出発と分割
ノスティア王国に召喚されてからかれこれ半年が経った。浅野は【勇者】の称号を手に入れてから成長速度がやたらと上がり、ステータスが4桁になるまで成長した。これで一位と二位の差が大きく離れてしまい、俺が浅野に追いつくことは事実上不可能になったわけだ。
逆に俺は「規格外を除いた中で一番強い」と、むしろ今までより有名になった。
ところで、未だにノスティア王国の勇者に対するアプローチが見られない。さすがに俺たちが腕輪をはめていないことに気付いて迂闊な指示を出せないと言うのもあるだろうが、いくらなんでもおとなしすぎるように感じている。
そんな中、王女による集合がかかった。訓練場に集まったクラスメイト達に紛れ、念のために三人固まって王女の正面に集まった。
「皆さんお集まりいただきありがとうございます。今回はみなさんに伝えなければいけない事があってこの場を設けさせていただきました」
宣言とともに優雅に一礼する王女。ちなみに俺は今日話があると言う事を知っていた……神田さんの情報網によって。
最近になってから神田さんは国家機密の情報までサクッと盗んでくるようになった。彼女曰く、城に忍び込んできた他国の諜報員のお墨付きらしい。そんな所で誇らなくてもいいじゃない。
「ついに魔族が勇者様方の存在を察知してしまったようです。ここへの攻撃はまだ先になるでしょうが、魔大陸に近いところでは危機が迫ってきていることは確か。そこで我々で話し合った結果、この国で旅をするのに十分以上の力を習得し、旅を行いながら修練を積んでいっても危険がないと判断させていただきました」
つまりは、魔族側に察知されて、そろそろいいころ合いだから魔大陸へ勇者を出発させようと言う訳だ。
実際に魔族側はそれを察知できているのか知らないが、少なくともそれ以外の理由が大きくからんでいるのは確かだ。
その理由は隣国だ。神田さんの掴んだ情報によると勇者召喚が行われたことに感づいた帝国がこちらにちょっかいを出してくるようになったとの事。もちろん、俺たちは人族のために召喚された勇者だ。お隣さんも正面から攻撃してくることはない。
まあ何にせよ、これで王国から離れることができるのならいい機会だ。離れている以上腕輪があっても直接命令を下す事は出来ないし。俺たちは腕輪をつけることなく離れることができる。
そう思っていたが、さすがにそこまでは甘くなかったようだ。
「そして、魔大陸とは逆方向で、魔族の影響による魔物の活性化、それに加え魔神教や邪神教の教徒達が活発に活動が行われているそうです。このままでは魔大陸で魔王を倒す前に大陸が内側から滅んでしまいます!」
途端にざわめきだすクラスメイト達。俺達もこの情報は初耳だ。神田さんによるとここ数日、何らかの会議が行われていたそうだが、警備と進入を妨げるために結界のせいで何をやっているのか分からないといった日が続いていた。
ちなみに邪神教、魔神教と言うのはそのまんま邪神、魔神を崇拝する宗教だ。俺達勇者や一般人が信仰しているのは世界を作った神とやらを崇拝しているよくわからん宗教だ。その神様が邪神達を打ち滅ぼしたみたいな物語があるのだが、要するに異教徒どもが騒いでいると言う事だ。この世界の基準がわからないからどうとも言えないが、生贄制度があったりなど、俺個人としてもいい印象を受けない。
何はともあれ王女が言っていた事は事実かもしれないし、そうではないのかもしれない。そこは分からないが、王国側が何か企んでいる事は確かだ。
「……そして残念な事に、わが国の隣にあるグラント帝国でも、同様な事が起こっております。グラント帝国は我が国と同じくらいに強大な国。国単位で暴走することがあれば、我々だけでなくその周辺国が壊滅的な被害を受ける恐れもあるでしょう」
ん? この流れは……どういうことだ?
「ですので、大変申し訳ないのですが、勇者様方の内半分は魔大陸へ向けて、もう半分の方は一度ノスティア王国に残り、周辺国家の混乱を治めるために協力してはいただけないでしょうか?」
勇者の勢力を二分させる? どういうつもりだ?
「それは一度勇者全員で遠征に行き、その後魔大陸を目指すという方針ではだめなのですか?」
さすがに疑問を持ったのだろう。浅野が口をはさんだ。王女が一度と言っていたように、もう片方も後から合流すると言う意味だろう。それならば全員で内部の混乱を治めに行った方が早いのではないだろうか・
「申し訳ありません、説明が足りませんでしたね。魔王復活の予兆による混乱は、もちろん王国から離れた地でも起こっています。もちろん各々の国家で混乱を治めるようにはしているでしょうが、その地にも直接姿をお見せになって、ときには混乱や暴動などを治める必要があるでしょう。そういった事を行いながら進軍していただくことになります」
つまり、結局残っても王国を出ても、やるべきことは同じと言う訳だ。確かに理には適っている。
「また、どちらの旅にもある程度の危険はつきものです。そのため、誠に勝手ながら、危険の大きい魔大陸へは勇者様の中で一番お強いリョウ様に、比較的危険の無い、こちらへの来られる方として二番目にお強いダイチ様に。それぞれ分かれていただいてもよろしいでしょうか?」
……また、随分厄介な事を言ってくる王女だ。




