第14話
3日後、真夜中にキサラはやって来た。
「ラデリは始末できた。ここを抜けだそう。」
私とリィンは首輪を外して捨てた。
キサラについていく。キサラは索敵のスキル持ちらしく殆ど人と会わない。少数の人数と出会ったがさっくり殺ってた。
夜が明ける頃、外に出られた。
既に王都を脱出する手筈が済んでいるらしく、紋の入っていない大きな2台の馬車の元へ連れられてきた。先頭の馬車に案内される。
「中でリュート様が待っている。」
馬車に入ると10歳くらいの金髪に新緑の瞳の可愛らしい少年がいた。
「ようこそ、闇の守護者様。僕がリュートだ。」
大きく胸を張る。
「初めましてリュート様。私はエイラ、そちらの子はカヤです。」
「それは偽名だろう。本名を名乗れ。円呪の首輪など嵌めん。」
「それを信用しろと?」
リィンは不敬になりそうなことも平気で言う。この辺がカイの作った人形だと思う。
「なら証文を作ってやろう。」
例の特別式の証文を作ってきた。約束破ると首が落ちるやつな。
リィンはそれをよく読んだ。リュート様がサインする。それをリィンが預かる。
「私の名前はリィン、こちらの子はサトコと言います。」
「よろしくな、リィン。サトコ。」
それから闇の守護者の事について聞かれたがこちらには何の能力も無い事を正直に話した。
「光の守護者は召喚され、すぐに能力を発動したと言うがなあ。」
「リュート様は闇の守護者にどのような能力をお求めですか?」
聞いてみた。光の守護者なら癒しで良いだろう。光っぽいし人々から感謝もされるし大いに結構だ。闇は?あんまりいい能力が思い浮かべられないのだが。
「そう言われると困るなあ。キサラ、どう思う?」
「過去の闇の守護者様は魔物を従える能力や、疫病を操る能力などがあったそうだ。リィン様が能力を持たれていたら返って困るだろうな。」
「そうだな。」
あんまり前向きな能力じゃないよね。それから馬車の中で色々な話を聞いた。馬車の中にはリュート様、キサラ、リィン、私の四人だ。後ろを走っている馬車が執事のレナードさんと荷物用の馬車らしい。それぞれ御者台に2名ずつ御者がいるが、この御者が万能使用人となるらしい。名前はリード、ララン、ビタ、ベルツ。
ラクシェへ行く経路はサーリエから船でマイルへ、マイルから陸路でオスカーへ、オスカーから船でリアロへ、リアロから陸路でカランへ、カランから船でパパナへ、パパナから船でアトシアへ、アトシアから陸路でハルドラ、ラクシェへ行くらしい。聞いただけで気が遠くなりそうな遠い道のりだ。
サーリエとラクシェは同じ大陸にありながらユン大樹海、竜谷、ガレイド国に阻まれて一直線では通過できないらしい。もしすべての土地に安全に立ち入れるなら旅路はうんと短く済んだであろう。
馬車は海路を渡るたび、売って買ってを繰り返すようだ。
因みにキサラは普段はリュート様の家庭教師をしているそうだ。頭も良くて強いらしい。格好良いしな。ちらっとキサラを見る。
「サトコ、どうかしたか?」
「い、いいえ!」
格好良いと思ってたとか馬鹿な事は言わない。
フィーもそんなに乗り心地は良くなかったが馬車はそれ以上だった。私はすぐにお尻が痛くなってしまった。しかも酔った。
「サトコ、顔の色がすぐれないようですが。」
リィンが気を使ってくれる。
「酔った。」
「酔い止めの薬だ。飲むと良い。」
キサラが薬と水をくれた。薬は信じられないくらい苦かった。
初めての夜番。眠気と闘った。私達の中で夜番を免れているのは王子だけだ。リィンは私の夜番を代わってくれようとしたが、そんな事をしたら私とリィンの立場が逆、ましてやリィンが睡眠を必要としない人形だと言う事がばれてしまうので断った。実際のところリィンが絶えず周囲の気配を窺っているので気配を無効化する敵でも来ない限りは私が夜番をする意味はない。衣類はある程度王子たちが揃えてくれていたが洗濯はしなくてはならない。私の洗濯分をこっそりリィンが代わってくれている。人形だから手が傷む事はないんだって。それからトヤの実だけは譲れないという宣言をかました。王子の使用人たちには苦々しい顔をされたが、垢擦りだけで耐えるとかマジ勘弁だ。
「リィン様とサトコは今まで余程いい暮らしをしていたのだな。手も全く荒れていないし、肌も綺麗だ。」
キサラがしげしげと手を見る。あんまり見ないでほしい。
「はい…」
カイにべとべとに甘やかされていたからな。結局カイの気持ちは私にはなかった訳だけど。私の胸はじゅくじゅく痛んだ。まだ痛い。まだ好きだ。
「どのように暮らされていたのか聞いても?」
「いえ、聞かないでください。もう忘れたいことなので。」
「…そうか。」
魔術師の国、サーリエの街では色んな魔道具が売られている。魔道コンロだったり冷風機だったり。欲しいと思う物もあったけど全財産が白金貨9枚ちょっとなので慎むことにした。それだってカイから貰ったお金だから本当は使いたくないしね。因みに一応王子に仕えているということになっているので月に金貨3枚貰える。リィンと合わせて6枚だ。リィンは「全てサトコが使ってください」と言っていたのでまるっと私の分な訳だが。月に1枚はトヤの実分で飛んでいく。リィンはトヤの実はたまにしか使わない。相当汚れた時のみ使う。あとは完全水洗い。人形だから垢も出ないし。たまに双剣を研ぐ研ぎ料だけは必要になるらしいけど。
宿ではリィンと相部屋だ。
リィンとまったりお風呂に浸かる。
「リィン様~。失恋に必要な物が何か知ってる?」
「わかりません。なんですか?」
「新しい恋だよ。」
「サトコは誰か好きな人が出来たのですか?」
私は首を左右に振る。そう簡単に新しい人好きになれたら苦労しないよ。
「サトコにはきっとサトコに相応しい人が現れます。」
「うん…」
旅4日目。大量の魔物の群れに襲われた。キサラとハイパー執事のレナードさんとリィンにさくっと討伐された。
「リィン様はお強いな。」
「いえいえ。光の守護者様もお強いと聞きます。」
「そう言えばそうだったな。守護者様というのは強いものなのだろうか。そう言った文献はなかったように思うが。」
キサラが考え込んでいる。魔物の素材は山分けされた。リュート様が独占する事もできただろうにそれをしない所に好感が持てた。素材は次の街でお金に変えた。結構量があったので金貨6枚と銀貨2枚になった。魔物美味しいわー。
旅6日目。宿の調理場でフェットチーネを作ってみた。カイが作ったのを見よう見まねだ。
結構まともな物体が出来たと思う。夕食で振る舞ったが、大好評。私は食べてみて…カイが作った方が美味しかったと思ってしまった。そう思ったらなんだか泣けてきて、私はわあわあ泣いてしまった。リィンが慰めてくれる。
旅7日目。野宿。私が見張りの時キサラがやってきた。何も言わずに私の隣に腰掛ける。
「キサラさん、どうかしましたか?」
沈黙に耐えかねて聞いてみる。
「…うむ。私もこういうのは柄じゃなくて上手く言えないんだが、その、元気出せよ?」
何があったかは聞かない。けれど大きな手で髪をぽんぽんと撫でてくれた。うるっとしてしまう…
「……有難うございます。」
カイは私の事好きじゃなかった。それが凄く苦しかった。でも今こうしてリィンや私の事を心配してくれる人がいる。その事が有り難い。くじけてちゃダメなんだよね。
旅8日目。マイルに行く船に乗ることになった。リュート様とキサラは一等客室の相部屋、私とリィンは二等客室の相部屋。執事さんや使用人さん達も二等客室らしい。
「リィン様。マイルはどんな国?」
「奔放と悦楽の国と言われています。良く言えばゆったりとしてますが、悪く言えばだらしない国です。マイル人と待ち合わせをしたら2時間以上待たされるのが普通です。その代わりこちらが遅刻しても何も言われません。性文化が発達しており、男性への媚薬成分を含む香油や、避妊・性病の防止をする消耗品があります。世界最大規模の遊郭があり、子供から男、老女まで幅広く春をひさいでおります。」
「へ、へえ…」
時間にルーズなのか。勤勉な日本人からすると考えられない国だな。子供から男、老女とは品揃え豊富だね。日本でも衆道とかあったしホモもペドも需要的には違和感が無い。私だって12の男の子に期待しちゃってたショタだし……気が重くなった。この発想止め!私何かというとすぐカイと結びつけちゃう。これって良くない傾向だよね。もっと周りを見て広い視野で物事を考えなきゃ。
料理はテリーヌもどきやキャビアのような物が出てきた。私はあまり口に合わなかった。貧乏舌だからね。しかし二等客室用の食堂にしては豪勢なものでてるな。リィンに聞いたら、この世界ではキャビアはそんなに高くないんだそうだ。バケットをむしゃむしゃ食べる。ああ、お米が食べたい。ぴかぴかの白米食べたい。けどもうササエには立ち入らないって決めたんだからね。
一等客室の客にはお風呂があるらしい。二等客室以下にはお風呂はない。今回は水を出してくれる人もいないし…って思ってたらキサラが来た。
「風呂は無理だが水を出そう。それで身体を拭うと良い。」
大きな盥を借りてきてくれたようだ。
「我望むは清流。」
盥に水が溜まっていく。
「キサラさん魔法使えるんですか?」
「水と風と氷が使える。」
「へえー、すごいんだぁ。」
「一応魔導国家出身だからな。」
キサラは照れ臭そうに笑った。
「盥は船員に返しておいてくれ。」
「はい。有難うございます。」
私は嬉々として綺麗な水を使って体を拭った。ずっとお風呂入れないかもしれないと思うと憂鬱だったんだよ~!!良かった!私の後にリィンも水を使う。二人ともさっぱりしたところで汚れた水は海に捨てて盥を船員に返した。4日間、毎日キサラは水を入れてくれた。




