狼と粘液
投稿が大幅に遅れてしまいました、申し訳ありません。
前回のあらすじ
妖岩と感動の再会
翌朝、朝食を取るとすぐに出発の準備をする。昨晩は魔物よけの結界を張っていたお蔭で魔物は寄り付かず、安眠ができた。勿論敵は魔物だけだとは限らないので、馬車や人間が近づいてきたらすぐに起きれるようにはしていたが、寝ている間に誰かが通る事は無かったようだ。
ジョズ曰く、商人は時計代わりになる魔道具を持っている事がほとんどとはいえ、長時間日に当たらないので、生活のサイクルが狂わないように夜は移動をしないで休息を取ることがほとんどらしい。
特にダンジョンのように気を張らないといけない所では、時間の感覚があやふやになり、自分でも自覚がないうちにどんどん疲れが溜まってしまうのだと言う。
俺達の場合は俺の体内時計を基準に行動するように決めてあるが、ジョズが寝ている間に疲労回復の魔法や、深い眠りに落としこむ魔法などを使いできる限り密度の濃い休息を取って貰うようにしている。
一応俺も回復魔法を掛けているのでそんなに疲労は溜まっていな。初めてのダンジョンなので警戒はしているとはいえ、伊達にレベル三桁の魔物が闊歩するダンジョンで暮らしていたわけではない。
「昨日言っていた分かれ道ってのは歩いて一時間くらいだな。今日のメインはそこからだし、そこまではゆっくり行こうぜ」
昨日はかなりの距離を進んだので、最初はノワールに乗ってのんびりと行く。せっかくジョズに丁度いいレベルの敵が出るんだ。魔物の群れに放り込まれるジョズのためにも、そこまでは体力を温存させておいてやろう。
のんびり、とは言っても歩いて一時間程度の道をノワールに乗って行けば40分もかからない。俺達は分岐点までたどり着くと、一度ノワールから降りて確認をする。
「このあからさまに二手に分かれて、暗くなってる方がショートカットの道なんだな?」
俺から見て右手には今まで進んできた道と変わらない、壁や天井が淡く光っている通路が。
左手には右側と同じように道があるものの壁から発せられる光は弱く、さらには緩やかな下り坂になっている。元々がそこまで明るくない洞窟内と言うこともあり、凄まじく不気味な雰囲気を出している。
「みての通りだ。ここを通ると八分目のあたりまで行って、大体さっきの岩一個半くらいの距離が短縮される」
馬車で進めば二日近くかかる道のりが短縮される訳だ。確かに腕利きの護衛さえいればこちらを進んだ方がずっと早く物を運ぶことができる。商人が運ぶ物によっては高い金を払って護衛をつける価値はあるだろう。
「確かに今までの敵よりは強いのがいるな……入って200mの所に三体。ジョズに任せた」
俺は【索敵】で近くに魔物がいることを確認しつつ、ジョズを先頭に道を進んでいく。少し暗くなったのは感じるが、全員【夜目】スキルを習得してあるし、仮に視界が制限される状況下でも俺とノワールならこの辺りの敵に後れを取るような事は無いだろう。
「見つけた。あれは……オーガか? まあいけるか」
少し蛇行した道を進むと敵の姿が見える。250cmほどはある巨体に何のためらいもなく突撃するジョズの背中を見ながら、俺も【遠見】と【鑑定眼】を使ってステータスを確認する。
[オーガ lv55
【生命力】950/950
【魔力】50/50]
ステータスではジョズは遥かに及ばないが、そもそもある程度の魔物になるとステータスで普通の人間が勝つことはほとんどない。それをなんとかする為に人間は知能を持って技術を養っているわけなのだから。
三体のオーガがジョズが走ってくる姿に気付くと同時、オーガ達の足元が爆発する。どうやらジョズが走りながら詠唱をしていたようだ。
不意を突かれたオーガ達が慌てている間に、爆発によって生じた土煙の陰からジョズの短剣が真ん中にいたオーガの足を斬りつける。そのまま流れるようにオーガの股下を抜け、魔法で残りの二体にも攻撃を浴びせる。
その後もオーガの巨大な図体の陰に入りこみ、オーガが攻めに出られないようにうまく立ち回りながら生命力を削る。オーガが最後の一体になると、攻撃をしながら準備していたらしい巨大な炎の槍でオーガを焼きつくした。
俺が一番戦った事のある相手だからか、自然に大型の魔物との戦いに適した戦闘スタイルがジョズにも身についているのだろう、対人戦よりも手際がいい。
「素早さは十分だが一撃が甘いな。ある程度体勢が崩れても力の入った斬撃が出せないと、さっきのより硬かったり素早かったりすると使えなくなるぞ。『ヒール』」
「一応頭では分かっているんだが腕が思ったように飛んでくれないんだよな……」
「そんなのは何度も繰り返して身に着けるしかねえよ。幸いな事にここならお前に丁度いいレベルだし、練習相手に不自由する事は無いぞ」
ジョズの体に付いたかすり傷に回復魔法を掛けてやると、ドロップ品を回収してノワールに乗って先に進む。
その後も魔物が多く群れている時は俺やノワールが手を貸したものの、ほとんどの戦闘はジョズがメインで進んで行った。
数時間ほど進み、そろそろ昼食を取ろうかとすると、近くの横道からひと際強い反応が感じ取れた。
「兄貴、前方右側から魔物が二体、多分俺じゃ敵わない」
ジョズもその存在にすぐ気付くが、同時に相手が自分より格上だと言うことも気付いたようだ。本当に無理そうな相手が分かる力は、冒険者としてはどんなスキルよりも大切な技能だ。ダンジョンのボス相手に毎回ギリギリで戦っていた俺が言うのも説得力がないが、アレは避けられない戦いだったのでしょうがないだろう。
そんな事を考えながらノワールから飛び降りると、それと同時に二頭の狼が横から飛び出て来た。
「『風衝撃』」
片方は俺が魔法で、もう片方はノワールが蹴りを入れて吹き飛ばした。
俺達に吹き飛ばされた二頭の狼は受け身を取ると後ろに下がり、俺達と睨みあうようにして向き合った。
俺は【鑑定眼】で相手のステータスを確認する。
[グレーターウルフ(変異) lv108
【生命力】1050/1200
【魔力】850/850
◆スキル
[咆哮lv6]
[夜目lv6]
[豪脚 lv4
[大食い lv3]
◆固有スキル
[狂犬化lv5]
]
グレーターウルフの変異種……二体ともステータスに大差は無く、どちらも狼にしては些か長すぎる牙と血走った目からして、同じ環境で変異種になったのだろう。
それにしてもレベル三桁か。今までにでてきた魔物が強くてもせいぜいレベル70前後だった事を考えると、かなりイレギュラーに近い事態と言えるだろう。もしかするとジョズの言っていた三層に繋がる階段とやらが傍にあって、そこから這い出てきたのかもしれない。
「あの牙……変異種か!?」
ノワールがグレーターウルフを吹き飛ばした時に後ろに下がっていたジョズが、変異種であることに気付き驚きの声を上げる。
「別に三桁になりたての奴に負けたりなんてしないから安心しとけ。それよりもよく見とけよ、レベル100越えの魔物との戦闘なんてそう簡単に見れるもんじゃねえんだから」
おそらく『大回廊』の第三層に行けば三桁の魔物が闊歩している事もあるかもしれないが、俺達はそちらに用は無いのでこのクラスの魔物との戦いを見れる機会は貴重だ。火竜? あれはそもそも戦闘と呼べるような物じゃなかったしノーカン。
「さて、それじゃあ――どうしたノワール?」
俺が魔剣――では戦闘と呼べる物にはならないので懐から短剣を取り出して構えると、俺の前にノワールが出てきた。
「ん、お前も戦いたいのか?……確かに今のお前には丁度いいくらいか。それじゃあ片方は任せた」
ノワールが俺達と一緒に行動するようになってからはぐんぐんレベルが上がり、今のレベルは103まで上がっている。レベルでは多少負けているものの、その辺の魔物とは違ってノワールは戦闘技術も磨いているし、なんとかなるだろう。
俺は先程ノワールが蹴飛ばした方のグレーターウルフをノワールに任せ、もう片方の狼と対峙する。
「オオオオオオン!」
狼から放たれた【咆哮】スキルを相殺しつつ再び【鑑定眼】を使い、このオオカミの固有スキルである【狂犬化】なるスキルの詳細を確認する。
[狂犬化 lv5] 興奮状態になると自動的に発動する。自身の生命力を毎秒5ずつ減少させ、ステータスを1.2倍にする。このスキルの発動中、生きた相手の肉を食らうと、生命力が回復するようになる。
所謂バーサーカーモードと言う奴だ。興奮状態になると自動で発動したり、敵の生肉を食らったりすることからして、完全に野生動物向けのスキルだ。ちょっと俺には使えそうにないスキルだな。おそらく【大食い】のスキルもこのスキルに引っ張られて取得したのだろう。
感情によって自動発動することから考えても、是非とも取得は遠慮願いたいスキルではあるが、俺のスキルである【強欲の芽】は倒した敵のスキルは全て奪ってしまう。つまり、このまま俺が狼を倒せば俺は晴れて【狂犬化】スキルを手に入れることができると言う訳だ。
「まあジョズに戦いを見せるって言った手前戦闘はしないといけないだろうし、止めはノワールかジョズに頼むとするか」
俺は頭を切り替えると、短剣を持って殺さないように気をつけつつ狼に肉薄する。
ジョズの参考になるようにと思い、短剣で牙を受け止めて攻撃を流し、短剣と体術を駆使して狼の生命力を削って行く。勿論、本気でやると一撃で致命傷になってしまうのでその辺りはセーブしているが、微妙に攻撃の位置をずらそうとしてくるのは流石はレベル100超えと言ったところだろうか。
ある程度生命力を削り、『アースバインド』で縛っておこうとした時、その後方から更に強い反応が高速で飛来して来た。【索敵】から感じ取れる反応からして、壁にぶつかって跳ねながら移動しているのだろう。何者かは分からないが、少なくともここにいるノワールやグレーターウルフよりも格上なのは確かだ。
興奮状態になって気付かない狼の方はともかく、ノワールもこの異質な反応に気が付いたようで狼を牽制しながら俺の後ろまで下がってきた。
俺が常時展開している【索敵】の範囲は半径200mほど。更にこの道にも多少の蛇行があることを考えると俺の【索敵】の範囲外から俺達のもとに来るまでは300mはあると考えてもいい。それにも拘わらずその反応は二秒程ですぐそこまで来ていた。
「っ――『魔力障壁』!」
俺は自分の正面に壁を張り、さらに万が一突破されたときのために魔剣に手を掛ける。そして次の瞬間俺が見たのは――
謎の緑の粘液に包まれる、先程まで俺達と戦っていた二体のグレーターウルフの姿だった。
今度こそスライムですよ! スライム!




