俺のもの ウルガルド目線
ウルガルド目線です。
やってしまった。
俺は後悔していた。
ヒナの特別になれるか試したいと思った。
だからこそ、『ヒナギク』とヒナにだけ聞こえるように言った。
怒るだろうか?
俺の予想とは反してヒナは可愛く赤く染まった。
ヒナが赤くなったと言う事はキスしても良いってことか?
欲望が溢れ出そうで困った。
ヒナはそんな俺を見上げた。
瞳は潤み小さく『ふ、副団長』なんて呟くもんだから、理性なんてものはガラガラと音をたてて崩れ去った。
少しだけ残った理性の欠片のお陰で軽く触れるだけのキスにおさまったが、危うくヒナが嫌がっても許してやれないほどのエロいキスをぶちかましてしまいそうだった。
『ご馳走さん。』
本気で思った。
ご馳走だった。
その場にとどまれば我慢出来ずに貪ってしまいそうだった。
部屋を出ると自分でもビビるほどの速度で執務室に飛び込んだ。
ヤバイ‼やってしまった‼
今ごろヒナは俺の事なんて顔も見たくないほどキレて居るんじゃないのか?
今まで築き上げてきた信頼関係を俺は己の欲望で失ってしまったんじゃないだろうか?
自分の愚かさに泣きたいぐらいの後悔をしていた。
ヒナは暫くすると執務室に入ってきた。
俺は何事も無かったように振る舞おうと決めた。
ヒナは俺とのキスが初めてだと言った。
俺はそんなことで嬉しくなってしまった。
責任をとると言えばヒナはかなり慌てていた。
否定的な事は言わないし、俺をせめている訳でもない。
これ、押せば行けるんじゃないか?
俺の脳みそは勝手に判断した。
獣としての直感を信じて突き進めば、ヒナは追い詰められた小動物のように俺に捕まってくれた。
ヒナは俺のものだ。
ヒナは俺の番だ。
ヒナの全てが欲しい。
そのまま押し倒す勢いで行動すれば、怯えられた。
ああ、ヒナが欲しい。
獣の欲望よりもヒナの気持ちを優先しなければ……
ヒナに嫌われたくない。
好きで居て欲しい。
……ヒナが可愛すぎて辛い。
俺のものだと思えば思うほど全てが欲しい。
側に居るのはまずい。
少し落ち着け俺!
ヒナの頭を撫でて俺は執務室をあとにした。
ヒナが俺のもの。
自分の部屋に戻るとしみじみと噛み締めたが何だかしっくり来ない。
その時俺の部屋のドアを乱暴に叩くやつがいた。
不愉快に思いながらもドアを開けると、そこに居たのは団長だった。
「お前、オヒナにキスしたんだってな!」
「した。」
「……兎に角部屋に入れろ。」
「ああ。」
部屋に入ると団長はため息をついて言った。
「オヒナに嫌われたいのかお前‼」
「つい。」
「ついだ~?お前な~……」
「潤んだ瞳で見上げられて理性がとんだんだ。」
「……それは可愛いだろうな、キスしたくなっちゃう気持ちも解る‼だが、駄目に決まってるだろ‼」
団長は、確実に説教に来たようだ。
言った方が良いだろうか?
「ヒナは俺の嫁に決まった。」
「お前な、オヒナの合意がないと嫁になんて出来るわけ無いだろ?オヒナには言ったのか?」
団長の眉間のシワが尋常じゃない。
「言った。俺の番になると約束した。」
「………言ったのか?………やったじゃないか‼あのオヒナがお前を選んだか‼そうかそうか!………よし、明日の朝、他の奴らに報告だな‼」
「………何故?」
「馬鹿!マジでお前馬鹿‼他の奴らが手を出さないように言わないとだろうが!」
「ああ、そう言う事か。………そうだな。ただ、まだ実感もないから勝手に牽制して良いのか解らん。」
「実感もない?」
獣の本能から行けばOKの時点で抱く。
だが、ヒナは獣人ではない。
ヒナのためにも我慢したが、そのせいで俺の中に実感が無いのかもしれない。
それを団長に話すと頭を殴られた。
地味に痛い。
「オヒナのために我慢したのは偉い‼が、抱いてないから実感が無いとかオヒナが可哀想だろ‼………明日にでもオヒナと相談して団員達に言うか隠すか決めろ‼オヒナのためなら何だって出来んだろ?」
「ああ。」
「なら、オヒナの思うようにしてやれ。じゃないと、オヒナが可哀想だ!解ったな‼」
団長はそう言うと、勢いよく部屋を出ていった。
暫く団長が出ていった扉を見つめていたが、俺は目を閉じてヒナの事を考えはじめた。
顔が見たい。
次に会ったらちゃんと笑ってくれるだろうか?
俺はその日不安な夜を過ごしたのだった。
浮かれてからのモヤモヤです。




