地獄の業火に焼かれても……1
行ったこともない百貨店でプリン・ア・ラ・モードを食べる夢を見た――。
なんでだろうな。
現代にいたときは特に好きでもなかったのに。
食べられないと思ったら食べたくなるのか。
そんなことを考えながら、鷹子はぼんやりしていた。
「今日の練香はずいぶんと甘い香りですわね、素敵ですわ」
練香のつなぎに使っている蜜の量が多いらしく、うっとりするような甘い香りが室内に広がり、女房たちが喜んでいる。
だが、鷹子は、
……いや、またスイーツが食べたくなる感じの匂いなんだが、と眉をひそめていた。
ずいぶんと、この世界の甘いものにも慣れてきたが。
時折、疲れを癒せそうな激烈な甘さのものが食べたくなる。
それであんな夢を見たのだろうかな、と鷹子は百貨店の夢を思い出していた。
プリン・ア・ラ・モードか。
横長の銀の器に盛られたそれは昭和ロマンっぽくて郷愁を誘う。
いや、昭和に生きていたことなどないし。
異世界とは言え、今の方が古い時代なのだが、なんとなく。
しかし、もし、あれを作るとなると、通らねばならない大難関がある。
女御をやめるくらいのことをしなければ、プリン・ア・ラ・モードを作ることは叶わないだろう。
しょうがない。
また牛乳でなにかスイーツでも作ろうかな。
ふいに頬を撫でて行った風に、鷹子はあの帝が作ってくれた山中の美しいオープンカフェを思い出していた。
手つかずの自然あふれる美しさは、文明にどっぷり浸って生きてきた鷹子の心をも打つ。
でも、ゲームやりたい……。
此処の遊びなぞ、暇で暇で、と鷹子は思っていた。
スマホゲームもなければ、漫画もない。
あるのは小説くらいだが、なにやら、めそめそした話ばかりだ。
……お笑いはないのか。
この時代のお笑いってなんなんだろうな。
天照大神を呼び出すために、裸踊りして大笑いとかいうくらいだからな。
裸踊りのなにがそんなに面白いのかわからないが。
まあ、現代でも酔ったおじさんが裸で踊り出すから変わりないのかな、と鷹子が思ったとき、帝から使いの者がやってきた。
文を受け取った女房が命婦に渡す。
「本日、帝がお渡りになられるのでは?」
命婦がそれを鷹子に渡しながら言ってきた。
何故、来る……。
昨日も来たばかりなのに、と顔をしかめながら、鷹子は可愛らしい野の花のついたそれを開いた。




