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掌小話4 よんで

 

 

 

 

 

「お花ちゃんと話してたらね」

「ああ」

「なんとそこで聖也くんが現れて―――」


 いつかの様にりこが大振りで話しているのを聞いて、ピクリと耳が反応した。

 今までさして気にしていなかったが、気付いてしまえば欲が出る。


 りこの机の前の椅子を陣取って窓際の壁にもたれ、資料にやっていた目をりこに向けた。

 目の前で爪を研いでいるのに、本人は呑気にクライマックスを喋っている。


「そしたら聖也くんが跪いて―――」

「手でも取ったか?」

「そう! って、先に正解言わないでよ~」

「あいつらとお前の言いそうなこと位分かる」


 資料をしまいながら言えば、不満げに机に突っ伏していたりこが急にバッと起き上がって手を後ろに隠した。全身が毛を逆立てた猫の様に警戒している。

 何を勘違いしたのか、可愛らしい威嚇だ。


「あんたのやりそうなことも大体分かるよ」

「へぇ。期待されてるなら応えてやりてぇが、残念ながらはずれだぞ」

「本当?」


 ああ、と頷けば、そっかと不承不承で元の態勢に戻る。目はまだ少し警戒しつつも、素直に相手の意見を信じるのだからつめの甘い猫だ。

 思わずくつくつと喉を震わせて笑いながら、りこの机に片肘を付いた。


 じっと見れば、何だと視線が問うている。

 なので逃がさぬ様にその目を見ながら、楽し気に口を開いた。


「名前、俺も下で呼べよ」

「……は、はぁ!? な、あんた何で毎度突飛な」

「俺だけ仲間外れはないだろう?」

「そ、それとこれとは違う気が。というか長年これでいってたし今更変えなくても」


 しどろもどろで反論するりこの目はかなり泳いでいて俺を見れてない。

 でも、逆に意識しているのが丸分かりで不愉快の真逆になる。なるほど、獲物を甚振るのは合理的でないと思っていたが、こういうことか。


 無理だと叫ぶりこに、笑いを噛み殺しながら態と低い声で落ち込んでみせる。 


 最近気付いたこのフリはかなり効果的だ。お優しいりこは仲間外れだと言えば大抵断れない。


「忘れたか?」

「わ、忘れてはない! けど……」

「大牙だ」


 態とゆっくりともう一度名前を繰り返せば、「たっ」だけ言ってみるみる真っ赤に熟れて硬直する。身動きどころか息さえ止まっているようで、もしかしたら窒息前かもしれない。くつくつと喉が鳴る。


 ああ、本当に噛んでやりたい


 この欲求は嗜虐心とかみ一重か。


「大神! また別の時にでもいいでしょ! ちょっと手洗いでも行っ」

「逃げるなよ、りこ」


 席を立って逃げようとする手を反射的に追うが、触れる寸前ピクリと止まってしまった。あまり追い詰め過ぎても警戒されて本当に逃げられるかと少し臆病になる。躊躇って触れずに引いた手は、結局は不安の表れだ。


 まぁ変な所は大胆なのに、こういう事は恥ずかしがるりこが今日だけで呼べる訳ないだろう。今は意識させただけで良い


 誤魔化す様にそう考え、自然を装い落ちた物を拾う。


「…落としたぞ」


 だが、フリでもなく感情が表れるとは自分でも女々しい話だ。


 欲ごと空気を誤魔化す様に、にやりとからかった顔で態と挑発的に笑う。しかし、送り出そうとした筈が何故かりこは手の平の落とし物を掴んだまま俯いて動かなかった。


 席から訝し気に立ったままで動かぬりこを見ていたのだが、何を思ったかりこは急に辺りを見回す。きょろきょろと必死に周囲を見回す様子は突然で、つい目を瞬く。


 そうして幾度も確認してようやく満足したのか、奪い取る様に落とし物を手に取ると、真っ赤な顔で怒った風に睨み付けられた。


 はくはくと二度小さく口が動いたあと、諦めた様に手で目を隠しながら一つ小さく息を吸う。

 

「た、たいが………」


 掠れた様な微かな声が聞こえた。

 驚いてぽかんと自分の耳を疑ってりこを見上げていたら、指の隙間から目が合う。すると小さく息を呑んだ後、みるみる目が見開いていった。


「ッゥ! もう今日はこれでいいでしょ! 無理! 行く!!!」


 思わずもっと見たいと食い入る様に視線を注いだのに、すぐに顔を背けて隠されてしまう。


 そうしてどこか泣き言の様に宣言した後は、一瞬で身を翻してドタバタと慌ただしく教室を出て行ってしまった。


 「なんだこれなんだこれなんだこれ、若過ぎて私には無理だなんだこれええ」という尾を引く様な涙声の叫びと共に、廊下の奥から「ふぎゃ!」という転んだ音と悲鳴が聞こえる。


 ようやく自分の耳が正常だと理解した瞬間、思わず自分の片腕で顔を隠し、天を仰いで呻いてしまった。


「何だそれ、お前こそ反則だろ」


 不意打ちを食らって呻いた自分の顔もりこに負けず劣らずだと分かっていたので、悔し紛れの悪態は我ながら子猫以下だったろう。くそっ

 








 

 

 


 たまたま教室に戻ってきてりこちゃんと入れ違った聖也くん。色々状況を察したひと言


「ねえ、小学生でも今時もっと進んでるよ」

「うるせぇ」

「見てる僕の方がこっぱずかしいんだけど。もう少し年齢上げてくれる?」


 よっぽど聖也くんの方が気障なことをしてるのですが、呆れてむしろ恥ずかしくなるレベルだそうです。2人には始まりのまちで冒険と経験を積んでレベ上げさせときましょう。多分野宿とか初めての戦闘とかの(萌え)イベで上がる仕様です、うん。


 現場からの中継は以上でした~☆


 次話予約「ぎゅう」14日18時〜☆

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