説明と隠蔽
その後、俺達六人は爺さんに、ギルドのカウンターの奥の部屋に連れて行かれた。どうやら他人に聞かれちゃまずい話をする時に使われる部屋らしく、分厚い扉が二重に置いてあり、さらに長い通路を進んだ先にソファーと机が置いてある。ちょっとばかり厳重すぎやしないかと思ったが、地球のような防音施設があるわけでもないので、やはりこのくらいはする必要があるのだろう。
爺さんは俺達をソファーに座らせると自分で紅茶を淹れ、自分と俺達の前にカップを置いた。
「さて、ここなら何を話そうとも外部には漏れん。お主ら――とくにお主には聞きたい事が山ほどあるのでな」
爺さんがこちらをガン見しながら言ってくる。一体俺が何をしたと言うんだ。火竜から逃げただけだろう。
「と、その前にまずは改めて自己紹介でもしましょうか。俺はA+ランクのアランです。以後よろしく」
長い話になるなら、と思ったのか、隊長さんが挨拶を始める。そう言えばまだ俺達も名乗ってないし、この爺さんの名前も知らないよな。
「私はC+ランクのセイイチです。よろしく」
俺がアランさんに挨拶を返すと他の皆も挨拶を返す。
「同じくC+ランクのジョズだ」
「俺はSランクパーティー『フェンリル』のデリックだ」
「同じく『フェンリル』のアルベルトです」
「同じく、フィリアよ」
「儂はここのギルドマスターのジェンドだ」
まあうすうす気づいていたが、この爺さんはギルドマスターなようだ。まあ、こんな凄そうな部屋を出入りできるんだから当たり前か。
「ここのトップって事はつまり全ての冒険者ギルドのトップってことだからな。この人は元SS+ランク冒険者だ」
爺さんの自己紹介にデリックが補足をする。まあ、冒険者ギルド本部のギルドマスターなんだ。実力がその辺の冒険者に劣るわけないか。
「SS+ランクと言っても、序列は四番目で当時一番低かったからの。儂が引退して残りの三人中二人は死に、その後新しくSS+ランクになった奴を含めて今は二人じゃったか。まあ、儂がそこそこ強かったのも昔の話じゃ」
爺さんは何でもない事のように言うが、弱体化した俺を含むここの六人で爺さんに襲い掛かっても、軽くあしらわれるだろう。全盛期はどれだけ強かったのやら。
「それよりセイイチ、お主の話をしてもらおうか。火竜と何があったのかを聞かせてはくれぬか」
爺さんはソファーに深く座りなおして俺に尋ねてきた。俺は空間魔法とかの話はできるだけ避けるようにしつつ説明を始めた。
ワイバーンの逆鱗を入手しに火山に行ったら、異常な数の魔物に襲われた事。
余りにも敵の数が多すぎたため、ジョズを使いに出、援軍を呼びに行かせた事。
『フェンリル』の三人と約50人のA~Bランク冒険者の援軍が到着して、順調に討伐が進んでいると思っていたら、突然火竜が飛んできた事。
何故かは知らないが俺を狙ってやってきたため、『フェンリル』の三人を無理や理離脱させてなんとか火竜の攻撃をしのいでいた事。
途中でジョズがやってきて、援護を受けつつなんとか火竜から逃げ切る、または火竜の興味から外れる事ができた事。
その後負傷した冒険者達と合流し、ギルドに帰還した事。
途中途中でその場にいたジョズや『フェンリル』、アランの補足が入りつつ、一連の説明が終わるころには全員のカップは空になっていた。
一連の説明を聞いた爺さんは、全員に紅茶のお代わりを入れてから話しだした。
「なるほど。かなり無茶な立ち回りをした割には元気そうなのは気になるが、まあその辺は触れんでおこうか。お主らの様子を見るに、別段嘘をついている訳でもなさそうだしの。ただ……結局、火竜の目的は何なのかわからなんだのか?」
爺さんは疑問形で尋ねてくるが、おそらく俺がなんとなくの心当たりがある事に気付いているのだろう。
……でも、【魔神の加護】については、言っていいのか悪いのか判別がつかない。アルベルトさんの呟きによれば、人族では邪教徒の大司祭だけしか持ってなかったらしいし、ここはあえてぼかしておくべきだろうか。
「確か火竜が言うには、魔王と同じ波動を感じるとかなんとか言ってたような気もしますが……」
俺が迷っていると横からアルベルトさんが答えてしまった。それを聞いた爺さんは数秒程ほど考え込む。
「ふむ……魔王と同じ波動か。ならば彼が魔王本人または魔王の子孫、それか魔王に力を与えてもらっている……いや、みたところ彼は人族のようだからもっと上の存在……魔神の加護か?」
Sランク以上の冒険者は皆こんなに鋭いものなのか、一瞬で答えを導き出す。コ○ン君もびっくりだよ。
「やはりギルドマスターもそう考えますか。しかし、普通の人族が魔神から加護を受ける事ができるんでしょうか?」
アルベルトさんの質問に爺さんは肩をすくめる。
「そんなのは分からんよ。一応推測ができないわけでもないが、まずはセイイチ君にステータスを見せてもらえばよかろう」
そう言って爺さんの目線がアルベルトさんから俺へ移る。
……どうしようか。一応、俺の【偽装】スキルを使えばステータスを消せるし、【鑑定眼】のスキルでも持ってない限り、そう簡単に俺の【偽装】を抜く事は出来ないだろう。
問題は隠すか隠さないかだ。火山では、アルベルトさんが処刑とか邪教徒とか物騒な単語を並べていたため、これを人に見せていいものなのか決めかねている。
あ、ちなみにジョズはすでに加護の事を知っている。そのためジョズの反応から情報が漏れないか心配になったが、俺より上手なポーカーフェイスで知らぬふりを決め込んでいた。
それで結局どうするのかと言うと、【魔神の加護】の存在は教える事に決めた。この国は人族と魔族が――少なくとも建前上は――一緒に暮らして行ける国だし、【魔神の加護】を持っているからという理由で俺を処刑したり監禁したりなんて事は出来ないだろうと判断したためだ。
「ええ、私は魔神の加護を持っています。この通り」
俺はステータスを開き、加護の欄を指す。他の項目は【偽装】スキルを使っているので空白になっている。
そこにある文字をみた俺とジョズ以外の五人は、まず驚いて、いろんな反応を返してきた。
「なっ!……」
「本当にあったんですか……」
「まさか本当に人族に出るなんて……」
「これは……」
「流石に儂も驚いたのう。これはいつ、加護を受けたんじゃ?」
中でもすぐに平常に戻った爺さんが尋ねてくる。今の反応を見ると、流石に魔神と迷宮でティータイムをエンジョイした、なんて言うのはやめた方がいいと思い、「旅の途中で盗賊に襲われて死にかけた所、急にこの加護が与えられ、なんとか盗賊を撃退した」と言う話をしておく。
「なるほど。それならばやはり魔王の封印が弱まっている事が関係しているのかもな。何かしら素質のある者に眼をつけていたと言ったところか……。儂も長い事生きているが、実際に魔神の加護を受けた者は初めてじゃ。もちろん、全員この事は他言無用で頼むぞ? この国は一応、魔族と人族の公平を謳ってはいるが、民衆も同じ考えであるという訳ではないしの。余り知られていい事はあるまい。公式な書類には加護の事は伏せて書いておく」
爺さん曰く、この国の法律では魔族が住む事が認められているし、千年前も魔族と人族の戦争には関与しなかったとされている。が、魔王が討伐されて以降、冒険者や商人の活動が活発化して国ごとの敷居が低くなった事などで、国としては魔族と人族の平等を謳ってはいるが、実際には魔族は国の中でも栄えている都市から離れた端っこの方に追いやられていると言う。
要するに、いくらこの国でも魔王が持っていた【魔神の加護】の存在を知られれば、あまりいい目でみられないだろう。しかも俺達は外国を目指しているので、下手をすればお尋ね者になるかもしれない。
「取りあえず、魔王の復活が火竜に関係している可能性があるとでも言っておけばよかろう。セイイチ君の加護も魔王の復活が関係しているかもしれない訳だし、問題は無かろう」
その後爺さんは「情報の隠蔽等はギルドに任せておけば大丈夫じゃ。改めて言うが、この件は絶対に他言無用でな」と締めくくり、報償の話は明日の昼ごろに行うので今日はもう帰っても構わないと告げてきた。




