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魔王に召喚されたギャル、討伐をやめてもらうため王都へ向かう  作者: 竹道琢人(たけみちたくと)


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第34話:滋養強壮!魔力回復!ユグドナイトの湯!


 燻ったモヤモヤが叫びとなって夜空へ散っていく。


「……ふぅ、スッキリした! やっぱ溜め込むより出していった方がいいっすね!」


 泡まみれの身体で振り返ると、瞳を大きく見開いた彼女がキョトンとした表情でウチを見上げていた……が、にこやかに崩れていった。


「……クククククッ、なんだぁそれ。ハッハッハ! オメェ、ホントおもしれーな!」


 ガハガハした笑い声がいつまでも風呂場に響く。

 笑えることなど一つもした覚えはないけれど、この超絶スタイル姉さんのツボにはどうやらハマってしまったらしい。まあ、目の前の人が笑顔でいてくれることに悪い気はしない。

 ……にしても、目のやり場に困る状況を誰かに伝えたい。伝えたくてしょうがない。

 だって、メチャ揺れてるから。笑うたびにブルンブルンだから。……何がって?

 柔らかそうな肉の塊だよ! 胸部についたアレ! 言わせないで!


 ……と、視線の置き場所に困り果て少々キレそうになった頃。彼女は手際よく自らの洗体を済ませ、泡まみれのウチの身体へ豪快に湯をぶっかけると口角の上がった声で言った。


「よっしゃ、さっさと風呂入っちまおうぜ」



 ——————バッシャーン!



 岩に縁取られた温かい池……ではなく『湯』に彼女はこれまた豪快に飛び込んだ。

 

「(そんな温泉初体験のキッズみたいなことするんだ……かわいいぞ、姉さんッ!)」


「おい、オメェも早く来いよ」


「は、はいッ」


 対照的にスルッとヌルッとひっそりと足先を湯になじませながらインするウチ。

『かぁ〜、やっぱ風呂はいいな〜』と、オッサンみたいな声をこぼす彼女の隣まで移動したところでウチは腰を下ろした。

 優しい熱を帯びた柔らかい水が身体を包み込み、全身の血液や魔力が息を吹き返したようにめぐり流れていく。……ああ、久しいな。この感覚と気持ちよさ。

 ……でも、何だろうこの湯。相当な魔力を帯びている気がする。ウチが魔法を放出するときの感触というか、魔石に触れたときの感覚というか、みなぎった生命力みたいなものを感じる。それに水を媒介にして皮膚が魔力を吸い取っているような感覚も。

 両手ですくった湯をしばらく凝視していると、隣の彼女が『フッ』と笑ってから言った。


「気付いたみてぇだな。この風呂の湯にバカデケェ魔力が込められてんのを」


「バカデケェのは姉さんの乳……エッホオッホゴッホンッ! そう、ですね……生命力そのものに触れてるっていうか、そんな神秘的なエネルギーを感じます」


 湯の凄まじい効能ばかりか、目の前のダイナマイトボディに翻弄されて本音がこぼれそうになったウチをさておき、彼女はこの湯の正体について語ってくれた。


「オメェのその感覚の通り、この湯水はただの湯水じゃねぇ。地下深くに眠る特別な魔石(ユグドナイト)の影響をモロにくらった湯だ。この湯を浴びれば消耗した体力や魔力、ケガもたちまち回復しちまう。まあ、いわば秘湯みたいなもんだ。こんな風呂はプリモルディオ中を探しても他にねぇな。少なくともオレは見たことがねぇ」


「……そんなすっごい湯だったんだ」


「スゲェのは湯だけじゃねぇぜ。そんなバカ強い魔力を一気に浴びれば、たとえ魔族でも『魔力酔い』や『魔力痛』を引き起こしちまう。そうならねぇようにオレが魔力の吸収率を調整してんだ。固有結界魔法を使ってな」


「え⁉︎ ここ魔法⁉︎ やっぱり魔法の空間ですか⁉︎」


「風呂桶や椅子やこの岩の風呂釜なんかはオレが泥臭く削り出したモンだが、この夜空や星や木々は魔法による再現だ。当たり前に本物なんかじゃねぇ。地下に空が広がるわけはねぇからな」


「……そっか。でも本物みたいに綺麗ですよ、ここ。ウチは好きだなぁ」


 瞬く星空を見上げ、スゥーッと深い呼吸。

 改めて感じる硫黄の香りは鼻腔を通過し、肺へ広がっていく。

 風に揺られた紅葉のざわめき、湯が注がれては落ちる音、微かに聞こえる虫の声。

 そのどれもが心地よく、どれもがウチを癒していることに疑いようはなかった。

 どれが偽物で、どれが本物なのか。そんなことはもうどうでも良かった。

 いまこの瞬間、『良いなぁ』『綺麗だなぁ』と思えているウチの心は紛れもない真実なのだから。


 ……と、全身で快楽を堪能しながらも小難しいことを考えるとき、隣のダイナマイト姉さんがウチをジトーッと見ながら言った。


「……なんかオメェ、どことなくオレの()に似てんな」


「弟がいるんですか⁉︎ え、どこに⁉︎ 見てみたい!」


 新たなウチの推しであるアルフェ姉さんに新事実。まさかの弟。それはウチとの共通点でもあるわけで、これで一層お近づきになれる……と思ったのだが。

 彼女はどこか寂しく遠い目をしながら夜空を見上げていた。


「……ああ、いるぜ。今は——————」



 ———————————————王都で幽閉されてんだ。


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