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掌小話1 かみ

 

 


 

 

「そしたらお母さんがね―――」

「ああ」

「その時なんと翔馬の後ろに―――」


 りこは臨場感を伝えようと思うのか、いつも話していると身振り手振りが大きくなる。下手な相槌でも満足なのか、普段の少し垂れた目はこの時だと爛々と楽し気に大きくなりやすい。


 肩に掛かる程度の髪は、性格を表すみたいに所々跳ねており、今も身体の動きに合わせて元気に動いていた。本人はよく「鳥の巣頭になるから細い髪質やだ。あと禿げそう。剛毛になりたい」と嘆いているが、窓際からの風で流れる髪は柔らかそうである。


 指をうずめて、梳いてみたい


 ごわつくのだろうか、それとも柔らかいのだろうか。触り心地を確かめてみたいという欲求のままに、つい跳ねる髪へと視線がゆく。

 俺の視線が髪にいってると気付いたのか、ふと途中で話を止めたりこは指で毛先を摘まんだ。

 唇を尖らせながら、視線は跳ねるこげ茶の毛先でなく窓から空を辿っている。


「はぁ。あんだけ快晴だったからまさか午後から雨とは思わなかったよ。お陰様で既に爆発の前兆が出てる気がする」

「そうか?」

「そうだよ! うう、細い癖になんでこんな頑固なんだ。お母さんとお父さんよりも酷い気がする。一体誰に似たんだ」


 机に突っ伏すりこに、「多分お前に似たんだろう」と言おうとして飲み込む。危ない、下から幽霊もかくやの恨めしい視線が来ている。


 ざーざーとグラウンドを巨大な水たまりに変える雨は、まだ当分止みそうにない。


「大神みたいな剛毛が良かった。羨ましい。交換しよう」

「毟んなよ? ったく、俺はその髪もいいと思うけど」

「大神は舞台裏で行われる夜ごとのケアと毎朝の真剣試合ていれを知らないからそう言えるんだよ! うわーん、お花ちゃんみたいなゆるふわマーメイド髪になりたいい」


 またも机の上の両腕に突っ伏して雨雲の様に嘆くものだから、心なしりこの髪もさっきより湿気って落ち込んで見える。

 

 少し迷ったあと、俺は目の前へと自ら差し出された餌を大人しく頂くことにした。

 頭に触れる直前でまた躊躇うも、好奇心に負け恐る恐る掌を頭に乗せて指を絡める。


 一瞬ぴくりとしたりこは身動ぎして頭を上げようとしたので、被せる様に平然とした声を装った。


「思ったよりごわごわしてねぇんだな」

「……失敬な! 湿気っていても細いからこそ鳥の巣もどきよ!」

「ああ、確かにいい触り心地だ」

「ッ」


 自然と機嫌良く喉が鳴る。実験で使ったコットンをバラして丸めたらこの感触だろうか。

 感嘆とも、喜色とも取れる素直な感想を述べた途端、バッと逃げられ指先から全て零れてしまった。


 残念に思い未練がましく目で追う。「いたっ」と聞こえた声からするに、どうやら離す際に絡まって強引に抜いてしまったようだ。

 髪から覗く丸い耳は真っ赤だが、確認せずとも頭を片手で押さえながらこちらを涙目で睨むりこの頬は赤い。


「きゅ、急に髪に触るのはナシ!」

「褒めたのに?」

「色々痛いんだよ!」


 思わず笑うと、恨みがましい視線と共に「禿げてしまえ禿げ散らかしてしまえ」との呪いが飛んでくる。でもそう言っているりこの頬はまだ赤みを帯びたままなので、つい舌舐めずりしそうになった。


 あの頬を噛んだら美味いだろうに


 触り心地の良い髪も、美味そうな頬も、懐かない猫が毛繕いさせてくれるようにいつか許可してくれればいい。呑気に構えていたら逃げられると分かっていつつも、強引にいっても逃げられるだろう。

 難しい話だが、惚れた弱味でそれさえも価値でしかない。


 はやく欲しいと目の前で揺れる餌を前に何度も焦らされる。許してくれたのなら、その時は大事に大事に御馳走を全て平らげてやるのにと。


「急にじゃないならいいってことだな」

「揚げ足とんな馬鹿!」

「馬鹿の逆だろ?」

「くっそ後で毟ってやる」


 今度は憤慨で頬を熟れさすりこを見て、今は空かせた腹を隠して獣はにやりと笑うのだった。






 





 

 議長は言いました「パンもお菓子も食べたいだと? 甘えるな。ハニートーストを食べろ」


 はい、というわけで「りこちゃん以外の視点」で「掌小話」を幾つかあげますね~☆ふはは、一挙両得よ!負担は増えるが←ぇ

 高校二年生はりこちゃん視点予定なので、小話は短い日常ほのぼの予定ですね~。りこちゃん慣れてるけど、外部から見たら一目瞭然のデレ対応(目を逸らし


 んー、もう少し書いてみて短い代わりにストックためれそうなら予約しますね~。小ネタだけはあったんだよなぁ(笑)

 

 メインイベ前に読者増えますように!(笑) ではではトネリコ


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