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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第8章:最古の魔王
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第387話:ホッとする瞬間


「分かったよ、ギリム」

「よし。追い詰めるぞ」



 麗奈達が呪いの対処をしていた時、最古の魔王である彼等は独自に動いていた。

 アルビスの感じ取った魔力に覚えがあり、ギリムへと相談をしていた。それに加えて、ユリウスの事を狙うような動きにサスクールと何か関係が無ければ動けない。

 だからこそ、ギリムは今回関わったのが神殺しの仕業であると考えた。

 彼等には悪いと思いつつ、結果として囮として使ってしまった。彼等が呪いへの対処が遅れれば、フォーレスが危険な状態にあったのも事実な上にユリウスの命も危険に晒される。


 神殺しの動きが分からない以上、本人に聞くしかない。

 この機を逃せば次に接触できる機会が得られるのかも分からない。そう考えたギリムは、アルビスと共に異質な魔力の反応を辿った。


 その犯人が居たのは皇都の外れだ。

 感知能力があったのか、直前まで迫っていたギリムとアルビスに気付く様子を見せる。だが、アルビスも事前に準備していたのか彼にしか分からない仕掛けをしていた。自身の魔法により、この皇都中に不可視の鎖を張り巡らせた。

 アルビスの設定した人物にしか感知出来ない仕様となっており、そうでない人物には鎖に当たってもすり抜けるものとなっている。



「合図なんてやってなかったと思うが」

「僕は1回やられたから、用心しただけ。それ以上の会話は不要でしょ?」

「うむ。任せて悪いな」

「それこそ今更だよ。同じ魔王なんだから、やれる事はやるだけでだし」



 仲間意識はありつつも、こうした連携が出来るかは不安に思っていたギリム。

 数百年ぶりに会うのもあり、定期的に開いている会議にもアルビスは参加した回数は片手間で数えられる程に少ない。

 彼は察する能力にも長けている事を思い出した。

 背中を預け合う仲であり、戦友にも似た絆に思わず笑みを零した。



「そういうの止めて。ほら、真剣になって」



 アルビスにそう言われるが、こうしている間にギリムだって出来る事はしている。

 心の中を読める自身の能力を使っても、捕まえた人物の事は分からない。恐らくギリムと似たような力を持った者が居るからこその対策だろうと考える。



「よし、場所を変えようか」

「はいはい。皆に知らせておくよ」



 そう言って転移で移動した場所は、全てが黒で塗りつぶされた空間だ。

 上下左右の全てが黒であり、体感的に分かるのは椅子に座らせている事というだけ。出口らしいものが見えない以上、閉じ込められているのだと分かる。



「何を聞いても無駄だ」

「あぁ、それは分かっている。だが、下手にあの場に居ると別の被害が出るだろうからな。居心地は悪いが我慢してくれ」



 ギリムからの言葉に、内心で舌打ちをする。

 アルビスが操られたのも、ユリウスに同盟の物を渡したあの呪術師のように、周りで操られる者を防ぐ為だと理解した。

 視認した時に操られるのだと考えたギリムは、空間全てを塗りつぶす黒で行く事にした。

 アルビスから聞いた話によれば、彼は見知らぬ人物に対して警戒していた。


 自分が作ったダンジョンの入り口はランダムであり、運よく入れる場合もある。だが、ここ最近ではその入り口も固く閉ざしていた。なのに、その人物はいきなり現れ対峙した。その瞬間にアルビスの意識が落ち、気付いた時には体が思うように動かなくなっていた。

 しかも、その間にダンジョンで作った魔物は外の世界へと流されており、様々な魔物の融合化したものが生まれ始めた。


 魔法が一定の威力でないと効かない魔物、統率力に長けた魔物、気配を全く感じられない魔物など麗奈達が来てから報告が上がり始めたものは後になって、アルビスの作った魔物によるものだと分かった。数を増やすのが危険だと判断したアルビスによって元となる魔物は減った。

 

 だが、既に別の個体と融合もしくは繁殖された魔物の数を計るのは難しい。

 アルビスの魔力を感知する事で、どの魔物なのかは分かるが時間が掛かる。なので、それらの魔物の処理は魔王ミリーとリザークに任せている。

 彼等の実力も合わせ、部下や幹部達の力の向上も図れるだろうと考えた。その際、ギリムとディークの幹部達も使って良いとなりミリーが「ほぅ、よし。いい機会だ……」と何やら悪い顔をしていたがそっと見て見ぬりをすると決めた。

 


「得られる情報は少ないが、被害が出るよりはマシだ」



 視認により、相手の意識と体の自由を奪う魔法なら避ける方法は限られる。

 相手の目を見ずに拘束するか、魔力自体を無効化するしかない。その点、アルビスの繰り出す鎖は拘束と魔力の無効化に適している。

 

 アルビスと共に戻れば、呪いの後処理をしている麗奈達と合流を果たす。

 その後、フォーレスの王への報告を済ませ、精霊の状態も安定している事を告げる。彼は目に見えてホッとした様子だと分かる。



「被害を完全に抑えて下さり、感謝します」

「感謝ならこの国の精霊に改めて言った方が良い。彼が頑張らなければ、もっと早くに滅んでいただろうからな」

「……ですが、我々はもう精霊の声も姿も見なくなって数百年は経ちます。我々の声を果たして聞いて下さるかどうか」

「それなら召喚士であり、異世界人でもある麗奈達と居ればいい。彼女達が居るだけでも、精霊の姿だけでなく声も聞こえる」



 特に精霊の父親として知られている原初の大精霊であるアシュプ。

 その彼と契約をしている麗奈は特に、精霊との繋がりを強く感じ取れるのだと言う。この国の精霊の記憶までも見たと聞き、驚きの表情を隠し切れない。



「今までその者のような事は、過去にも居たのだろうか」

「ふむ……。彼女が初だろうな。好かれやすいのも含めて、アシュプとの相性が抜群に良かったのも高い能力の裏付けだろう」

「そうか……」



 少し考えた後でギリムはそう答えた。

 先祖返りとしての麗奈は、確かに優菜の力をも引き継いでいる。それを差し引いても、あの精霊達の懐きようを考えるとそれすらも、デューオの加護なのではと考えてしまう。

 しかしデューオにとっても麗奈の好かれような異常に映っている、とサスティスから聞いているので自然とその考えは捨てる事にした。



======



「ただいま、ザジ」

「……おう」



 呪いを浄化した麗奈達は腹ごしらえをする為にと、ザジが待っている店に来ている。

 ファインが常連客なのもあるが、一番は国の8大将軍の1人だった事の方が大きい。王に謁見している間の時間つぶしとして、ゆき達と食事をしていた所に精霊の異変が起きた。


 呪いに対処出来るゆき達と違い、今回ザジは待っているだけでしかない。

 彼自身の扱える属性が不確定な為に、呪いにどう作用するかが分からない。力になれない無力さは、死神の時にも味わっている。だからこそなのか、麗奈が無事な姿だとしてもザジにとっては不安でしかない。



「ごめんね、遅くなって。アルベルトさんと何のご飯食べたの?」

「ん……」

「へぇ麺料理か。ザジは好きな食べ物とかあった? おススメはある?」

「うん……」

「そっかそっか。心配掛けちゃってごめんね。大丈夫、私は無事だから」

「……うん」



 覆いかぶさるようにして麗奈を抱きしめるザジは、何だか拗ねているようにも見え返事をしているのかも微妙だ。だと言うのに、全てを言わずとも会話を成り立たせている麗奈に、不思議そうに首を傾げるのは分身体のアルビスとデューオの2人だ。

 思わずユリウスに小声で聞いてしまう。



「ねぇ、何であそこまで詳細に分かるの? 彼、うんとしか言ってないよね?」

「ギリムみたいに心を読めるの?」

「付き合いが長いからな。阿吽の呼吸ってやつだ」

「……僕とクーヌみたいな?」

「すみません。俺はクーヌさんを知らないので、何とも言えないんですけど」

「え、あ……そっか。2人はまだ会ってなかったね。今度、遊びに来て良いよ?」



 ハルヒ達にはクーヌの存在を知っているからか、つい麗奈とユリウスも知っていると思って言ってしまった。アリサからも2人について聞いているので、既に会った気でいたディークは後で招待状を書こうと心の中で決めた。



「俺達もお礼をと考えていたので、今度遊びに行きます」

「ん? お礼?」

「アリサの世話だけでなく、俺達を探すのに色々と協力してくれたってゆき達から聞いているので」

「えー、別に気にしないで良いのにな」

「そうはいきませんよ。今回、助かった部分が大きいので正式にお礼をします」

「もっと気楽に考えたら? 仲間なんだから助けるんだって」

「その気持ちは分からなくないんですが……。やっぱり、後日お礼をさせて下さい」



 その時、クイッと服を引っ張られるのでユリウスを視線を追う。

 分身体であるアルビスは、自分も何か欲しいと言うアピールをする。ワクワクした気持ちで返事を待っているので、答えようとしたユリウス。だが返事よりも先に、本体である自身が制止に掛かるようにして頭を鷲掴みにした。



「なんで期待してんの。この国を守れって言ったろ」

「いだだだっ、自分自身に容赦ないっ!!」

「当たり前だ。感覚切り離して、体を分けてる分身体なんだ。意識がもう別物なんだから、同じ見た目でも別人とみなす」

「うぐぐっ、だからって酷い……」



 涙目の分身体に、本気で止めに掛かる本体。

 同じアルビスなのにこうも性格の違いが現れるのか、とユリウスは思った。その後、本体のアルビスから逃げるようにしてユリウスの背に隠れる分身体は「うー」と唸り声を上げて、警戒心を剥き出しにしている。



「え、何このカオスな状況……」

「あぁ。そう言えば今回、ザジは役立たずだったね」

「あ?」



 昼食の続きをと思っていたゆき達が合流するも、ハルヒの言葉にザジが睨み付ける。

 麗奈を抱きしめながら、ハルヒへと器用に敵意を向ける。落ち着くように説得するも、今にも飛び掛かりそうなザジをサスティスがポン、と頭に手を乗せる。



「帰りを待ってて偉いね、ザジ」

「うぐぐ……」



 褒められると恥ずかしくなり、視線を合わせないようになる。

 顔が赤いのを見られたくないからか、更に麗奈の事をギュッと抱きしめる。ポンポンと背中に手を当て、よしよしと褒める麗奈に逃げ場を失った。


 見ていたゆきは、思わず子猫の時のザジを思い出す。

 褒められ慣れていないのは、今も子猫の時も変わらず。そして、そうなると彼は決まって唸るか顔を見られないようにしているのが癖だ。



(うんうん。やっぱりザジはザジだよね)



 ゆきからの生暖かい視線を感じ取り、ザジは更に顔を隠す。

 フォーレスの王へ報告を済ませたギリムが戻る頃には、食事を済ませた後。ディークと分身体のアルビスが、異様にユリウスへと懐いているなと感じ取る。



「人たらしなのは朝霧家だけじゃなかったね」

「それは……まぁ、あの兄の弟なんで当たり前だと思います」

「無自覚な者同士なので、お似合いですよ」



 ランセの言葉に、ラウルは視線を彷徨うわせながらも肯定。ベールがそれに続くも、ユリウスは何処か納得いかない様子でいる。さっきまで死闘を繰り広げたとは思えない程の和やかな空気が流れ、事後処理を進めているリーズヘルト達。


 彼等がホッと息を吐いたのは、夕方になってから。

 上がってくる報告書の中、変わりない日常を過ごしているのが分かると国を守れて良かったと思い改めて麗奈達へのお礼を考えなければと思う。

 

 意外にもそれを実行しようとしているのは、リーズヘルトだけではない。第2皇子であるユートリアもお礼の為にと、色々と準備を進めているのだった。




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