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嫁取物語~婚活20連敗中の俺。竜殺しや救国の英雄なんて称号はいらないから可愛いお嫁さんが欲しい~  作者: 月夜乃 古狸
学院編

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第22話 とりあえず事情聴取です

「カリウス・ハウレ・テルケルは名誉を守るため、貴様に決闘を申し込む!」

 ……馬鹿がいる。

「か、カリウス、止めんか! いきなりなにを言い出す」

 年配の男、多分テルケル伯爵本人が慌てて窘める。

 俺に侮辱されたと喚いていたが、それでもこんなところで騒ぎを起こせば相手は俺だけじゃなくなるということくらいは判断できるのだろう。

 ただ、それも聞くほうが馬鹿ならどうしようもない。


「テルケル伯爵家が侮辱されたのです。ここで引いては笑いものになります!」

 いや、すでに十分物笑いの種を撒きまくってるけど?

 ここでさらに肥料と水を加えたら、しばらくしたら大豊作間違いなしだ。

「そ、それはそうだが、ここではさすがにマズい」

 自分の派閥の下級貴族に無体をはたらくのと、派閥外のそれも高位貴族とモメるのじゃわけが違う。ましてや最高位の公爵家主催の晩餐会でだ。

 まぁ、せっかくそこまで思い至ったのにすでに手遅れだけどな。


「随分と賑やかなことだ。当家の催しに不備でもあったかな?」

「こ、公爵閣下! お、お騒がせして申し訳……」

「返答はどうした、蛮族の小倅が! 臆したか!」

 主催者様のご登場に、伯爵本人が慌てて頭を下げるが、息子のほうはそれに気づきもしないで俺を睨みつけながら煽ってくる。

 この視野の狭さで貴族なんて務まるのかしらん?

 そんなどうでもいいことを考えながら、俺が溜め息交じりに今の状況を気づかせようと口を開きかけ、それより早く公爵と一緒に歩いてきた友人が嘴を突っ込んできた。


「フォー、いい加減行く先々で騒動を引き寄せるのはどうかと思うよ」

「俺のせいか?! ただ令嬢に暴力を振るおうとした阿呆を止めただけなんだけど!」

 公爵と一緒に来たらしい友人(リスランテ)がニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべてそんなことを言ってきたのでしっかりと反論しておく。

「何だ貴さ、り、リスランテ嬢! し、失礼しました。これは、その……」

 突然割り込んできた形のリスに、衝動的に声を荒げ、ようやく誰が居るのかに気がついて顔色を変える。

 いや、庇う気にもならんけど。


「そういえば、先ほどフォーディルト殿に決闘を申し込んでいたようだな。ずいぶんと剛毅なことだが、まだ家督を継いでいないとはいえ、それがどのような意味か当然理解しているのだろうな」

 言いながら意味ありげにこっちを見るの止めてもらえませんかね。

「とはいえ、すでに口に出して辺境伯家の嫡男に決闘を挑んだのだ。このような場で公になった以上は私がそれを止めては伯爵家の体面を傷つけよう」

「それは……」

 テルケル伯爵が苦々しげに自分の息子を睨む。が、そっちは俺を睨んでる。逆恨みもいいところだ。


「ふむ。それでは決闘の舞台は私が用意しよう。それならば今回のことも晩餐会の余興とすることができるな」

「いや、自分は受けるなんて言ってないんですが」

「そうなのか? だがこの件は貴公が原因のひとりなのだろう? 決闘が不成立となればそれなりの対応を取らなければならなくなるのだが?」

 言いながら公爵はテルケル伯爵たちのほうにチラリと目をやる。

 それに気づいた伯爵の顔が苦虫をまとめて噛みつぶしたように歪むが反論することはできない。

 要は晩餐会で騒動を起こした責任追及をされたくなければ受け入れろということなのだ。ましてや自分の息子が言い出したんだから逃げ道はない。


「元は当家から申し出たこと。今さら否やはありませんが、決闘の方法は決めさせていただきたく」

 往生際が悪いというか、そんな都合のいいことを言い出した伯爵に、公爵は少し考えてから頷いてみせる。

 ってか、当事者の俺を放っておいて頷くのは止めてほしいんだが。

「内容が公平であり、フォーディルト殿が認めるならば構わない。決闘の期日は、そうだな明後日で良かろう。場所は帝城の練兵場だ。異論はあるか?」

 ここでようやくこちらに話が向けられる。

 といっても、さすがにここまで来て断る事なんてできるはずもなく、仕方なしに頷いた。


「はぁ~、承知しました。ただ、こちらは無理に挑まれた側です。テルケル伯爵閣下の側が勝った場合は私が謝罪するとして、そちらが負けた場合の条件は……後で決めさせていただきます」

「ふむ。当然であろうな。このような場で婦女子に無体をはたらこうとしたのを制止した若者に決闘をふっかけたのだ。相応の条件は呑むべきだろう、伯爵もよろしいな」

「……加重なものでないのならば」

 渋々、本当に渋々といった感じで伯爵が了承して、そして息子たちを促して会場を出て行った。


「どういうおつもりですか?」

 自分が主催した晩餐会で余計な騒動を起こした別派閥の招待者に対する意趣返し。それはわかる。

 寄子貴族ならともかく、主義主張が異なり他の高位貴族と繋がりのある貴族家が相手となればいくら帝国随一の名門貴族とはいえ抗議と圧力以上の対応は取りづらいだろう。

 とはいえ、仮にあの伯爵の背後に居るのが相当な高位貴族、いや皇族だったとしてもフォルス公爵から正式に抗議されれば十分な効力があるはず。

 なのに、わざわざそれを見逃す代わりに俺との決闘を推す理由がわからない。

 質実剛健と評されてはいても人の皮を被った魑魅魍魎が連日連夜パーティーをしているような帝国で宰相を務めているほどの御仁だ。

 意味もなく俺を巻き込んで事を大きくするようなことはないと思うんだが。


「単にそのほうが面白そうだったから、というのは君に失礼だろうな。ただ、それ以外にも一応理由らしきものはあるがね。今は言えないよ」

「そうですか」

 やっぱり何らかの思惑はあるようだけど、これ以上訊ねても教えてもらえなさそうなので諦める。

 海千山千の貴族家当主と腹の探り合いしたって勝ち目はないからな。どうせ振り回されるなら知らない方が気が楽だ。


「それで、決闘の景品はどうするつもり?」

「とりあえず、直接の被害者に話を聞いてからですね」

 ここまで大人しく成り行きを見守っていたリスランテ(リス)が耳に口を寄せて訊ねてくる。くすぐったい。

 っていうか、普段は男装の麗人って感じだし、今日もドレスではなくパンツスタイルではあるが、それでもコイツはうら若い女の子なんだ。

 急に顔を寄せてきたらドキドキしたりもするから勘弁してくれ。


 俺がもう一方の当事者である老人と令嬢に目を向けると、老人のほうは顔を青くして大量の冷や汗をかいていて、令嬢はまだ少し怯えたようにしながらも老人を支えていた。

「えっと、とりあえず事情をお聞きしたいのですが、公爵閣下、場所をお借りしてもよろしいですか?」

 忘れそうになってたけどここは晩餐会の会場。

 先ほどの騒動もあってこの場にいる貴族たちの視線も集まっている。

 こんな中では落ち着いて話なんてできないだろうから公爵にお願いすると、あっさりと頷いてリスに目で合図を送る。

 それを受けた彼女の案内で、会場を出て少し奥に入ったところの部屋に場所を移した。


「そ、その、レスタール辺境伯のご令息には孫娘を助けていただき、誠に(かたじけな)く」

「ありがとうございました」

 部屋に入るなりふたりは俺に深々と頭を下げる。

 だが別に問題が解決したというわけじゃないので当然その顔色はすぐれないままだ。

「こちらこそ、事情を知らないまま口を挟む形になってしまったので、閣下のお立場を悪くしてしまったかもしれません」

 英雄譚の主人公なら正義感で突っ走っても許されるのだろうけど、現実は複雑で、その場は解決したとしてもその先はわからない。


「それで、どうして今回の騒動が起きたのか、理由をお聞かせいただけますか? フォルス家としても把握しないわけにもいきませんので」

 リスがフォルス公爵家の立場でそう訊ねた。

 自分が居ては事情を打ち明けられないだろうと考えたのか、公爵自身は晩餐会の場に残り、彼女が立ち会うことにしたらしい。


「はい。その、我が領は麦と豆の栽培を主な産業としているのですが、一昨年大規模な水害に見舞われまして……」

 恐る恐るといった感じで老貴族が語ったところによると、彼らは帝国の南部地域に所領を持つ男爵家で、いくつかの村が農作物を栽培して生計を立てているという典型的な零細貴族らしい。

 農業を中心とした一次産業はその生産を環境に依存しているので男爵が語ったような自然災害があると途端に運営に支障をきたす。

 もちろん平時に余裕があるのなら備蓄するなりできるのだろうがそう簡単なことではないだろう。

 

 結果、不作によって税収は見込めず、それどころか領民を飢えさせないために私財をはたいて近隣から食糧を買い集めるまでしたそうだ。

 そうなれば当然資金繰りは悪化する。

 一代貴族を除けば一番低い爵位とは言え、帝都に邸宅を構えたり最低限の見栄は張らなければならないが、そんな余裕はなくなってしまう。

 そこで男爵が頼ったのが寄親である先ほどの伯爵家だ。

 男爵は苦境を訴え、いくつかの条件と引き換えに当面の資金を借りることができたのだが、当たり前だが借りたものは返さなきゃならない。

 とはいえ、元々狭い領地で細々とやっていたような男爵家だ。1年分の税収に匹敵する借金を返すには何年もかかる。

 ところが、数ヶ月前になって突然テルケル伯爵から返済を求められたらしい。


「借用書には10年掛けて返済する旨が書かれていて、私もそのつもりでいたのですが、付則事項に伯爵家に特段の事情がある場合は返済を求めるという記述がありまして」

 ……まんま騙されてるじゃん。

 相手が寄親だから油断してたのか、どこぞの高利貸しがやるような手口で陥れられたわけだ。

「このまま返済ができなければ所領の徴税権を寄託しろと。それに加えて孫、サリーフェを行儀見習いとして伯爵の屋敷に住まわせるようにと」

 老貴族、ボッシュ前男爵の苦しげな告白にサリーフェ嬢が俯きながら涙を流し、リスは嫌悪感をあらわに眉を顰めている。


「まるで悪徳商人の手口だね。ましてや寄子貴族にする事とは思えないよ」

「だな。けどどうするか」

 貴族の寄親・寄子の関係というのは単に同じ派閥とかという単純なものじゃない。

 所領の地域や特性、歴史背景、政治力学など複雑な関係が絡み合っていて、寄子辞めます、そうですかというわけにはいかない。

 ただ、長い歴史を持つ帝国なので色々と抜け道はあると聞いてはいるが、あいにく俺は社交界に疎いレスタール家の人間なのでその辺は想像もつかない。

 とはいえ、俺のできることは一つだけ、だな。


「リス、決闘で俺のほうの要求は決まったぞ」

「テルケル伯爵家が持つボッシュ男爵家とその領地に対する債権を無効にする、だよね?」

 さすが親友。

 話が早いな。



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