部屋
リアルが忙しい。
私に与えられた部屋は団長の執務室の脇にある夜勤部屋みたいな部屋だった。
小さなキッチンに大きくないベッド…………
問題はそこではない。
この部屋……
汚いし、臭い。
「ここに住むの無理!」
「俺もそう思う。団長が散らかしたんですから、せめて団長が窓を開けて来てください。」
「無理!臭くて死ぬ。」
副団長は有無も言わさず団長を部屋に押し込めるとドアを押さえた。
「開けろウルガルド!死ぬ‼」
「窓を開けて来てください。」
「ウルガルド!」
小学生か?
私は少し呆れてその光景を見ていた。
そこに現れたのはミッちゃんだった。
「ヒナちゃんさっきはごめんね!先生か勝手に瞬間移動したからヒナちゃんとまともに話せなくて!」
「大丈夫だよ!………ミッちゃん私今日からこの部屋になるらしい。」
「自分の部屋もこんな感じの部屋だよ。」
私は副団長に退いてもらってミッちゃんにドアを開けて見せた。
顔が真っ青になったミッちゃんは急いでドアを閉めた。
「剣道部の部室の3倍臭い!ヒナちゃん‼これは人が住める部屋じゃないよ‼」
「うん。知ってた。」
ミッちゃんは暫く考えてから、首から下げていたネックレスに向かって言った。
「先生!三秒以内に集合!………1.2.さ……」
ミッちゃんのカウントに直ぐにライガイヤが現れた。
「何かな?」
「先生ならこの部屋どうにか出来るんじゃないかな?って思って!」
「その部屋をどうにかしたら俺になんの得があるの?」
ライガイヤの言葉にミッちゃんはチッと舌打ちをした。
「この部屋を綺麗にリホームしてくれるなら、ミッちゃんが白猫パーカー姿で円くなって眠る写メを見せてあげても良いよ?」
「「え?」」
ライガイヤの目がキラキラとしているのとは別にミッちゃんの顔がひきつっている。
「今ならミッちゃんの『ニャンニャン』って言ってる動画も見せます‼」
「ヒナちゃん‼」
怒るミッちゃんをよそにライガイヤは私に向かって優雅に頭を下げた。
「ヒナちゃん!何なりとお申し付け下さい。」
「あの部屋を住めるようにしてね!除菌抗菌もね!」
ライガイヤの仕事は早かった。
ドアを開け倒れている団長を部屋からポイするとライガイヤは部屋に魔法をかけ、窓から部屋にあるもの全てを下に下ろして一気に燃やしつくした。
ベッドとかでかい家具もめきめき言いながらつぶれて窓の外に………
除菌抗菌の魔法で爽やかに何も無い部屋が出来上がるとライガイヤはニッコリ笑顔で言った。
「ヒナちゃんの好きな家具を入れると良いよ。俺が金出すから。」
「太っ腹。」
「だから、道君の写真をくれ!」
「まかせて、無防備なミッちゃんの可愛い写メを沢山持ってるから横流しするね!」
横でミッちゃんがものスッゴく怖い顔している。
「ミッちゃんには、ミッちゃんの好きなチーズタルトつくるから出来たら食べてね。」
「………もー。」
ミッちゃんはまだ納得出来ていないようだが、私の作るチーズタルトが大好きなせいで機嫌は直ったように見えた。
そんな私の肩をポンポンと叩いたのは副団長だった。
「家具を買いに行くか?案内しよう。」
「ああ、ありがとうございます‼」
こうして、私は副団長と二人で家具を買いに行く事になった。
「副団長、ありがとうございました。」
「いや、ヒナを引き抜いたのは俺だしな。何か食べて帰るか?」
「奢りですか?」
「当たり前だろ?お前は気にせず奢られてろ。」
「男前~。」
家具を一式揃えると、店の人が全部部屋に届けてくれると言うので御願いした。
手ぶらで帰れるお陰で副団長とご飯を食べて帰る事になった。
「本当にここで良いのか?」
酒場だと思われる店を見た瞬間から私はここが良いと言い張った。
日本の居酒屋と違う独特な空気が漫画やアニメやゲームの中でしか体験できない気がしたからだ。
「俺は安いから助かるが………もっと高い店でも良いぞ?」
「こう言う店大好きなんですよ!安ければなお良い。」
「面白い女だな。モアなんて高ければ高いほど喜ぶが。」
「モア?彼女さんですか?」
「いや、姉だ。」
私はクスクス笑いながら言った。
「仲良しなんですね。」
「ただの口煩いお節介だ。」
運ばれてきた料理を食べながらそんな話をしていると目の前に金髪碧眼のイケメンが現れた。
「ウルガルド殿じゃないか。女性と一緒とは珍しい!」
「………」
副団長は男を完全に無視している。
「こんなに美しい人をこんな小汚ない店に連れてくるなんて!どうかしているんじゃ無いのかい?」
男の言葉に店の主人だと思うおじさんから殺気が上がる。
「私の名前はエリック、ミケラウラと言います。こんな野暮な男はやめて私と食事をやり直しませんか?」
「遠慮します‼」
私の速答にエリックの顔がひきつっている。
「ヒナ、良いのか?」
「は?なんで?」
「なんでって………こいつは一番隊の副団長で地位と名誉があるから、興味があるなら行っても良いぞ?」
私は副団長に笑顔を作ると言った。
「私がこんな安っぽい口説き文句でホイホイついていくようなバカ女だと思ってるならお金だけ置いて目の前から消えて下さい。ご飯が不味くなるので!」
副団長は驚いた顔のあと、クスクスと笑った。
「変な女。」
「誉め言葉だと思って良いんでしょ?」
「そうだな。」
そんな私達を見ていたエリックが眉間にシワを寄せて言った。
「君は一番隊の価値が解っていないみたいだな!」
私はニッコリと笑った。
「一番隊なんて、権力振りかざした生け好かない奴等の集まりでしょ?」
「なに!」
「まわりを見てみなさいよ!あんたの事生け好かないって皆が思ってる顔してるから!ご飯が不味くなるから消えてくれない?」
「二番隊の副団長の女だけあって礼儀がなってないな!だから、二番隊は…」
「別に副団長の女じゃないけど、礼儀を重んじるならそれ相応の価値のある男になったら?今の貴方は私にとって無価値だから!」
「言わせておけば調子に乗って‼」
私は妖艶に微笑みを浮かべた。
「女性に対して目くじら立てる器のちっちゃな貴方は知らないのかしら?騎士様って老若男女の味方じゃないの?貴族様や政治的に力のある人しか守らない一番隊がなんぼのもんじゃい‼悔しかったら町中が尊敬するぐらいの実力見せてみろ‼」
まわりの客や店員さん達が一斉に『そうだそうだ!』と援護してくれて嬉かった。
エリックは苦々しげに店を出て行った。
「あんなのが居るとご飯が不味くなる。」
「ヒナは怖い物知らずだな。」
「騎士様は女に手をあげるなんてゲスなことしないと思って。」
「まあ、普通しないな。」
副団長は苦笑いを浮かべた。
帰りに店の主人がご飯代をただにしてくれたうえに、いつ来ても奢ってくれると言ってくれた。
一番隊の奴等にはムカついていたからスカッとしたと言われた。
私は言いたいことを言っただけだが、この店はご飯が美味しいので甘んじて好意を受けることにした。
「ヒナちゃん何時でもおいで!」
「ありがとうオッチャン!」
こうして、私に新たな友達が出来たのだった!
もっと早く更新したいよ~。




