前書き
これは出張風俗で働く恵美さん(仮名・24歳)から聞いた話をまとめたものだ。
客に呼ばれて出張し、性的なサービスを提供する――いわゆるデリヘル嬢というやつである。
店を頻繁に変えながら、渡り鳥のような生活をしているらしい。
彼女と知り合ったのはとある繁華街のバーだった。
雑居ビルの地下にある、年配の女性マスターが切り盛りするこじんまりとした店で、女一人でもふらりと立ち寄りやすい。
カクテルの名前を思い出せない彼女に代わってオーダーをしてあげたところ、それがきっかけで意気投合し、これから紹介する不思議な話の数々を聞くことになったわけだ。
「すごい話ばっかりだね。本にしたら売れそう」
「えー、じゃあ〇〇ちゃん書いてよ。私、文才とかないから」
そんな軽口がきっかけで、こうして筆を執ることになった。
もしもこれが書籍となったら、原案者として印税の半分を渡す約束を冗談めかして交わした。
「売れる予感とかしないの?」と私が聞くと、
「私、霊感ないもん。占いみたいなことなんてできないよ」と笑う。
「タイトルはどうする?」
「うーん、デリヘル怪談? あはは、安直すぎるかな」
彼女に霊感がないとはとても信じられない私は、彼女の直感に従ってこれを『デリヘル怪談』として発表することにした。
なお、筆者である私の一人称も、恵美さんの一人称も「私」である。
わかりやすさを優先し、手を加えようかとも思ったのだが、ここは実際に即した方が彼女の語り口を活かせるような気がして、そのままとすることにした。
本文中で「私」が登場するときは、筆者ではなく恵美さんを指していると考えていただきたい。
なお、これは小説という体裁を取っているが、聞いた事実そのものに脚色は加えていない。あくまで読みやすくするための工夫だ。(私が聞いた時点で誇張があったかもしれないが、信憑性が薄い話はなるべく弾いたつもりだ。とくに恵美さんの直接の体験ではなく、恵美さんの客や友人から聞いたものはいかにもな作り話というものもあり、それらは除外している)
また、本文中に登場する人物や地名はすべて仮名とし、ちょっとやそっとでは個人が特定できないようにしている。本人の目に届くことがあれば、「これは自分だ」とさすがに気づいてしまうとは思うが、自ら告白でもしない限りは他人にバレることはないだろう。
前置きが少し長くなってしまった。
では、そろそろ本題を始めよう。
令和6年11月29日
【お知らせ】(※令和6年12月22日追記)
本作執筆中に原案者である▓▓恵美さんと連絡が取れなくなってしまいました。お心あたりの方は情報をお寄せいただけますと幸いです。業種の関係上、お名前を明かすことに抵抗がある方も多いと思われるので、情報提供にあたっての連絡は匿名で支障ありません。
「▓▓恵美」は彼女が名乗った名前ですが、おそらく源氏名です。本名は異なると思われる点にご注意願います。
また、作中に私が気が付かなかった手がかりが隠れているかもしれません。直接の情報をお持ちでなくとも、お気づきの点がありましたらぜひご指摘ください。
なお、原稿はほぼ最終話まで書き終えていますので、更新はこのまま継続します。引き続き本作をよろしくお願いします。




