【エリ3】エリオットと竜の里・後編
★健全なシーンですが、妙にエロい気がするので若干R15かもしれません。
次の日。
朝食が終わって、メイコたちとイクシスの部屋へ行く。
座布団に座って少しずつ熱いお茶を飲む。
テーブルにはちょっとしたお菓子も置かれていた。
メイコはオーガストと楽しそうにお喋りしている。
ぶちょう、おとめげーむ、れいぞうこのぷりん、りんたろう、たける。
よくわからない単語がいっぱいだけど、メイコはにこにこしてる。
メイコが幸せそうならそれでいい。
ふいに隣から、ペタンペタンと床を打ち付ける音がするのに気付く。
イクシスの尻尾が床を叩いていた。
手に持っているのは重ねられた薄い紙。
都市ではあたりまえにある、新聞と呼ばれる情報が詰まった記事らしい。
竜族は旅をすることが多いから、色んな国から新聞を取り寄せて、情報を得ているとのことだ。
さっきからイクシスは全く新聞を捲ってない。
むすっとした顔で、同じ一点ばかり見てる気がする。
その尻尾を見てて、思い出すのは八番目のお兄さんの言葉。
イクシスの弱点。
ゆっくりと手を伸ばして、付け根に触れてみる。
「っ!」
イクシスがびくっと背筋を伸ばす。
「な、いきなり何するんだエリオット!」
「もしかして、くすぐったい?」
驚いた様子にイクシスに言えば、眉を寄せる。
「……くすぐったくはない。けど、何で触らせなきゃいけないんだ」
「イクシスの尻尾、格好いい。だから触りたい」
不機嫌そうになったイクシスに、適当にそんな事を言いながら、もうちょっとさすってみる。
イクシスは唇をきゅっと合わせて、何かを我慢するような顔になった。
「うっ、ふぁ……も、もういいだろ!」
イクシスは新聞から片手を離し、手元を口で覆いながら顔を真っ赤にして言う。
どうやら八番目のお兄さんが言ってたことは、本当らしい。
「イクシス、もしかしてそこ触られるの弱いの?」
「ち、違う! 別に全然平気だ!」
メイコがこっちに気付いてそう言えば、イクシスは新聞を置いてすぐに否定した。
焦ったのがわかりやすい。
メイコが自分も触りたいって顔で、こっちにやってきた。
「じゃ私も触っていいよね!」
メイコの手も、イクシスの尻尾の付け根に伸ばされた。
ただ撫でてた僕と違って、メイコは摩ったりウロコを弾いたりしてる。
顔が生き生きとしてて、恍惚の表情だ。
メイコは尻尾とか、耳とか、翼が大好き。
ウサギの獣人・ベティの耳なんてよくもふもふされている。
猫の獣人・ディオの尻尾も好きで、いつもにぎにぎしてた。
最近ではフェザーの翼がお気に入りで、羽毛布団とか変なことを言いながら、翼の間に挟まって蕩けそうな顔をしてるのを見た。
ちなみに、僕の場合は髪と尻尾が好きらしくて、いつも撫でてくる。
ただ、イクシスは僕たちと違って、あまり体を触らせようとしない。
だから、触っていいならこのチャンスに触りたいんだろう。
「……くっ、ふっ……あっ! んっ、もうやめ……っ」
イクシスは口を押さえてるけど、上ずった声が漏れるのを我慢できないみたいだ。
その目が潤み始めていて、気持ちよさそうにも見えるけど苦しそうにも見える。
メイコの手は容赦なくて、付け根の部分をしごいてみたり、イクシスの反応がいい場所を重点的に触っていた。
「イクシス、やっぱりくすぐったいんだ?」
「ち、違う……」
悪戯っぽく尋ねるメイコに、イクシスは息も絶え絶えに答える。
八番目のお兄さんが言う通り、イクシスは認めたがらなかった。
メイコの目に、イクシスをもっと虐めたいなっていうような色が浮かぶ。
「そっか……それなら、まだ触っててもいいよね?」
「なんでそうなる……もういいだろうが……っ」
イクシスの背中に体を押し付けるようにして密着して、尻尾を跨ぐように膝立ちになって。
その耳元でメイコはイクシスに囁く。
ちょっと興奮気味のその声は艶っぽい。
イクシスは尻尾を触られたままだからかいつもより弱々しくて、否定の言葉も掠れていた。
「うっ、あ……そこ駄目だ……も、頼むから……!」
「何で駄目なのか素直に言ったらやめてあげてもいいよ?」
イクシスのお尻辺りに手をのばして、その背中に体を密着させて。メイコは頬を上気させて生き生きとしてる。
イクシスが苦しそうに顔を歪めて声をあげるから、メイコが虐めてるみたいにも見えた。
普段強気なイクシスをやりこめられているのが、メイコは楽しくてしかたないみたいだ。
……弱点は弱点だけど、これも何か違う気がする。
「ん……はぁ……」
イクシスがテーブルにつっぷしてくったりとしてしまったので、メイコはようやく尻尾を触るのをやめた。
「本当イクシスって強がりだなぁ」
そういいながら笑うメイコは、とても幸せそうだ。
恍惚としていて、それでいて目がもっともっとと何かを求めてるみたいにギラついてるように見えた。
「おいメイコ。イクシスばかりズルイだろ。オレも触れ」
順番待ちをしていたかのように、オーガストがメイコの側にやってくる。
「オウガも触らせてくれるんだ?」
メイコは何故か少し変な顔をした。
それから恐る恐る、オーガストの角に触れたりする。
「本当に……オウガに角が生えてる」
イクシスの時とは少し反応が違う。
驚いたような、ちょっと寂しそうな。
そんな顔。
それからメイコは、オーガストの後ろに回った。
「……」
尻尾を触って、翼に触れて。
まるで何かを確認してるみたいで。
イクシスを触っている時みたいに、メイコは楽しそうじゃなかった。
「……なんで、こんな気持ちになってるんだ?」
僕の横にいたイクシスが、ぽつりと小さく呟いたのが聞こえた。
イクシスはわけがわからないと言った様子で胸を押さえ、不安げにメイコを見つめてる。
「メイコ、お前」
「双子だし、くすぐったいところ一緒かな?」
イクシスが話しかけようとすると、メイコはいつものメイコに戻る。
楽しそうな声でそう言って、オーガストの尻尾の根元に手を伸ばす。
オーガストが眉間にシワを寄せた。
「色は赤と黒って違いはあるけど、形はそっくりだね。あっでも、オウガの方が太くて、イクシスの方が長い気がする」
「当たりだ。ほぼ一緒なのに……よく、わかったな」
メイコは尻尾に関して、物凄く目が利くらしい。
オーガストが少し抑えた声をだしながら、驚いたように呟く。
僕も見て触れたけど、違いなんてわからなかった。
「全体は固いけど、付け根のこの部分だけ皮膚がむき出しで柔らかいよね。他の部分よりも熱くて、直に体温が伝わってくるのがたまらないっていうか……手に吸い付くみたいで……癖になる」
メイコの声はどこか熱を帯びていて、うっとりとしている。
「っ……」
どんな手つきでメイコが触っているのか、オーガストの上着に隠れてここからは見えない。
でもイクシスと同じで、オーガストも尻尾の付け根がくすぐったいようだ。
顔が普段以上に迫力のあるものになる。
「っ、ふっ……」
オーガストも、イクシスみたいに何故か我慢してるみたいだった。
時折小さな吐息が口から漏れる。
くすぐったいなら、くすぐったいって言えばいいのに。
「あれ? オウガ、あまりくすぐったくない?」
顔を見ればくすぐったがってるのはわかるけど、後ろにまわったメイコはそれに気づかない。
イクシスはメイコが触れるたびに体をビクつかせたり、声を上げていたけれど、オーガストはそうすることを必死に耐えてるようにも見えた。
「あぁ……オレは平気みたいだな」
「そっか、じゃあ……こうだ!」
強がりを言うオーガストに、メイコがさらに気合を入れて尻尾を触って。
「……ッ!」
オーガストがびくびくと体を震わせて、前のめりに突っ伏す。
「ははっ、やっぱりやせ我慢だ!」
「メイコもうやめてやれ」
イクシスが止めれば、メイコの目がキラリと光った。
「ふふっ、楽しい……」
「メイコ? 目が据わってるんだが……。落ち着けっ……っあ!」
メイコはぽうっと熱に浮かされたような目をしていて、うっとりとした笑みを浮かべていた。
思わず後ずさったイクシスが餌食になって。
「エリオットもいーっぱい、もふもふしようね?」
メイコはギラギラした目をして、手をわきわきさせて、僕に近づいてくる。
その日はいっぱい触られて、三人ともくたっとなったけど。
「あー幸せ!」
メイコはとっても満足そうな顔をしていた。
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竜の里に来てから五日目。
メイコはイクシスやオーガストと街へ遊びに行くようだった。
着いていこうとしたら、ニコルに捕まった。
ニコルはどうしても三人で過ごさせたいらしい。
僕がカーマインたちと遊ぶから、行かないと言っていたとメイコに勝手に答えて。
三人を送り出してしまった。
「ニコル嫌い」
「だろうな。好かれるとも、好かれたいとも思ってない」
面と向かって言えば、楽しそうにニコルは笑う。
僕を部屋に連れてきて、ニコルはヒルダとメイコの話を聞きたがった。
どんな女なのかとか質問してくる。
嫌なやつに答えたくなくて、黙り込んでいたら。
取引をしようと言ってきた。
「お前はあの三人の情報をオレに寄越す。オレはその代わり、お前に使い魔の力をやる。どうだ、悪い条件じゃないだろう?」
ニッと笑って、ニコルはそう言ってきた。
何を企んでいるのかと身構える。
「あの女が守れる力が欲しいんだろ? くれてやってもいいと言っている。魔法の年期がが違うからな。イクシスやオーガスト相手でも、お前次第で圧倒できる」
「そんな事をして、ニコルに何の得がある?」
善意でそんなことをする竜じゃない。
それくらいわかる。
「あるさ。状況が少し変わった」
睨めば、くくっと楽しそうにニコルは笑う。
「三人の事情は複雑みたいだからな。この里にいる間にくっつくことはないだろう。メイコの元に二人とも着いて行くはずだ。その様子を面白おかしく……いや、父親として二人が心配だから見守りたいんだ」
本音を隠す気があるのかという態度で、ニコルは言う。
「使い魔の見たものを、主は見ることができる。意思疎通も可能だ。オレはこの里を離れることができない。お前が使い魔となれば、その場にいなくても三人の様子を楽しむ……もとい見守る事ができる。お前は力を手に入れてメイコの役に立てるし、利害は一致してるはずだ」
少し心が動いた僕を見て、ニコルは目を細めた。
ニコルは第一属性光、第二属性闇、第三属性が炎で、第四属性が水と風らしい。
「五つも持ってるの」
「あぁオレは竜の中でも、別格なんだ。だからあげても問題ない」
驚いて口にすれば、当然の事のようにあっさりとニコルは口にする。
その中の光属性をニコルはくれるという。
「第一属性、光なの意外。光は使えない属性って皆言ってた。それにニコル光って感じじゃない」
「昔は光属性が一番重宝されてたんだが、使えない扱いされるとは時代が変わったものだ……まぁオレのせいなんだがな」
不思議に思って口にすれば、ニコルは昔話をしてくれた。
千年以上も昔、地上は魔族と呼ばれる一族が支配していたらしい。
彼らは人間の血をエサにしていて、光属性を苦手としていた。
だから、人の間では光属性は大変重宝されていたんだとニコルは言った。
「魔族滅びたって、お勉強の時間に聞いた」
「まぁな。オレがこの光属性を使って滅ぼしたんだ」
軽くニコルは答える。
このお茶少し熱いなと言いながら。
ニコルは自分が竜だと知らないまま、魔族に攫われて育てられたらしい。
魔族は太陽が苦手で。
太陽が出ている間の国の護りとして、ニコルを魔王に仕立て上げた。
エサである人間が昼の間に魔族を滅ぼさないよう、ニコルはずっと護っていたらしい。
「自分の仲間をやっつけたってこと?」
「仲間? オレを利用するしか考えてない奴らがか?」
冷ややかな色を瞳に乗せて、ニコルは笑う。
「行く場所がなかったから魔王をしていただけだ。自分が竜だと知らず、花嫁も得られずに千年過ごしていたからな。オレもかなり病んでいたんだ。いつでも魔族を滅ぼせるように、隠れて光属性を磨いていた。今は使い手のいない古代魔法まで網羅している」
使い魔になると、主人の魔法のレベルをそのまま受け継げる。
魔力や魔力回路はニコルと同じものになるし、ニコルが使える魔法を使えるとのことだった。
でも本人の中に作られる、魔力を溜め込める器はニコルと同等の大きさじゃない。
器は僕が育てていくものだと、ニコルは口にした。
高度な技を知っていても、使い手の力量や魔力によって威力や精度は半減する。
威力を上げたり、扱う技術には僕の頑張りが必要だとニコルは言った。
「一応第一属性なのに、いいの?」
「古代魔法の《聖なる太陽の祝福》あたりは時々使うんだけどな。まぁ魔法で従順な下僕を作るより、無理やり従わせて屈辱を味あわせるほうが好みだから構わん」
あっさりとニコルは口にする。
ちなみに古代魔法は、普及している魔法と違って危険なものが多いらしい。
威力が凶悪すぎたり、人の心を変えたりする魔法もある。
そのため存在が隠され、使える者はほとんどいないとの事だった。
「《聖なる太陽の祝福》は古代魔法の光属性最高峰の魔法で、魔を払う。魔族相手にかなり有効な魔法だったが、実は他の使い方もある」
悪い笑みを浮かべて、ニコルが説明をしてくれる。
この魔法に直接触れたものは心が浄化されて善人になり、悪い事ができなくなる。
それでいて、術をかけた者がその者の唯一無二の光となり、何でもいう事を聞くようになるらしい。
「敵に自白させたり、下僕を作るのに便利な魔法だ。使い勝手がいいぞ?」
「それより強いのがいい」
欲しくなっただろうと言うニコルに、素直にそう言えば面白くなさそうな顔をする。
「なんだ興味なしか。お前がその気になれば、イクシスを操る事ができると教えてやっているのに」
「……操ってどうするの?」
わからないか? と、ニコルが問いかけてくる。
「メイコを諦めさせることだって可能だといってるんだ。メイコをお前から奪うのは悪い事だ。この魔法をかけて、そう言ってやるだけでいい」
誘惑するかのような声でニコルは言う。
「しない。そんなのでメイコを手に入れても意味ない」
即答すれば、ニコルはくくっと満足そうに笑った。
「そうか、つまらないな」
答えたニコルの言葉には、好ましいというような響きがあって。
もしかして、光属性をあげていいかどうか、試されていたのかもしれないと思う。
「二百年ほど貸し出しておいてやる。竜にとってはあっという間の短い期間だ」
「……僕がメイコとくっついたらどうするの」
「息子たちにそこまで甲斐性がないなら、それはそれで諦めよう。まぁありえないことだとは思うが、お前の奮闘も楽しみにしている」
――それで、お前はどうする?
赤い瞳が問いかけてきた。
欲しかった力が手に入る。
ニコルの力っていうのが気に入らないけれど、メイコの役に立てるかもしれない。
それなら、考えなくても答えは決まってた。
「わかった。ニコルの使い魔にして」
「そうこなくっちゃな。主がオレということは、そのうちばれるかもしれないが、オレが光を持っていることをイクシスもオーガストも知らない。使えないことで有名らしい光属性なら、誰があげても怪しくはないはずだ――しばらくは隠しておけ」
頷けば、ニコルが悪魔のように笑う。
「ここにいる間にオレがお前を多少使えるようにしてやろう。さぁこい、オレの使い魔」
ニコルが椅子から立って、導いてやるというように手を差し伸べてくる。
その手を――迷わず取った。
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