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媚薬

副団長~頑張って!

医務室に行こうとして俺は考えた。

医務隊に女性は居なかったはずだ。

そうなると、この無駄に色気を出したヒナを医務隊の誰かに預けないといけなくなる。

………嫌だ。

ならどうする?


「副……だん……あつ……の……」


考えがまとまらない。

ヒナを抱える手に力が入る。

………そうだ、ライガイヤ殿のもとに行こう。あの人はストラにしか興味が無いし、魔法でどうにかしてくれるはず………

俺はライガイヤ殿の執務室に急いだ。





俺はライガイヤ殿の執務室のドアを乱暴に叩いた。


「はーい‼………お、狼男!」

「ストラ!ライガイヤ殿は?」

「ストラって、もしかしてウルさん?」

「良いから!ライガイヤ殿は?ヒナが大変なんだ。」


俺の言葉にストラは俺の腕に抱かれたヒナを見た。


「ヒナちゃん!どうしたの!」

「何だか解らない薬を飲まされたみたいだ。」


そこに顔を出したのはライガイヤ殿だった。


「これは媚薬だよ。良い薬を飲まされたね。」

「は?」

「高級娼婦が使う媚薬だよ。気持ち良いのがヤるまで続く、しかも避妊しなくても子供が出来ないって優れもの!かなり値がはるから、収入が高い娼婦がこぞって使う媚薬だよ。」


俺は思わずフリーズした。

ヤるまでって………


「ウルガルド、責任とってヤるしかないね‼」


………


「先生、殺すよ。」


ストラの言葉に現実に引き戻される。


「ヒナちゃん、薬を全部飲んじゃったの?どれぐらい飲んだか解る?」


苦しそうなヒナがゆっくりと言う。


「口に……入れた……だけ……吐き………出した。」

「そっか‼良かった‼」


ストラは本当に殺意のある視線を俺達二人に向けると言った。


「少しなら水で濃度を薄めて中和出来るんじゃないの?」

「………多少の魔法もかかってるんだよ!」


ライガイヤ殿の言葉にストラはさらに冷たく言った。


「ヒナちゃんに迷惑かけたら、死体も残らないように爆死してやるから。」

「道君が?」

「私が‼」

「それは困る。道君が居ない世の中なんて生きている意味がないからね‼」

「なら、早くヒナちゃんを助けろ!」


ライガイヤ殿は大きくため息を着くと呪文を唱えながらヒナの額に手をのせた。

暫くすると、ヒナが眠りについたのが解った。

呼吸も安定したようだった。


「後は目が覚めるまで寝かせとけば大丈夫じゃない?」


安心してその場に、ヒナを抱えたまま座り込んだ。


「大丈夫ウルさん?」

「ああ………俺が助けるのが遅れたばかりに………」


眠るヒナの短くなってしまった髪の毛が痛々しくてやるせない。

ヒナは怖い思いをした。

俺のせいだ。

俺はヒナを抱き締める手に力を込めた。


「やっぱり、ウルガルドに良くしてもらった方が良かったんじゃない?初めてがウルガルドならヒナちゃんも嬉しいかもよ?」

「先生、本気で嫌いになるよ‼」

「ごめんなさい!………でも、道君はウルガルドとヒナちゃんがくっついたら良いって思っていたんだよね?」

「あのね!ヒナちゃんの許可もなくヤっちゃったらウルさんのことを、この薬を飲ませようとした奴と一緒だと思ちゃうでしょ‼ヒナちゃんの特別になって欲しいから絶対にこんなかたちは認められないの!解った‼」

「はーい。ウルガルド、ごめんね!」


ライガイヤ殿ほニコニコしながらそう言った。

俺はゆっくり呪文を唱え、人の姿に戻った。

さすがにヒナが目覚めた時に獣の姿でいる気にはなれなかった。

大抵の女は獣の姿を見ると怯えて逃げ出す。

または、失神だ。

………ヒナは違った。

ヒナは俺に怯えなかった。

同じ獣人ですら、俺の獣姿を怯えるのに………

ヒナ………お前は俺を好きになってくれるだろうか?

怯えなくても、付き合うのは無理か?

好きになって欲しい。

好きだ。

ヒナ


「………部屋に連れて帰る。」

「ウルガルド、嫌われたくなかったら自分の部屋に連れ込むのは止めなよ‼」

「ヒナの部屋に決まってるだろ。ストラ、大丈夫だ!襲ったりしない。ヒナは大事にする。」

「信じます‼ヒナちゃんをよろしく!」


俺はヒナを抱えてヒナの部屋向かった。






ヒナをベッドに横たえ、俺は騎士団の執務室の自分の机に突っ伏した。

苦行だった。

ヒナは俺の獣姿を綺麗だとか言うし、色っぽくすり寄ってくるし柔らかいし良い匂いだし………俺は変態か?

よく耐えた。

俺は頑張った。

………ヒナはどうしたら手に入るのだろうか?

俺が頭を抱えると執務室のドアが勢いよく開き、団長と数人の団員が入ってきた。

思わずし~っと人差し指を口元に持っていく。


「ほ、ほら!ウルガルドはそんなことするわけ無いだろうが!」

「団長がマッハで帰って邪魔するって言ったんじゃないっすか!」

「それは、お前が尻尾を千切れんばかりにウルガルドがふっていたって言ってたからだろ!」


………俺の尻尾………


「ウルガルド、オヒナは大丈夫なのか?」

「ああ、目が覚めれば………大丈夫らしい。」

「ヤってないよな?」

「………ヤってない。」


団長は小さく息を吐いて言った。


「失神したジジイをひっぱたいて起こして聞いたら、ヒナが媚薬飲まされたって聞いて焦ったぜ‼解毒はヤるしかないって奴が言ってたからウルガルドが………やっぱりお前は紳士だよな!」

「………」


紳士?俺はそんなのじゃない!

ライガイヤ殿が本当にどうにも出来なかったら俺は喜んでヒナを襲っていたかも知れない。

自分の浅ましさにもう一度机に突っ伏した。


「ウルガルド?」

「今はほっといてくれ。」

「………なにかあったのか?」

「何もない。」

「ヒナに怯えられたか?」

「………ヒナは怯え無かった。」

「………なら、どうした?」


団長であるランドールは気のおける友人だと思っている。

ランドールが団長になったのも俺が暴走しても止められるだけの実力があるからだ。


「おい、お前ら仕事戻れ!」


ランドールは人ばらいをすると、俺の側に椅子を引っ張ってきて座った。

俺はゆっくりと事のあらましを話した。


「………ヒナが好きだ。」

「知ってる。バレバレだ!………それにしても、今回は頑張ったな。」


ランドールは俺の頭を乱暴に撫でた。

こいつは俺の兄貴気分なのかも知れない。


「俺も応援してやるから、頑張れ!」

「………ああ。」

「ヒナについててやれ。俺は面倒臭い事終わらせてくるからさ。」

「………頼む。」

「いつもウルガルドに任せっきりだからな‼たまにはやってやるぜ‼だから、ゆっくりしろ。」


そう言うとランドールは団長の顔をして執務室を出ていった。


団長が格好良くなってきた………


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