変な副団長
イチャイチャします!
目が覚めると自分の部屋だった。
薄暗い部屋に隣の執務室から光がもれている。
ゆっくり起き上がり、執務室のドアを開けると机に突っ伏して眠る副団長の姿が見てとれた。
「副団長、風邪引くよ。」
まだ覚醒していない様子の副団長は私を暫く見つめると言った。
「………起きたのか?」
「はい。」
「大丈夫か?」
「はい。」
「怖かったか?」
「……はい。」
「そうか、そうか。」
副団長はそう言って私の腕を掴むと引き寄せ抱き締めてくれた。
不意に気持ち悪いオッサンを思い出して副団長にしがみついてしまった。
「守れなくてごめんな。」
「副団長は助けに来てくれたよ。」
副団長は深いため息をついた。
「助けるのが遅すぎだ。」
副団長は私を抱き締めたまま頭を撫でた。
「髪の毛は、自分で切ったんだよ………副団長とは違った………あのオッサンに触られて気持ち悪くて………要らないって思っちゃったんだよね!だから、オッサンの腰にさしてあった剣を引き抜いて………」
私の言葉に副団長は眉間にシワを寄せた。
「副団長が気に入ってくれた髪の毛を切っちゃってごめん。」
「………この国では、髪の短い女性はキズモノだと言われる事がある。あとは、女性でいることをやめるって意味合いがあって………結婚出来なくなる。」
そ、そうなんだ~………
「まあ、彼氏がいる訳じゃないし………」
「すまん。」
副団長は私の頭を撫で撫でしながら謝ってくれた。
「大丈夫だよ。」
「だがな…」
「そうだ‼悪いって思うなら副団長、私のお願い聞いてくれる?」
「俺が出来ることなら…」
「じゃあ、狼男になって!」
「………」
「出来るよね?」
副団長は私を抱き締めていた手を離すと言った。
「獣化は………あまり見せるものじゃ………」
「獣化って言うんですね!早く、して。」
副団長は一瞬息を詰まらせた。
「………まだ、薬が残っているとかは…」
「もう大丈夫です!ねぇ早く~。」
「あああああ~………」
副団長は頭を抱えてしまった。
そんなにダメなお願いだろうか?
「ダメ?」
「…………………獣化しても怯えないか?」
「はい。」
「失神しないか?」
「はい。」
「………嫌わないか?」
「副団長を、嫌いになんかなるわけない‼」
副団長は暫く黙ると、小さく呪文のようなものを唱えた。
徐々に狼の顔になる副団長にちょっと、ときめく。
「これで良いか?」
私は副団長のモフモフの首に抱き付いた。
「モフ~。」
「………」
副団長はされるがままに、大人しく撫で撫でされてくれた。
「気持ち良い!モフモフ‼」
「………普通は嫌がるんだぞ………」
「じゃあ、モフモフを堪能されたこと無いんですか?」
「あるわけ無いだろ。」
「じゃあ、副団長のモフモフは私が独り占めですね。」
「………」
副団長は深い深いため息をついた。
そんなにダメな事言ったかな?
「………独り占め……か………」
「ダメですか?」
「………ダメ……じゃ……ない……」
「じゃあ、副団長のモフモフは私のですね!モフ~。」
副団長はさらに深いため息をついた。
「………そろそろ離してくれ。」
「もう少し……」
「………そろそろ…」
「もう少し‼」
「理性が事切れる前に離してくれ………」
副団長の言葉に思わずフリーズしてしまう。
「え?」
「……………」
副団長は私と視線が合わないように顔を横にそむけていた。
「獣の姿で撫で回されると感じちゃう!みたいな?」
「……獣の姿じゃなくても撫で回されると感じるだろ?しかも、獣化すると鼻が良くなるから………………ヒナは甘い匂いがする………」
「臭い訳じゃない?」
「ああ………良い匂いだ。」
恥ずかしいんですけど………
でも、離れたくないんだよね………
「良い匂いなら、もう少し………」
「ああああああああ~………」
私は更に強く副団長にしがみついた。
「ヒナ、ちょっと落ち着け!あぁ~クソ!」
副団長が落ち着け!っと思ったのは内緒だ。
私は暫く副団長を、撫で回すとゆっくりと離れた。
離れて見れば副団長はかなりぐったりとしていた。
弱った獣………萌える‼
もう少し撫でようと副団長に手をのばそうとすると滅茶苦茶速い動作で呪文を唱え人の姿に戻られてしまった。
「ちぇー。」
「もう嫌だ‼なんなのお前!獣化でこんな酷い目にあったのは初めてだ‼」
口を尖らせて拗ねる私に、ちょっと必死な副団長とは中々に無いシチュエーションである。
「ごめんね!副団長!怒らないで、お願い。」
副団長は暫く黙ると言った。
「他の獣人にもやる気か?」
「何を?」
「………撫で回したり、頬擦りしたりだ!」
「………して良いなら!」
「駄目だ‼」
「駄目なの!?」
「…………………俺の、個人的な希望から言えば……駄目だ。」
個人的?
どう言う事?
「副団長、変だよ?どうしたの?」
「…………」
「大丈夫?」
「………大丈夫か?と聞かれたら……大丈夫じゃない。」
「え?ベッド行く?私ので良ければ…」
「ああああああああ‼わざとか?マジで勘弁してくれ‼」
副団長が壊れている。
どうしよう‼無理やりベッドに連れていった方が良いのだろうか?
「副団長医務隊行く?」
「いい!帰る‼戸締まりをきちんとしろ!解ったか?」
「はい!」
副団長はそれだけ言うと部屋を出ていったのだった。
副団長、頑張りました‼
ヒナちゃん気が付いて!




