三十六話 残された時間で出来ること(1)
ブックマークありがとうございます!
――わたしは天宮桃花。十七歳の女子高生。
わたしの両親は仕事人間でとても多忙な人たちだった。小さな頃から何かと言えば仕事優先で、わたしは放ったらかしにされることの方が多かったと思う。
「桃花、お父さんもお母さんも今夜もお仕事で遅くなるから」
「夜ご飯はお弁当をチンして食べてね。冷蔵庫に入っているから」
「……うん」
だから両親揃っての家族で食事なんて滅多にない。しかも二人ともすごく料理下手だから、ご飯と言えばもっぱらコンビニ弁当か冷凍食品、それかスーパーのお惣菜が我が家の当たり前だった。
――だけど、
「桃花! 今日はお父さんもお母さんもお仕事お休みだよ!」
「みんなでカレー作ろっか!」
「ほんとっ!? やったぁ!」
本当に、ほんとーに極たまにだけど、家族が全員揃う時があって、そういう時は両親がカレーライスを作ってくれたのだ。市販のルーを使っているからお母さんが作っても、お父さんが作っても同じ味。
「桃花、美味しい?」
「うんっ!!」
そんなカレーライスがわたしの家庭の味で、唯一の温かい手料理だった――……。
◇◆◇◆◇
閻魔様の宮殿にある庭園はとても広大である。
真ん中にあるひょうたん型の池を中心に、左側には前にわたしが落ちかけた古井戸が。そして実は右側には、見るからにお宝が眠っていそうな重厚な造りの立派な〝蔵〟があったのだ。
「う、わぁーっ!!」
四人でほっこりと煮込みうどんを啜った翌朝のこと。
今日も今日とてみんなでの賑やかな朝食を終えたわたしは、そんな前から気になっていた蔵を茜と葵と一緒に掃除をすることになったのである。
「すごいっ! 高そーな桐箱がいっぱい! あっちの壺なんて金ピカで、見るからに高級な品よね!?」
「おい、桃花。あんまりキョロキョロして、足元の品を蹴飛ばさないよう気をつけるアカ」
「もし壊しでもしたら、地獄で永遠に強制労働しても返せない程の借金を背負うことになるアオ」
「じごっ!? わ、分かってるわ……」
笑えない二人の脅し文句にゾッと頷く。
だがしかし、蔵の中には壺の他にも、掛け軸や皿などの骨董品。それに絵画や高級そうなお酒なんかも所狭しと保管されていて、否が応でもわたしの好奇心をくすぐるのだ。
ついついキョロキョロと、あちこち見てしまう。
「蔵の掃除って、どれくらいの頻度でやってるの?」
「週に一回は定期的に行っているアカ」
「へぇ、どうりで綺麗だと思った」
それなら掃除自体は、埃を軽く払うだけで済みそうだ。
「じゃあオイラたちは二階の掃除をするから、桃花は一階を頼むアオ」
「りょーかい! 任せて!」
わたしがビシッと敬礼すると、ギシギシと古い木造の階段が鈍く軋む音を立てながら、茜と葵が蔵の二階へと上っていく。
「さて、やりますか」
それを見送り、口元に手拭いをぎゅっと巻いてから、わたしはパタパタと持ってきたはたきで棚や品物の埃を落としていく。
……そうして粗方の埃を払い終えた頃だった。
「んっ? あれ? これって、もしかして……」
蔵の奥まった一角で、わたしはこの冥土には少々似つかわしくない意外なものを見つけて、目を丸くする。
「多分……お祭りとかで使うのぼりよね? あ、こっちには鉄板や木炭もたくさんあるわ」
のぼりに近寄ると、横には縁日で使うような屋台の骨組みもあった。
更に足元に雑に積まれたダンボール箱を開ければ、中には木炭がぎっしり。大きな鉄板もいくつもまとめられている。
「わっ、花火セットまである! これってまだ使えるのかしら?」
なんだか地元のお祭りを思い出して懐かしい。
屋台のご飯って、焼きそばとかたこ焼きとか別に特別な料理って訳じゃないけど、なんだか妙に美味しく感じるのよね。まるで〝特別な味〟って感じ。
「でも、一体なんでこんなものが冥土にあるのかしら……?」
――お祭りと閻魔様。
失礼だが全然結びつかず、思わずわたしは首を傾げた。




