罠と契約
次話まで大地視点です。
魔道具に照らされた王女の表情はいたって笑顔。正直めっちゃ怖い。この状況で出てくるってことは、完全に俺達を追い詰めたつもりでいるんだろう。
実際、ただでさえ騎士団長に近い実力を持つらしい精鋭の近衛兵が十人もいると俺一人で突破するのは不可能だ。今は三人いるとはいえ、悪質な寝起きドッキリのせいで消耗した状況ではまず無理だろう。
最悪の場合に備えていつでも逃げられるように備えていると、王女が口を開いた。
「流石に貴方方はお強いですね、この人数を三人で倒してしまうとは。ダイチさんは王城にいる勇者の中では圧倒的な強さを誇っていますし、ユイさんはあの毒を一瞬で解除してしまうほどの回復魔法の使い手、さらにこちらの警備をあざ笑うかのようにすり抜けてくるレイさん。それこそ他の勇者14人よりも貴方方三人の方が――」
「それで、こんな夜更けにわざわざ護衛まで付けて訪ねて来て何の用なのよ」
王女の前置きを遮るようにして神田さんが王女に問いかける。さっきから真顔で眉一つ動かさない神田さんがとても怖い。
そんな神田さんに、王女は笑みを崩さずに答える。
「ええ、私は貴方方と交渉をしに来ただけですわ。それとも昼間、衆人環視の中での方がよかったでしょうか?」
「……それで、交渉の内容というのは?」
王女の余計な言葉を無視するように神田さんが先を促す。この二人の間に火花どころか空間の歪みのような物を幻視してしまう。これは本当に幻視でいいの? 本当に歪んでたりしない? 大丈夫だよね?
俺が現実逃避していると、王女は一枚の紙を近衛の一人に渡し、その近衛はそれを持って俺達に近づいてくる。何か文字が書いてあるようだが、暗くてこの距離では読めない。
「一応この国の機密なのですが……みなさんはもう知っているでしょうね。貴方方三人が私達に協力する代わりに、他の勇者には手を出さないと言う『契約』です」
俺は前に出て警戒しながら近衛からその紙を受け取る。
「勿論、今すぐ答えを出せとは言いませんよ。そうですね、丁度明日は無の日なので訓練はありませんし、明日の同じ時間、同じ場所でお会いしましょう。何なら、ある程度の譲歩はしますよ」
そう言うと王女は優雅に一礼する。
「あ、そこに落ちているものは夜中のうちに私たちの方でが処分して置くのでご心配なく」
王女はそれだけ告げると近衛を引き連れて去って行った。
「……取りあえず、私の部屋に行きましょうか。あっちならこいつらも来なかっから部屋もきれいだし」
俺と鎌倉さんは神田さんの提案に賛同して、ひとまず神田さんの部屋に集まった。一応鎌倉さんと神田さんは元から一緒だったらしいけど、これからは極力三人で離れないようにした方がいい。
神田さんの部屋に集まると、先程渡された紙の内容を確認する。
ノスティア王国国王、王女、及び軍務卿、(以下甲)はダイチ・ノモト、レイ・カンダ、ユイ・カマクラ(以下乙)は帝国軍並びに邪神教徒との戦闘行為に関して命令権を持つ。
甲は召喚した勇者のうち31人(以下丙)に対し隷属の腕輪による命令権を行使しない。
甲は乙および丙に対して直接、または第三者を通じて危害を加えない。また乙も同様に甲に危害を加えない。
この契約は帝国及び邪神教徒との戦闘が終了するまたは互いの合意があるまでとし、契約が終了すると同時に甲は丙に施した隷属状態を解除する。
俺は読みながら顔を顰める。要するに、俺達が王国にしたがって帝国と戦えば他の勇者にはなにもしないという内容なのだ。
が、問題はところどころに契約内容の隙をついて俺達を嵌めようとしている箇所が見える事だ。いくら精霊が保障している契約といえども、書いていないことを制限させることはできない。
おそらく神田さんと鎌倉さんも気付いている。王女の口ぶりからしていたるおところに隠されているんだろう。
「とにかくいろいろ考えなきゃいけない点はあるけど、まだ夜中だ。一旦眠ろうぜ。とにかく休まなきゃ頭も働かねえよ」
戦闘騒ぎがあったとはいえ、まだ夜中だ。なかなか危ない局面にも陥って気力を使ってしまったし、何より俺が眠くなってきた。
「そうね。流石に寝起きの戦闘は負担が大きかったし……取りあえず、離れ離れになるのはよくないし、今日はもうここで寝ましょう」
鎌倉さんの提案に俺達は頷くが、一応王城の一室とはいえ、元々が一人用の部屋に三人寝るのは窮屈ではないだろうか。というか、鎌倉さんと神田さんは女同士だから問題ないとして、俺は何処で寝ろと?
と、思っていると神田さんはアイテムバッグからショートソードを取り出して床に溝を入れる。こんな高そうな床と絨毯に傷を付けたら直すのにも相当金がかかりそうだが、まるで遠慮がない。
「ここから、そっち側までが、あなたに、許された、スペース。勝手に、そのラインを、踏み越えたら、殺す」
鎌倉さんは絨毯に着いたラインを指差して平坦な口調で告げる。身長は問題ないが、幅が畳一畳分くらいしかない。
「いやこれ寝がえり一回ではみ出るからね!?」
そう言って俺が抗議するも、
「殺す」
の一言で俺の抗議は泡となって消えた。念押しが「殺す」ってどう考えてもおかしいだろ!
「っと、その前に部屋にありったけの警戒をするわよ。私が使えそうなのは一定の範囲に入った相手の視界を塞ぐ『闇罠』しか使えないから、警戒と感知系の結界は貴方に任せるわ」
ああ、そうだった。俺と鎌倉さんの部屋はとても寝れる状態じゃないから神田さんの部屋に集まっている事はあっちも分かっているだろう。また襲われてはたまらないので最大限の警戒をしておくべきだ。
俺はドアと天井に『存在感知』と『衝撃吸収』を、神田さんは入口付近に設置型の闇魔法、『闇罠』を使う。どれも効果時間は六時間なので朝までは持つだろう。
魔力が余っているから何か手伝いたいと言う鎌倉さんには、土魔法でドアを物理的に固定してもらった。元々土の無い所なので大した効果は見込めないが、それでも全身を鎧で固めた相手ならともかく、暗殺者のような身軽な恰好をした者にはそう簡単に壊せない程度に補強ができた。
念の為、一人ずつ交代で起きて見張り番をすることにして、俺達はなんとか一日を終えることができた。




