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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第8章:最古の魔王
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第370話:運命が変わった日


 8大将軍の1人であるリーズヘルト。彼の生まれには、複雑な事情があった。

 王に忠誠を誓った一族であり、彼の父親もそのまた父親も王への忠誠を違える様な事はしなかった。初代王妃が、異世界人であると言うのは西側諸国では有名な話だ。


 だからこそ、リーズヘルトの母親がその異世界人だった事の衝撃は凄まじかった。

 神格化すらされている異世界人の血が、自分にも流れている。だが、これは王への裏切りにはならないのか。

 幼い彼はそう思った。

 実際、一族の中にはリーズヘルトを殺めるべきだと言う意見もあり父はそれだけは止してくれと頼んだ。

 王への不敬だと思われても仕方がない。自分は生まれるべきではなかったのでは……とそう思った。王へ知らせる訳にはいかないとしても、噂はでてくる。

 誰が口を滑らしたのか。それとも、彼等一族を滅ぼそうと考えている輩は多い。

 

 リーズヘルトの事が、ついに王の耳へと入った。

 死を覚悟したのは彼だけではない。父親もその覚悟があり、母は決してリーズヘルトを見捨てるような事はせず堂々としていればいいと言った。



「そなたが……リーズヘルト、だな」

「はい」



 自分の声が、震えている事に気付いた。

 この場で切り殺されるかも知れない。そう思ったら、体が震え声も同じように震えた。覚悟を決めて来た筈なのに、本当は死にたくないのかと思った。



「勘違いをしないでくれ。断罪をする気も、幼い君を奪うような事もしない」

「え……」



 思わず顔を上げた。

 そこには微笑む王と王妃がおり、子供を斬るという行為はしないとはっきりと告げた。



「噂に踊らされるのは良くない。確かに初代様は、異世界人でその功績も凄かった。だが、だからといって異世界人と共にあるとは言わないさ。彼等は創造主様に呼ばれてきた存在だと記されている。愛する者が共にあるのなら、必ず王族と共にあるべきという風習でもない」



 初代国王は、情熱的な告白をし生涯を王妃1人に注がれた。

 間に生まれた子供達も、また彼にとっては大事な宝物。その宝物には、リーズヘルトも含まれているのだと言われ、思わず自分がその血を引いているからかと聞いてしまった。



「そうではないよ、リーズヘルト。我が国の財産は、民であり王家に仕えてくれる君達でもある。生まれる文化や交流によって生まれる変化。それら全てが、我々にとっての宝物であり財産だ」



 神格化されてしまっているが、初代王妃はとてもお淑やかで大勢の前に出るのを苦手としていた。

 そして、そんな王妃の気持ちを王は汲み取り無理に出る必要もないと言った。



「それにな。私も王妃一筋なんだ。異世界人と必ず共にあるというべきでもない。その者の意思を尊重しないといけない。君の両親は、お互いに好きだからこそ共にあるのだ。王への不敬だなんて誰が言ったのか……。全く敵が多いとそこにも苦労するな」



 穏やかに笑い、場の空気が軽くなる。

 死ななくていい事も含め、自分が生きて良いのだと言われ理解した瞬間――リーズヘルトはほろりと涙を零した。

 いくら覚悟を決めたとはいえ、自分はやはり生きたいのだと自覚した。

 そして同時に王への忠誠を誓うと決めた瞬間だ。



「っ……。成人したその暁には、必ず貴方様のお役に立って見せます!! 自分が自分である為に、このご恩に報いる為に……!!!」

「そう気を張らずとも良いのだが……。まぁ、それを楽しみにしているぞ」

「はいっ……!!!」



 今でも覚えている。

 あの時、あの場での事を。自分の運命を諦めていたあの瞬間、生かされ自分を肯定した王への為にリーズヘルトは剣を振るい武功を立てた。

 異世界人である母は、王妃と仲が良かった事にも驚いたが密かに交流していたと言う事実にも驚かされた。それは父親にも内緒にしていた事。結局の所、幼いリーズヘルトも父親もそんなに心配する事でもなかったのだ。


 そんな徒労に終わった事でも、リーズヘルトにとっては自分の進むべき道を示してくれた瞬間でもあった。その証拠に、彼が独自に編み出した魔法により鎧の巨人との疑似契約を交わす事に成功。

 魔力を扱える者が少ないこの国の中で、彼が扱えたのは異世界人の母の血が入っていたのもある。


 それに幼い頃からデュランの事を見えていたのも大きかった所があるのだろう。そうした経緯で、デュランと疑似契約を結んだは良いがちゃんとした方法でない為に、十分に力を発揮出来ないのが弱点でもあった。

 そこでリーズヘルトが一か八かの賭けとして差し出したのが自身の血だ。

 

 その血を媒介に、デュランとの繋がりを強くしようと考え少しでも力を扱おうとした結果だ。一族の古い手記や宮殿にある書物には異世界人は精霊との繋がりが得やすいとなっていた。


 その賭けは成功した。デュランとの繋がりを得られ、その恩恵を授かったリーズヘルトの強さは一般兵士と同列に並べて良い程のものではない。そうした実績を積んできた結果、20代前半での将軍の地位へと最短で就いた。

 目の前で大型の魔物であるワーム達を屠った残骸が転がっている。



(分かってたけど、あの人……ホント只者じゃない)



 苦労してワームを1体倒したベーリスはそう思い、リーズヘルトの事を見る。しかし、そのベーリスも通常では倒せない筈の魔物を倒しているのでどっちもどっちだと彼等の部下達は思っていた。



「また来るか」

「げっ、マジか……」



 倒された筈の残骸は液体となり再びワームが創られていく。

 ユリウス達の倒し方を見ていたリーズヘルトは、すぐに周りに告げた。同じ方法で魔物を倒す必要がある為に、後方支援や補給を担当している者達は距離を置くように動いた瞬間――ヒュドラの動きが一瞬だけピタリと止めた。



「待て、動くなっ!!!」



 その一瞬が危険だと悟ったランセはすぐに行動を起こす。

 ギロリと9つの頭が一斉に睨みだし、体の色が一瞬で紫色へと変化。ゾワリとした寒気を感じ取ったユリウス達はすぐに距離を取るように跳躍。

 リーズヘルトとベーリス達の部下の元へと素早く着地。ランセが影を踏んだのとヒュドラの口から紫色の霧が吐かれたのは同時だ。



「まさか、毒の霧っ!?」

「行動は変化させないようにしましたが、向こうが勝手に起こしたんですかね」

「恐らくアルビスの事を対応しているギリム達の影響だろうね。あの魔物達の主人が危険と感じれば、勝手に行動するよ」



 驚くラウルとは違いベールは冷静に対応。ランセの影と合わせるようにして、聖属性の魔法での守りを展開。ユリウスは毒の影響を受けないように、リーズヘルト達を含めた部下達に動かないようにお願いをした。

 そこでふとディークが居ない事に気付く。ハッとしたユリウスは、影の外でのんびりと座っているディークを発見。

 すぐに戻るように言うも、彼はそれを拒否した。ヒュドラ側には黒い膜として見えているが、中に居るユリウス達には何もない透明な壁として見ている。



「平気平気。僕が戻って、そっちに影響がある方が面倒だもん」

「そ、そういう問題ですか!?」

「そうもんでしょ。僕に怒るのならランセさんにも怒ってよね」

「え、あ……。ランセさんまで!?」



 影の外に居るのはディークとランセだ。

 愕然となるユリウスにベールは肩に手を置き、「もう何をしても遅いので」と説得なのか諦めを示しているのか分からない。

 一方でラウルは自身の契約したアルブスの様子を見て、休むように言うも首を横に振り続けられてしまう。



「悪いが騙されないぞ。魔力切れが起きそうなんだろう?」

《ウゥ……。ガウ》

「ほら。そんな弱気な声を出してまだ大丈夫なんて信じられないって」

《……》



 むぅ、と納得したくないアルブスは首を横に振る。

 しかしラウルに交代だと言われてしまえば、自身の状態をいつまでも隠し通せないのも分かっている。



《ウゥ……》

《だったら吸い上げた魔力をあげるよ。少しだけど回復に役立てるといい》



 アルブスの体に一瞬で巻き付いた蔦から、小さな花の蕾が現れ8つある内の3つが開花してすぐに消えた。消えた蕾からは一瞬だけ水色の魔力が見え、そのままアルブスの中へと吸い込まれていく。



「ノームさん。ここに居て良いんですか?」

《本当はいけないんだけど、アルベルトがどうしてもと言うんだ。契約した身としては、ちゃんと動かないといけないでしょ?》



 実行し姿を現したノームに、ラウルは思わず睨んでしまう。

 回復してくれたのは良いが、休憩をさせる為に叱ったのに意味がないと思ったからだ。しかし、ノームはアルベルトに頼むように言われている。

 てっきりアルベルトと共に麗奈の方へと居ると思っていたので、彼等が別れて行動している事を不思議に思った。



《話は聞いているよ。あの魔物達、魔力で創られた本物に近い偽物なんでしょ? 本当なら一気に魔力を奪いたいけど、この場合は徐々にしていかないと不味そうだ。その奪った魔力はそのままアルブスに戻す。……回復の手段としては良いと思うんだけどもどうかな》

「はあ……。俺が口で貴方に勝てる訳ないでしょ。その回復、俺達にもしていますか?」

《勿論だよ。ちょっとした強化になる》

「ベールさん」

「えぇ、分かっています。貰った魔力で、強固に出来ていますし嘘は言ってないですよ」



 役に立ったでしょ? と満面の笑みで迫るノームにラウルは頷くしかない。

 ユリウスがブルームの魔力を纏って、外側に出ようとするのをランセに止められる。成功していない方法でやるのは危険だと言うのが理由だ。



「う、でも……」

「ディーク。戦い方を見てたね? 実行してもらうよ」

「ランセさん、それ脅しに入りますって。んー、調整が必要ですけど出来ますね」



 そう答えたディークは、ヒュドラと復活したワーム達を両断。

 腰にある剣を抜いたのは分かるが、速すぎて鞘から抜いていないように見えた。麗奈やゆきと同じような年齢の見た目だが、彼は魔族であり魔王の息子だ。


 自分を最弱だと言うが、同じ魔王達からすればそう見えるだけの事。

 サスティスがこの場に居ないのは、麗奈の方に居るのだと分かりランセは新たに生まれて来たワーム達へと蹴り上げた。


 その一撃は凄まじく、リーズヘルトが契約したデュランと同様に薙ぎ払ってしまう。しかし、どんなに一撃が凄くてもすぐに再生されてしまい数は減らない。



「さて……。持久戦と行こうか」

「ヒュドラの相手はするんで、そっちはお願いしますよ。ランセさん!!」



 新たに生まれたヒュドラを瞬く間に切り伏せるディークに、的確な一撃でワーム達を沈めていくランセ。改めて彼等が自分達の味方で居てくれる事に感謝すると同時に、驚きを隠せないでいたユリウス達だった。


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