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嫁取物語~婚活20連敗中の俺。竜殺しや救国の英雄なんて称号はいらないから可愛いお嫁さんが欲しい~  作者: 月夜乃 古狸
学院編

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第30話 家族

 実家の玄関に辿り着こうかというタイミングで突然物陰に隠れていた人影が左右から襲いかかってくる。

 両方とも上段からの振り下ろし。

 斜めの軌道で、互いの剣筋が交差せず、かつ、逃げ道を塞ぐような見事な不意打ちだ。


「っ!? フォー!!」

 リスが悲鳴混じりで警告の声を上げる。

 けど、俺としては別に驚くようなことじゃないんだよな。

 俺は素早く腰に差していたナイフを抜いて右からの振り下ろしの軌道を逸らすと同時に左の懐に身体を滑り込ませる。

「わっ!?」

 間合いを潰された斬撃は俺の背後を掻いただけで終わり、代わって俺の左手が振り下ろした腕を掴む。


「ふぎゃん!」

「クロ! うわぁっ!」

 掴んだ勢いそのままに引き寄せ、慌てて抵抗しようと力を込めた瞬間を狙って足を引っかけながら腕を押し込むと、受け身も取れずに盛大にひっくり返る。

 片割れが倒されたのを見て動きが止まったのを見逃さず、手に持った剣を蹴り飛ばしてその足を相手の肩に引っかけて引き倒した。


「痛たたた」

「ふぅぅぅ、上手くいったと思ったのにぃ!」

「子供!?」

 地面に転がってぶーたれている襲撃者を見てリスが驚いた声を上げる。

 そう。

 俺の前に居るのは二人の男女、それもまだあどけなさの抜けない11歳の子供だ。


「こら! お客さんが居るんだからまずは挨拶だろう!」

「あぅ、兄様ごめんなさい」

「ごめんなさい、兄ちゃん」

 俺が叱りつけると二人はピョコンと立ち上がって素直に頭を下げた。


「驚かせてすまん。俺の弟と妹だ」

「レスタール辺境伯の次男、バリーシュ・アル・レスタールです」

「えっと、長女のクロア・アル・レスタール、です」

 並んでお辞儀をするふたりに、リスは苦笑を浮かべ、サリーフェ嬢とボッシュ前男爵は困惑顔のまま挨拶を返していた。

 まぁ、普通は久しぶりに帰ってきた家族にいきなり襲いかかったりしたら驚くだろうからな。


「ボクはリスランテ。フォーディルトの学友だよ。こちらはボッシュ男爵家のサリーフェ嬢と前当主のジルベラズ殿。しばらく滞在させてもらうよ」

「よ、よろしくお願いいたします」

「いや、元気な若君たちですな。その、羨ましいほどです」

 気を使わなくて良いですよ?


「バリーシュ、クロア、ピジェさんに部屋を用意してもらうように頼んできてくれ。えっと5部屋だな」

「うん!」

「わかった。食事もだね」

 今さらながら知らない人が何人も居るのに気づいたらしい二人は俺の頼みを助け船に凄い勢いで家に飛び込んでいった。

 考えてみたらアイツら領外の人に会ったのは初めてだからな。突発的な人見知りみたいな状態かもしれない。


「驚いたね。あの子たちは双子かい? 学院に通っていないってことはまだ10歳かそこらだろう?」

「ああ、今年で11歳だ。だから学院にはまだ1年以上あるな」

「なんと! とてもそうは思えないほどの身のこなしでしたが」

 二人の歳を言うとリスよりもボッシュ前男爵のほうが驚きの声を上げた。

 と言われても、確かに割とすばしっこい方だとは思うがそんなにビックリするようなものか?


「あの太刀筋は熟練の騎士にも匹敵するものだよ。つくづくレスタールの人の戦闘力っておかしいね」

 俺の表情から考えていることがわかったのか、リスがそんな風に評している。

 けど俺から見たらあの二人はまだまだうちの兵士には全然及ばない程度でしかないんだけどなぁ。

 あ、だからおかしいって言われるのか。


 とはいえ、いつまでも家の前に居てもしょうがない。

 俺は玄関を開けてサリーフェ嬢たちを家の中に案内する。

 部屋の準備が整うまでの間、応接室で待ってもらうことになるが広さだけはそれなりにあるので大丈夫だろう。

 というわけでリスとサリーフェ嬢、ボッシュ前男爵、侍女や護衛騎士をゾロゾロと引き連れて応接室へ。

 ……さすがにこれだけ人数が居ると狭いな。


 椅子やソファーが足りないので侍女さんや騎士は立ったまま。

 とりあえずゲストの3人を座らせて、お茶の用意をするために部屋を出ようとドアを開けたところで、向こう側にいた小さな影にぶつかりそうになる。

「あ、あの、のみものをおもちしましゅた」

「ランジュ? おっと!」

 小さな身体に不釣り合いなほど大きなトレーに人数分のカップを乗せたままお辞儀をしようとした妹から、すんでの所でトレーを取り上げる。

「あう、にぃさま、ごめんなさい。えっと、おかえりなさい」

 どうやら俺が帰ってきたことを聞いて、張り切って飲み物を持ってきたはいいものの両手が塞がって扉を開けられず途方に暮れていたのだろう。

 確か去年帰ってきたときも同じことをやらかして、扉の前でベソかいてたのを声が聞こえて開けた憶えがある。


「フォーの妹さんかい?」

「ひぅ!」

 俺とランジュのやり取りを見ていたリスがソファーから立ち上がって近寄ってきながら声を掛けてくると、妹は小さな悲鳴を上げて俺の背後に隠れてしまう。

「ああ、悪い。ちょっと人見知りなんだよ。妹のランジュだ。ランジュ、この人は俺の友人のリスランテ。あっちに座っているのがサリーフェさんとジルベラズさん。お客さんだよ」

「えと、にぃさまがおせわになってます。よ、よろしくおねがいします」


「可愛いねぇ。しばらく滞在させてもらうからよろしくね。少しずつでも良いからお話ししてくれるかい?」

 さすがは学院で令嬢からのダントツ人気のリスランテ。

 まだ遠慮がちではあるが極度の人見知りのランジュがはにかみながら小さく頷いている。……俺の妹を誘惑するのは止めてくれよ。

 それからサリーフェ嬢とボッシュ前男爵とも何とか挨拶を済ませ、ソファーに座った俺に抱きつくようにしながら隣に身体をねじ込んだ。


「その、ご兄弟が多いのですね」

「そう、ですかね? まぁ、弟と妹ふたりなんで賑やかなのは確かですよ」

 サリーフェ嬢が困惑が混ざった表情で訊ねてくるけど、4人兄妹ってのが他の家と比べて多いのかどうなのかは知らない。

 もっとも、サリーフェ嬢も人数がどうこうより、次から次へと現れた俺の弟妹たちを見て感想に困っただけのような気もする。

 あと紹介しなきゃいけないのは両親だな。


 けど、大丈夫かなぁ。

 俺がそこはかとなく不安を抱えていると、唐突にリビングのドアが開かれて、巨大な熊が入って来た。



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