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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第五章 あやかしビールと簡易ふわふわケーキ

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そして、本格的な夏が来ました



 本格的に暑い季節がやってきて。

 ついに、カナムグラが花をつけた。


「サクサクして美味しいですっ。

 いいですねっ、カナムグラッ」


 エゴマアブラで揚げたカナムグラの雌花を伊予たちが喜んで食べている。


 ……カナムグラより、エゴマアブラの方が貴重なんだが。


 待ちに待ったカナムグラだからだろうか。


 カナムグラだけが絶賛されている。


「ほほう。

 このカナムグラの雌花と似ているものがホップなのだな。


 よし、わかった。

 帝の威信にかけて、私が探し出そう」

と吉房が鷹子の手を握ってきたとき。


 この暑いのに、獣の皮のベストを着た、小さなダイダラボッチのようなものが庭に立っているのに気がついた。


 どうも寒いところのあやかしらしい、そのイキモノ(?)の手には籠があり、中にホップっぽいものが入っている。


 日本のカラハナソウのようだ。


 ひっ。

 帝の威信が、今、此処にっ。


 そのとき、吉房が是頼(これより)に命じた。


「よしっ。

 斎宮女御の言葉に従い、高台の涼しい場所を探すのだ」


 はっ、と是頼が言ったとき、吉房があやかしから、その籠を受け取った晴明の方を振り返ろうとした。


 鷹子は両手で吉房の顔に触れ、その動きを止める。


 吉房が赤くなり、少し後退した。


「み、帝っ。

 わたくしも探しますねっ」

と鷹子が慌てて言うと、


「いやいや。

 私を信じて待っておれっ」

と吉房は張り切って言い、去っていった。


 残った晴明が言う。


「いいところがあるではありませんか。

 帝の顔を潰さないようにするとは」


「いや……なんとなく。

 でも、このままでは、せっかく探してくれた、あやかしと晴明に悪いから。


 もうちょっとしたら、見つかったと言うわ」


 探しに行かされる人も大変だしね、と鷹子は言ったが、


「宮中を出て散策できるというので、是頼殿などは、楽しそうでしたよ」

と彼らの方を振り返りながら、晴明は言う。


「まあ、頃合いを見て、このカラハナソウを彼らの探している辺りに植えておきますよ」


 控えているあやかしを振り返り、パチンと晴明は指を鳴らした。


 あやかしは頭を下げ、帰っていく。


 陰陽寮に行くのだろうか?

と思いながら見ていると、晴明が言う。


「迷いなく戻るよう(しつ)けてあるので大丈夫ですよ。

 昔、寒い地方で人を襲っていた奴なのですが。


 山に住んでいたあやかしなので、もしかして、カラハナソウを知っているかなと思い、今回封印を解いてみました」


 いや、そんな危険なことしてまで、ビール呑みたかったわけじゃないんですけどっ、と思ったが。


「人間より美味しいものでも与えてください。

 そしたら、静かにしてると思います。


 あまりに危険な状態になったら、また封印しますので、お気遣いなく」


 ……お気遣いしますよ、と思いながら、鷹子は、


 人に従っていないと食べられないような、人工的な美味しいものでも用意しよう。


 そしたら、人、襲わないかもしれないな、と思いながら、去りゆくあやかしを見送った。



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