5 サボテンスポット
冒険者ギルドでの話し合いを終えた私たちは、自由時間を取ることにした。
各自、ダンジョン〈イフリートのオアシス〉に挑むための準備をするためだ。といっても、主に食料品の買い出しがメインになるだろうけれど。
……基本的に支援は私で間に合うし、ポーションもタルトが作ってくれるからね。
さて、私はどうしようかな。
一人でバハルの街を歩きながら、何かよさそうなものはないかとキョロキョロしてみる。特に目当てのものがあるわけではないので、食料でも、アイテムでも、装備品でもなんでもござれだ。
「あっ、あれは……っ!!」
ちょうど私の目に留まったのは、フルーツの屋台だ。
その名も――〈トロピカルン〉。これはこの地域だけで育つフルーツで、マンゴーと桃が混ざったような味がするらしい。見た目はちょっと林檎に似ている、小ぶりの果物だ。ゲームのときも〈トロピカルン〉がたくさん売られていて、食べたらどんな味がするのだろうと気になっていた。
……きっとルルが買い漁ってるに違いないね。
私はそんな確信をしつつも、自分の分の〈トロピカルン〉も購入することに決めた。
「おばちゃん、〈トロピカルン〉を一〇個ください」
「あら、ありがとう。うちのはとっても甘くて美味しいから、一〇個じゃ足りなくなっちゃうかもしれないわよ」
なんて、おばちゃんはおちゃめなことを言って笑う。
私はちょっと遠慮して一〇個と言ったのだけれど、もしかしたらもう少し買ってもいいのかもしれない。〈鞄〉の中に入れておけば、時間経過がないので腐ることもないし長期保存が可能なのだ。
「じゃあ、二〇個お願いしてもいいですか?」
「あら、そんなに買ってくれるのかい? もちろんよ、ありがとう」
残っていた〈トロピカルン〉ほとんどの量になってしまったけれど、おばちゃんは早く捌けて助かるよと機嫌よく豪快に笑う。
「仲間と一緒にいただきますね」
「ええ、楽しんでちょうだい」
〈トロピカルン〉を二〇個受け取って、私はぽいぽいぽいと〈鞄〉に入れていく。
対外的には魔法のカバンを持っているということにしている。一応〈冒険の腕輪〉も広がってはきているけれど、まだまだ知らない人も多いのであえて公にしたりはしない。
私は「ありがとうございます」と挨拶をして、屋台を離れた。
……さて、次はどうしようかな?
せっかくバハルに来たんだから、色々観光したいところだ。私はうーんと悩む。今は現実世界になっているので、ゲームの時のように好き勝手いろんな場所に出入りすることは難しい。
不法侵入なんてしたら、冷たい目で見られるどころか、一瞬で通報されてしまうだろう。
……そういえば、砂漠の花が咲いてる場所があったね!
あんな絶景ポイントを失念していたとは、なんたることか。私は街中を散歩するように、街の端まで歩き始めた。
太陽の光を受けてキラキラ光る砂が眩しく、大きな石もいくつか転がっている。からっと乾いた暑い空気で、サボテンの花の匂いが鼻に届く。
ここは街と砂漠の境目で、綺麗な花が咲くサボテンがいくつも生えているのだ。ゲームではサボテンスポットなんて呼ばれていて、ここで待ち合わせをするプレイヤーも多かった。
「うわああ、大きなサボテン! ゲームでは何度も来たけど、本物は迫力が違うなぁ」
実際にサボテンを見てみると、私の身長を優に超えた大きさのものがいくつもあった。上を向かないとサボテンのてっぺんが見えない。
てっぺんに咲く花はピンク色のとても可愛らしいもので、まるで花冠をつけているかのようだ。
サボテンの合間を縫って歩いていくと、大きいものだけではなく、私の手のひらサイズの小さいものなどもあった。大小様々なサボテンがあり、観光スポットとしてはとても魅力的だけれど――さすがに長時間いると熱い。
「ふぅ……。あんまり長時間いるのは無理だね」
私は軽く一周してから、慌てて宿屋へ戻ったのだった。
***
バハルの宿に泊まって翌日、朝の支度をしているとタルトが声をかけてきた。
「お師匠さま、今日の髪は私に結ばせてくださいですにゃ」
「じゃあ、お願いしようかな」
「はいですにゃ!」
タルトは私の髪を丁寧に手ですくい、くしでとかし、サイドに軽く編み込みを入れてポニーテールにしてくれる。これから行く〈イフリートのオアシス〉はとても暑いため、髪を結んでいくのだ。そうすると、少しだけど暑さがマシになる。
私の髪を結んでもらったら、次はタルトたちの髪も結んであげる。私がタルトの髪を、ココアがルルイエの髪を結ぶ。
「いつもの伸ばした長い髪も可愛らしいけれど、結んだ髪もとっても可愛い」
「ありがとうですにゃ」
「ルルの髪も艶やかでとっても綺麗」
「ありがと」
このパーティは女子が多いので、華やかでとてもよいね。
食堂で朝食を取り、早速ゲートを使ってオアシスの近くの村フュールに立ち寄り、ダンジョンへ向かった。
ダンジョン〈イフリートのオアシス〉に入ってすぐ、ケントが念の為にと今日のことを確認してきた。
「ここはいつも素材採取できてるけど、今日は攻略だけでいいんだよな? ……でも〈火のキノコ〉とかがあったら採取しながら行くか?」
早く攻略すべきだが、素材があったら採取したい気持ちもあるようだ。わかるよ、その気持ち。歩いているときに素材を見つけたら、そっと採取しちゃうよね。たぶん、誰しもそんな経験はあると思う。
「うーん、そうだね。もし余裕がありそうだったら歩きながらか戦闘中に採取しようか」
「了解!」
前衛のケントが立ち回りを確認し、もし余裕があれば採取しながら進むということで話がまとまった。
いつもこの〈イフリートのオアシス〉には素材の採取にばかり来ていたので、攻略することは今回が初めてだ。
ここは三階層まであるダンジョン。一階層はいつも素材を採取していて、そんなに強いモンスターは出てこない。〈火炎瓶〉の材料になる〈火のキノコ〉が生えているので、私たちは何日かここに通っていた。
二階層になると一気にモンスターが強くなる。そしてすでにもう暑い一階層よりもさらに暑さが増すので、そこにいるだけでも厳しい状態になるだろう。水はたくさん持ったし、氷も用意してきた。休憩もこまめに取らないと先に体が参ってしまうだろう。二階層は、そんな恐ろしい場所だ。
そして三階層は、ダンジョンの名の通りオアシスがある。そしてその奥にボス〈イフリート〉がいるのだ。
「んじゃ、出発するぞ」
「「「おおー!」」」
「にゃー!」
散歩でもするようにのんびり歩いていると、「あ」とココアが足を止める。そして同時に、少し先にモンスター〈フレイムストーン〉が見えた。
「〈火のキノコ〉があるよ」
「じゃあ、モンスターは俺とルルで対処するから、ココアたちは採取しておいてくれ」
「わかった」
モンスターの相手を全員でする必要がないので、戦闘と採取に分かれるという流れが出来上がった。
戦闘はケントとルルイエ。採取はタルトとココア。私は周囲を見回して追加のモンスターが来ないか確認したり、見張り役のようなものも兼ねている。もちろん回復もだ。
ケントが〈挑発〉スキルを使って敵のモンスターの注意を引きつけ、そこにルルイエが〈ダークアロー〉をお見舞いし、いとも簡単にモンスターを倒してしまう。
モンスターを倒すより採取の方に時間がかかってしまうくらいだ。
でも今日の目的は採取ではなくイフリートなので、戦闘が終われば採取をやめ、切り上げて先へ進む。〈火のキノコ〉があるのに採取できないのはちょっと勿体無いけれど、またくればいい。
そんな調子で、私たちはさっくり二階までやってきた。




