幕間5 喧嘩するほど仲がよい?
①りこちゃん通常通りの対応をしようと試みるが、ふとした瞬間にどきどきしてしまって挙動不審後に逃亡→大神さん、何かしただろうかと凹む
②りこちゃん、大神さんを避ける時に同じ委員のモブ男くんを頻繁利用→大神さん、キレて確保し追い詰めることに
③大神の逆襲にりこちゃんビビりまくるが、反撃で大神にもダメージ判定。お前等爆発したらいいのに
・茂豊御くん:本名、山崎 しげとよご。あだ名、モブ男くん。キラキラネームも張り手で吹っ飛ばす位の古風が周回遅れで最先端を走るツッパリネーム。ツッパルことが男のたった一つの勲しょ…ゲフンゲフン。不良に走らなくて良かった…。国技館でお相撲を見るのが大好きな両親によって付けられた名前。両親共に当代横綱の茂豊御関の大ファン。なお、両親の馴れ初めは国技館でである。やったね! 両親から英才教育もとい横綱になれと付けられ、ちびっこ相撲などにも無理矢理出させられ、食トレまでして中々の強さではあったが、小学校の時に膝をケガして反抗期に突入。ケガはもう直ったが、相撲の話と茂豊御関がテレビに出て来ると拒絶反応として鳥肌が出るように。今でも両親は横綱の未来に若干憧れているが、息子の意志は尊重。現在は若干胃袋が大きくて体格が少し大きくてぽっちゃりファンには人気のほどよい抱き枕ぐらいな感じとなっている。あだ名は本人から広めた。本名を呼ぶと頭を抱える(重症)。根は真面目で両親に反抗している良心の呵責が、頼まれたら断れない性格に進化した。力持ちでやさしいので、モブ男くんはみんなから好かれている模様。
え? モブ男くんの説明にガチ過ぎ?みんな人生があるんだよ。モブなんて存在はいないんだよ。うん。勿論りこちゃん視点にもね~☆
んでは、以上の三つでお送りしまーす☆ではでは、どぞどぞ☆
①大丈夫、いつも通りいつも通り……、ひぃっ、む、無理じゃあああ
「りこ」
「なっ、なに?」
「いや、熱は大丈夫だったのか?」
とんっ…と机の上に手を置かれて近寄られるので、思わず仰け反る。
顔色観察の為だろうとはいえ近い、大神近いって…!
いつもの距離感が掴めずにうろうろと視線を泳がせてしまう。
大神は怪訝そうに凝視してくるので余計に冷や汗が滲む。心臓が全力疾走前の準備運動を始めていてヤバイ。
「ね、熱? ああー、うん、多分一過性のものだと思う」
「そうか。何なら帰りに家に来るか? 風邪薬程度なら市販のより強力なのがごろごろあるぞ」
「いいい、家!? い、いいッ。行かないっ」
「やけにいが多いな」
自分でもどもり過ぎな自覚はあるが、あれなのだ。大神が何かきらきらして見えるのである。昨日のまやかしじゃなかったのか。あれって漫画の嘘じゃなかったのか。
マジか、経験は別にしたくなかった。やめてくれ、勘弁して欲しい。薬局よりも眼科に行きたい。黄色い病院でもいい。
思わず内心で頭を抱える。
はやく治れぇぇと嫌いな神にまで本気で頼みそうになっていると、大神が一旦身体を離した。
つい、ほっと息を吐いてしまう。
しかし、それを目敏く見咎めた大神は不機嫌そうに喉を鳴らした。
「なぁ」
「こっ、今度は何さ」
「何か隠してねぇか?」
「そそそっ、そんな事なっ」
一旦引いて安心していたので完全に不意打ちである。
じっとりと半眼で見られれば、視線を合わせず空口笛でも吹くしかない。音なんか出ないがな!
わざとらしい程挙動不審なのは一目瞭然だが、私が頑固なのは知っているからだろう。口を割らせるのを諦めたのか大神は一つ溜め息を吐いた。
哀愁が篭もっている気がする。あと怒りが若干トッピングされている。結論。怖い。
違う意味で心臓をジョギングさせながら恐る恐る視線を上げて見上げると、大神は片眉を上げて髪を乱暴に掻き上げた。くしゃりとなった髪の下に、気の置けない苦笑が滲む。
いつもの声音がいつもの様に名を呼んで、細められた赤目が私を見た瞬間心臓が跳ねた。
「仕方ねぇなぁ。今は見逃してやるよ」
「ッぅ!? 大神の馬鹿野郎ッ」
「はあ?」
ガタン!と席から立ち上がり、全速力で逃亡する。勿論逃亡先は女子トイレである。敵の絶対来れぬセーフティゾーンに早く行かねば死ぬ! 何か分からないけど絶対死ぬ! 聖域よ我を守りたまへー!
ばたばたと慌ただしく立ち上がったと思ったら、いきなり真っ赤に憤慨しながら罵られて思わずぽかんとしてしまう大神。
普段から突拍子もないとはいえ、今回は心当たりが無くて珍しい程困惑中である。
しかし、その後も見事に避けられまくるようになったので、その後数週間は理由を考える苦悩と不機嫌の渦に突き落とされることになるとは思いも寄らないのだった。
トネコメ「大神兄さん、不憫である(おい)」
②てめぇ、覚悟は出来てんだろうなぁ?(怒
「おい、りこ、ちょっと話したいことが」
「モブ男くん! 委員会活動今からだったよね! 手伝うよっ」
「え、いや、う、うん?」
大神が話し掛けて来たのを遮る様に、同じ清掃委員のモブ男くんに話し掛ける。
大神からもの言いたげな不機嫌満載の視線が突き刺さるが努めて無視である。
モブ男くんはハラハラとどもっていたが、私が笑顔で早く頷いておくれよおらぁと圧力を掛けるとコクコクと頷いた。
持つべきものは同じ委員仲間である。
私が教室から逃げ出していると、その背中には最後まで大神の強い視線が鋭く刺さっていた。
何も言わずに失礼な態度を取っているのでとても申し訳なく思っている。思っているが、もう少しだけ時間が欲しい。これもひいてはお互いの為だしと自分に言い聞かせながら、私はモブ男くんと委員会の次の清掃場所の話をするのだった。
そのモブ男くんとの会話や様子を大神が仄暗い目で見ていたことも気付かずに。
そうして避け始めて数週間が経過した。
お花ちゃんや聖也くんやエリスちゃんだけでなく、教室のみんなまで「利根田、早く謝れ」とジェスチャーやら口頭やらで冷や汗を流しながら助言を始める程度には大神が魔王化した。
魔王化レベル?
とりあえず私と大神が破局したと思い、自分に自信がある強気美人女子三人が教室に来るとするじゃろ? 机を囲んできゃいのきゃいのするとするじゃろ? 一人がしなだれかかろうとするじゃろ?
その腕を乱暴に掴んで女子への対応とは思えぬ程捻り上げた後、絶対零度の視線と地獄の声音で「消えろ」と一言告げて顎で出口を指すレベルである。
怖えよっ。小学生より悪化して再臨とかやべぇよっ。
そして苛立った視線のままこっちを見ないでおくれよ! 死ぬ! 何かマジでヤられそう。
美人女子三人中二人を半泣きにさせ、一人を赤い顔にさせながら追い払って以降も一応連日お客さんは来た。私も最初は自分から距離を置いといて勝手な話だが、目の前であからさまに粉を掛けられまくってる大神に心が痛んだ部分もあった。
しかし、机の脚置き場…ほら、下に銀色の謎な棒があるじゃろ? あれをバキッと根本から折ったり、「で?」と段々返答さえ一言になったり、最終的には存在無視にまで対応が進化する大神に私の考えは変わった。
私が見ている範囲でこれなのだから、あの校舎裏会談場では予約者がひっきりなしなのだろう。効率重視で忙しい大神が苛立つのも分かるが、一般男子からしたら羨ましさの涎と涙で湖が出来る程だろうし、一応運命の相手も居るかもしれないのである。邪険にしないであげて欲しい。
あと、机を蹴り上げないから小学生の時よりマシってもんじゃない。悪化してるから。前より雰囲気が益々悪化してるからッ。
今では大神という魔王に挑戦する者は全員勇者にしか思えないので、心から尊敬と敬礼でもって見送っている。私なら絶対接敵したくない。サーチ&ランナウェイである。勇者達がトラウマにならないことを祈ろう。そしてあの魔王の眼光を遮る為にも絶賛、勇者は募集中である。
とはいえ主に多かった下級生と上級生を散々蹴散らし、やって来る者もめっきり減った教室にて居を構える魔王様。現在では極道のオーラまでトッピングされている。和洋折衷か。
あれ? どうしてこうなった?
最近では私に話し掛けずに、ひたすら強い視線が背中に飛んで来るのである。
刺さってる。刺さってまんがな大神さん。背中が流血沙汰でんがな大神さん。
何か黒いオーラとか絶対零度の空気が周りにありますがな大神さん。
現在進行形で別の意味でドキドキである。これが吊り橋効果の疑似体験なのか?突き落とされて何処かの川に翌日浮かんでる気がする。心臓がデンジャラスな意味でドッキドキだ。
居た堪れなさからついミサンガを弄る。
大神と話さなくなると自然とお花ちゃん達と話すことが多くなるのだが、先日、ついに聖也くんから「あれを何とかするまで来ないでね利根田さん?」と黒い笑顔で言われた。
うう、どうにか匿うのが友達ってもんじゃないのか聖也くんや…。
さっさと仲直りしろという発破と思うしかない。え?迷惑掛けてくるなよ?という意味じゃないよね?ね?
クラスの女子友達の輪にも入ろうとしたのだが、私の背後から来る大神の視線にびびって逃げられてしまった。うう、新手のいじめな気がする。
私もそりゃ大神と仲直りしたいとは思うのだが、絶対理由を問い詰められる気がする。というか奴なら恐喝レベルでやってくるに違いない。
そうするとなると、踏ん切りがまだ付いてない状態で鋭い大神にバレでもしたらと思い中々動けない。
そんなこんなで今日も今日とてピンチである。
はぁと憂いた吐息が出る。
そんな時、困ったなぁと弱りきっていると偶々教室に戻って来たばかりのモブ男くんを発見した。
見掛けてついパッと顔を輝かしてしまう。
頼られたら断れない男ナンバーワンのモブ男神様…!!
しかも帰ってきたばかりだからこの教室の空気を知らない…!!
よし! いける!!
足取り軽く立ち上がる。浮かれて近寄ろうとした私の近くで、聖也くんが呟いた気がした。
「あーあ、利根田さん。尻尾踏んじゃったね」
きょとんと聖也くんの方を向こうとした瞬間、私はがっしりと首根っこを掴まれていた。
こんなことする奴など一人である。
「ひいっ」
「来い」
ドスが効き過ぎた声音である。懐から短刀が出てきても私は驚かないぞ。
振り向きたくない。振り向きたくないけど後ろから凄まじい圧力を感じるううう。
「い、いやぁ…、今急用を思い出し…」
「あ?」
「ナンデモナイデス」
恐る恐るいやいやながら見上げれば、久方ぶりにいい笑顔の大神さんである。黒いが。漆黒も真っ青だが。目が欄々と剣呑過ぎて全然笑ってないが。
だれかー、いたいけな少女が恐喝されてますヨー…
震えて青褪めながら周囲に目をやるが、みんなさっと目を逸らしやがる。
お花ちゃんは心配そうで、聖也くんはいい笑顔で早く行けと言わんばかりで、エリスちゃんはやれやれといった顔だ。うう。お花ちゃんに迷惑掛けれないしとモブ男くんに目をやったところで、大神が私の耳元でみんなに聞こえる様に言った。
「呼びたけりゃ呼んでもいいぞ。保証はしねぇが」
光速で首を振るモブ男くん。あのモブ男くんでさえ目を逸らすだと…。
姫を助ける勇者はどこだ…? え? お前は姫顔じゃない? 勇者の博愛の精神はどこいった。
ああ勇者よ、死んでしまうとは……ごふっ
ドナドナと生贄の羊が連行されていく中で、目が合ったエリスちゃんが口パクで言っていた。
”痴話喧嘩はさっさと終わらせなさい”
エリスちゃんよ。この魔王降臨まで痴話喧嘩に含めるなら、日本は魔王と勇者で溢れ返っておるんじゃなかろうか。
泣く泣く口パクで意見するが、伝わらず小首を傾げられる。うっ、かわいいっ
という訳で、私は強制的に魔王討伐に駆り出されたのである。まる。
③誰かさんのせいで寝れてません
ガンという音が鳴る。
壁ドンという乙女がきゃっきゃうふふする生温いものではない。壁ガンである。ヤクザが壁を蹴飛ばすイメージである。腕じゃなくて足でガンとか、お前の足癖は最悪か!
冷や冷やしながら自分の身体の横に置かれた大神の長い足を見る。
通せんぼという言葉は可愛いが、完全にカツアゲ現場である。
誰かヘールプ!!
「弁明くらいは聞いてやるよ」
「い、いやぁ…、ちょっと時間欲しいことがあって…」
「へぇ…。俺と距離を置いて他の奴に乗り換えたいと?」
「いえいえいえ、滅相もございません」
ぷるぷると高速で首を振るが、大神の笑みは益々深まるばかりである。目が、目が笑ってないんや…。
自分の魅力を分かっている大神が、うっそりとわざとらしく小首を傾げた。
「じゃあ、俺が何かしたか?」
「そっ、のようなそうじゃないような…」
「あ?」
「ひいっ、短気は止めてくれって!」
圧力が怖いので若干涙目で両手をホールドアップすると、大神はようやく足を下ろした。うう、今の今まで壁ガン継続だったのである。こいつ怖すぎる。
屋上前の階段まで拉致された上でのこの対応。翌日変な薬で他殺体とか嫌だぞ…。
心なし壁に引っ付いて距離を開けていると、気付いた大神が半眼になった。両腕を組んで仁王立ちの様子は怖いが、話を聞く気になったらしい。
良かった…。何か今にも喉元を抉られそうな気がしてたんだよな…。
「じゃぁ今から聞くことに素直に答えろよ」
「何か尋問の様な…」
「自分の態度に悪気はあるか? 拒否権があるとでも?」
「サー、イエッサー!」
若干また魔王化が滲んだので快く敬礼しておく。魔王化で言うこと聞かせる男ってやーねぇ。あ、はい、冗談です。私が全面的に悪いです。
野生の勘でか睨まれたのでもう一度敬礼すると、半眼のまま観察していた大神は唇を開いた。
「まず、お前はモブ男のことをどう思ってる」
「へ?」
思わず予想と違う質問が来たので一瞬拍子抜けするが、嘘は許さんと言わんばかりに睨まれるのですぐさま回答した。
「えーっと、優しいよねぇ。清掃委員の時も重い水入りバケツ持ってくれるとか、さり気ない所が憎いと思うよ。それにあのふくよか具合は絶対触り心地がいいとおもっ」
「……ほぉ」
「思うって誰かが言ってた気がするなぁ…! うん! 大神も髪は触り心地がいいと思うよ! うん!」
「で?」
「で!?」
嘘を吐かず誠実な回答を心掛けた結果の威圧である。
一体どうすればよいのだ。
笑ってない目で続きを促される恐怖を大神も味わいやがれと思いつつ、とりあえず大神の良い所を述べていけばいいのかと続きを考える。
「えーっと、声も聴き心地がいいと思う。眠たくなるっていうか、着ボイスにしたら絶対売れるね! 後は体温高いから冬にはちょうどいいし、見た目もあったかそうだし。よっ、人間ホッカイロ! えーっと、後は怒ってても私の話を聞こうとしてくれる所は素直に凄いと思うし…」
「……」
「ちゃんと論文とか読んで勉強してるのは偉いと思うし、意地悪だけど困ってたら手助けしてくれるし。将来のことをちゃんと考えてるのは見倣わなきゃなんないなぁって人として尊敬する。夏バテってた時に気付いてお水買って来てくれたのは嬉しかったなぁ。あんた、興味無さそうなフリして意外と人をよく見てるもんね。翔馬も大神のこと憧れるってよく言ってるし、年下から好かれるのは器が大きいからだとおもっ――むぐぐ」
「そっちじゃ無かったっつーか、もういい」
じゃぁそっちって何だと口元を押さえてきた大神を見れば、片手で目元を覆って項垂れている。
「むぐぐぐぐ?」
「分からん」
「ぺっ! そりゃ手で押さえてたら分かるかーい」
ぺいっと大神の手を捨てれば、呆れた様に見られる。
顔色や雰囲気は元に戻っているが、どうやら照れた名残が耳先に残っていて思わず笑ってしまった。
「言っとくが、まだ許してねぇからな」
「そこは許そーぜ相棒」
「誤魔化せると思うなよ」
再び気を取り直した大神に渋々両手を挙げて質問を待ち構えていると、腕を組んだ大神は下唇を尖らせた。少年らしい拗ねた様子は珍しい。
「じゃあモブ男に惚れたとかはないんだな」
「ないってば! モブ男くんに失礼だよ!」
「そうなるのか?」
不思議そうな様子だが、モブ男くんも私なんかに好かれているとか迷惑な話であろう。
力強く頷いていると、大神が深くため息を吐いた。
「じゃあ、俺が何をしたか言ってくれ。理由が分からないんだ」
「それは……」
「他に好きな奴が出来たんだと思った」
ぽすっと私の右肩に大神の頭が置かれた。
肩が思わずピクリと震える。
ちらちらと赤色が視界の端に留まった。
肩に感じる重みと温かさ越しに天井を見て、そこで私はようやく気付いた。
弱った声音も態度も珍しく、だからこそ余計にぎゅうっと胸が苦しかった。
そうか、不安になるほど嫉妬されてたのか
それは自分にとってあまりにも縁遠く、青天の霹靂の様な言葉であった。
むず痒さと呆然さを持て余しながら虚空を見る。
誕生日の翌日から理由もなく避けられるわ、私からしたらモブ男くんは緊急避難先という神であったが、大神からしたら何処の馬の骨とも知れぬ奴に現を抜かすわ。
そう見えるのかと目から鱗の心地になる。
そして一瞬浮足立ってしまった心に気付いて、掻き消す様に苦笑した。
ああ、ほんと―――ごめん、大神
「大神、馬鹿だなぁ」
「りこには言われたくねぇ」
不満そうな唸り声が耳の横で聞こえたので、くすぐったくて思わず笑う。
躊躇っていた手は、自然と大神の頭をぽんぽんと叩いていた。
嫌がられるかと思いきや、大神は身動ぎせず受け入れている。
「大神が不安に思うことなんて全くないのに」
「お前がふらふらし過ぎるからだ」
「それは……ごめん?」
「何で疑問形なんだよ」
胡乱気にじっとりと見られるが、あははーと誤魔化す様に髪をぐしゃぐしゃにしておく。
結局されるがままに、またおでこを肩に戻すのだからく今日は甘えたい気分なのだろうか。
触り心地の良い髪をぐしゃぐしゃにしながら、申し訳なく思った。
大神の様な天が二物も三物も与えた者が、私なんかに固執して不安になるのは可笑しな話だ。
騙されている大神に罪悪感を覚える。
早く大神の番が現れればいいのにと願う。
辛いけれど、手遅れになる前の今ならばまだ、手を離し大神の幸せを手を叩いて祝福出来るから―――
だから、心の中で小さく謝罪した。
ごめん、あんたがヤキモチ妬いてくれたことを喜んじゃってごめん
この束の間の時間を惜しんでごめん
「で?」
「へ?」
ぼんやりとしていた時に、お隣から聞こえた声に思わず素っ頓狂な声が漏れる。
本日二度目の「で?」だ。そしてこちらも本日二度目の「へ?」だ。使い回し過ぎであろう。
横を見れば、半眼になった綺麗な赤色が私を見ていた。
ん? 若干眠そう?
「結局理由を聞いてねぇぞ」
「えー。もういいじゃん」
「んな訳ねぇだろ」
「あれだよ。女心と秋の空なんだよ。秋だし」
「理由になるか。毎年だとしたらミサンガより強力なのを贈るしかねぇな」
ミサンガを指先で撫でながら色気たっぷりに言われるので、思わず引き攣った笑いになる。
一体何を考えているのやら。ミサンガより強力だとしたら最早呪いレベルだろう
「聞かないでおくよ」
「遠慮すんなって」
「シテナイデス」
「また避けられたら嫌だしなぁ」
「もうしないってば!」
楽しそうに追い詰めて来るので、慌てて逃げる。
根っこに狩猟本能でもあるに違いない。エスっけ野郎め。
ひょいっと首を竦めて大神の腕から逃げていると、クツクツと喉奥で笑った声が階段の上から聞こえる。
とん、とんと慌てて段差を下りれば、見上げた大神は一つ欠伸をしていた。
片目がこちらを見下ろす。ニヤリと揶揄う様に口角が上がった。
「教室まで帰れるか? ふらふらと迷子になんなよ」
「バカにしおってからに! 大神こそ寝惚けてこけないようにね!」
この気の置けないやり取りをまた出来てお互い無意識に口角を上げながらも、一人はバタバタと、一人はゆったりと教室までの道を戻った。
二人してようやくこれで安眠できると思っていたのは、ここだけの内緒の話である。
何とか三年生までの下準備終わった感?(笑)
帰って来た大神兄さんがその後の授業を爆睡したことで、皆安心したそうです(ぇ
先生涙目(ぇ
クラスのみんなの安眠にも貢献しました。特によかったねモブ男くん!(ぇ
ちと年末年始までバタついているので、次回の更新は年明けになりそうですわ~*
早いですが、四月から始めて半年弱、お付き合いありがとうございます~*
残すは最終学年。最初はフラストレーション溜めていく方式なのでヤキモキされるかもですが、年明け後も完結まで彼等にお付き合い頂ければ幸いです~//
ではでは、今話もありでしたー☆




