File.21 孤独爪
ドアノブにロープかけて首でブランコ
(地震? )
走る中で感じた微かな揺れ。
でも勘違いかもしれない。
今は速く、この研究所から出ないといけな
「うぉ!? ナニこの揺れ!!? 咲も感じた!? 」
「……勘違いじゃないのね 」
「おう! あっ、ここ左で出口な!! 」
先導してくれる歩と一緒に通路を曲がると、やけに明るい空間が見えた。
というかよく道を覚えているわね。
「はいゴール……あっ? 」
(えっ? )
部屋に出た。
そしたら言葉を見失ってしまった。
そこに広がるのは人の血、焼け焦げた跡、壁に突き刺さった鉄パイプ。
まるで兵器を持ったバケモノが暴れ回ったような部屋の中に、腹に穴を開けた彩音が居た。
「っ!! 」
私より速く、歩が駆けつける。
そして首を強引に掴んだ。
「……傷を治せ!! 急げ!!! あと人工呼吸!! 心マは俺がやる!!!! 」
「っ! 分かった!! 」
その焦りようでどれだけ緊急事態かを理解した。
すぐに傷を治し、気道を確保。
鼻を塞いで人工呼吸を始める。
「死ぬな! 死ぬな!! 死ぬな!!! 」
仲間が死ぬ。
だから何度も何度も人工呼吸をする。
なのに意識が戻らない。
「ふざけんな!! お前の人生始まったばっかだろうが!!! 何死んでやがる!!! さっさと帰ってこい!!!! 」
耳をヒビ割るような叫び声。
心臓マッサージでアバラの折れる音。
でも……彩音は起きない。
「咲!! お前AEDとか出せねぇのか!? 」
「意味が無いの!! ふぅぅ……はっ、完全に心臓が止まってるなら!!! すぅっ!! ふぅぅぅ 」
「そーだよなぁ! 心室細動止めるだけだもんなぁAEDって!!! じゃあアドレナリンとか……なんでもいいから薬出せ!!! 」
「だから心臓が止まってたら意味が」
「……なんとかならねぇのかよ 」
顔を上げると、歩の顔が見えた。
子供みたいに目を赤くして泣く、歩が。
その姿に一瞬だけ困惑してしまった。
でも、頭は冷静に回った。
「……ならない。というか心臓が停止してもう何分経ってるの? 今戻ったとしても、後遺症で苦しむ羽目になる…………だから」
「殺してやれって!? 納得いくかそんなの!!! 」
私よりも取り乱す歩は心臓マッサージを続ける。
でも……いや、今度は見捨てたくない。
まだ可能性はある。
今度は、今度こそは、目の前の命を救いたい。
「すぅぅぅ 」
思いっきり息を吸い、人工呼吸を続ける。
続ける。
続ける。
続ける。
続ける。
戻らない。
意識が。
心拍が。
戻らない。
「クソが! 起きろ!! さっさと帰ってこいやクソが!!! 」
歩の頬から汗が落ちる。
当然だ。
心臓マッサージはキツいから。
私も少し、酸欠でフラフラする。
(今……何分経った? )
蘇生できる確率は、時間とともに減っていく。
心臓停止から5分なら、蘇生できる確率は25%以下と聞いた。
8分過ぎてからの蘇生は聞いた事がない。
私の体感では、8分はとっくに過ぎている。
「……歩。もう 」
「あぁキツイのか!? じゃああれ使えアンビュー!! 手でシュコシュコ押して呼吸助けるヤツな!! つーか最初から使えって話だよなアハハハ!!! 」
「歩 」
「まだだまだだ、まだ生きられる。まだ!! 」
「……… 」
もうヤケになってる歩の肩に、そっと手を置く。
「もう……助からない 」
「まだ分かんねぇだろ!? つーか……ほら! お前の能力でなんとか出来ないか? 」
「私は治癒しかできない。止まった心臓は……動かせないの 」
「いやいやいやいや、まだ大丈夫だって。なっ? 」
聞き分けの悪い子供みたいに、歩は首を振る。
もう……好きにやらせよう。
歩が満足するまで。
彩音の死を、受け入れるまで。
『逕溘″縺ヲ 』
そう思った瞬間、背後から声がした。
「っ!? 」
振り向く。
そこには……両腕に蛇をまきつける、人型の怪異が居た。
顔は有刺鉄線が巻かれているせいで見えない。
(怪異!? いつの間に)
「お前……なんで? 」
とっさにメスを出そうとする。
でも歩は焦っていなかった。
『讌ス蝨偵↓縺ッ騾溘> 』
「…………そうかよ。悪いな 」
まるで怪異と会話するように、歩は彩音のそばを離れた。
『縺倥c縺ゅ? 』
怪異から溢れた黒い炎。
それが彩音を焼き、包み、怪異だけが燃え尽きた。
「ゲホッ……あれ? 咲? 」
「……彩音? 」
「えっ、そうですけど? というかなんで歩さん胸触ってるんですか!!? 」
「あっ、わりぃ 」
「えっイッタ!? なんか胸が痛いんですけど!!? なんですか恋ですか!? 」
「いや……アバラが折れてるだけよ 」
起きて早々に騒ぐ彩音。
でも今は……
「生きてて良かったわ 」
彩音を抱きしめる。
胸に感じる心拍……それを感じる度に安心してしまう。
「あぁ私……死にかけてたんですね 」
「というか死んでたぞ、お前 」
「えっ、そうなんですか? あんまり自覚ないですね 」
「そりゃあなぁ 」
「まぁ……えっと、ありがとうございます。咲、歩さん。あっ! というか人工呼吸って誰がしたんですか!? 」
「残念ながら私よ。それにお礼なら歩に言って。私は……何度も諦めちゃったから 」
「お礼なら……戦ってたアイツに言え。アイツがお前の死を拒絶したんだ 」
「拒絶……そうですね 」
彩音は悲しむように目を細めた。
「ん? 何かあった」
「あっ! つーか速く出るぞ!! 真城が死ぬ!!! 」
「えっ、真城も来てるの? 」
「あぁ! でも最初に別れて何してるか分からん!! 」
「じゃあ……マズイわね。さっさと出るわよ!! 」
彩音の骨を治し、すぐに出口に向けて走る。
「えっ? えっ!? 何がマズイんですか!!? 」
「そういえば彩音は知らないのよね! でも今は走る!! 」
「俺も知らねぇぞ!! 」
「歩はいいから走る!! 」
「前もこんな事あったな〜!! 」
「あれ!? 今……名前で 」
「今はいいから!! 」
いつの間にか泣き止んでる歩。
生きてる彩音。
そんな二人の仲間と一緒に、地上に脱出した。
♢
『咲脱出の10分前 』
「遺棄爪 」
刀を地面に刺し、
「"鳥葬”!! 」
増殖させた刃を地面から放つ。
空間全土の攻撃。
だがフードを被る敵三人はふわりと浮かび、天井に着地した。
「……そういう怪異か? 」
「あぁもちろん 」
「それは私の怪異であり 」
「私たちの怪異でもある 」
「まとめて話せねぇのかよ? 」
「「「話せるが??? 」」」
「やっぱ無し。聞き取りづれぇ 」
三人の声が重なって聞こえる。
それは不快でしかない。
「ところで真城さん? 」
「どうしてキミは 」
「ここが分かったのかな? 」
「取引も」
「準備も」
「まだ何も終わってないのに 」
「あぁそれはなぁ……わざわざ教える必要はねぇ 」
カタカタ。
微かな揺れが部屋を震わせる。
「っ? 」
「俺の能力知ってんだろ? 感染と増殖……んで刀はまだ地面に刺したままだ。意味が分かるか? 」
「……まさか 」
「無駄話に付き合ってくれてあんがとよ。お前らはもう……詰みだ 」
ため息を吐きながら指を鳴らす。
と同時、天井から刃が飛び出し、部屋中を増殖した爪が覆い尽くした。
(……さて )
爪山を前に考える。
増殖した爪は消せないし、俺でもこの爪に傷を付けられれば死ぬ。
だが、この部屋には先に続く道があった。
その先に咲が居るなら……
(まぁ死んだらその時か )
刀で爪を砕き、前に進
(っ!? )
嫌な予感。
とっさに体をひねった。
瞬間に、右胸をナイフが貫通した。
「躱された。心臓狙ったのに 」
「てめっ」
何故か後ろにいる、小柄なフードの敵。
すぐに刀を背面に振る。
だがその体は地面に沈み、空ぶった。
(透過!? 一人仕留め損なっ)
「っ!? 」
後ろ。
爪山の中から二つの銃口が顔を出す。
(遺棄爪!! )
しゃがみ、銃弾を避け、刀の爪を増殖させ、逆手で上へと振り向く。
斬撃は爪山を砕き、天井に巨大な亀裂を走らせる。
(三人同じ怪異!? そんな事あんの)
「っ゛!? 」
右足の裏に激痛。
下から透過したナイフが俺の右足を貫いていた。
「クソ」
「希奪の怪異 」
ナイフを引き抜きながら後ろに下がる。
瞬間、背後からコトッと音がした。
(あっ? )
それは手榴弾だった。
「……遺棄ヅ!! 」
(…………いってぇな )
間一髪、硬化させた爪を盾にした。
けど、だいぶダメージ受けた。
手榴弾の破片で右目潰れたし、壁に激突したせいで背骨がきしむ。
左耳も聞こえない。
いや、一番ヤバイのは右胸だ。
たぶん……肺に穴が空いてる。
(はあぁぁぁ、ダルい。痛いし苦しいし血は止まらねぇし……これ死ぬな。というか咲は大丈夫か? 彩音は? 歩は? 脱出してると良いけどな。あそっか……ここで俺が死んだら歩たちの方にコイツらが行くのか )
「「「まだ立つの? 」」」
刀を杖にし、穴の空いた足で地面を踏みしめる。
口に溜まった血を吐き、痛む肺を無理やり膨らませ、空中に浮かぶ敵に殺意を向ける。
「あたりめぇだ 」
この状況は俺の落ち度だ。
俺な油断したんだ。
それで死ぬなら……二人くらい殺して、誰にも迷惑かけないように死ね!!
「遺棄爪!! 」
刀を横に振り抜き、爪の破片を飛ばす。
それは増殖し、球体の針山となって空間を暴れ回る。
だが敵は壁に透過し、消えた。
(無敵って訳じゃねぇ。際限なく透過するなら地面に落ち続けるからな。当たる瞬間、それを見極めろ )
神経を研ぎ澄ます。
その瞬間、地面から手が伸びてきた。
「っ!? 」
上に飛ぶ。
空中、逃げ場がない。
その隙を突くように前後の地面から、銃とナイフが顔を出した。
(あめぇ )
前の腕を掴み、銃口を逸らす。
着地しながら刀を回し、背面のナイフを弾きながら目の前にいるヤツの頭を刺す。
だが手応えがない。
透過した。
「希奪 」
後ろ。
また手榴弾が落ちた。
が、予測してたから動ける。
刀の刃先で貫き、爆発する前に増殖させた爪で囲い、
「遺棄爪 」
「「「やばっ 」」」
「涙枯らし!! 」
三人を切るように刀を振り抜く。
刃が通った後には亀裂が走り、牙のような爪が空間を蝕む。
だが手応えがない。
敵は全員地面に沈んで見えなくなった。
(めんどくせぇ。でもタネはわかった。小柄なヤツはいつでも透過。少し背が高いヤツが希奪とかいう背後の攻撃。もう一人は知らん。でも触れれた。全員が透過するまでタイムラグがある。じゃなきゃヤバいなんて言葉出てこないだろうしな。次は殺す )
思考を高速で回し、意識を研ぎ澄まして次の攻撃を待つ。
だが……来ない。
いくら構えても、攻撃が来ない。
(……逃げた? …………クッソ! めんどくせぇ!! そりゃ致命傷だからなこの傷。ほっといても死ぬって算段)
「っ!? 」
また後ろ。
誰か居る。
背後に攻撃しようとする。
だがそこに居たのは、笑う金髪の少年だった。
(誰っ)
困惑。
一瞬だけ、気が散った。
そのせいで足に痛みが走り、体がグラついた。
「ズッ!!? 」
「あら、また外した 」
右肩に、何かがぶつかったような衝撃が走った。
(なんだ? 車!? )
真上の天井。
そこにはライフルを構える背の高い敵が立っていた。
「遺棄づ……あっ? 」
すぐに刀を振ろうとする。
けど、腕が落ちていた。
気付かなかった。
さっきの銃撃で、肩から先が無くなってる事に。
「っ゛!! 」
「はい油断 」
また……後ろ。
敵の腕が、左胸を背から貫いていた。
「フード脱ぐだけでビックリしちゃうなんて……まぁ考えて動く人には、単純だけど刺さるよね。油断した方が悪いけど!! 」
「油断したのは……テメェらだ 」
「ん? 」
貫かれた腕の指先。
それに指を絡め、落ちた刀の爪を増殖させる。
「俺不思議に思ってたんだよ。透過するなら、なんで服をすり抜けねぇんだ?って。どう判別してる? たぶんだが、身に付けているものだけは透過しないんだろ? 」
「だから何かな? 」
「俺の胸に手を通してる。これは……俺を身につけてる事になるんじゃねぇのか? 」
「っ!! 」
頭上からの狙撃。
それを増殖させた爪で弾く。
「いやいや、試してみなきゃ分からないよ? 」
「じゃあなぜ試さない? なぜ逃げない? 」
握る力を強くし、背後にいる敵の指を折る。
「っ 」
「それにお前ら、最初の一撃は避けたよな? 」
「あれは準備が出来てなくて」
「いや違う。透過には距離制限があるんだろ? 地面からの一撃だったから、どこまでの深さか分からなかった。だから初撃は避けたんだ 」
「……まさか 」
「あぁ……いまこの地下全土に、爪を増殖させた 」
(ていうのは嘘だがな。咲がどこに居るか分からない以上、最低限にしか爪を広げられてねぇ )
「さぁ……仲良く心中と行こうぜ 」
嘘が悟られないよう、部屋中の爪を増殖。
俺を含む全員を、全て爪の餌食に
「うん。良いよ、私と心中しようか 」
「はっ? 」
後ろの敵は、フードを下ろしていた。
パーマをかけたようなクセのある赤髪を揺らし、ほくろのある頬を優しく上げ……笑っていた。
「心中の怪異 」
甘い声。
と共に、
「貴方だけが死ぬ 」
爪の増殖が止まった。
「はっ? 」
「私の怪異はね、心中したいと思った相手と能力を共有できるの 」
「っ゛!? 」
左胸から、腕が引き抜かれる。
グラりと傾き、倒れてしまう。
(血が……足りねぇ )
「まぁつまりね、キミと能力を共有。そして爪の増殖を止めたって訳 」
(あぁ……死ぬなこれ。まぁ一人は殺した。だから俺が死んでも問題はねぇ。悪いな……咲、彩音、歩。迷惑かけ)
『ピリリリリリ!!! 』
「「「ん? 」」」
着信音。
俺の左ポケットからだ。
『あっ、繋がった。自動受信なのなこれ 』
「「「誰? 」」」
『あぁ俺? 空無 歩だよ!! 』
「「「空無!!? 」」」
『つかさっきからうるせぇなァ!! ゲームのバグみたいな声しやがって!!! あぁそれと真城聞こえてる? 咲なら助けたぞ〜。全力出してどうぞ〜。あと伝言な。【ワガママ承知で言うけど、生きて帰って来なきゃ殺すわよ。帰って……今日言えなかったことをあなたに伝えたい 】……だってさ。あれ俺、咲の声真似上手くね? ておーい、聞こえてる? 』
あぁ、聞こえてるよ。
生きて帰ればいいんだろ?
咲が地下に居ないなら、全力を出して良いんだろ?
なら、もう……臥万為る弼様刃、ねぇ!!
「怪異化 」
「「「っ!!? 」」」
全身から爪を産み、包み、心臓から溢れた黒を増殖させる。
折レの怪異は、少し特別なんだ。
詠唱を必要としない代わりに、止まらない。
制御がデキナイ。
「マズイ!! 距離を 」
「孤独の怪異……生帰詰目 」
東京全土。
総ての命を、殺すまで。
皆様に謝罪を
作者の腕がアレなので、歩くんと真城くんの分別が死ぬほど下手です
自分で読んでて、どっちが喋ってんのコレ?ってなってきました
なので、歩くんは『CV.榎木○弥』
真城くんは『CV.島崎○長』
とイメージしてください
解釈違いは認めます
それと怪異の設定をば
怪異化は怪異が人体を侵食するため、繰り返し使うと人間の細胞が怪異に置き換わっていきます
真城くんは結構な頻度で使っているため、心臓を潰されても即死しません
人間の部分が少なくなってるので、身体能力も高いですし、銃弾程度なら目視で避けれます
ちなみに歩くんの身体能力は真城くんと同じくらいです




