十五話 デザートの食べすぎにはご注意を(いやホントに)
友里はよく、篤史の家で食事をしていた。
その頃から、篤史は彼女が結構食べる方だということは知っていた。
けれども。
まさかここまでとは、思ってもみなかった。
「さ、流石王者っ!! 他のご主人様達が軒並みリタイアしていく中、普通に食べ続けている!! 全くその手が止まる様子は一切ない!! その胃袋はまさしくブラックホールなのかぁ!?」
「いや~、いつもながら流石っすねチャンピオン。結構なボリュームのスイーツ用意してたはずなんですけど、何のためらいもなく食べていくとか。っというか、一体あの細身のどこに入っているんすかね」
と解説をしていくメイド喫茶の店長と副店長。
彼女らの言う通り、二十名以上いた参加者は次々とリタイアしていく。それもそのはず。スイーツと言っても、小皿に乗っているような、そんな可愛げがあるものではない。ホールのショートケーキや切り分けられていないアップルパイ、直径三十センチ程の巨大ドーナツなど、それこそ、ボリュームたっぷりな代物。
「うぐ……ぎ、ギブアップ……」
「む、無念……」
その証拠に、大学生らしき男たちが、口を押えながら、リタイアしていく。見た目から考えれば、彼らの方がよほど食べられるというのに、友里は全くその手を止める様子は一切なかった。
(おいおい……マジでどんだけだよ、あの残念妖精)
大会に参加していない篤史は、観客席的な場所から、大会の様子を見ていた。そして、友里の圧倒的なまでの食べっぷりに若干、引いていた。
その姿はまさに、ギャル〇根のそれである。
「おおっと、また二人のご主人様がリタイアッ!! これで残るは三人に絞られました」
「ほうほう。いつもの二人はさておくとして、新しいご主人様も結構粘るっすね」
どうやら友里と早坂が残るのは、いつものことらしい。そして、だからこそ、新入りである楓が未だに二人についていっていることが、他の者たちからは珍しいように見えたのだろう。
そんな彼女に対し、早坂は不敵な笑みを浮かべながら、口を開く。
「く、くく……やるじゃねぇか、新入り。ちょっとは根性あるようだな……うっぷ」
「そっちこそ……口だけじゃなかったってことだな……うっぷ」
少しだけだが、互いのことを認め合う二人。それはそれで結構なのだが、口を押えながらは流石に絵面的にまずいと思うのは篤史だけだろうか。
まぁとはいえ。
その二人をぶっちぎりで抜きながら、友里はダントツ一位にいるわけなのだが。
そして、そんな彼女はというと。
「――――ふふ」
とちょっと口元が緩んだのを篤史は見逃さなかった。
(あいつ、ちょっと美味しいとか思いながら食べてる!? まだそんな余裕があるのか……!?)
確かに、ここの料理や菓子は、結構手が込んでいる。そこら辺の冷凍食材を使ったものではなく、拘った食材を使っているに違いない。そこから考えて、きっと味も同じなものだけではなく、多種多様にして作られているのだろう。
が、それでも、もう大皿に十枚以上の量を食べているともなれば、もう味云々を言っている場合ではないはず。
だというのに、未だ友里の顔には、限界の文字は全くなかった。
「ああーっと!! ここでさらに追い打ちをかけるかの如く、当店自慢のメロメロウキウキチョコレートパフェ(巨大版)が登場だーっ!!」
「えー、ちょ、ここでさらにこの巨大盛りを出してくるとか、ウチの厨房は鬼っすか」
「きっとあれですね、いつもいつもどれだけ出しても完食してしまうチャンピオンへの、ウチからの挑戦状みたいなものね!!」
「ああ、まぁ確かに毎回、まるでさも当然の如くペロリと完食しますからね、チャンピオン。それに対抗意識を燃やすのは結構ですけど、それに付き合わされる二人のご主人様……頑張るっす」
店側からも、何故か対抗心を持たれている友里。もうホント、何なのだろうか、あの美少女は。
そして、そんな店側からもたらされた料理に対し、けれども友里の手は戸惑いを一切みせない。それどころか、新しいデザートが来たことに若干嬉しそうになっているように篤史には思えてしまう。
そんな彼女の後追いをする早坂と楓だったが、流石に怪物の胃袋には人間の気合も届くことはなかった。
「く、そ……今日こそはって……思ってたのに、よぉ……」
「ごめん、メイちゃん……アタシは……ここまでみたい……」
そう言って、二人は同時に机に突っ伏す。
「き、決まったぁぁぁあああっ!! 今回の大会、優勝はまたしても、チャンピオン・グラさん様だぁぁぁあああっ!!」
「いや、合計でデザートの大皿二十皿分って……本当に人間っすか、あの人」
などと、言われたい放題な友里であったが、見ていた他の客やメイドたちからは、歓声の声があがる。
そして、当の本人はというと。
「――――――ふぅ。ごちそうさまでした」
まるで、満足だ、と言わんばかりの口調。
そんな彼女を見て、篤史は改めて思う。
あいつは、一体どこまで残念なのだ、と。
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