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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第二章 姿なき中宮

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プリン・ア・ラ・モードを作るんじゃなかったんですか


 しかし、卵はない、砂糖もない。


 卵なしプリンってよく見るけど。


 砂糖もないのは厳しいなあ。


 甘いのって、やっぱ、ハチミツか。


 みりん……


 みりんあったっけ?


 まだないか。


 すると、あと、……甘葛(あまずら)と、水飴くらいかな。


 麦芽を使って作る水飴は古くからあるが、これも貴重な薬のようなものだった。


 ただ、砂糖と違い、水飴屋で買えるので、そこまで手に入りにくいものではない。


 なんか考えすぎて、糖分欲しくなってきたな。


 本末転倒だ、と鷹子は思う。


 ぱっと口に入れられる甘いものとかあるといいのに。


 ……飴とか欲しいな、と鷹子は思う。


 水飴ではなく、固形のキャンディが欲しかった。


 だが、キャンディを作るには、これまた砂糖が必要なのだ。


 水飴だけでは固まらないからだ。


「……庭でサトウキビ作ろうかな」


 計算し尽くされた風靡な庭を見ながら鷹子は思う。


 サトウキビを作ったところで、白い砂糖が簡単に作れるわけではないのだが……。


 待てよ。

 黒糖ならできるかもしれないな。


 サトウキビの汁を煮詰めて作る黒糖ならできるかなと思う。


 でも、それにはまず、サトウキビの苗を仕入れてこなくては。


 いや、今すぐ、飴が食べたいんだが……と鷹子は困る。


 やはり、帝に頼んで、砂糖を都合してもらうしかないのか。


 妻としての役目も果たしていないのに、頼みごとばかりするとかっ、と鷹子は苦悩する。


 だからって、砂糖のためにこの身を帝に捧げるというのもなんか違う感じがするし。


 第一……、チラと日中はあまり気配を感じない人ならぬものを追って、鷹子は視線をめぐらす。


 そんなことになったら、うっかりついて来ちゃった伊勢の神様が文句を言いそうだ、と鷹子は、


『うっかりついて来ちゃったとは何事だっ』

と伊勢の神様に怒られそうなことを思っていた。



「水飴を固めるには砂糖が必要なんですよ~。

 石みたいに硬くして、口の中でころころ転がせたら便利だと思いませんか?」


 訪ねて来た晴明に、唐突にそんな話を始めた鷹子にうっかりと言った感じで晴明は言う。


「……お前。

 いや、失礼。


 プリン・ア・ラ・モードとやらを作るとか言ってませんでしたか? 女御」


 今、お前って言いかけましたか? 晴明、と思いながらも突っ込まなかった。


「それに、石を口に入れてどうするんですか」


「いや、口に入れるのは、石じゃなくて、石みたいに硬くした水飴ですよ。

 ぱくっと食べて長く楽しめるんですよ、甘い物が」


「常々思っていたのだが」


 そこにいきなり男の声が割り込んできた。


 吉房だ。

 苦笑いしている是頼(これより)たちを従え、簀子縁(すのこえん)に立っている。


「私は文を送り、返事をもらってから此処に来ているのに。


 何故、お前は、ひょいひょい女御のところに来ているのだ、晴明」


 いや、貴方も今、断りもなく来ましたけどね。

 まあ、夜ではないからか……と鷹子が思ったとき晴明が言った。


「私は貴人に仕える者。

 使用人はいちいち断って訪ねたりはしません。


 影のようなものですから」


 その目立つ容姿で、しゃあしゃあとそう言った晴明は、同意を求めるように命婦を見つめる。


 真っ赤になった命婦は、そ、そうでございますねっ、とうわずった声で答えていた。

 

 


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