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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第三章 あやかしは清涼殿を呪いたい

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改良版キャンディです


「帝。

 新しい飴です」


 清涼殿に着いた鷹子は女房たちに持ってこさせていた飴を吉房に渡した。


 菓子などを入れる可愛らしい籠に入っている。


 髭のように籠の先端を編み残し、そこを束ねてカラフルな紐で結んだ贈り物を入れる可愛い籠だ。


 現代でもお香の店などでは見かける。


 それに鬱金(うこん)色や柳色の和紙に包んだキャンディを詰め込んでいた。


「こちらは、柚子と蜂蜜の飴で」


 ほほう、と吉房は鬱金色の包みを開ける。


 コロンとした黄色く透明な飴を口に入れてみていた。


「で、こちらが……」


 柳色の包みを手で示したが、鷹子はなにも言わなかった。


 ふと、さっきのあやかしが気になったからだ。


 柚子蜂蜜の飴を噛み砕いてしまった吉房は、ほほう、と柳色の包みの中の緑の飴を口に入れる。


 次の瞬間、ものすごい顔をした。


「あ、それ、胡荽(こすい)飴です」


「なんかすごい匂いが鼻に突き抜けるぞっ、殺す気かっ」

と吉房は立ち上がったが、吐き出さなかった。


 帝たるもの、食べ物を粗末にしてはいけない、と思っているようだった。


「そもそも私は胡荽(こすい)はあまり好きではないのだ。

 魚の臭みを消すのにはいいかもしれぬが、それを飴にとかっ。


 いつまでもいつまでも胡荽の味がするではないかっ」

と吉房は叫ぶ。


 胡荽とはパクチーのことだ。


「いや~、パクチーマニアの人とかいるんで、いけるかなと思ったんですけどね」

と鷹子は綺麗な緑色の飴を見る。


 女房などには意外とウケがよかったのだが……。


 この時代、パクチーは胡荽(こすい)と呼ばれ、生魚などの薬味として使われていた。


 だが、日本の料理にはあまり合わなかったらしく、(すた)れていったようなのだが。


 そのとき、鷹子の頭の上で、神様が叫んだ。


「あやかしがおったぞ。

 あやかしがっ」


 またついて来ていたのかという顔を吉房はしている。


「帝、噂の清涼殿を狙うあやかし、先程見ました」


 うむ、と吉房は渋い顔をする。


「帝っ、私は顔も見たぞっ」

と神様が騒ぐ。


 ええっ? 見たんですか? と鷹子が頭の上を見ようとすると、ほれ、と帝は緑の方の飴を神様に渡そうとする。


「いらぬわっ」


「神様、どのような顔だったのですか?」

と鷹子が柚子蜂蜜の方を渡しながら問うと、


「そうさな。

 男であったなっ」

と神様はそれを膝に抱えて舐めながら言う。


「どのようなお顔でしたか?」


「わからぬな。

 私は人の顔の区別がつかぬのじゃ」


「……じゃあ、意味ないじゃないですか」


「鷹子よっ、人間はたくさんこの世におるのじゃぞ。

 わかるわけなかろう。


 お前は見知らぬ鳥や犬猫の顔の区別がつくのかっ。


 私がわかるのは、鷹子や帝、晴明、青龍、陰陽頭(おんようのかみ)、なにかがいると察して、美味いものをそっと置いてくれる女房たちくらいじゃっ」


「結構見えてるじゃないですか……。

 あ」

と鷹子が声を上げると、なにが、あ、だ、という顔で吉房が見る。


「見たといえば、先程、中宮様の女房たちも見ました」


「……今、中宮たちをあやかしの並びに入れたか?」


 ふう、と吉房は溜息をついたが、それ以上、その話題には触れてこなかった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 神様、ひょっとして、餌付けされてるのですか? パクチーの飴は、強烈かも(笑)。 せめて、ニッキ飴って思ったけれど、肉桂って江戸時代になってから? やっぱり柚子蜂蜜は安定の味でしょうね。 …
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