説法と世界情勢
本日二話同時投稿、こちらは二話目です。
「――こうして、このラオスティアは安定した物になったのであります」
キール公国のイェーナで食材の補給を済ませ出発の準備を終えると、広場で説法をしている数人の神官を見かけた。
ジョズ曰く、このキール公国は、世界で最も有力な宗教である聖神教の中でトップのハルマン皇国という所と繋がりが強いため、宗教の色が濃く、こうして時折神官がありがたいお話をしているらしい。
とは言っても街の住民が敬虔な信者な訳では無いので、内容は気軽に聞けるようにするためか、内容は世界の成り立ちと邪神、勇者と魔王の戦いについて。これは聖典の一部を抜粋したものらしい。
地球生まれでこの世界の宗教についてはその辺の子どもより知らない俺としては、とてもわかりやすい内容だったのだが……
「魔神と邪神ってめちゃくちゃやばい奴じゃん……」
確かに名前からして禍々しいし、魔神の加護を受けたのは人族では処刑された邪教徒の大司祭とか、明らかにやばい説明を聞いたこともあったけど、思ってた以上に世界の敵じゃないか。
邪神に至っては世界を汚染して魔物を創りだした存在……地球でそんな事を言う奴が居たとしても俺は鼻で笑うだろうが、魔法が存在するこの世界では本当にあるかもしれないと考えると、それが正しいような気もしてくる。
あまり関わりたい団体ではないが、この世界での神や加護の立ち位置が分かってきた。ノスティア王国にいたころは勇者の話はいくらか調べていたが、魔神や邪神と関わるなんて夢にも思わなかったから宗教の方まではあまり調べていなかった。
「――そして今、魔王の封印が弱まり、今度こそ完全に魔王を滅ぼすため、勇者が召喚されました。私たちは勇者を支え、魔王を討伐する為に力を合わせる必要があるのです!」
最後に神官がそう締めくくると、聴衆から拍手が起こった。実際はノスティア王国の勇者召喚でパワーバランスが崩れて大変な事になっているんだろうけどな。
勇者と言えば、時々勇者に関して噂が耳に入ってくるようになったな。
ノスティア王国からはまだかなりの距離があるから勇者がどの辺にいる、等と言う話はまだ聞いていないが、魔大陸を目指しつつ、各地を回って人々を助けていると言う話は聞いた。
後は、魔王を討つために聖剣が必要であるとか、その聖剣を手に入れる為にエルフの里に行くなど、勇者の今後の方針についての話も出ていた。
勇者と俺達の進み具合からして、近いうちに勇者達17人と再会する事ができるだろう。そうしたらそいつらに王国の動きを聞いて、内容次第ではその17人を引き連れてノスティア王国に殴りこみに行くことも考えている。
まあクラス内に友達があんまり居なかった俺だが、仲がよかった大地や結衣、神田さんの安否は気になる所だ。できれば全員が王国を発った17人の中にいてくれればいいんだが……
俺がクラスメイト達と再会した後の事を考えていると、先程の聴衆の中の一人が神官に質問するのが耳に入ってきた。
「あの! 昔勇者が召喚されたときは一人だったんですよね? 何故今回は勇者様が17人も召喚されたんですか?」
それに対して神官はこう答えた。
「そうですね。まだ詳しい事は判明していないのですが、おそらく神界で邪神派の神々が滅び、異世界からこちらへ、勇者を召喚する道が神によって妨害される事がなくなったからではないかと考えられています。つまり、前の勇者召喚は邪神派の神々が妨害していたことによって、一人の勇者をこちらの世界へ招く事が限界だったのだと言うことです」
まあこれに関しては聖神教も大いに疑問だったのだろうが、ひとまずはそう言うことになっているらしい。
まあ、真実は勇者とは別件で俺達を異世界に連れて行こうとした神と同じタイミングで、偶然ノスティア王国で勇者召喚が起きた為らしいが……
そんな問答がいくらか続いた後、神官は広場から撤収して教会の方角へ戻って行った。それを見たジョズは、
「前に見た時より、説教に随分と力が入ってるな……今まで、神官が何人も来ることも、あんな問答をしているところも見た事ないぞ」
と呟いた。
「まあ勇者召喚が起こったからな、軍事力はともかくとして、宗教的に大きな力を手に入れたノスティア王国への対抗なんじゃないのか? あの王国は隣国とやたら仲悪いみたいだし、暴走とかが起こらないように大国は苦労してるんだろう」
特に聖神教にとっては、魔王を倒す正義のヒーローを召喚したという事実はとても大きな影響を及ぼす。そのために宗教的な活動が盛んになっているのだろう。
「まあ大国だけじゃ無くて、勇者召喚をしてハルマン皇国に目をつけられたノスティア王国の方も迂闊にちょっかいを出せないようになっているんだろう。よくも悪くも注目が大きいわけだし」
俺が感想を漏らすと、ジョズがそう考察する。なんだか地球に居た時よりもずっと、政治や社会について考えている気がする。少なくとも本音と建前を両方察しなきゃいけないような事は地球では起こらなかった。
「んじゃ、そろそろ行くか。俺達の目的地は、それぞれの国が睨み合いの段階にあるうちにたどり着いた方が賢明っぽいしな」
そう言ってノワールとジョズを連れてイェーナを出発する。目指すはこの先にある大陸一巨大なダンジョン、『大回廊』だ。
そのダンジョンは整備こそされているものの、強力な魔物がしょっちゅう湧くそのダンジョンは、実力がない者がびくびくしながら進むくらいなら、その真上にある湖を迂回して進んだ方が早いと言われるくらいには厄介らしい。だが、俺だって伊達にダンジョンでサバイバルをこなしてきたわけではない。とっとと攻略してあいつ等と再会しないとな。
そう意気込んで出発する俺は、クラスメイト達より前に再開する相手が待っているなどとは夢にも思っていなかった。




