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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第8章:最古の魔王
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第380話:陰陽師の本領発揮


「そこまで呪いの根は深いのか……」



 その問いにランセは言葉を選ぼうと思案する。だが、こうしている間にも呪いの進行は進んでいる筈だし対処している麗奈とユリウスの身も心配だ。

 酷だとは思いつつ、ランセはファインに告げる。自分がしている事は、恐らくギリムもやっている事だろうから。



「深すぎるね。ある王族の呪いと同じか、それ以上に深い」

「……」



 ユリウスに掛けられた呪いは、魔王サスクールによるもの。ラーグルング国の王族は、その全てが創造主デューオとの適性を高められている。

 今にして思えば、魔法国家の王族は最初から世界の基盤を壊すのに狙われていたのだろう。

 しかも年月が経てばその分、効果が増すという厄介な力も付与されていた。その所為で、ランセの魔眼の効力である呪いを消す力も効果が薄いものとなる。


 それは、今皇都中に呪いを振りまこうとしている竜に対しても同じ事。

 ユリウスが助かったのは、呪いを分散する為の柱が役割を果たした事と四神の式神の力によるものが大きい。呪いに掛かる負荷はもっと深刻なものへと変わる筈だったのを、四方を守る神である四神と麗奈達が対処した事でいくらかの軽減がなされている。


 あの時と同じ事をここでやろうとすれば、その被害で呪いは絶てても皇都が滅んでしまう程の余波を生む。呪術師がこの国では居るが、こんな大掛かりの呪いに対処出来るかは不明だ。

 そして何より――とランセはチラッとゆき達を見る。



(まぁ、うん……そうだよねぇ)



 ハルヒは既に情報を集める為にと式神を飛ばし、破軍はランセの視線に気付いてヒラヒラと手を振る。ゆきと咲は小声で「呪いの対処はね」と対策を話しており、彼女達の足元ではラウルが契約しているアルブスがピンッと耳を立てて聞いている。


 既に半透明になっているフェンリルは水脈を探るかと小さく呟きすぐに消えた。

 なんとも行動が早すぎてて、乾いた笑いすら起きる。隣ではサスティスがニヤニヤとした顔をしており「どうするの?」とワザとらしく聞いた。



「運が良いですよ、ファインさん。対処出来る術をこっちは持っているので」



 すると、ディークがギリムから連絡があったと聞き行動を起こす。

 呪いの対策として、ラーグルング国から誠一達がニチリからは、アウラがそれぞれ準備をしていると連絡が届く。



======


 一方でランセが話した呪いの内容は、ギリムもフォーレスの王と将軍達にも説明された。

 彼等は目に見えて、顔を真っ青にし呪いの進行が深刻な事と皇都の消滅は避けられないのだと悟る。



「……まさか守り神である竜が、呪いに侵されているとは……」

「土地神のクラスの精霊は、他の精霊達と違い呪いに対して耐性はある。本来、ここまでなるのにはまだ数百年は先だ。アルビス、この分身体を黙らせてくれ……地味に痛いんだが」

「え、ヤダよ」



 ギリムが説明している間、アルビスが創った分身体は無言で蹴り続けている。

 本体より力は劣るとはいえ、魔王である事には変わらない。しかも、力加減は一定で狙いも同じ足の脛のみだ。

 分身体はブスッとしており頬を膨らませて、不機嫌であるのだとアピールを続けている。



「100年守れって言った矢先に、今度は皇都を滅ぼすしかないって言われたんだ。仕事出来ないのが嫌なんだよ」

「はぁ……。普通なら、更地にして核を引きずり出すしかない。それに2人が対処したのはの呪いの中でも本体と呼べるものだ。他の2つの呪いは、こちらで対処出来るレベルだ」



 ピタっ、と分身体の攻撃が止む。

 すぐにギリムへと視線を向け「仕事をしたいだろ?」と言うと、ぱあっと見るからに笑顔だ。アルビスがエールを送ると嬉しそうに頷いた。



「では分身体よ。余の代わりに誤認魔法を張っておいてくれ。呪いを祓うのに集中したいからな」

「んっ!!」



 ピョンピョンとその場で飛び跳ねたかと思えば、天へと手をかざして魔法を発動。

 そのまま外へと転移し、妨害がないかと周囲を見回している。アルビスが小声で「はしゃぐとは思わなかった」と言ったのは無視する。

 アルビスが抑えていた呪術師の意識が回復し、自身の起こした行動を覚えていたのだろう。さあっと顔を青くし、口をパクパクとしながらも謝罪した。



「謝る必要はないよ。悪いのは君の体を使って操った方。利用されていただけなんだから、気を落とす必要もない」

「で、ですが……。私がした事は、同盟の成立を危ぶまれるだけでなく、皇都を滅ぼす手助けを」

「ならば挽回をするんだ」

「……え」



 キョトン、となるもギリムは続ける。

 操られていた事すらも罪だと思うのなら、それを挽回する為に呪いを解く功績を立てればいいのだと。



「呪術師は、呪いへの対策と研究を続けている特殊部隊だと記憶している。余の記憶違いでないのを祈るぞ」

「っ、は、はい……!!」



 この事態を生んでしまった自身を不甲斐なく思いつつ、挽回する為にと彼はすぐに冷静さを取り戻す。その切り替えの早さにギリムは軽く笑みを零し、すぐに真剣なものへと表情を切り替えた。



「幸いにしてこちらには呪いに対処出来る者達が多い。呪術師と同じように専門職の者達が居るからな」



 そうしていると、ギリムの元へ1枚の紙がひらひらと不自然に舞い降りた。

 敵の襲撃かと思い警戒を示すも、ギリムはすぐに違うのだと告げた。



「あーあー。こちら誠一。ギリムさん、声は聞こえますか……?」

「あぁ聞こえている。ランセから聞いているそちらでの通信手段だな」

「すみません、詳しい事情は聞かされていないですが呪いに関しての事でしたら深くは聞きません。麗奈も対処に動いているでしょうし」

「……あぁ、それがな」



 恐らくハルヒかランセから連絡をしたのだろう。

 対処していると言って良いのか分からないが、ギリムは麗奈の状況を伝える。長い沈黙の後で「全く……」と呆れにも似た声色が聞こえる。



「ユリウス君も麗奈にも困ったものです。2人が対処しているのが、厄介な呪いからなんだろうが……はぁ……」

『主人~。心配と期待と色んな感情が混ざってるぜ?』

「うるさいぞ、九尾」

『そう心配する事ねぇだろ? 嬢ちゃんが使う式神を考えたら心配する方がおかしいって。青龍の野郎がヘマする奴じゃねぇし、小僧の方だって耐性はある――いってぇ!!』

「騒いでないで呪いの出所を早く抑えろ。ハルヒ君に先を越されるぞ」

『はっ? 俺がアイツに負けるって言いたいのかよ、主人は!!』

「君等のやり取りを聞いていると、緊張する方が難しいな」



 信じらんねぇ、と怒りに燃えて行動を移す九尾。

 誠一とのやり取りを聞いたギリムがそう言うと「お恥ずかしい限りです……」と、恥ずかしそうにそう返す。咳ばらいをし、誠一は改めて皇都の呪いの状況を話してくれた。


 呪いが一番強く出ているのは、破軍と同じ意見の上空から1つ、地下に1つと皇都の中心部から1つ。それ以外では、皇都を囲うようにして力の出所がバラバラになっているという。

 強力な呪いから解除すれば良いのではなく、小さい力の呪いから解除していくのが定石なのだと言う。



「その理由は何故なのか聞いても平気か?」

「大きな呪いを解呪すれば、元に戻るが小さい呪いを依り代に復活してくる可能性を潰す為です。小さいものを狩りながら、大きい呪いにも対処しないといけないので集団で対処しないといけないものです」

「……ふむ。同時に全ての呪いに対処しないといけないとなるのか」

「それと呪いの根源についても潰す必要があります」



 呪いの核となるものが、どんなものなのか。

 何が呪いの力を上げてしまうのかと分析をしなければ、例え呪いを全て解呪したとしても何かのきっかけでまた復活してしまう。完全に根絶するには、核の要素がどんなものかなのかまで調べる必要性がある。

 呪いが付与されてしまっている精霊は竜である事。そして、その竜は皇都を守護する守り神としてこの土地の人々には誰もが周知している事を話す。国の機密に関わる事だが、何が呪いを解けるヒントになるのか分からない。

 専門職としている陰陽師である誠一達の知恵と力を頼りにギリムは話せる所は全て話していく。



「それと皇都の全体図を知りたいのですが、古い書物か地図を拝見する事は可能でしょうか?」

「すぐに手配させよう」



 ギリムが答えるよりも早く、フォーレスの王がそう答える。彼は無言で手を上げれば、ベーリスが小声で指示を出す。用意が終わるまでの間、ギリムは誠一をこちらに呼ぼうと考え彼がここに来れるかと聞くと2つ返事で返ってくる。

 ギリムへと飛ばした式神と彼の魔力を辿り、キールと共に誠一が謁見の場へと姿を現す。2人は麗奈達がフォーレスの王との謁見が行われると言う話は聞いていた。

 だが、まさか呼ばれた場所と雰囲気に驚き思わず睨んでしまった。



(ちょっと、聞いてないんですけど!!)

(外だと思ったから聞いたのに、今までの会話は全部聞いているって事じゃないですか……。クソっ、偉そうに言ってないか心配だ)



 ギリムが心を読めるのを良い事に、言いたい事を言ってくる。それを見たアルビスが、この人達と居ると飽きないんだと理解しランセとサスティスがラーグルング国から離れない理由を悟る。

 深呼吸をして冷静さを取り戻した誠一は、すぐに自分の仕事へと移る。

 皇都の古い地図と新しい地図を用意して貰い、昔と今との変化を確認する。本当なら歴史書と照らし合わせていきたいが、今はその時間すら惜しい。


 こうしている間に、麗奈とユリウスの身に起きている事が分からない。焦る気持ちもあるが、それでは呪いを完全に絶つのに失敗すると言うのを経験上知っている。



「あっ、やっぱりだ。誠一さん、僕です」

「ん。ハルヒ君か……。君達も大変だな、初めて来た所でいきなりこんな事になるとは」



 ギリムの隣で浮いている小さな人型の紙と同じく、誠一の方にも青い小さな紙が何処からともなく飛んできた。ヒラリと舞い降りると人型の式神からハルヒの声が聞こえ、彼が飛ばしたものだと分かる。



「別にそれは良いです、れいちゃんだし。それに呪いの感知は彼女の方が上なので、被害を抑える為に行動したのなら納得です」

「そう言ってくれるのは嬉しいな。そして色々と悪いね」

「だからってれいちゃんばっかりに負担させる気はないですよ。僕はアウラとは別行動で、次に呪いが強い地下に向かいます。破軍によれば、広がり方からして皇都中に張り巡らせてあったという話です」

「……地下か。ならハルヒ君の担当はそちらだな。地脈を利用した術式で、呪いの効力を弱らせる方法を取るんだな」

「はいっ。それに、この呪いの感じで行くと敵が行った事も同じなんだと思うんです」

「敵が張った術式をそのまま浄化に利用する、という事だな」



 ハルヒの行うべき行動を読み、誠一は既に皇都の中央に来ていると思われる武彦へと連絡を繋げる。



「そうか。彼が地下なら私は皇都の中央部分に行くべきか、誠一君と同じ所に行くべきかな?」

「そこへは我々が向かいます」



 誠一が視線を向けると、準備を整えた呪術師達が並んでいる。ギリムが、陰陽師と同じく呪いに関して対策と研究を重ねて来た部隊だと告げる。



「この事態を招いてしまったのもありますが、自分の国を守らなければ……!!」

「では不測の事態を想定して、私も同行します」



 名を上げたのはリーズヘルトであり、彼は最年少で将軍になったベーリスへと視線を向ける。その感じから「君も行くだろ?」と言わんばかりの圧に、思わず「げっ」と声を上げてしまった。



「ここは若者が働かないとね」

「え、そういう理由で巻き込まれんの……俺」



 マジか、と言いたげではあったが皇都を滅ぼされる訳にはいかないと気合を入れ直す。

 編成が決まった所で、誠一と入れ替わるように武彦が案内を通された。彼は皇都の地図の上に自身の術式を重ねていく。

 するとただの地図だったものから、黒い光が色んな所へと光り出す。その中で一際に強い光を発しているのは話題に出ている強力に感じ取れる呪いなのだろう。



「これで状況は確認できる。私はここからハルヒ君達に指示を出そう」

「お願いします。裕二の方は今何処に居ますか?」

「彼はこちらが有利になるように、陣を作る所から始めている。皇都の中心部分に向かっているよ」



 浄化師である裕二の専門は、異世界に来ても役割は変わらない。

 封印と補助を駆使して、怨霊達の相手をしてきた。そして彼も魔法に目覚めており、攻撃に転じる事も出来るようになった。

 

 選択肢が増えただけでも本人の成長へと繋がる。

 そう実感しつつ、誠一はリーズヘルト達と共に呪いの対処へと向かう。皇都の中心とされる場所には、裕二も来ている事だろう。


 守り神が厄災の元凶になってはいけない。

 それを防ぐ為に、彼等はそれぞれの役割の為に行動を起こした。



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