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掌小話2 かさ

 

 連想で書いたので、また別の日の雨模様です~

 

 


 




「傘ないや」

「入れよ」

「え。見られるの恥ずかしいから止むの待つよ」

「深夜までか?」

「げ、マジ?」


 慌てて携帯を確認するりこを前に、流石に不貞腐れる。普通の女達なら喜ぶだろうし、普通の彼氏彼女であったら二人で帰るだろう。

 付き合っていることを否定しないとはいえ、目立たなくを心掛ける様子は正直面白くはない。


 携帯を確認したりこは、肩を落としてがっくり項垂れている。


 その様子に、思わず強張った声が出た。無意識に出る不機嫌な唸りは、脅しなど本意でないので止めようとするも、咄嗟に出てしまう。聖也たちよりも濃い血は、先祖返りに近いとの両親の見立てだ。濃過ぎる血など邪魔でしかないものを。


「そんなに嫌か」


 途端、俺の顔を見たりこが目を瞠った。嫌われている訳ではないと感じ、少し落ち着く。


「いや、愚問だな。俺は走れば速いからこれ使って帰れ」


 分かってはいる。俺は周囲に見せつけて牽制したいが、りこにとっては惚れてではなく仕方なしで付き合ってるようなものだ。


 だがそれでも欲しいと決めたのは俺だし、最後にこの腕の中に居ればいい。歯がゆいが、これが現状ならば今は受け入れるしかないだろう。

 

 黒い傘を差し出すのだが、りこは何故か顔を顰めてゆるく頭を振った。うわぁ、自己嫌悪やばいと髪をくしゃりとさせながら小さな声で呻いている。前よりも聞こえにくくなったとはいえ、アルファを前にこの距離で小声とは迂闊だ。それとも、油断する程度には気安いのか


「ごめん。傷付けるつもりじゃなかったけど、自分のことしか考えずに言った。あんたの傘なのに借りれるわけないじゃん」

「別にこれぐらいじゃ風邪引かねえしな」

「そういうなら私もあんたの時以外無敗よ」

「まだ覚えてんのか」

「そりゃ勿論」


 呆れた風に言えば、ふふんとりこが胸を張る。そうして先ほどまでの空気を拭う様にりこが俺の傘を手から取った。パンと乾いた音がして、雨の下に大きめの蝙蝠傘が開く。ぱらぱらと水を弾く音がする。


「そうと決まったらさっさと帰ろっか」

「…いいのか? 気になんだろ」

「あんたの傘を奪って濡らして帰す鬼畜女称号よりマシよ。風邪を心配する方が嫌だ」


 わざとらしく片方を空けて、ゆるりと傘を回しながらりこが振り向いた。にやりと悪戯気に笑う。現金なもので、はやくはやくと瞳と口が急かす。

 無自覚の癖に、憎らしい程手の平で転がすのが上手い女だ。でも、本人は自分勝手を通したとでもまた思っているのだろう。仕方なしにそのかってに乗ってやる。


 一息でその隣に佇むと、掴んでいた黒い傘を奪った。動きが見えなかったのか、驚いた風に見上げる目は猫の様だ。その様子が愉快でまたくつくつと笑う。


「我儘だな」

「その神出鬼没具合やめてよ」

「いつものことだろ」

「傍若無人め」


 鼻を鳴らして笑えば、いつもの様に憤慨しているのに今日は左肩が触れ合ったまま離れない。

 それだけでつい機嫌良く喉が鳴った。俺も大概現金なものだ。


 ぱらぱらと音が鳴る。


 雨は周囲の雑音や臭いが紛れるから嫌いでなかったが、いつもよりも近い声や体温は雨の気怠ささえ心地よさに変える。

 

 不意に視線を感じてそちらに目をやると、目を丸くする女子がいた。

 しぃと口元に指を当て、隠す様に傘を少し傾ける。


「ちょ、あんたが濡れるから真っ直ぐにしなって」

「変わんねぇだろ」

「んじゃ真っ直ぐでもいいでしょ」


 折角傾けたのに、すぐ強引に戻す様子は普通の女子じゃねぇと思う。素直に受け取ればいいのに、ああ言えばこう言って好意は全て受け流そうとする。普通に見れば可愛げのない行為の筈が、子猫の引っ掻きにしか思えないのは俺の目もよっぽど曇っているのか


 仕方なさを装って、細い首に掛かった髪を掬って耳元へと顔を寄せた。ふわりと雨と汗交じりのりこの匂いがする。


「ちょ」

「生徒が見てるから大人しくしてろ」

「なっ」


 耐性がないからか途端に頬が赤くなって睨まれるが、周囲を気にしてかすぐ顔が伏せられる。

 いつもなら反射的に押し出す手が、雨を思ってか頼りなく触れて離れた。


「くそう、もう濡れてもいいから走って帰ってやる」

「あと五分だから我慢しろって」


 所在なさげに歩くりこの方に傘を傾けるが、今度は胡乱に見られはするも戻されない。それに気を良くしてくつくつと笑えば、益々不貞腐れた様に顔を背けられる。からかいたくなる様子は愛らしい。


 ぱらぱらと雨音が沈黙を満たす。

 心地のよい無言で歩けば、思ったよりも早く玄関口が見えてしまった。残念に思ってか、自然と歩幅が小さくなる。


 不意に顔を背けて歩いていたりこが、ちろりと俺を見上げた。しかしすぐまた家へとじっと視線を注ぐ。


「傘、ありがと」


 雨音に溶けそうな声をアルファの耳が拾った。


 なるほど、普段は見せつけたいがこの顔は誰にも見せたくはねぇなと、周囲の世界から隔離する様に傾きをそっと深めてしまった。










 



 




 みんな糖分補給できてるー? もっとがいいのか、謎だ(おい

 うむー、二、三日に一回ペースで掌小話いきますね~。むう、18時くらいに予約予定でさ~。今の所あと六つ位小ネタイトルがあるよ~(笑)お花ちゃんと聖也くん視点も入れてあげたくて


 ちなみに付き合って早々大神がさらっと「付き合いだしたから」と聖也くんたちに言って、それを聞いてた教室から激震と共に一気に多学年まで広まったので、バレてはいるんすけど堂々といちゃいちゃをりこちゃんが許容するかは別という(てへぺろ

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