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魔王に召喚されたギャル、討伐をやめてもらうため王都へ向かう  作者: 竹道琢人(たけみちたくと)


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第33話:事実と期待とモヤモヤと


 ……ウチが初めてでは、ない。

 告げられたその事実に、何故か心はざわついていた。


「それって……どういう意味、ですか?」


「どういう意味も何もねぇさ。言葉通りだ。デモンズの野郎が異世界人を召喚して平和交渉を試みるなんざ過去にいくつも例はある。まあ、全て失敗してっからオメェがここにいるわけだ。魔族の王って割には学ばねぇヤツなんだ、あの野郎はよ」


 動揺を隠しきれずウチの背中が小さく震える。その様子を察したのか、彼女は優しく撫でるように背中を流しながらこうも言った。


「学ばねぇクソッタレなんだがよ、オレにはどうもこれまでと状況が違って見えるんだよな」


「……と、言いますと?」


「あの野郎がオメェにド派手な魔法(チカラ)を授けたこともそうだが、側近のインプをオトモにつけただろう。それにメタルスライムナイトまでもが同行してるときたもんだ。近頃の魔族は身の危険を案じて人間に積極的に近づかねぇもんなのによ」


「あー、それはきっとプイプイのおかげかもですね。オッチャンの側近が一緒ってことで、みんな安心するのかも。『この人間は無害なのかもしれない』みたいな」


 ウチの返答に『それも言えてんな!』とドカッと笑った後、彼女はウチの腕や脚にも優しく泡を広げながら話を続けた。


「だけどよ、警戒心の塊のメタルスライム族が一緒ってのは相当スゲェことだぜ。アイツらは人間に狙われる宿命を背負って生きてるわけだからよ、他の種族よりも遥かに人間を忌避するはずなんだ。ところがメッタンはオメェと一緒に行くことを決めた。これはよ、単にチンチクリンもそばにいるからって理由だけではねぇんじゃねぇか」


「……そうなんですかねぇ。まあ、色々ありましたから」


「そういう魔族さえも惹き込む先天的な何かがオメェさんにあるのか、はたまたデモンズがそういう()()()()()()()()()()()()()()はオレの知るところじゃねぇ。いずれにしてもよ、これまでの異世界人には起きてなかったことが起きてやがる。そういう意味ではオレはオメェにほんのり期待してんだ。オメェはこの世界の歪みをホントに変えちまうんじゃないか、ってな」


「ほんのりか〜い」


「ったりめぇだろ、他は全て失敗してんだからよ。……つっても、自分らの世界のことすら他人頼みなのはどうも情けねぇ話だよな」


 ……と、彼女が低いトーンで言葉をこぼすと静寂がウチらを包んだ。

 泡をまとったタオルが柔らかく皮膚を擦る音、わずかに聞こえる彼女の呼吸音。そしてどこからともなく流れ着いた湯が延々と注がれ、またどこかへ流れていく。



 ……。…………。……………………。

 


 こういう沈黙はいつもウチを思考の海に放り投げる。これから風呂に入ろうというのに。

 どうしてかと言われれば、ウチはきっとモヤモヤしているのだ。いや、たぶん絶対モヤモヤしている。

 自分のことなのに『たぶん』とか『きっと』とか誤魔化すのは良くないな。もういっそのこと断言しよう。モヤモヤしまくっている。では、何にモヤモヤしているか。


 


 ウチより以前に多数の異世界人がこの世界に召喚されていること?


 王都への平和交渉が失敗続きで成功した例がないこと?


 オッチャンが性懲りも無く同じ手法を繰り返していること?




 ……違う。どれでもない。

 ウチより先に複数の異世界人が召喚されていようと『ふーん』としか思えない。食事前にプイプイが異世界人の存在について言及していたし、むしろ同じ境遇の人たちがこの世界のどこかにいるなら会ってみたいとさえ思う。

 それから成功例のない失敗続きの平和交渉を任されたと言っても、ウチが成功させればいいだけの話でこれまた何とも思わない。王国騎士たちの様子を見れば多少の不安はもちろんあるけれども、不安を抱いたところでどうしようもない。やってやるしか選択肢はない。だって、そうしうないと帰れないから。

 オッチャンが性懲りも無く異世界召喚を繰り返しているという話は……何とも言えない。謎。オッチャンのことだから何か意図があってのことだろうし、自らが前に出ると深刻な戦争に発展するから……というのも今となればなんとなく理解できる。確かに聞く耳を持たない王国騎士は全力で討伐にかかるだろうし。


 ウチが最もモヤモヤするのは『言ってくれなかったこと』だ。

 これまでの経緯(いきさつ)、世界の事情、魔族がどういう立場でどんな現状にあって人間にどう思われているのか。

 そんな話を端折られて『はい、おつかい頼まれてくださーい。成功したら元の世界に帰すねー!』なんて無茶ぶりが過ぎるって。まあ、召喚されてすぐメタルスライムの里へ向かったわけだから話すタイミングがなかっただけなのだろうけど。



 あー、理解はできてもモヤモヤする。


 

 やり場のない燻った苛立ちがグルグルと全身を駆け巡る。

 そんなネガティブ感情に容易く支配されてしまう自分が惨めで腹ただしく思えたとき、ウチは物理的に立ち上がり—————————。

  


「オッチャンのバッキャロォォォォォォッ! 全部ウチが解決してやらァァァァァァァァァ!」



 ————————————喝を入れた。


主に己と、遠くの城のオッチャンに。



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