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怪異子葬  作者: エマ
22/44

File.21 孤独爪

ドアノブにロープかけて首でブランコ



(地震? )


 走る中で感じた微かな揺れ。

 でも勘違いかもしれない。

 今は速く、この研究所から出ないといけな

 

「うぉ!? ナニこの揺れ!!? 咲も感じた!? 」


「……勘違いじゃないのね 」


「おう! あっ、ここ左で出口な!! 」


 先導してくれる歩と一緒に通路を曲がると、やけに明るい空間が見えた。

 というかよく道を覚えているわね。


「はいゴール……あっ? 」


(えっ? )


 部屋に出た。

 そしたら言葉を見失ってしまった。


 そこに広がるのは人の血、焼け焦げた跡、壁に突き刺さった鉄パイプ。

 まるで兵器を持ったバケモノが暴れ回ったような部屋の中に、腹に穴を開けた彩音が居た。


「っ!! 」


 私より速く、歩が駆けつける。

 そして首を強引に掴んだ。


「……傷を治せ!! 急げ!!! あと人工呼吸!! 心マは俺がやる!!!! 」


「っ! 分かった!! 」


 その焦りようでどれだけ緊急事態かを理解した。

 すぐに傷を治し、気道を確保。

 鼻を塞いで人工呼吸を始める。


「死ぬな! 死ぬな!! 死ぬな!!! 」


 仲間が死ぬ。

 だから何度も何度も人工呼吸をする。

 なのに意識が戻らない。


「ふざけんな!! お前の人生始まったばっかだろうが!!! 何死んでやがる!!! さっさと帰ってこい!!!! 」


 耳をヒビ割るような叫び声。

 心臓マッサージでアバラの折れる音。

 でも……彩音は起きない。


「咲!! お前AEDとか出せねぇのか!? 」


「意味が無いの!! ふぅぅ……はっ、完全に心臓が止まってるなら!!! すぅっ!! ふぅぅぅ 」


「そーだよなぁ! 心室細動止めるだけだもんなぁAEDって!!! じゃあアドレナリンとか……なんでもいいから薬出せ!!! 」


「だから心臓が止まってたら意味が」


「……なんとかならねぇのかよ 」


 顔を上げると、歩の顔が見えた。

 子供みたいに目を赤くして泣く、歩が。


 その姿に一瞬だけ困惑してしまった。

 でも、頭は冷静に回った。


「……ならない。というか心臓が停止してもう何分経ってるの? 今戻ったとしても、後遺症で苦しむ羽目になる…………だから」


「殺してやれって!? 納得いくかそんなの!!! 」


 私よりも取り乱す歩は心臓マッサージを続ける。

 でも……いや、今度は見捨てたくない。

 まだ可能性はある。


 今度は、今度こそは、目の前の命を救いたい。


「すぅぅぅ 」


 思いっきり息を吸い、人工呼吸を続ける。

 



 続ける。

 続ける。

 続ける。

 続ける。

 戻らない。


 意識が。

 心拍が。

 戻らない。



「クソが! 起きろ!! さっさと帰ってこいやクソが!!! 」


 歩の頬から汗が落ちる。

 当然だ。

 心臓マッサージはキツいから。

 私も少し、酸欠でフラフラする。


(今……何分経った? )


 蘇生できる確率は、時間とともに減っていく。

 心臓停止から5分なら、蘇生できる確率は25%以下と聞いた。

 8分過ぎてからの蘇生は聞いた事がない。


 私の体感では、8分はとっくに過ぎている。


「……歩。もう 」


「あぁキツイのか!? じゃああれ使えアンビュー!! 手でシュコシュコ押して呼吸助けるヤツな!! つーか最初から使えって話だよなアハハハ!!! 」


「歩 」


「まだだまだだ、まだ生きられる。まだ!! 」


「……… 」


 もうヤケになってる歩の肩に、そっと手を置く。


「もう……助からない 」


「まだ分かんねぇだろ!? つーか……ほら! お前の能力でなんとか出来ないか? 」


「私は治癒しかできない。止まった心臓は……動かせないの 」


「いやいやいやいや、まだ大丈夫だって。なっ? 」


 聞き分けの悪い子供みたいに、歩は首を振る。


 もう……好きにやらせよう。

 歩が満足するまで。

 彩音の死を、受け入れるまで。


『逕溘″縺ヲ 』


 そう思った瞬間、背後から声がした。


「っ!? 」


 振り向く。

 そこには……両腕に蛇をまきつける、人型の怪異が居た。

 顔は有刺鉄線が巻かれているせいで見えない。


(怪異!? いつの間に)


「お前……なんで? 」


 とっさにメスを出そうとする。

 でも歩は焦っていなかった。


『讌ス蝨偵↓縺ッ騾溘> 』


「…………そうかよ。悪いな 」


 まるで怪異と会話するように、歩は彩音のそばを離れた。


『縺倥c縺ゅ? 』


 怪異から溢れた黒い炎。

 それが彩音を焼き、包み、怪異だけが燃え尽きた。





「ゲホッ……あれ? 咲? 」


「……彩音? 」


「えっ、そうですけど? というかなんで歩さん胸触ってるんですか!!? 」


「あっ、わりぃ 」


「えっイッタ!? なんか胸が痛いんですけど!!? なんですか恋ですか!? 」


「いや……アバラが折れてるだけよ 」


 起きて早々に騒ぐ彩音。

 でも今は……


「生きてて良かったわ 」


 彩音を抱きしめる。

 胸に感じる心拍……それを感じる度に安心してしまう。


「あぁ私……死にかけてたんですね 」


「というか死んでたぞ、お前 」


「えっ、そうなんですか? あんまり自覚ないですね 」


「そりゃあなぁ 」


「まぁ……えっと、ありがとうございます。咲、歩さん。あっ! というか人工呼吸って誰がしたんですか!? 」


「残念ながら私よ。それにお礼なら歩に言って。私は……何度も諦めちゃったから 」


「お礼なら……戦ってたアイツに言え。アイツがお前の死を拒絶したんだ 」


「拒絶……そうですね 」


 彩音は悲しむように目を細めた。


「ん? 何かあった」


「あっ! つーか速く出るぞ!! 真城が死ぬ!!! 」


「えっ、真城も来てるの? 」


「あぁ! でも最初に別れて何してるか分からん!! 」


「じゃあ……マズイわね。さっさと出るわよ!! 」


 彩音の骨を治し、すぐに出口に向けて走る。


「えっ? えっ!? 何がマズイんですか!!? 」


「そういえば彩音は知らないのよね! でも今は走る!! 」


「俺も知らねぇぞ!! 」


「歩はいいから走る!! 」


「前もこんな事あったな〜!! 」


「あれ!? 今……名前で 」


「今はいいから!! 」


 いつの間にか泣き止んでる歩。

 生きてる彩音。

 そんな二人の仲間と一緒に、地上に脱出した。






        『咲脱出の10分前 』




遺棄爪(いきづめ)


 刀を地面に刺し、


「"鳥葬(ちょうそう)”!! 」


 増殖させた刃を地面から放つ。

 空間全土の攻撃。

 だがフードを被る敵三人はふわりと浮かび、天井に着地した。


「……そういう怪異か? 」


「あぁもちろん 」


「それは私の怪異であり 」


「私たちの怪異でもある 」


「まとめて話せねぇのかよ? 」


「「「話せるが??? 」」」


「やっぱ無し。聞き取りづれぇ 」


 三人の声が重なって聞こえる。

 それは不快でしかない。


「ところで真城さん? 」


「どうしてキミは 」


「ここが分かったのかな? 」


「取引も」


「準備も」


「まだ何も終わってないのに 」


「あぁそれはなぁ……わざわざ教える必要はねぇ 」


 カタカタ。

 微かな揺れが部屋を震わせる。


「っ? 」


「俺の能力知ってんだろ? 感染と増殖……んで刀はまだ地面に刺したままだ。意味が分かるか? 」


「……まさか 」


「無駄話に付き合ってくれてあんがとよ。お前らはもう……詰みだ 」


 ため息を吐きながら指を鳴らす。

 と同時、天井から刃が飛び出し、部屋中を増殖した爪が覆い尽くした。




(……さて )


 爪山を前に考える。

 増殖した爪は消せないし、俺でもこの爪に傷を付けられれば死ぬ。

 だが、この部屋には先に続く道があった。


 その先に咲が居るなら……


(まぁ死んだらその時か )


 刀で爪を砕き、前に進


(っ!? )


 嫌な予感。

 とっさに体をひねった。

 瞬間に、右胸をナイフが貫通した。


「躱された。心臓狙ったのに 」


「てめっ」


 何故か後ろにいる、小柄なフードの敵。

 すぐに刀を背面に振る。

 だがその体は地面に沈み、空ぶった。


(透過!? 一人仕留め損なっ)


「っ!? 」


 後ろ。

 爪山の中から二つの銃口が顔を出す。


(遺棄爪!! )


 しゃがみ、銃弾を避け、刀の爪を増殖させ、逆手で上へと振り向く。

 斬撃は爪山を砕き、天井に巨大な亀裂を走らせる。


(三人同じ怪異!? そんな事あんの)


「っ゛!? 」


 右足の裏に激痛。

 下から透過したナイフが俺の右足を貫いていた。


「クソ」


希奪(きだつ)怪異(かいい)


 ナイフを引き抜きながら後ろに下がる。

 瞬間、背後からコトッと音がした。


(あっ? )


 それは手榴弾だった。


「……遺棄ヅ!! 」







 

 


(…………いってぇな )


 間一髪、硬化させた爪を盾にした。

 けど、だいぶダメージ受けた。


 手榴弾の破片で右目潰れたし、壁に激突したせいで背骨がきしむ。

 左耳も聞こえない。

 いや、一番ヤバイのは右胸だ。


 たぶん……肺に穴が空いてる。

 

(はあぁぁぁ、ダルい。痛いし苦しいし血は止まらねぇし……これ死ぬな。というか咲は大丈夫か? 彩音は? 歩は? 脱出してると良いけどな。あそっか……ここで俺が死んだら歩たちの方にコイツらが行くのか )


「「「まだ立つの? 」」」


 刀を杖にし、穴の空いた足で地面を踏みしめる。

 口に溜まった血を吐き、痛む肺を無理やり膨らませ、空中に浮かぶ敵に殺意を向ける。


「あたりめぇだ 」


 この状況は俺の落ち度だ。

 俺な油断したんだ。

 それで死ぬなら……二人くらい殺して、誰にも迷惑かけないように死ね!!


「遺棄爪!! 」


 刀を横に振り抜き、爪の破片を飛ばす。

 それは増殖し、球体の針山となって空間を暴れ回る。

 だが敵は壁に透過し、消えた。


(無敵って訳じゃねぇ。際限なく透過するなら地面に落ち続けるからな。当たる瞬間、それを見極めろ )


 神経を研ぎ澄ます。

 その瞬間、地面から手が伸びてきた。


「っ!? 」


 上に飛ぶ。

 空中、逃げ場がない。

 その隙を突くように前後の地面から、銃とナイフが顔を出した。


(あめぇ )


 前の腕を掴み、銃口を逸らす。

 着地しながら刀を回し、背面のナイフを弾きながら目の前にいるヤツの頭を刺す。

 だが手応えがない。

 透過した。


希奪(きだつ)


 後ろ。

 また手榴弾が落ちた。

 が、予測してたから動ける。


 刀の刃先で貫き、爆発する前に増殖させた爪で囲い、


「遺棄爪 」


「「「やばっ 」」」


涙枯(なが)らし!! 」


 三人を切るように刀を振り抜く。

 刃が通った後には亀裂が走り、牙のような爪が空間を蝕む。

 だが手応えがない。

 敵は全員地面に沈んで見えなくなった。


(めんどくせぇ。でもタネはわかった。小柄なヤツはいつでも透過。少し背が高いヤツが希奪とかいう背後の攻撃。もう一人は知らん。でも触れれた。全員が透過するまでタイムラグがある。じゃなきゃヤバいなんて言葉出てこないだろうしな。次は殺す )


 思考を高速で回し、意識を研ぎ澄まして次の攻撃を待つ。

 だが……来ない。

 いくら構えても、攻撃が来ない。




(……逃げた? …………クッソ! めんどくせぇ!! そりゃ致命傷だからなこの傷。ほっといても死ぬって算段)


「っ!? 」


 また後ろ。

 誰か居る。


 背後に攻撃しようとする。

 だがそこに居たのは、笑う金髪の少年だった。


(誰っ)


 困惑。

 一瞬だけ、気が散った。

 そのせいで足に痛みが走り、体がグラついた。


「ズッ!!? 」


「あら、また外した 」


 右肩に、何かがぶつかったような衝撃が走った。


(なんだ? 車!? )


 真上の天井。

 そこにはライフルを構える背の高い敵が立っていた。


「遺棄づ……あっ? 」


 すぐに刀を振ろうとする。

 けど、腕が落ちていた。


 気付かなかった。

 さっきの銃撃で、肩から先が無くなってる事に。


「っ゛!! 」


「はい油断 」


 また……後ろ。

 敵の腕が、左胸を背から貫いていた。


「フード脱ぐだけでビックリしちゃうなんて……まぁ考えて動く人には、単純だけど刺さるよね。油断した方が悪いけど!! 」


「油断したのは……テメェらだ 」


「ん? 」


 貫かれた腕の指先。

 それに指を絡め、落ちた刀の爪を増殖させる。


「俺不思議に思ってたんだよ。透過するなら、なんで服をすり抜けねぇんだ?って。どう判別してる? たぶんだが、身に付けているものだけは透過しないんだろ? 」


「だから何かな? 」


「俺の胸に手を通してる。これは……俺を身につけてる事になるんじゃねぇのか? 」


「っ!! 」


 頭上からの狙撃。

 それを増殖させた爪で弾く。

 

「いやいや、試してみなきゃ分からないよ? 」


「じゃあなぜ試さない? なぜ逃げない? 」


 握る力を強くし、背後にいる敵の指を折る。


「っ 」


「それにお前ら、最初の一撃は避けたよな? 」


「あれは準備が出来てなくて」


「いや違う。透過には距離制限があるんだろ? 地面からの一撃だったから、どこまでの深さか分からなかった。だから初撃は避けたんだ 」


「……まさか 」


「あぁ……いまこの地下全土に、爪を増殖させた 」


(ていうのは(ブラフ)だがな。咲がどこに居るか分からない以上、最低限にしか爪を広げられてねぇ )


「さぁ……仲良く心中と行こうぜ 」


 嘘が悟られないよう、部屋中の爪を増殖。

 俺を含む全員を、全て爪の餌食に


「うん。良いよ、私と心中しようか 」


「はっ? 」


 後ろの敵は、フードを下ろしていた。

 パーマをかけたようなクセのある赤髪を揺らし、ほくろのある頬を優しく上げ……笑っていた。





心中(しんじゅう)怪異(かいい)


 甘い声。

 と共に、


貴方だけが死ぬ(ウラギリモノ)


 爪の増殖が止まった。




「はっ? 」


「私の怪異はね、心中したいと思った相手と能力を共有できるの 」


「っ゛!? 」


 左胸から、腕が引き抜かれる。

 グラりと傾き、倒れてしまう。


(血が……足りねぇ )


「まぁつまりね、キミと能力を共有。そして爪の増殖を止めたって訳 」


(あぁ……死ぬなこれ。まぁ一人は殺した。だから俺が死んでも問題はねぇ。悪いな……咲、彩音、歩。迷惑かけ)


『ピリリリリリ!!! 』


「「「ん? 」」」


 着信音。

 俺の左ポケットからだ。


『あっ、繋がった。自動受信なのなこれ 』


「「「誰? 」」」


『あぁ俺? 空無 歩だよ!! 』


「「「空無!!? 」」」


『つかさっきからうるせぇなァ!! ゲームのバグみたいな声しやがって!!! あぁそれと真城聞こえてる? 咲なら助けたぞ〜。全力出してどうぞ〜。あと伝言な。【ワガママ承知で言うけど、生きて帰って来なきゃ殺すわよ。帰って……今日言えなかったことをあなたに伝えたい 】……だってさ。あれ俺、咲の声真似上手くね? ておーい、聞こえてる? 』












 あぁ、聞こえてるよ。

 生きて帰ればいいんだろ?

 咲が地下に居ないなら、全力を出して良いんだろ?


 なら、もう……臥万為る弼様刃(がまんするひつようは)、ねぇ!!


「怪異化 」


「「「っ!!? 」」」


 全身から爪を産み、包み、心臓から溢れた黒を増殖させる。

 ()レの怪異は、少し特別なんだ。


 詠唱を必要としない代わりに、止まらない。

 制御がデキナイ。



「マズイ!! 距離を 」


孤独(こどく)怪異(かいい)……生帰詰目(イキヅメ)


 東京全土。

 (すべ)ての命を、殺すまで。









 


 


 

 




 

 

 


 




皆様に謝罪を

 作者の腕がアレなので、歩くんと真城くんの分別が死ぬほど下手です

 自分で読んでて、どっちが喋ってんのコレ?ってなってきました

 なので、歩くんは『CV.榎木○弥』

 真城くんは『CV.島崎○長』

 とイメージしてください

 解釈違いは認めます



 それと怪異の設定をば

 怪異化は怪異が人体を侵食するため、繰り返し使うと人間の細胞が怪異に置き換わっていきます

 真城くんは結構な頻度で使っているため、心臓を潰されても即死しません

 人間の部分が少なくなってるので、身体能力も高いですし、銃弾程度なら目視で避けれます

 ちなみに歩くんの身体能力は真城くんと同じくらいです


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― 新着の感想 ―
[良い点] 満身創痍から本番開始でこんだけ善戦ってつよつよですね真城くん! 一番最初に死にそうだわ……って いきなり彩音さん死んでるぅぅぅぅぅぅ!? 怪異が死を拒絶ってドユコト!? これ何かの伏…
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