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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第一章 鵺の鳴く夜

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スイーツにはやっぱり、彩りも欲しいかな


「晴明、お願いがあるのですが」


 あれからまた誰かに狙われたり呪いをかけられたりしていないか様子を見に来てくれた晴明に鷹子はそう言った。


 牛の乳は手配できそうだ、と思ったら欲が出てきたのだ。


 最初は、アレさえできればいいと思っていたが。


 いや、せめて、この世界でも叶いそうな彩りをもう少し、と思ったのだ。


「晴明。

 なにかいい果物とかありませんか?」


 陰陽寮なら変わったものもあるという話だったし。


 陰陽師って、みんな博識そうだし、と思い、訊いてみたのだ。


 だが、訊き方がざっくり過ぎたらしく、晴明は、

「……なにかいい果物とは?」

と小首を傾げている。


 オレンジとかはないだろうしな~、と思いながら、鷹子はまた訊いた。


蜜柑(みかん)とか、柑橘系で、普段食べてるのとは違う感じのとか」


 洋物っぽい感じ、と思って鷹子は言ったのだが。


「普段と違う、いい蜜柑ですか。

 縁起の良い蜜柑ということですかね?


 では、非時香菓ときじくのかぐのこのみとか?」

と晴明は言う。


 ……いい蜜柑の方向性が変わってしまったようだ。


 非時香菓ときじくのかぐのこのみとは垂仁(すいにん)天皇が田道間守命(たじまもりのみこと)に探させたという、不老不死の力を持つ実だ。


 この、時を選ばず香る果物、非時香菓は、現代では橘の実のことではないかと考えられている。


 橘の実かあ。

 かなり酸っぱいと聞いたけど。


 酸っぱいから、酢みたいに健康に良くて、不老不死の実って言われてるだけなんだったりして。


 いやでも、酸っぱい実なら他にもあるよね。


 なんで、その実だけが、不老不死の力を持つと言われてたんだろう。


 などと考えながら、鷹子は訊いてみた。


「あるんですか? 非時香菓」


 そう言いながら、まあ、この時代なら、橘の木、今よりはあるかな、と思う。


 現代では野生のものはもう少なくなってたみたいだけど。


 そこで、晴明は頷き、鷹子を見つめると、口を開いた。


「実は……」




「なんと斎宮女御様は非時香菓を探しておられるらしいですぞ」


 そんな噂話を宮中で耳にした、姿を見せない中宮の父、左大臣、藤原実守(さねもり)はどきりとしていた。


 実は、自分の荘園に密かに手に入れた、非時香菓ではないかと思われる木が植えてある。


 まだ木もあまり大きくなく、実もつけてはいないが、あれは非時香菓だと信じている。


 まだ一度も実がなったところさえ見たことがないのに、斎宮女御に狙われているとはっ。


 中宮の座だけではなく、不老不死の妙薬、非時香菓までっ、と左大臣は早合点していた。


 やはり、あの女御。

 早めに始末しておかねばと思う。



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