表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第一章 鵺の鳴く夜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/98

ひとつめのスイーツ、完成しましたっ

 

 次の日の昼ごろ。


 吉房と是頼と、晴明と青龍という名の少年が鷹子の許に現れた。


 ……何故、こんなにいっぱい、と思う鷹子に吉房が言う。


「鷹子よ。

 あの牛の乳でなにを作ったのだ」


「作ったというか。

 まあ、できそうかな~という感じなんですが。


 ……困りましたね。

 あの量では、全員味見できるほどはないように思うんですが」

と呟いたあとで、鷹子は女房たちに命じた。


「温めたあと放置していた牛の乳を持ってきて」


 はい、と女房たちがあの壺を持ってくる。


「加熱して殺菌したあと、一日置いた牛の乳です。

 この分離した上の部分が、カイマクです」


「カイマク?」


「中央アジアの遊牧民族の方々などが作っているカイマクというものです。


 牛乳の乳脂肪分ですね。


 つまり、生クリームです。


 ……と地理の先生が言ってました」


 生クリームというか。


 生クリームのようなものというか。


 バターっぽくもあり、クロテッドクリームのようでもあり。


「ちょっと牛乳と混ぜたくらいがいいかもしれませんね。

 命婦」

と鷹子が合図すると、命婦が揚げたての唐菓子を持ってきた。


 小麦粉を練って油で揚げてもらったのだ。


 そのとき、ちょうど若いふたりの女房が庭先に現れた。


 手にはザルを持っている。


「女御様、お持ちしましたっ」


 ザルの中には可愛らしいぷちぷちした赤い粒の野苺がたくさんあった。


 これこれ。

 小学校の裏山で、先生に隠れてよく食べてたな~、と思いながら、鷹子は井戸水で洗ってもらったそれを指でつまむ。


「三角に揚げてもらった唐菓子に、この生クリームっぽいものをのせて、野苺を飾ると」


 鷹子は銀の平皿の上に唐菓子を置いてもらい、白いカイマクをかけてもらった。


 その上に、おままごとでお料理するときのように野苺をちょん、ちょん、ちょんっと置く。


 おお、と男たちも女房たちもその銀皿を覗き込んだ。


「なんと可愛らしい菓子ではないかっ」

と吉房が声を上げる。


「食べられるのか? これは」


「はい。

 甘くはないですけどね」


 なんとなくケーキというか。

 雰囲気だけケーキというか。


 下の唐菓子が硬いので、どっちかといえば、タルトっぽいかもしれない。


「牛乳がこの量だとカイマクがあまり取れないので、ほんのちょっぴりしか作れませんけど」

と鷹子は苦笑いした。


 銀皿の上のケーキっぽいものは、きっと食べても美味しくはないのだろうが。


 この世界で、こんなものが見られたことに、鷹子は感動していた。


 前の世界を思い出し、ちょっと涙ぐんでしまう。


 それを見た吉房が、

「わかった。

 此処に大量の牛の乳を運ばせようっ」

と言い出した。


 いや、それは結構です。


 カイマクとったあとの残り、どうするんですか。


 ちょっと作ってみたかっただけなんですよ。


 ちなみに、このカイマク。

 鷹子の時代に普通に売っている牛乳ではできない。


 分離しないよう乳脂肪分を細かくする、ホモジナイズという加工がなされているからだ。


 そして、そんな風に調整されていないノンホモ牛乳と言われるものは高い。


 大量のノンホモ牛乳から生クリーム作っていいだなんて贅沢な話だな、と思いながら、鷹子は野苺のタルトっぽいものがのった銀の平皿に銀の(さじ)を置いてみた。


 銀のフォークが欲しいところだが、この時代には、金属の匙はあってもフォークはないのだ。


「よし、女御。

 それを持ってついて参れ」


 突然、吉房がそう言い出した。


 え? と鷹子は顔を上げる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ