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嫁取物語~婚活20連敗中の俺。竜殺しや救国の英雄なんて称号はいらないから可愛いお嫁さんが欲しい~  作者: 月夜乃 古狸
学院編

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第28話 久しぶりの故郷に到着

 帝都からレスタール辺境伯領の街レストまでは普通の馬車で20日ほど。

 だけど、うちの領で馬代わりに使っているリグムは丈夫で健脚だし、公爵家のほうは交換用の馬を倍以上用意していたのでかなりの速度で移動することができた。

 とはいえ、早く帰ったところでそれだけこき使われるだけなので、休憩を多めに取ったり、途中の街の滞在を延ばしたりしながら日程を調整して予定どおりに到着するようにした。

 迎えのレスタール兵もそれほど仕事熱心というわけじゃないので、これ幸いとばかりにのんびり移動を楽しんでいた。

 リグムの食事確保のために途中で狩りをする必要もあったので丁度良かったとも言える。


 いくつかの領地を通り、レスタール領に最も近い地を治める子爵の街を抜けて半日も経つと、だんだん木々が増えてくるようになる。

 遠くには大陸を東西に分断する山脈がうっすらと姿を現し、街道の先は鬱蒼と茂った黒々とした密林に向かって伸びているのがわかる。

「ふぅん、あれが魔境と呼ばれる森かい? 話には聞いていたけど、よくレスタールの人たちはあそこに住もうと思ったよね」

 どこか呆れを含んだ声音でリスが呟く。


「ここから見るほど密林ってわけじゃないぞ。確かに危険な魔獣はいるけどな」

 俺にとっちゃ生まれ故郷だ。

 森も魔獣も物心ついた頃から当たり前のように目にしていたから別になんとも思わないんだけど、他の地域しか知らない連中からするとあの森はかなり不気味に見えるらしい。

 けど実際は獣や森の恵みが豊富で鉱物資源もある、意外に豊かな場所なのだ。

 いちいち飼育しなくても食料になる獣は狩り尽くせないほど沢山居るし、魔獣だって毛皮や骨は武具や道具の素材、薬として貴重な財源となってくれている。

 残念ながら穀物はほとんど育たないし、獣害もあるので農業には適さない場所だけど、決して住みづらくはないのだ。


「一応街道は整備されているんだね。商人の姿は見えないけど」

 最後の街を出て丸一日。

 子爵の街まではそれなりに幅のあった街道も、そこから先は大型の馬車が一台通れるギリギリの幅くらいしかない。

 それでも道はちゃんと整えられているし、レスタールの兵士が周辺を巡回して大型の獣や魔獣がこっちまで出てこないように定期的に狩りを行っている。

 おかげで危険な獣はおろか野盗すら出てくることは滅多にない。というか、長年通い続けてくれている商人以外が近づくことはほとんどないくらいだ。


 なので荷車一台分しか道幅がなくても困ることはないのだけど、街道の両側のそれぞれ50リード(約40m)ほどは木や草が伐採されていて見通しが良いし明るい。これもレスタール領の連中が巡回のついでに下生えなんかを刈り取っているからだ。

 こうしておかないと至近距離からいきなり獣が襲いかかってきたりして対処が遅れることがないようにしているというわけ。

 おかげでここ10年くらい商人の荷車が襲われたって話は聞いていない。


「そろそろ日が暮れるけど、今日は野営かい?」

 外の景色がうっすらと暗くなってきた頃、リスが訊ねてくる。

 これまではどこか浮ついたような、楽しそうな雰囲気を出していたけどさすがに魔境と呼ばれるような森で野営するというのは緊張するのか少しばかり不安そうに見える。

 なので、俺は安心させるために前方が見えるよう御者台側の窓を開いた。

「レスタールの街まではあと一日かかるからな。だから、中間地点で安全に野営ができるようにしてあるよ」

 そう言って指差した先に見えてきたのは小さな砦のような城壁だ。


「……あんなのまで作ってるんだ」

「レスタールの兵士なら別にどこでも野営できるけど、領に来てくれる貴重な商人が危険な目に遭うのは困るからなぁ」

 前述したようにレスタール領では穀物が手に入らないし、どうしても野菜類も不足しがちだ。それに織物や道具類だって商人が運んでくれないと困るのだ。

 あの野営地は周囲を高さ15リード(約12m)厚さ1リード(約80cm)の石造りの壁で囲まれ、広さは大型の荷車10台が余裕を持って入れるくらいある。

 人が常駐するわけじゃないので中に建物は無いから屋根も無いけど、井戸もあるし馬やリグムを繋ぐ場所もあるから野営地としては十分だ。

 街道に無人の砦なんて作ったら普通は野盗が根城にしたりするのだろうが、レスタールの兵士が巡回してるし、出入口の大きな扉は頑丈でクソ重い上に特殊な魔法扉で、鍵を持っていないと開けられない。正規の商人には渡してあるけどな。


 一行はそのまま野営地の中に入り、扉が閉じられるとすぐに護衛兵が天幕を張り始める。公爵家の騎士達もそれに倣ってほんの四半刻ほどで立派な天幕が並んだ。

 準備が整ってからサリーフェ嬢とボッシュ前男爵も馬車から降りてくる。

 周囲を見回し頑丈そうな城壁に囲まれているのを確認して露骨にホッとした顔を見せていた。

 やっぱり魔境って名前はそれだけ他の領地から怖がられているんだろうなぁ。いっそ、別の名前を付けて布教してみるか。


 その後はサリーフェ嬢とリス、ボッシュ前男爵はそれぞれ公爵家の用意した天幕へ、俺はむさ苦しいレスタールの兵士と一緒の天幕で夜を明かした。……淋しくなんかないぞ。

 そうして再び馬車に揺られて、日が暮れる前にはレスタールの街に到着したのだった。



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