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掌小話8 たちいち




「あついぃ」

「じゃあ帰るか?」

「いや、ここまで来たのに炎天下の中また戻る方がしんどい」

「なら諦めろ」

「うい」

 

 分かっていつつも愚痴りたくなるのだろう。夏休みの課題図書探しがてら、宿題もやろうかと真夏の中で自転車をこいで三十分かけてやってきた図書館。しかし肝心の図書館のエアコンがまさかの故障中だったのだから。


 確かに、ここ連日は記録的な猛暑だったからエアコンもお手上げになったのだろう。

 此処に来ずネットででも課題図書を注文すれば良かったのだが、妙に節約志向なのか最初から図書館で借りるしか選択肢がなかったりこ。二人で出掛けられると思い敢えて黙っていたのも悪かったのかもしれない。


 蒸し風呂の様な状態でばててしまっている様子を見ると、悪いなという気持ちが少し湧く。


 もうすこし近場で大きいところもあったのだが、そちらは他の学生も多くうるさいのが玉に瑕だ。故に空いてそうな小さな分館に来たことも裏目に出た形である。


 お陰で課題図書は借りれたのだが、一人暇そうに受付に座る女性もうちわを片手に暑そうなので、これは確かに常人にはしんどいだろうなと伺える。


「大神は全然汗かいてないけど、暑くないの?」

「少し暑い程度だな」

「なにその羨ましい適応能力」


 ぐったりとだらしなく机に伏せながら恨みがましい視線がとんでくるが、それさえもいつもの覇気がない。


 ぱたぱたと胸元のシャツで仰ぐりこからスッと目を逸らしつつ、自販機でも探すかと席を立った。

 額や首筋を汗が伝う気怠い色気が目に毒だし、何よりこれ以上は脱水症状の危険もある。

 

「何か探すの?」

「ああ。水買って来るからそこに居ろ」

「いいよ、別に自分で…」


 しんどそうに立とうとするので心配からつい乱暴に肩を押して座らせてしまう。何でも自分でやろうとするのはいつものこととはいえ、こんな時まで発揮しなくてもよいだろうに。


「偶には頼れ」


 しかし予想外の華奢な肩の感触に、動揺してすぐ手を離してしまった。不自然だったが、力加減を間違えたかと自分の方がヒヤリとする。

 だがどうやらりこは気にも留めなかったようで、逡巡するように数秒黙ったあと大人しく肩の力を抜いた。


「…じゃあ、頼もうかな。大神にはいつも助けてもらってるよ」

「それでいい」

「何それ。変なの」


 軽い笑い声が耳元を擽る。

 変だと笑われていようが、機嫌良く唇を綻ばす様子を見るのも、頼られるのもりこからなら心地良い。


 前までなら多少無理をしてでも自分で行っていただろうと考えると、少しは信頼されている実感が湧く。


 受付であおいでいた女性のあおぐ速度がばっさばっさと速くなる。


 図書館を出てうだるような暑い空気の中を、来た道を頭に思い返しながら自販機の場所まで少し足早に向かった。少し遠いが、確かにあったことは記憶している。


 冷えた水はきっと喜ばれるだろう。それを考えると、ちゃぷりと音を立てる水を腕に図書館へ戻る足取りがまた少し軽くなった。







 図書館の玄関口に立つりこらしき人影が遠目に見えて、思わずわざわざ出迎えで待っていたのだろうかという喜びが湧く。しかし同時に体調が悪いのだから中で休んでいて欲しいという心配からの苛立ちも。


 普段はこんなに心乱す者などいないのに、あいつこそ存在自体が変な奴である。


 それでも、喜びが勝って駆けようかと思った矢先、そのりこらしき人影に近付く一つの影があった。

 自転車をすぐ近くに止め、通り過ぎるかと思いきやそのまま立ち話に興じている。


 絡まれているのかと思い、残りの距離を一気に詰めた。


 しかし、顔どころか声まで拾える距離になって束の間足が止まる。


「健太、あんた結構伸びたね」

「おう。160あるぜ。まだ成長痛で痛いけど、これでも部じゃ小せぇ方だな」

「マジか。うう、私よりもチビだった癖に…」

「それ保育園の時の話だろっ」


 何故か、そこにはりこと親し気に話す健太の姿があった。恐らく帰省したのだろうが、図書館は家から離れた場所であるのに何故という怪訝が過ぎる。

 身長を比べ合って気安そうにじゃれ合う様子は、離れていた距離や日数など感じさせない仲に見えた。


 健太は不思議と片手にスーパーの袋を握っているが、大分重量がありそうなのに軽々と持っている様子だ。久しぶりに会ったが、野球部で変わらぬ髪型ながらも日に焼けて肩幅も広くなり、何より内面からの自信に満ちた顔つきが男らしさを増して見せている。


「それにしても、いつ帰ってたのさ」

「一昨日の夜だよ。驚かせようと帰った息子に一番目に言った言葉が『帰る前に連絡入れな! どいつもこいつも急に帰ってきちまってまぁ! 晩飯もう無くなってるよ!』だぜ?」

「あっはは! あんたのとこ大家族だもんねぇ!」

「そんな笑うなよ」


 ひでぇと言いつつ、満更でもなさそうに唇を尖らせる。

 対するりこはだいぶ汗を掻いていつつも、先ほどまでの気怠さなど消え失せ、会えた喜びが勝るのかとても朗らかで楽しそうだ。


 その様子に、思わず剣呑な眼差しになり歯を噛み締めた。


 普段なら、もう少し冷静に場や相手を観察出来る自信がある。今の自分と健太の立場や、状況、りこの性格も含めれば焦る必要はない筈だ。

 だが、頭で分かっていても不安が余裕を削る。


 りこには運命の番など無く、俺がいなければ今頃二人は反発しあいながらも気の置けない恋人にでもなっていたに違いない。自ら捨てたとはいえ、今では力もそう変わらぬだろう。


 誰か一人のものではないということは、誰にでも可能性があるということだ。俺の番でない位なら、否、本能に踊らされたのか分からぬ俺の番であるよりも”ベータでよかった”と言った言葉に嘘はない。それにりこが仮にも2年間は恋人という約束に頷いたのだから守らぬ訳がないとも分かる。


 だが両親を見ていれば本能うんめいは不可解な程に合理的で強引なものであるとは身に染みる程理解しているのだ。りこが外見や将来性で選ばぬ者とはいえ、突拍子もなくて変な行動力を持つからこそ安心出来ない。


 やっと念願叶って無理矢理でも傍に置けたと思ったのに、喜ぶのも束の間、自らの意思でなく強引だからこそ繋ぎ止めるのが期限付きの約束だけでしかなくて不安になるという矛盾。


 まだりことの勝負は始まったばかりで絶対に手中に収めると息巻いても、数学や化学の方程式の様に絶対などりこに通用しないからこそ、自信と不安は混在する。障害や妨害が更に多いほど、余裕が削られるのが自分でも分かる。


 ペットボトルに浮いた水滴が蒸発しきる前に、俺は止めていた足を無表情でりこ達の方へと向けた。


「それにしても暑っついよな」

「それね。私もまさか図書館のエアコンが壊れてるとは思わなくてさ」

「うわ、マジか。何か飲むか? 一本くらいバレねぇだろ」

「あー…、いや、多分もうすぐ大神が……」


 袋の中を探そうとする健太を遮って、周囲を見回したりこと目が合った。


 俺、というより水分を見付けて喜んで駆けて来るりこを見て安堵から強張りが少し抜ける。


「大神ありがと助かったぁ! もう干からびてミイラになるかと思ってた。外のがまだ涼しいし」

「二本買ってるから好きに飲め。あっちは…健太か?」

「そう! 一昨日帰ったんだってさ。坊主頭は今も続行中でやんの」

「うっせえ!」


 にししとからかう声と視線が届いたのか、健太が近付いて来る。身長は俺より低いとはいえ、ガタイの良さや動きから練習を手抜きせず行っている様子が伺える。


 がさりとスーパーの袋が音を立てたので、りこの視線がそちらに向いた。


「そういえばLIMEで言ってた届け物ってそれ?」

「そーだよ。うちのババアが体力余ってるだろうとか言ってこき使いやがって。奥の婆ちゃん家に漬物とか諸々差し入れのお使い」

「ぶっはは、あんた、めっちゃ使われてんじゃん!」


 水を飲めて大分回復したのか、お腹を抱えてりこが笑えば、健太はさっきから笑いすぎだろと憤慨する。だが、りこの子供染みたここまでの反応は俺じゃ引き出せない。

 まだ残る日射の影響か、それとも笑い過ぎた影響か、頬を赤らめながら目元の涙を拭うりこの様子を見て、自分用に買ったペットボトルがパキリと鳴いた。


「大神も相変わらず元気そうでよかったぜ。りこが大神のこと―――」

「下の名前で気安く呼ぶな」

「ちょ、大神何言って」


 我ながら冷静に俯瞰してみれば酷い対応だと考えつつ、止められる気がしないまま無表情で切り捨てるように言った。普段もすげない態度で付き合っていた関係であったが、辛辣さを滲ませたことはなかった。

 蜃気楼の様な暑さの中、此処だけ張りつめる様な緊張感が走る。


 慌てた様に間に入ったりこの片手を握って引っ張り、傍に寄せる。驚いて目を丸くし見上げる視線を横から感じながら、健太の目を見て牽制するように強く宣言した。


「付き合ってるから」

「なっ、大神、何でわざわざ今言うのさっ」

「隠しとくつもりだったのか?」


 鋭く視線と共に問えば、りこは一瞬息を飲みながらも、眉を寄せる。


「そう…いうつもりじゃないけど…。でも、今言う必要性を感じないでしょ」

「今言わねぇと言う機会がないだろ」


 まるで健太を庇おうとする様に見え、手首を掴んでいた手に力が入れば、りこが少し痛そうに顔をしかめた。ハッとしてすぐ手を離す。


 そのまま視線も逸らしてしまっていると、あまりにも愕然とした様子と言わんばかりの健太が目に入った。目も口も開き過ぎて硬直しているが、その視線は先ほどまで掴まれていたりこの手に向いている。


 暫く観察するもあまりにも動きがないので、りこが恐る恐る健太の前で手を振った。


「おおーい…? ……こいつはもう駄目だ、捨て置こう」

「けもの姫側が捨て置くなよ!! じゃなくて、マジか!? えっ、お前等いつからっっ。お、おれ、俺だってえええ」


 よろよろとよろめき、相変わらず分かりやすい健太は顔面蒼白の後で小さな声でロマンが…夢が…約束が…と呟いている。

 どういう約束をしたか気になるが、この涙目の様子から見るに単純な男が夢を抱きやすい約束だったに違いない。


「なりいきで最近だよ最近っ。先越されたとか思わなくてもいいからさっっ。ほら、あんた猿顔だけど絶対モテるようになると思う筈だと思う多分だからそんな泣かないでってば」

「傷口に塩だな」

「うおおおお」

「あんたがいきなり袈裟切りにした傷でしょうが!!」


 益々男泣きする健太に、泣きやまそうとおろおろとモテる!出来る男!多分前より恰好いい恐らく!と言って上げては落とすを繰り返す鬼りこ。


 そもそも好かれている自覚が無いのだから、好きな奴から絶対いい彼女が出来ると応援もとい塩対応の自覚もないようである。というか一人のけ者にされて落ち込んでると思い込んでいる節がある。


 まぁ、散々ブスだの可愛くない似合わない何だのと好きな女子への対応が小学生レベルだったのでお互い様だろうが。


 落ち込み過ぎて若干貝になってしまった健太から一旦離れて、りこが叱る様に下から俺を見た。


 健太の落ち込み具合に流石に悪い気もするが、謝罪する気はないので顔を背ける。


「なにそっぽ向いてんの。もう! 何で久々に会ったのに喧嘩吹っ掛けんのさ! あの野球少年(ばか)が入学早々モテる訳ないでしょーが!」

「ぐはっ」

「傷口にからしだな」

「あああ、健太ごめええん! あんたの魅力はここぞという時にブスだのぴょん吉女だの言わなけりゃぁ付き合いやすいイイ奴だから、スルメの様なタイプなんだって。馬鹿だけど愚直だしグラウンドの遠くからみりゃスタイルいいし、ええと、原始的で野性味のある顔立ちだし?」

「俺だって告白ぐらいされたことあるからっっ」


 褒めてるのか貶してるのか微妙な言葉に、健太が悲鳴の様に反論する。

 その言葉に、驚きと共に前のめりで健太に近付くりこ。

 好奇心に満ちた様子で顔を輝かせているので、健太は少し頬を紅潮させつつ一歩身を引いた。


「どんな彼女!?」

「断ったよ。俺だってまだよく知らなかったし、野球とか他に気になることが……」


 目を泳がせながらごにょごにょと口籠った後は俺を見る健太に、りこはもったいないと言わんばかりに呻いた。


「うう、千載一遇のチャンスが…」

「もっとあるわ!」

「じゃあ百載」

「十載!!」

「それはない」

「うっせえ!」


 喧々囂々とまた二人だけで今度は喧嘩してじゃれ合うのだから、りこに喧嘩がどうのと俺を止める権利はないと思う。

 だが、思えば小学校からの変わらぬやり取りに気が抜けるのも感じた。気を張っていたのは自分だけかもしれない。

 わざとらしくため息を吐き間に入れば、慣れたもので二人ともすぐ一歩離れる。


「二人とも落ち着け。健太も、さっきは悪かったな。元気そうで何よりだ」

「あー、まぁな。いいって。言いてぇことはそりゃあるけど…」


 そう言って小さく隣のりこに目を移すのだが、幸か不幸かペットボトルを開けていたようで気付かれなかったようである。

 りこが水を飲んでいるのを横目に確認し、何を思ったか健太は顔を少し寄せ小さく呟いた。


「何か珍しく余裕なさそうだったけどよ、嫌だったら今頃普通に断られてると思うぜ」

「何を…」


 思わずその日に焼けた顔を驚いて見ていると、健太はニヤリと悪童の様に顔を歪めた。


 そこでふと、よく突っかかってくるのは鬱陶しいし、りこは愚直な馬鹿だと言っていたが、昔から試合や大事な時には目敏い奴であったことを思い出した。勉強は得意ではないが、あのりこや腹黒そうなガリ勉バッテリーとつるんでいただけだけあって目端が効くし賢しい。

 何より、友人も多くチームのエースを務めたまとめ役がただのバカな訳がない。


 何を言うのかと警戒して顎を引いた瞬間、健太は態とらしく名を呼んだ。それはある意味引かないという宣戦布告でもある。


「おーい、りこ!」

「あいあい、何さ」

「メジャーの約束は健在だよな」


 何の約束か分からずりこを観察すれば、りこがきょとりと瞬きする。そして、本当に珍しく素の様な大人びた表情で顔を綻ばせた。


 普段は陽気なのに、どこか落ち着いた静謐な雰囲気が漂う。


 慈愛の滲む笑みに、どくりと心臓が掴まれた様に鳴った。視線が引き寄せられて逸らせないのに、りこは健太だけを柔らかく見る。その視界のどこにも俺の存在はない。


 グルグルと喉奥が鳴りそうになるのを食いしばって堪える。今すぐその表情を誰にも見せないように抱き寄せて、身体中噛み付いてしまいたくなる。煮え立つ様な暑さの中、独占欲と嫉妬で苦しい。真夏の直射日光のせいか、やけに頭が痛んで眩んだ。


「勿論」


 やわらかく頷いた後は、すぐにニヤリと先ほどまでの雰囲気を掻き消す様にその瞳が輝く。


「早くあんたのサインを売っぱらう為にも頑張ってよ」

「売るなよ!」

「まぁ気が向いたら? それよりも、そろそろ漬物が腐りそうだけど大丈夫?」

「やべっ。そろそろ行くわ!」


 ガチャガチャと錆び付いた音を立てながら、慌てて袋を自転車のかごに入れる健太。

 見送ろうと大振りに手を振るりこに小さく振り返しながら、あっという間にその背は角を曲がって消えてしまった。


 陽炎だけがコンクリートの上を残像の様に踊る。


「図書館に戻ろっかー。うわっ、頭触ったら火傷しそうっ」


 自分の頭を触って陽気にあちっ!!とおちゃらけるりこを無表情で見ながら、俺は逃がさぬ様にその手を捕らえた。 

 驚いた様にこちらを見る目が何度も瞬きし、じっとりと汗ばんだ手が逃げようと跳ねる。


「ええーっと、大神さん。暑いのですがどうかされましたか。何か怖いし…、もしや熱中症とか……」


 無表情で見下ろしていたら、諦めたのか恐る恐る下てに出られた。最初は驚いていたが、途中から心配そうな視線に変わる。


 自分の腹の底で、腹を空かせた獰猛な獣が“お前は一体誰のモノか教えてやれ”と蠢く。この無防備で弱い獲物を滅茶苦茶に押さえ付け組み敷いて囲い込んで―――


「やっぱわざわざ買いに行って疲れたんでしょっ。待ってこれまだ飲んでないからほら飲んでっ! とりあえず日陰で風通りいいとこ行こッ」

「っ、おい」

「荷物は責任持って取ってくるから、あそこのコンビニで休もう」


 暗い衝動が湧いていたその瞬間、先ほどまで無理矢理捕らえていた手が逆に力強く捕まえられ引っ張られる。そこには先程まで弱々しく怯えていた様子など欠けらも無い。


 前を歩きながら俺の顔を見て少し眉を顰め、渡された水で少し冷えたりこの手が躊躇いなく頬に触れた。鋭い爪もない指がゆるりと温度を確かめる。

 

「やっぱ頬が赤いし熱っぽいね。ごめん。せめて日陰で話すよう言うんだった。ミイラ救いをミイラにさせちゃあ世話ないね」

 

 場を和ませる様に苦笑するりこに、ようやく自身でも軽い脱水症状に陥っていたことを自覚する。失態からつい更に口を噤む俺を体調が悪いと勘違いしたのか、手を引く速さが少し速くなる。


「丈夫な大神でこれだし、健太も倒れてないといいけど」

「……そうだな」


 心配げな声音に低く答えていると、こちらを振り向かずにまた手を握る力が少し強くなる。

 俯きがちな視界では、左右に揺れる繋がれた手だけが確かだ。

 すこし思考が鈍りながら手を引かれて歩いていると、敢えて軽さを装った声が聞こえた。


「元気ない大神って何か変」

「そうか」

「まぁ健太は自転車ですぐだろうし大丈夫でしょ」

「そうだな」

「…、重症だね」

「かもな」


 健太の話ばかりするりこに、ぶっきらぼうに返答をしているとじりじりとコンクリートの熱気が足元から昇った。

 あと数歩まで近づいたコンビ二の前で、先導して手を引いていたりこが確認する様に振り向く。そうして俺を見ながら何故か困った様に笑った。


「なんかさ、あんたが弱ってると落ち着かないんだよね。だから、早く元気になってよ」

「…ああ」

「あんたさ、意外と危なっかしいし無茶するし」

「それはお前の方だろ」


 心外だと片眉を上げて抗議すれば、りこはやれやれと言わんばかりに首を振った。


「ほら、家でも路地裏でも教室でもよくぶっ倒れてるじゃん。我が気絶回数とタメを張れるよ」

「あれは無しだろ」

「無しの割には回数が多いけどね。まぁ、その調子」


 にやりと他意なく笑いつつ、りこは荷物を取ってくると忙しなく踵を返す。先ほどまであった感触をぬるい空気が撫でる。

 少しして掴まれていた方の拳を軽く握りながら視線を上げれば、既にその背は遠い。

 

 健太は県外にて夢を追い、俺は今近くに居る。恋人だと牽制した時に確かに一瞬見せた悔しさを滲ませようとも、今こうして一番傍に居て心配されるのは俺だというのはささやか過ぎる優越感だ。構われることに喜ぶなどそれこそ犬染みている。

 しかし、蓋を開ければ健太と同じ、恋人や従順な飼い犬どころか手の掛かる毛色の変わった問題児の一人に違いない。


 それでも―――



「まずは眼中に入ることからか? 遠いな」


 

 いつかその首筋に望まれて歯を立ててやると小さく鼻を鳴らしてその背を睨む。


 逃がす気はないのだから、首を洗って待ってやがれと挨拶代わりに牙を見せた。













りこ「へっくしょーーんっ! これはもしやッ」

トネコメ「…!(まさか気付いたかっ)」

りこ「おのれブタクサめぇっ、何処に生えてやがる!?」

トネコメ「…。(次話、這い寄るブタクサにでもするかな)」

りこ「何か殺気を感じるッ」

\\優秀かポンコツか不明なセンサー搭載//




 それにしても難産だったぁぁ。地味に難産だったぁぁぁ。

 健太のやつ、シリアス一触即発パターンも書いてはみてたんですが、悩んでチキったぁぁ(笑)若干健太にコメディを任せた気もする(笑)


 何処かで入れたかったけど入れられなくて泣く泣く削った言葉

りこ「もういっそ万載にしよ」

健太「してたまるか!!」

大神「漫才はもう落ち着け」


 一応後はエリスちゃんのお話で9予定で、10はなしでもいいんですけど、筆が載乗ればゲーセンでおじクマゲットの時の様子でも書こうかなぁと思ってます~

 この10と、2年生はニヨニヨメインだよ~。でも三年生のラスボスがかなりエグイ強敵にしちゃったんで、今からトネリコもびびってます(ぇ ガチで5万字いきそ…(ぇ


 ではでは次回もよろしくでさ~。のんびり待ってね~☆ 

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