた。
「一つ……」
「あ~、ちょっと物足りないよね。小さいし」
〈アサリン〉を倒してドロップするアサリは一つなので、みんなで食べようと思うと数が足りないし、一人で食べるにしても一個ではちょっと心許ないというか寂しい。
「遠距離攻撃一撃だし、歩きながら倒していくのがいいかもね」
「ん、そうする」
ということで、〈アサリン〉を見かけたらルルイエが逐一倒すことになった。そしてアサリが落ちたら、みんなで喜ぶ。なんだか楽しい。
バシャバシャと歩くたびに水音がして、靴の中にじんわり染み込んでくる。
……う~ん、これはなかなかに不快だね。
そう思っていたら、ココアから黄色い悲鳴が上がった。
「な、なんですかあの可愛い子は!!」
「ああ、あれは〈ペンペン〉っていうモンスターだよ」
蝶ネクタイをしたペンギンのモンスターだ。歩くとてちてちという音がするので可愛いけれど、敵を見つけると歩くスピードが三倍になって思わず「うおっ」と驚くほどのポテンシャルを発揮してくる。
「可愛いですにゃぁ」
「倒すのが辛い可愛さだよねぇ……」
タルトとココアが〈ペンペン〉を見ていると、ケントが駆け足で近づいていった。すると、〈ペンペン〉も私たちに気づいたようで、ギュンッと歩くスピードを上げてきた。これは突進と言っていいかもしれない。
「〈竜の咆哮〉!!」
「にゃにゃっ!?」
「えっ!?」
覚醒職――〈竜騎士〉の強力な一撃により、〈ペンペン〉は一瞬で光の粒子となって消えてしまった。無慈悲である。
後に残ったのは、ドロップアイテムの〈食べかけの魚〉だ。いらない。
「ケント~~!」
「いやいや、モンスターだぞ!?」
「それは、そうだけど……」
ココアが残念そうにしているけれど、こればかりは仕方がない。
「お師匠さま、ここら辺はあんまり強いモンスターはいないんですにゃ?」
「そうだね。もう少し奥に行くと〈セイレーン〉とかちょっと強いモンスターは出てくるけど、ここら辺は比較的安全かな」
安全とはいえ、アクティブモンスターは多くいる。そのため油断はできないけれど、のんびりする分には問題ない。
「なら、少し遊んでもいいですにゃ?」
「それは構わないけど……」
タルトがそんなことを言うなんて珍しい。
しかし、よく見るとタルトの尻尾がフリフリと動いている。どうやら足元の海水に魚が泳いでいるのを捕まえたいみたいだ。
……そうか、ケットシーはお魚大好きだもんね。弟子が可愛すぎる。
「進んでモンスターが強くなったら、ゆっくりできないからね。みんなでちょっと遊んで休憩しようか!」
「はいですにゃ!」
「夕飯は魚」
私の言葉に、タルトとルルイエが笑顔を見せた。
ダンジョンに着いた嬉しさでうっかり失念していたけれど、もう夜だ。普通にダンジョン攻略を始めようとしてしまったけれど、安全なトンネルで野宿をするのがいいだろう。
「遊んで、野宿用に魚を捕ったらダンジョンの入り口前で野宿だね」
「確かにもういい時間だったな。そうしようぜ!」
ケントも頷き、夕飯のためにと言って手づかみで魚を取り始めたが、そううまくいかないようで苦戦している。
逆にタルトは機敏な動きで魚を取っていて……私は隠れていたタルトの才能を目の当たりにした。
***
……これは大漁だあ。
ルルイエが満足するだけの魚を取ってから、私たちはダンジョンを出てトンネルに戻ってきた。今日はここで野宿をし、明日の朝から〈海底ダンジョン〉に挑む!
明日のために気合を入れて、しっかりご飯を食べてよく眠る。そうしようと思っていた矢先に、もくもくもく~と、あたりに一気に煙が充満しはじめた。
……え、何!? このトンネルでこんな異変は聞いたことがない!!
私は身構えると、ケントへ視線を向ける。そしてすぐさま支援スキルを――
「おいおいおい。やっぱりここで魚を焼くのはまずかったんじゃねえか? すげえ煙」
「いい匂いだけどね」
笑うケントとココアの言葉に、私はハッとする。見ると、ルルイエが捕った魚をさっそく調理しているところだった。お刺身なんかもあるみたいだけれど、焼き魚も用意するみたいで、「魚はこの方法で調理すると美味しいという諸説」と言って起こした焚き火の周囲に、串刺しにした魚を立てて焼いていた。
……なるほど、確かにこれは煙が充満するね。
しかも自覚するといい匂いの煙だということもすぐにわかった。
……美味しそう。
でも、煙の勢いがすごい。前後に長く伸びているトンネルなので密室というわけではないけれど、空気の逃げ道があまりないのでどうしても煙たくなってしまう。
「大丈夫、焼けるまでそんなに時間はかからない」
ルルイエはどうしても押し通したいようで、少し私たちに我慢するように言ってくる。私は仕方ないなとケントたちと一緒になって笑い、美味しい焼き魚ができるのを待った。
しばらくして夕飯ができた頃、『ガオガオ』という鳴き声が聞こえてきた。見ると、タルトの鞄からサラマンダーが顔を出している。
この子は〈サラマンダーの卵〉が孵って生まれた、火の精霊の眷属サラマンダーだ。
サイズはそんなに大きくなくて、サッカーボールより少し小さいくらいだろうか。赤い鱗は艶やかで強そうだけれど、小さくて可愛くもある。
起きるとよくタルトの肩に乗っていて、口から小さな火を吐いたりして、戦いに加わってくれる。サラマンダーというだけあって、その炎の火力は高く、パーティーにもすごく貢献してくれているのだ。
私たちはみんなでサラちゃんと呼んでいる。雄か雌かはわからないけれど。
「サラちゃんもお魚食べますにゃ?」
『があ!』
どうやら魚の匂いにつられて出てきたみたいだ。
「いっぱい食べて、これは塩焼き、こっちはムニエル。これはお刺身と海鮮サラダ。ドロップしたアサリは蒸し焼きにしてみた」
「わああ、豪華!」
『がおがお!』
私は思わず声を上げてしまったが、仕方がない。美味しそうな海の幸が目の前に並んでいたら、感動するに決まっている。
***
「――〈聖女の加護〉!」
私が支援スキルをかけたのを合図に、ダンジョン攻略が始まった。
前衛のケントが先頭を歩き、その後ろをタルト、ココア、私、ルルイエの順で進んでいく。ルルイエは視界に入ったアサリを一撃で倒すことも忘れない。
「シャロン、このダンジョンはそんなに広くないんだよな?」
私が頷くと、ケントがぐっと拳を握る。
「だったら、今日中にボスを倒せるか?」
「うん。出てくるモンスターもそこまで強いわけじゃないから大丈夫だと思う。〈クラーケン〉との戦闘が今までと違って少し大変かなっていうくらいだけあああああああああ!」
「「!?」」
「にゃにゃっ!?」
話の途中で私が声をあげたせいで、みんなを驚かせてしまった。そして私はといえば、なんでこんな肝心なことを……と、頭を抱える。
「そうだった……〈クラーケン〉と戦うには……」
「「た、戦うには……?」」
「にゃ……?」
私の言葉をケントたちが反芻する。私はなんと伝えればいいのか、戦えたとしてもそれは可能なのかどうなのだろうかと考えながら、理由を口にした。
「実は〈クラーケン〉がいる場所は水――海の中なんだよね」
「「ええっ!?」」
「にゃにゃっ!?」
祝!MFブックスさん12周年!
ということで、おめでとうございます。
実は企画に、『回復職の悪役令嬢』も参加させていただいております。
★12周年SS『真夜中の冒険』
カクヨムさんに投稿されています。シャロン視点です。
★12周年ミニキャライラスト
イラストレーターのゆーぽん先生が、MFブックスさんのキャラ達をミニキャラで描いてくださっています。シャロンも描いていただきましたので、ぜひ見てください~!
さらにこのミニキャラでグッズも発売されていますので、気になる方はMFブックスさんのBOOTHページにGO!です。
引き続き回復職の悪役令嬢をどうぞよろしくお願いいたします~!




