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四天王と影縫い

 はっはっは! 待たせたな! ごめんなさい!


 ~前回のあらすじ~


 Sランク冒険者パーティー『フェンリル』達と連携して魔物の波を押し返していたら、火竜が飛んで来た。

 どうやら火竜は魔王と同じ力……つまり【魔神の加護】の力を嗅ぎつけてやってきたようだ。

 混乱の中、火竜のビッグでキュートな尻尾が誠一達を襲う! 



 よし、三文でやりきった。


 それではどうぞ、最初はデリック(『フェンリル』の重戦士)視点です

 ……全く、どうしてこうなったんだ。俺達はただ魔物の氾濫を抑え込むために徴収されたんだ。属性(エレメンタル)(ドラゴン)なんていう、化け物の中の化け物みたいなやつが出てくるなんていうのは、さすがに予想外だ。


 属性(エレメンタル)(ドラゴン)なんて、そもそも生きている間に見られるかどうかというレベルの魔物だ。勇者と互角の力を持っている。討伐にはSS+ランクが50人必要。目をつけられたら国を捨てて逃げろ。と言った伝説が数多く残されている、正真正銘の化け物だ。


 しかも、火竜の話によると、勇者は属性(エレメンタル)(ドラゴン)どころか龍種を屠る実力を持っているとも言っている。もう何が何だか……


「――どうやら取るに足らない雑魚だったようだな」


 俺が考えに没頭していると、先程まで痛いほど感じていた威圧が少しだけ弱まる。それにしても、俺達は立っているだけでやっとなのに、何でセイイチは平然としているんだか。やっぱりあいつも規格外みたいだな。下手すれば俺達三人より強いんじゃないか?


 俺がそんな事を思いながらも、今のうちにできる限り竜から離れようとしたその時だった。


「が、万が一、脅威にでもなると厄介だな。潰しておくか」


 邪魔な虫を潰すような気軽さで独り言が聞こえると同時、巨大な尻尾が振り下ろされた。


 速度自体は速くない。これが剣だったら重戦士の俺でも躱せる程度だ。が、でかさが問題だな。竜って生き物はただでさえ体がでかい上に、尻尾が体の三割近くを占めている。そんな巨大な尻尾が振るわれたら、避けられるはずがない。


 やばい、まさかこんな所で死ぬとは――


 俺は諦めて目をつぶる。その直後、横から(・・・)体に大きな衝撃が伝わった。


「ぐっ!?」


 一瞬何が起きたのか理解ができなかった。竜の攻撃なら衝撃は上から来るだろうし、いくらプレートアーマーに身を包んでいていようが、頭を潰されて即死の筈。


 俺が目を開けると、先程まで俺がいた所が遠くに見えた。そして他の三人がいるところでは、セイイチがアルベルトをこちらに投げようとしているのが見えた。あいつ、まさか俺達を逃がすために吹き飛ばしたのか!? 滅茶苦茶な男だ。しかも、先程まで俺達の前で見せていた力とは、とても比べ物にならない筋力とスピード。実力を隠しているのは知っていたが、あそこまでとは思わなかった。


 そしてアルベルトの奴が俺と同じ方向に吹き飛ばされてくる。残るはフィリア一人だけ――いや、もう間に合わない。このままじゃあの二人もミンチにされてしまう。あいつ、まさか自分を犠牲にして俺達を一人でも多く逃がそうとしてるんじゃ……


 何かを叫ぼうとするが、吹き飛ばされた衝撃で声を出そうにも空気が足りない。そして視界がほぼ水平に飛んでくるアルベルトによって遮られると同時、大きな土煙が上がった。


 俺は先程、魔物の氾濫を食い止めるために、申し訳程度に出してあった土の壁にぶち当たり停止すると、すぐにアルベルトが隣の壁に突っ込む。かなり強く打ちつけたようだが、命に別条はないようだ。まさかここまで狙ってやったのだろうか。


 俺はアルベルトの無事を確認するとすぐに火竜の尻尾があった場所に目を向ける。大体50mほど離れているだろうか。すでに尻尾の周りには大きな土煙が出ていて、様子を窺い知ることはできそうにない。が、あの状況からして二人が助かっている可能性は極めて低いと言わざるを得ないだろう。


 思わずそう思ってしまったが、火竜は再び尻尾を大きく、今度は左右に振る。すると一瞬で土煙が晴れた。


そこにあったのは血液の痕跡……ではなく、穴から飛び出てくるセイイチとフィリアの姿だった。



――誠一SIDE―――



「げほっ! げほっ! ひどい目に遭った」


 俺は穴から出ると大きくせき込む。ついでにレベル12,000という、途方もない強さの片鱗を味わった気がする。


「正直ちょっと舐めてたかもな……」


 油断しているつもりはないが、まさかあんなやる気の無い攻撃に対して切り札を消費させられるとは予想外だ。


 今のに少しでも殺意がこもってたいら死んでただろうな、うん。少なくとも『フェンリル』の三人は死んでいただろう。


 まあやったことは簡単で、デリックとアルベルトさんをぶん投げた後、フィリアさんを投げようとしたけど間に合いそうになかったんで木刀に仕込んであった緊急回避機能……なんて言い方をすれば凄そうだが、事前に魔法陣を使って仕込んでおいた『落とし(ピットホール)』を発動させて地下に潜ってぎりぎり避ける事ができた。まさか、あの尻尾が当たった地面が30cm近くも窪むとは思わなかったけどな。


 脇に抱えているフィリアさんの方を見ると、気絶してしまったようだ。できれば早く逃げてほしいが、これはどうしようもないだろう。


 俺の気配に気付いたのか、再び威圧のようなものが強くなる。実際には威圧をしているわけでもなく、ただ機嫌の悪さが体の表面から魔力としてにじみ出ているだけなんだろうが。


「む? 避けられたか。本当に鬱陶しい羽虫のような奴だ」


まるで「蚊を潰そうとしたけど避けられた」みたいな言い方をされてしまった。まあ実際、その程度の感慨しかないのだろう。相手は竜だし。


 俺は負けじと火竜の目を睨みつけ、問いかける。


「……なあ、一つ聞いていいか? おまえは何故そんなに魔王……いや、魔王と同じ力を持つ者を恐れる? 魔王や勇者ってのは火竜……いや、龍種でさえ恐れるような相手だったのか?」


 とにかく会話をしてなんとか時間を稼ぐために、火竜に問いかける。せめて二分(・・)ほど稼げれば、なんとかなるかもしれない。


「魔王か……あれは化け物よ。我が主を相手取りながら傷一つ負わず……いやそれだけでは無い。魔法も剣も使わず、体術だけで主を倒しおった。我が生き残っているだけでも奇跡と言っていいだろう」


 嫌な事を思い出したのだろう。微妙に火竜がしゅんとしていた。こんな時に何だが、結構可愛げのある奴……ではないな、それはさすがに無い。現在も【覇気】で火竜の威圧を相殺して、やっと立っていられるんだ。こんな奴に可愛げがあってたまるか。こうやって脳内で軽くふざけていなかったら、冷静に考える余裕すらないだろう。


「でもそれはあくまで魔王の話だろ? 魔王に似たような力を感じていたからと言って、そいつが強いとも限らないだろう。いくらなんでも恐れすぎじゃ……」


 そこで俺が口をはさむと、火竜が唸るような声を出す。


「アレは確か……自分の事を四天王の一人、と言っておったか。我はそいつを相手していたのだが……まあ、完全に遊ばれておったな。そやつは魔王の眷属と言っておったし、実際に魔王と同じ力を感じられた。幸い、と言うきではないが、我が主が倒されると、早々に退散していったので我は生き残ることができたがな」


 要するに魔王の力へのトラウマか。話を聞くとこいつも随分苦労して来たんだな……最初に会ったときと比べ、感じる威圧感が小さくなってきている。このまま逃がしてもらえたりはしないのだろうか。そう思った俺は火竜に問いかける。


「なあ、俺はお前を倒そうなんて思わねえし、ここはお互いに不干渉ってことで……」


 しかし、この提案は逆効果だったようだ。


「ならぬ! 魔王の力を持った……魔王になり得る存在は全て潰す」

「なら、せめてここにいる人たちは逃がしてくれ!」


 再び怒りを表す火竜に負けじと大声で叫ぶ。せめて援軍に来てくれた冒険者たちだけでも逃がしてほしかった。が、さすがにその考えは甘すぎたようだ。


「雑魚共が何人死のうが、我の知った事では無いわ」


 そんな言葉と共に、再び巨大な尻尾が、今度は横薙ぎに振るわれた。


 再び振るわれる巨大な尻尾。しかも今度は火竜の意思で振っているので、先程よりも早い。


 再び切り札発動。また穴だと対策がされそうなので、今度は『影縫い』を使う。キメラ戦でも使った技だ。


 この魔法の利点は一度影に入った場合、同じ生物の影の中を高速で移動できる事だ。これでキメラの後ろを取った様に、尻尾の攻撃が届きにくそうな体の真下。それも足で蹴飛ばされないくらいの絶妙な位置に移動する。


「ふむ、また避けるか。本当に羽虫のような奴だ」


しかし、圧倒的なステータス差のせいか、避けてもすぐに位置がばれてしまう。幸いな事は本当に羽虫程度にしか思ってないからか、大人げなく連続で追い回すような事をして来ない事だろうか。それでもフィリアさんを抱えながらこれを避けるのはとても負担なのだが。


「気が合うな。俺も自分の周りを虫が飛んでると集中できないタイプなんだ。せっかくだから気が合う事に免じて、俺を逃がしてくれたりはしないか?」


 俺は火竜から目を離さず、軽口をたたきながら命乞いをする。恰好悪いことこの上ないが、命には代えられない。


「ぬかせ。お前は羽虫が見逃せと言ったら見逃すのか?」

「意思疎通ができれば考えない事もないな」


 そんな受け答えをする俺を火竜は鼻で笑う。ついでに鼻から出てくる業火が俺を襲った。不意を突かれた俺はぎりぎりの所で『影縫い』を使う。


 伝説級の魔物と相対しているとは思えないような会話だが、俺とフィリアさんにとっては命がけだ。


 特にフィリアさんは今の炎の余波で軽く火傷を負ってしまっている。隙を見つけて離脱させ……いや、だんだんと攻撃が早くなってきている。さっきみたいに遠くへ投げ飛ばすほどの余裕はない。なら……


「今だ!『アイテムボックス』!」


 火竜の足元に移動してフィリアさんを『アイテムボックス』の中に放り込む。それと同時に、俺が火竜に蹴飛ばされた。


「ぐうっ!」


 火竜の蹴りは【金剛化】を貫いて俺にダメージを与え、盛大に吹っ飛ばした。が、生きているというだけで、俺が十分に手加減されている事がわかる。


 そのまま50m近く吹き飛び、山の麓の方角に転がされて、近くにあった巨大な岩を砕いた所でようやく止まった。内臓が大きく揺さぶられたような感覚がして気持ち悪いが、そんな悠長な事を言っている場合ではない。


 俺は必要最小限の部分だけ治療して起きあがる。ここから火竜までの距離は離れているが、全力で逃げても追いつかれるだろう。まだだ、もう少し時間があれば……


「フッ、無様な姿だな」


 火竜の蛇のような顔が、嘲笑するかのように歪む。俺に手加減しつつ攻撃してきているのもただ遊んでいるだけ。いや、魔王にやられた腹いせってところか。


 ――魔力はこいつから漏れ出てくるのを【魔力支配】でかき集めてるから問題ない。後は時間だ。もう少し、もう少しだけ時間があれば……


 そんな俺の願いもむなしく、火竜は大きく息を吸い込む。本当はそんな事をしなくても、ここら一帯をえぐり取る程度のブレスは使えるんだろうが、俺に恐怖を与えるのが目的なんだろう。これ見よがしにチャージを始めやがった。


「そろそろ、死ね」


 火竜は短く呟くと、俺には避けようもない範囲を覆い尽くす、まさに地獄の業火を――全く見当違いの方向に吐きだした。


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