File.19 戦場カウンセラー歩
亜人面白い(今さら見てる)
いつからか私は椅子に座ってる。
そしてぼんやり、映像を見ていた。
映像の中の私はずっと勉強をしている。
(なんでこんなに勉強してたんだっけ? )
あぁそうだ。
私、お医者さんになりたかったんだ。
なんでだっけ?
やりたい事がなかったんだ。
みんなが興味を持ってたお化粧も。
カードゲームもボール遊び。
怪異を宿すことについても。
興味がなかった。
それをする価値が分からなかった。
だからずっと教室の隅で、文字と仲良くなっていた。
小学校、中学校。
ずっと勉強してた。
楽しい思い出なんて無かった。
でも辛くもなかった。
別に、やりたい事もなかったから。
「お姉ちゃんはお医者さんになるみたいよ 」
「えーなんで〜? 」
食卓。
お母さんと妹が居た。
私と違って、たくさん自分を着飾る妹と。
誰にでも優しいお母さんが。
「理由……なんと、なく? あとお給料が高いから 」
「えー、そんな人生つまらないよ〜 」
「まぁまぁ。でもお母さん安心したわ 」
「なんで? 」
「そりゃ〜……えっと、娘がいい所に就職できるんですもの。親としては嬉しいでしょ? 」
「……そうね 」
他愛のない話をして、ご飯食べて、勉強をして、寝た。
それを三年続けて、15歳になったから医療試験を受けようとした。
この国は15歳から医者になれる。
「ん? 」
電話が鳴った。
お母さんからだ。
「なに? 今から試験だけど 」
「あっ……ごめんね。少し心配で 」
「そう。で、何か用事? 」
「……頑張ってね 」
「ん 」
電話を切った。
試験を受けた。
会場から出たのは夕方だった。
で、帰ると……誰も居なかった。
「んっ? 」
電話のバイブ音。
出る。
妹からだった。
「ねぇお姉ちゃん!! 今どこ!? 」
「家よ? 今試験終わりだし 」
「お母さんが死んだの!! 」
「……そう 」
意外だった。
でもそれ以上は何も思わなかった。
「そうって…… 」
「で? どこの病院に居るの? それとも事故ったの? 」
「ねぇ! お母さんはあんたの事を大事に思ってたんだよ!? 頭の悪いより私よりも!! 死ぬまでずっとあんたの名前を呼んでたのよ!!? 」
「落ち着きなさい。で、どこの病院? 」
「あんたねぇ…………っ、身近な人の病気が分からないヤツが!! 医者なんかになれる訳ないでしょ!!! 」
電源を切られた。
この時なにを思ったんだっけ?
あぁそうだ。
こう思いながらため息を吐いたんだ。
(そんなこと言われてもなぁ )
そこからは速かった。
葬式して書類かいて納骨して。
あとは色々。
意外だったのはお母さんの保険代だ。
お母さんは自分が病気だって分かってたらしい。
それを隠してたらしい。
言われてみたら、試験当日の電話は変だった。
まぁ今考えても仕方がない。
で、私は医者になった。
内科の。
それで偶然、心臓の手術をする患者が居て、手術室に入れた日……怪異の襲撃か何かだっけ?
テロリストがなんかだっけ?
頭を打ったからよく覚えてない。
明確に覚えてるのは、映像に映し出されたのは……欠けた自分の両手と、瓦礫に挟まる同期だけだった。
「助け……て 」
「外科じゃないからムリよ 」
そもそもこの両手だから、医療の知識があっても助けられない。
「ねぇ私……頑張ったんだよ? 親にたくさん言われてさ……やりたい事も諦めてさ……なのにこんな終わり方……酷いと思わない? 」
(そんなこと言われてもなぁ )
「とりあえず息をしてなさい。運が良ければ助かるから 」
投げやりな言葉を吐いて、目を閉じて、息をした。
しばらくして助けは来たけど、結局生き残ったのは私だけだった。
「医者……できなくなったわね 」
右の小指と薬指。
残ったそれだけを見て、家でボーってしていた。
こんなボーっとするなんて、何年ぶりか分からない。
ずっと勉強してたから、何もしないのが落ち着かない。
暇だったからコーヒーでも入れようとする。
でも利き手じゃないから上手く扱えない。
「なんでこんなに……生きづらいんだっけ? 」
少し首を捻った。
(今の状況って、私のせいだっけ? そもそも……これからどう生きたら良いんだろ? )
医者になる以外の道なんて、考えたことも無かった。
(……今の私に、普通の生活もできない私に、価値なんてあるのかな? )
カシャンって、コップが落ちた。
左手を伸ばしたけど、指がなかったから取れなかった。
「アレ? 私に生きてる価値って、ないじゃん 」
「接木 咲です。それでお話の方は」
「あぁ。君の代わりに別の人が入ったからムリだね。まぁ君も若いんだからさ、別の道が」
ダラダラ長い話が続いた。
要約するとこうだった。
価値のない人間はいらない。
まぁそうだよね。
指がある医者と指のない医者。
どちらを取るかなんて分かりきってる。
私でも指がある方を取る。
「……… 」
ガムテープでペンを固定して、勉強しようとした。
肘でページをめくって。
ペンで文字をなぞって。
でもなんだか虚しくなってきた。
そもそもこのテープ、どうやって外すつもりだったんだろう?
口で?
残った指で?
我ながら馬鹿なことをしたなぁ。
「ホコリ……溜まってきたなぁ 」
ベットの上でボーっとする。
掃除する気力も手もない。
妹は……出ていった。
元々仲は良くなかったし、あんな電話をしたら当然だ。
「今の私に、価値はあるのかな? 」
独り。
考える時間が増えた。
そしたら後悔も増えた。
なんでお母さんの事を、もっと見なかったんだろう?
なんで同期の事を、もっと大切に思わなかったんだろう?
なんで妹の事を、もっと気にかけなかったんだろう?
そう考えてたら、涙が出てきた。
(あぁ……私ってクズだ )
後悔して泣いてるんじゃない。
自分が何も出来なくなって、自分が傷付いたから、今さら泣いてるだけだ。
どこまでも自分しか見えてない。
『医者なんかになれる訳ないでしょ!!! 』
幻聴が聞こえた。
でも今思えば、その通りだなって思う。
無為に過ごした。
無価値に過ごした。
ベットの上で、何もせず、ただぼんやりと。
死んだように生きた。
髪がガサツいても、肌が荒れても、脇から腐臭がし始めても、首が痒くなるほど垢が溜まっても。
生きる気力がなくて、ただぼんやりと死んでいた。
「……ん? 」
ガチャって、急に玄関が開いた。
足音が近付いてくる。
リビングの扉が開いた。
「縺雁ァ峨■繧?s 」
そこには異様に頭のデカい人形が立っていた。
はち切れそうなほどの頭部。
下の体は綺麗なドレス。
すぐ分かった。
これが怪異だって。
「ねぇ…… 」
でも逃げる気は湧かなかった。
「あんたに殺されたらさ、私……無価値な人間じゃないのかしら? 」
「…… 谿コ縺励※ 」
目が覚めたら、私は病院だった。
眩しい蛍光灯に手を伸ばす。
その手には……指が付いていた。
「えっ? 」
「目が覚めた? 」
隣には、綺麗な女の子が居た。
透明な髪……心配するように揺れる赤い瞳。
その子は自分のことを……哀花って名乗った。
「っ!? 」
「グモーニング! お姫様!! 」
今のは……夢?
違う怪異の攻撃だ。
「今……どういう状況? 」
「俺が先に目覚めた。お前お姫様抱っこ!! そのまま逃走中!!! 」
「じゃなくて! ……敵は? 」
心無しか、歩の速度が上がった。
「無理無理無理無理!! 逃げ一択!!! だってアイツ」
揺れ。
一瞬。
今通った通路が、上から叩き潰された。
「怪異化しやがったからな!! 」
通路。
を埋め尽くす黒。
その中央には、白い羽根で顔を覆い、三口のクチバシを逆さに構える、人型の異形が居た。
「ミツ」「ケ」「タ 」
「うぉ!? 」
黒から羽ばたいたカラスは高速で通路を駆け抜け、歩の左腕を切り裂いた。
けれどその翼は一瞬で砕け散った。
「いま治す!! 」
「傷に触れんなよ咲!? 俺の傷は怪異を消失させる!! 」
「はぁ!? そんな能力聞いた事な」
一瞬。
空中に浮いたような感覚。
違う、歩の足が消し飛んだだけだ。
「うぐっ!? と見せかけて喰らえ!! 」
歩が何かを投げる。
それは爆発した。
でも追ってくる怪異は無傷だ。
「コノ」「テイ」「ドデ 」
「そこ空洞音したから気をつけろ!! 」
中指を立てた歩。
と同時に、通路は崩壊。
怪異はそのまま落ちていった。
「治せ咲!! 」
「っ!! 」
足を治す。
そして歩は走り出す。
「いいか!? あいつは全力出せてねぇ!! 地下で暴れまくれば味方ごと生き埋めにするからな!! 逃げるなら今」
「歩 」
「おっ!? やっと名前で読んで」
「聞いて 」
歩の顔を抑え、その瞳を見つめる。
瞳に映る私が見えるほど。
「思い出したの。私は……価値のない人間だって。誰かを治さないと、救わないと、価値がないの。だから……私はアイツと」
「うるせぇ!!!!!!!!!!!!! 」
急に怒鳴られた。
そのせいでムカつきと一緒に涙が溢れてしまう。
「うるさいってあんた……」
「お前頭良いだろ!? だから会話したくねぇんだよ!! どうせ理屈こねくり回して! 自己中な解釈して!! 結局自分を否定するだろうからな!!! 」
「っ……あんたに何が」
「分かるわけねぇだろ!!? 俺はエスパーじゃねぇんだから人の心なんか分からねぇよ!! つーかお前とろくに会話したことねぇわカスゥ!!! それなのに新人新人って厨二病か!!? ぁぁぁ!! めんどくせぇぇー!!!! 」
うるさい。
馬鹿みたいに騒いでる。
でも……言ってることは正論だ。
「価値ってなんだよ!? ただ自分の生きてる意味が分かんなくなっただけだろ!!? 」
「それが問題なのよ! なに!? あんたは私に生きる意味くれるって言うの!? 」
「くれる以前にあんだろうが!! 」
「っ!? 」
投げられ、容赦なく壁にぶつけられる。
「なんだ!? お前は無価値です生きてる意味がありませんって誰か言ったのか!!? 彩音は!? 真城は!? 哀花は!!? 」
「……誰も……言ってない 」
「なぁ 」
胸ぐらを掴まれる。
乱暴に。
でも不思議と……恐怖はなかった。
こんな状況でも、自分に対しての嫌悪でいっぱいだった。
「もう一度あいつらに会え。そして聞いてこい……自分に価値は無いのかって。怖いだろうな、不安だろうな。でも……どうせアイツらは笑ってくれる。そんな事はないってな 」
「そんな確証がないこと」
「バーカそれはお前目線の話だろ。もっと周りのことを見てみろよ 」
「でも…… 」
怖い。
怖い。
分かってるのに、真城たちなら絶対言わないって分かってるのに……確認するのが怖い。
だって私はいつも……間違うから。
頭のいいフリをしてるだけのクズで、無価値な人間なんだから。
「……じゃあ言ってやる 」
また正論が来る。
あぁ結局今も、自分が傷つきたくないから泣いてるだけで私は
「俺を助けてくれて、ありがとう 」
「……えっ? 」
「お前のおかげで生きられた。哀花とデートできた。俺にとっちゃこの人生で一度あればスーパーラッキーなことを体験させて貰えた。だから感謝してる。お前に生きて欲しいと思ってる……恩人だからな 」
急に優しい声で、優しい笑みで、そう言われた。
そのせいで頭が、胸が、混乱でおかしくなりそうで……
「生きてる意味はある。お前に生きて欲しいって思う人間が、ここで、生きてるんだからな 」
ニッて、歩は笑う。
今度は優しさのせいで、泣いてしまった。
(あぁ……忘れてた )
ほんとに、なんで忘れてたんだろ?
私にそう言ってくれた人が居た。
ずっとそばに居て、私と一緒に戦ってくれた人。
手を取って、泣いて、一緒に生きようと言ってくれた人のことを。
『そんな悲しいこと言うなよ……独りは辛いじゃねぇか。自分をたくさん傷付けて、それでも自分を許せないなんて……苦しいだろ。だからたくさん信頼するよ。俺は……生きてくれなんて無責任なことは言いたくない。でも……咲には……少しでもいいから、笑って欲しいんだ。自分を許して、生きてて良かったって、少しでも思ってくれ 』
(真城…… )
「苦しみを自己完結させんな。そして話せ。哀花や彩音、真城とな 」
「……うん 」
「よぉしやっと頷いてくれた! はい論破!! 俺の勝ちィ!!! 」
「……急にうるさいわね 」
なんだか歩がいつも通りの馬鹿さになって、笑ってしまった。
その瞬間、後ろの通路が吹き飛んだ。
そこには人のようなカラスが浮かんでいる。
「うげぇもう来た……とりあえずお前は逃げろ、囮になってやっから。さっさと真城たちに、仲間にあって話つけてこい 」
「……あんな偉そうなこと言って囮になるとか……あんたも大概ね 」
「アッ? 」
舞う羽根が、歩の右腕と腹を貫通。
その致命傷を受けた体に触れ、治す。
「やっぱり気が変わった。全員で、生きて、帰るわよ。歩!! 」
「おう急にワガママになったな根暗のお姫様 」
隣に立ち、二人で、怪異を睨みつける。
「ヤルって 」「イウ 」「ノ? 」
「「イエス 」」
「だ!! 」
「よっ!! 」
涙をぬぐい、前を見る。
今はただ……真城たちと会いたい。
そのために生き残るんだ。
ここまで思っても自分を仲間とは言わない歩くんスタイル
正直、この世に怪異が無ければろくに生きれてないでしょうねこの人
と思わせて、ワンチャンカウンセラーで働けます
理解することはとても上手な人(逆に支え続けるのが苦手)なので、たぶんカウンセラーになったら人気になると思います
野郎後回しで女性優先にすると思いますが
それとストックは悪夢で死にました
呪われた血晶石31.5が出ないのが悪い(地底人)




