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嫁取物語~婚活20連敗中の俺。竜殺しや救国の英雄なんて称号はいらないから可愛いお嫁さんが欲しい~  作者: 月夜乃 古狸
軍務編

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第70話 侵入者発見!

 ブランディス砦に赴任してあっという間に10日が経過した。

 基本的に半日を連携訓練に充て、半日哨戒に出るという感じで過ごしていた。

 その間休暇というのは無くて、月に一度もらえる6日間の休みまでお預けだ。まぁ、店も娯楽も無い軍事施設で休みをもらっても寝るくらいしかすることないから別に構わない。

 

 ちなみに、砦に到着した3日後に、50人くらいの脱落者が交代人員とともに帰って行った。

 これが多いのか少ないのかはわからないけど、だいたいいつも初っぱなでこのくらいの脱落者は出るらしい。

 特に最初はふるいに掛ける意味でもきつめの訓練を課して、前線で戦力になりそうに無い新兵を見極めるということだった。

 帝都や高位貴族の領都で基礎訓練を受けてきたとは言っても最小限でしかなく、当然ながら前線で通用するレベルにはほど遠いから、新兵たちは連日ぶっ倒れるまで走らされている。まずは体力がなきゃどうしようもないからな。

 学院の軍務科を卒業した連中のほうもかなり疲れてはいるようだけど、それでも新兵たちよりは鍛えられているのでなんとかついていけている。


 俺?

 基礎訓練は自分でやれってさ。

 なので、俺が力を入れているのは分隊の皆との連携訓練。

 レスタールの狩人たちは個々の能力は優れているが、基本的にあまり連携ってものをしない。

 もちろんある程度の役割分担はするが、獲物や仲間の動きを把握しながら個人の判断で動き回るから、俺も軍隊の連携がどういうものかをよくわかっていない。

 一応分隊の指揮官という立場なわけで、それができないといざというときに部下たちを危険にさらすことになる。


 俺が分隊長を務める第76分隊の練度は思った以上に高い。

 元々が貴族家子息を名ばかりの指揮官に据えることを想定した部隊だけに、上官が無能でも機能するように、つまりは有事にも生き残れるように実力を磨いてきたのだろう。

 部隊員は全員平民出身だが、ムルドさんは学院軍務科の卒業生で、他の連中も叩き上げのベテラン揃いだ。

 それだけに貴族に対しての反発があるのかと思っていたら、初日の巡回で案外すんなりと受け入れてもらえたのでホッとした。

 なんでも、無能な貴族は御免だがそうじゃないなら問題無いということらしい。あと、俺が貴族っぽくないから気にならないんだと。

 喜んで良いのかそれとも貴族としてダメ出しされたと見るべきか。


 ともかく、巡回時や接敵した際の動き、指示の出し方、身体を使った合図の種類や出し方、隊員が負傷した時の対応など、覚えなきゃならない事は山ほどあり、ようやくなんとか形になってきたといったところだ。

 副官として補佐の役目を請け負ってくれたオーリンドさんの方はというと、真面目に訓練や巡回任務をこなしているおかげか、ほんの少し態度が柔らかくなった。ような気がする。

「レスタール分隊長、なにをしてるんですか。もう皆集まっているんですから時間前でもさっさと来てください」

 ……気のせいかも。


「おはようございます、分隊長殿」

『おはようございます!』

 オーリンドさんの辛口対応に溜め息を押し殺しながら、分隊の集合場所に行くと、ムルドさんとそれに続いて隊員たちが挨拶してくれた。

 俺の姿を見た途端ピリッとした空気に、なってないな。

 今は緩い感じだけど、熟練兵ばかりなので任務が始まれば大丈夫だろう。


「今日から交代で終日巡回ですが、大丈夫ですか?」

「……多分?」

 乗馬が一番苦戦してるんだよな。

 別に馬に乗らなくても移動は問題無いんだけど、他の人が全員騎乗してるのに分隊長の俺だけ徒歩ってのは問題あるらしい。見た目的に。

 確かに部隊で一番階級が高いのに一番下っ端にしか見えないからなぁ。

 今度レスタール領からリグムを連れてきてもらおう。馬よりかなりデカいからそれなりに偉そうに見えるはずだ。


「砦の北側を西に森林地帯まで行きます。日暮れまでに戻る予定ですが、念のため3日分の携行食を準備してあります」

「少し前ですが、森に人が入った形跡が見つかっています。ファンル王国の兵士か難民かはわかりませんが」

 街道から離れた森に野盗が居着くとは思えないからそのどちらかだろうとムルドさんが言う。

「兵士はともかく、難民が居た場合はどうするんですか?」

「ファンル側に追い払います。本当の難民か間者かを見分けることは難しいので」

 俺の疑問にオーリンドさんが答えてくれた。

 俺を嫌っていても仕事に関することはしっかりと答えてくれるので助かる。


 そんなわけで、装備を確認した俺たち第76分隊は砦を出て北へ。

 ファンル王国との緩衝地帯手前まで来たところでそのまま西に向かう。

 ルートとしては初日に通ったのとほぼ同じだけど、今日はそこからさらに先に行く。

 砦からおよそ15ライド(約12km)ほど進むと、そこから先は徐々に木々が増えてきて、さらに数ライド行くと森林地帯に入る。

 密林というほどではないけど、寒さに強い針葉樹が生い茂り、見通しはかなり悪い。

 国境ということで少しずつ伐採をおこなっているらしいが、隣国を刺激しないようにあまり大規模な伐採はできていないようだ。


 森に少し入ったところで馬を降りて休息を取る。

 日はもうすぐ登り切るというところなのでまだまだ時間はある。

 小さな川を見つけたのでその畔に馬を繋いで水を飲ませている間に俺たちも少し休憩。

「このあたりの巡回はよく来るんですか?」

「週に一度は俺たちか別の部隊が確認に来ているはずです。特にこの場所は馬を休ませるために何度も利用してますね」

「それと、月に二度、野営訓練で中隊が森林のかなり奥まで探索してます」

 俺の疑問に答えてくれたのは分隊で主に斥候を担当しているジュセッド・ライカルツさんとドラグジッド・ワングルさんのふたりだ。


「その時の痕跡ってどうしてるんです?」

 さらに訊ねると、ジュゼットさんとドラグジッドさんが顔を見合わせた。

「帝国兵が巡回しているのを示すために飼い葉や焚き火跡はそのまま残していると思います。我々も新兵の頃にそう教わっていますし」

 それを聞いて俺は少し森の中に入って地面を確かめた。


「ちょっと、レスタール分隊長、なにをしてるんですか」

「分隊長殿、なにか気になることでも?」

 唐突な俺の行動に、不満そうな声を上げたオーリンドさんと、単純に興味を引かれたようなムルドさん。

 俺は立ち上がるとふたりの方を振り返る。


「人が森に出入りした形跡がある。痕跡は消そうとしたみたいだけど」

「……本当ですか? その痕跡ってどれです?」

 表情を厳しいものにして聞き返したムルドさんに、俺たちが座り込んだ場所のすぐ近くの岩の陰と、今さっき確認した森の下生えを指し示した。

「言われてみると、確かに少し不自然ですな」

「ほ、ホントだ。ですが、動物が付けたものじゃないんですか?」

「……私にはわかりませんね」

 ムルドさん、ジュセッドさん、オーリンドさんのそれぞれの言葉。


 他の隊員もそれぞれ俺の言った場所を確認しているが、驚いているのが半数、残りは半信半疑といった感じだ。

「これを見るとかなり熟練の隠密部隊かもしれないが、よく気付いたな」

「レスタールの男は狩人だからな。獲物を追うにはこのくらいの痕跡見つけられなきゃどうしようもない」

 俺たちは散々森で野生動物を狩ってきたから生き物の痕跡を見つけるのは得意なんだよ。

 その俺の見立てではこの跡まだそれほど古くない。

 ここ数日雨が降っていないことを考えても3日くらいだろう。

 俺がそのことを告げると、分隊全員の顔が緊張する。


「分隊長殿、どうする?」

「ドラグジッドさんとオーリンドさんは砦に戻って報告をお願いします。残りは痕跡を追いましょう。侵入者が見つかったら相手の規模によって対応を決める」

「了解しました!」

「わ、私は……」

 すぐに馬の準備を始めたドラグジッドさんに対し、オーリンドさんは不服そうだ。

 ただ、相手の素性や規模、技量がわからない状況で彼女を連れて行くわけに行かない。

 

 オーリンドさんも前線に配属されているだけあってそれなりの技量はあるが、申し訳ないがこの分隊の人と比べると武力や即応性、柔軟性に劣る。まして、俺に反発している状況では安心して連れて行くことができない。

 状況をすぐに司令部に報告する必要もあるので、そちらを任せるほうがありがたいのだ。彼女なら貴族家出身だし、すぐに話を通せるはずだ。

 そんなようなことを別の言い回しで何とか言いくるめ、ふたりに砦に向かってもらう。


「追えますか?」

「大丈夫だけど、馬は置いていくしかないな。誰かひとり残ってくれる?」

 俺がそう言うと、分隊最年少、といっても俺より5歳は年上のタッタ・ピルーという名の男が残留してくれることになった。

 軍馬は貴重なので放すわけにも置き去りにするわけにもいかないからな。


 そうして俺が先導して森の奥に。

 隠蔽されたわずかな痕跡を辿って進んでいく。

 こういった偽装工作は無理に隠そうとしているので表面的にはわからなくても周囲にどうしても不自然な跡がのこるものだ。

 極端に身が軽かったり、木々を飛び移ったりする獣に比べれば全然追いやすい。


「かなり奥まで入りましたね。そろそろファンル王国との中間に近いはずです」

 痕跡は途中から北に進路を変えていて、わざわざ目立たないように森を突っ切ってきたのがわかる。

 1刻半ほど歩き、水が流れる音が微かに聞こえてきたところで俺は足を止め、茂みの手前で身体を縮めると同時についてきている連中にも身を伏せるように合図を送った。


「……思ったより規模が大きいな」

 ムルドさんが呟くが、それには俺も同感。

 俺たちの視線の先、幅3リード(約2.4m)ほどの小さな川の向こうはポッカリと穴が空いているように木が伐採されていて、洞窟のようなものがあるのも見える。

 広さは幅100リード、奥行きが60リードほどだろうか、しっかりと整地され、緑色や土色に染められた天幕がいくつか張られている。

 

 炊煙は見えないが、もしかしたら洞窟の中で煮炊きしているのかもしれない。

 今も複数の男たちが忙しそうに動き回っているが、その動きや体つきは明らかに訓練された兵士のそれだ。

 見えているだけで人数は30人ほど。

 洞窟や天幕の中にも居ると想定するとその倍以上は居るかもしれない。


 どうするか。

 正直、俺と分隊だけでも撤退させることはできると思うが、さすがに殲滅は難しいし、逃がしたことで隣国との均衡が崩れる可能性もある。

 その判断を俺がこの場でするべきじゃないだろうな。


「……とりあえず、見つからないように戻って報告しよう」

「安心しましたよ。あれくらいならって突っ込んでいったらどうしようかと思ってました。冷静な判断ができる指揮官が来てくれた幸運に感謝ですな」

 俺はいったいどんな風に思われていたんだろうか。

 恐くて聞けないけどさ。



今週も最後まで読んでくださってありがとうございました。

そして感想を寄せてくださった方、心から感謝申し上げます。

数あるWeb小説の、この作品のためにわざわざ感想を書いてくださる。

本当に嬉しく、執筆の励みになっております。

なかなか返信はできませんが、どうかこれからも感想や気づいたこと、気になったことなどをお寄せいただけると嬉しいです。


それではまた次週の更新までお待ちください。

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