アイテムボックスと魔石
ジョズと出会ってからそろそろ一ヶ月が立つ頃だ。
この一ヶ月間、とにかく色々な事があった。それはもういろいろあった。
例えば加減を間違えてジョズの腕を切り飛ばしちゃったり。どうくつに入ってジョズの時間感覚を狂わせた上で、精神魔法と回復魔法の重ね掛けで徹底的に隠蔽してこっそりと24時間戦闘訓練をやってみたり。
一応自分の鍛錬もしたけど経験値は入らないし、街が近いのでそこまで大きい魔法も使えないので、自分に作用する魔法を使ったりしていろいろと訓練をしていた。
後は依頼も結構な数をこなした。お陰でジョズも今はC-ランク、今度のCランクへの昇進試験を受ければ晴れてジョズもCランクになるわけだ。
ちなみに俺もC-ランク。せっかくのパーティーなので一緒に試験を受けようと思っている。もちろん過度な手助けはするつもりないけどな。
そんなこんなでこの一ヶ月間、特に問題という問題も起こさずに過ごして来れた。強いて上げるなら金のためにアイテムをうったら軽い騒ぎになった事くらいか。俺の思っている以上にあいつらのドロップアイテムが高かったらしい。
その時は親の形見とか適当な事を言って誤魔化せたのだがそう何度も使える言い訳でもないので結局ドロップアイテムがまだ大量に残っているという現状だ。
「兄貴、今日はどうするんだ?」
「今日? 明日は昇進試験があるんだからそれに備えて休んどけよ。俺も最近は訓練ばっかで疲れたし」
朝食をとりながら一ヶ月前と何ら変わらないような会話をする俺とジョズ。あ、でも訓練している間にジョズが俺の事を兄貴と呼ぶようになった。兄貴ってなんだ兄貴って。
ちなみに試験の内容は試験官同行の場でCランクの任務を受ける事。みっちり修業したジョズにとってはチョロイものだ。
「しょうがないな、今日は一人で訓練してるかぁ」
「そうしとけ。俺もたまには一人で気ままに魔法の訓練がしてみたい」
ジョズは残念そうにぼやく。随分と強くなる事に貪欲になってきたな。前にその事を尋ねてみたら、俺と一緒に行ける可能性がかなり高くなったので今のうちに足手まといにならないように強くなっておきたいのだそうだ。
何という健気さ。これが美少女だったらもう可愛くて思わず抱きしめちゃうところだった。ジョズだからしないけど。
そんな事を考えている間に朝食も食べ終わり、ジョズは明日の依頼の準備をするために買い物に行った。
「ふぅ……最近はジョズと訓練しているか一人で依頼を受けることばっかりだったからな。たまには一人で部屋にこもって魔法の練習ってのも悪くないもんだ」
俺は自分の部屋に戻るとなんともぼっち感あふれる悲しいセリフを呟き精神を集中させる。最近は空間魔法にはまっているのだ。この魔法物凄い便利。
「大いなる空間よ 我の意に従いて全てを飲み込め 『アイテムボックス』」
俺が詠唱をすると目の前の空間に罅が入っていき、やがて真っ黒な穴になる。
これは俺が開発したオリジナル魔法、『アイテムボックス』だ。
『空間把握』と『領域』をマスターした俺は空間魔法の代名詞、ワープとアイテムボックスの開発を試みた。
その結果、ワープの方は未だに完成していないが、アイテムボックスまでは作る事が出来た。
この魔法は空間の外側と空間の内側の間。所謂亜空間と言われるところを魔法で無理やり開き、その中に物を入れればどこからでも出し入れできるという、割とこの世界のバランスをぶっ壊しそうな魔法だ。
亜空間の中は時間が止まるなんていうことはないが、中の温度や気圧などは最初にこの魔法を開いた場所と同じ温度――これは開く直前に気付いた事なので出来るだけ上空に飛び寒い所で開いた――なので大体7℃くらい。そのおかげで中に食べ物を入れてもなかなか腐らないで保存する事が出来る。
ちなみに内容量には制限があり、亜空間を開けてからもう一度空間魔法を使って亜空間の領域を広げる必要がある。ようするにゴム風船の中に空気を入れて内側から拡げるみたいなものだ。そのため魔力の大きい人の『アイテムボックス』ほど内容量が広くなるという訳だ。
ついでに言うと拡げたばかりの亜空間領域は真空状態なので、急速に空間を拡張するとすいこまれてしまう。そのため空間はゆっくりと広げなければならないのだ。
俺はアイテムボックスの中から手頃な大きさの魔石を取り出す。ウォーターウルフの魔石のようだ。
俺はその魔石を机に置くと『アイテムボックス』の魔法を解除し、軽く息を整え懐から本とオーガソードを取り出す。
今やろうとしているのは魔法陣魔法。それも魔石に刻み込んで複数回使えるタイプの物だ。
俺は本を潰して開かせると机の上に置いて見よう見まねで魔石にナイフを入れる。
魔法陣魔法は一度だけ紙に書いて試したのだが、これがまた難しい。ちょっとでもずれると発動しないので細心の注意を払う必要がある。
ましてや魔石のような丸い物にナイフである程度の力を込めて刻みこむ必要があるのだ。機械なんていうべんりな物がないこの世界で魔法陣魔法が普及しないのもうなずける。
だがそこは俺。魔法とスキルをフルに使えば曲面にナイフで正確な模様をつけるくらい簡単な事。
『領域』で0.01mmまで正確に魔石の位置を把握し【並列思考】と【高速思考】によって魔法陣の柄を完璧に再現する事が出来る。さらに俺のステータスならば力を入れすぎてナイフが変な方向にいかないように加減することだって思いのまま。
俺は魔石に数十秒程で魔法陣を書きあげた。俺は完成した魔石を見て満足する。
この中に埋めたのは『水刃』の魔法。結構大きな町だったがそこまで大きな本屋で無く、簡単な魔法が乗っているものしか売っていなかったのだ。
「さてと、取りあえずはこんなもんか……後はオリジナル魔法陣の開発か? どうせ今日一日は暇だし、やってみるか」
俺は魔石を『アイテムボックス』の中に放り込むと本をじっと読む。魔法陣の開発なんてものは専門家でも一握りの人しか出来ないらしい。それでも魔法陣を書いてみるといくらか気付く事があった。
例えば『水球』と『水刃』の魔法陣には同じような形の所がある。更に『火球』と『水球』にも同じ箇所があった。
そこで俺は、「魔法陣とは一種のプログラミングのようなものではないか」と考えたのだ。例えば水属性に共通する部分の形を仮に「アクア」と名付ける。また、今度は火属性に共通する部分を「フレイム」と名付ける。
次に『火球』と『水球』に共通している部分を「ボール」と名付ける。
そのほかにも魔法陣にはいろいろな模様がついているがほとんどがどこかで別の魔法と共通している形なのだ。
「だからこっちを持って来てこうすれば……いや、それだとこうなるから……」
元からこういう作業が好きだった俺はすぐに没頭して紙に記号を書き連ねて行く。傍から見れば完全に危ない人だ。
そのうちどんどんヒートアップして【高速思考】や【並列思考】まで使い始める。昼飯も食べずに、気付いたら夕方になっていた。
俺が空腹を覚えて早めの夕食をとっているとジョズも訓練から帰ってくる。どうやら結局依頼を受けてきたようだ。
その後は特に何も無く、夕食を食べるとジョズは明日に備えると言って早々と寝てしまった。俺も特にする事があるわけでもないので、新開発した魔法『浄化』を使い体を綺麗にしてベッドに入る。布団に入ったら急に眠くなった。『浄化』についての説明はまた後日。
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“【←%&$!】による精神への干渉が進行します”
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