第351話∶西の覇者
西側諸国の覇者と呼ばれている国はフォーレス。
中央大陸に位置するダリューセク、ラーグルング国は国土も大きく有名な場所。しかし、フォーレスは無理に戦争を仕掛けたりせずに友好的な関係を結ぼうと考えていた。
何代か前の皇帝は、中央大陸とも友好的な関係を築こうと動いておりそれなりの交流をしていた。だからこそ、この国にも魔法の文化はある。しかし、この世界で聞かれる存在である精霊の声を聞けなくなってから既に100年以上が経過していた。
「あー、ねむっ」
「大じじ様、長が仕事をサボっ――ぐへぇ!!」
「サボってねぇよ。少し眠いだけだ」
同僚の彼を思い切り小突き、余計な事を言わせないようにしている。現に思い切りやられたからなのか、地面にうずくまり悶絶しかけているのを耐えている。しばらく声は出せないなとニヤリとしていたのを、同僚は決して見逃さない。
「なんじゃ、老人を呼びおってからに……」
そこに眠そうにしながらも、呼びかけに答えた人物がいる。
ゆったりとした上下の服で、お腹を軽くかきながら歩いており彼も既に眠そうにしていた。
「ふむ、変化なし……か」
だが、長達が居る場所に着けばゆったりとしていた雰囲気から一変して鋭いものへと変化。
このフォーレスの国境を守る任を受けている。それは彼等の住む場所が近いのもあり、これ以上の侵攻を許せば作物がまた育たなくなる。
それは飢えを生み出し、生活が苦しくなるのを意味する。
国境を守るという事は、彼等にとって家を、自分達の住んでいる場所を守る為に繋がる。
「ある一定範囲までは来るが、こちらに敵意はなし……に近いのか?」
国境を脅かすのは、魔物だけではない。今、彼等が対処しているのは魔物の部類であるスケルトンと呼ばれるアンデットの魔物。白骨体に穴だらけの帽子や武具などを身に纏う簡易的なもの。
集団で行動するのは、知っている通りだがこうして何かの一定範囲内に入ると自動的に帰っていく。
その不気味さは、通常のスケルトンとはかなり違う。
どこかの誰かがスケルトンを作り出し、フォーレスについて調べさせているのではと思い調査するように本国に要請をしている所。
そして、その要請をしてから4日後に返答と同時にある小隊が駆け付けた。
「遅くなってすみません」
「……貴方が来るとは思わなかった」
ははは、とへらっとした笑顔で来たのはフォーレスの8大将軍と呼ばれる存在の1人であるリーズヘルト。
将軍本人が来るとは思わず驚いていると、そのリーズヘルトが突かれる。やったのは副官であり、幼馴染のリンエイだ。
「ほら見て下さい。本来、貴方が出てくるような案件じゃないんですよ。驚いて困っているでしょう」
「……いや、君の行動に驚いているだけだと思うんだが」
小突かれた部分を手で抑えつつ、反論を返すリーズヘルト。
すると、長と呼ばれた人物と目が合い挨拶を交わすと「ども」と一言で返される。
「同じ将軍なのに、しっかりせんか!!」
「あいたっ!!」
寝そべりながらの挨拶だからか、思いきり怒鳴られて拳骨まで貰ってしまう羽目になった。
かなり痛かったので、暫く黙り込む。密かに原因を作ったリーズヘルトを睨もうとして、お互いの目が合う。
「どうしたのかな」
「う、いや……。何でもない、です」
まさか睨もうとしていた、などと正直に言う訳にはいかない。
どうにか誤魔化し適当な風景を見る。リーズヘルトはそれ以上は聞こうとはせずに前方に広がっているスケルトンの大群を見る。
「今の所、攻撃の意思は感じられませんが油断は出来ないですね。この空と何か変化があるのか」
そう言って見上げる空は変わらずの虹色。
約3カ月前から急に空が虹に変わり、天変地異なのかと皆が驚き不安に駆られた。フォーレスの王であるフルグリンドは、8大将軍達を招集し会議をすぐに行った。
まだフォーレストと名付けられる大陸の前からの歴史から見ても、これは異常であると捉えられるが原因が全く分からない。魔物といった明確な敵が居ないこの状況の原因はなんなのか。
占い師や長老なども集まり意見を交わし合うも進展はない。
そこで、占い師に原因もしくは変化が生まれた方角は何処かという事で調べて貰った。その結果、その方角は中央大陸である事が判明。すぐに調査団を派遣し、小さな噂1つでも良いからと情報をとにかく集めた。
「魔法国家の生存。魔王との衝突で同盟を結成……。そう言う変化に、あのスケルトン達は関りあるのやらどうなのか」
「え、何の陰謀だよ」
「確認されてきたのは、この空が見え始めてからでしょうし」
「まぁ、今はどうにか目が慣れて来たけど……。最初は自分の目がおかしくなったのかと思いましたし」
その時の事を思い出したのか、副官のリンエイだけでなく周りも同意するように頷いた。
そしてそれらが、魔力によるものだと判明するも調べる術がなかった。ラーグルング国のように、魔力に満ち溢れた土地だったのも数百年前の話であり、精霊達の声も姿も見えなくなったのも丁度その頃。
「占い師達が出来る範囲は先を視る力と可能性を示すもの。そんな彼等が導き出した解決方法は、中央大陸にあるって事だったね」
「久しく行ってないな……。今度の休みにでも行ってみるか」
「待て、大じじ様。何、さらっと自分の休みぶっこんでるんだよ」
リーズヘルトの意見に乗っかるのは、国境を守って来た元将軍の地位にいたファイス。今は、その将軍の地位を自分が育てた息子たちの1人であり、周りから「若長」と呼ばれているベーリスが文句を言う。
「お、また帰る」
「一定の範囲には近付くけど、敵意もない。でも来るとなると、こっちは対処しないといけない。んー、やはり効くのは光属性の魔法なのかな」
「そうですね。私達の中で、光属性の魔法を扱える者は居ないですし……。それこそ協力を申し出ないと」
「……魔法国家に協力を要請してみようか」
「えっ!?」
リーズヘルトの意見に、副官のリンエイは驚くも周りは落ち着いている。どうやら、同じような意見を持っていたようで話を進めるように促す。
「あのスケルトン達は時間になると国境に来るのに、敵対も感じられない。しかし、こちらは対処するのに睨み合う必要がある。敵意がないのは一時的なのか、いつかは牙を向くのか……。これは占い師達がやってもまだ先が見えないそうだ」
「……こちらが動けないからこそ、外からの協力をするという事ですか?」
「そうだよ、リンエイ。睨み合うのは、国境を担当しているベーリス達だがこの膠着状態が続くのも危険だ。打破するには外からの協力者を招く以外方法はない」
「そうなると、候補は魔法国家ですか」
「……しかし、その国も存在しているのは最近になって分かったのだろう? 基盤を整えるのに、まだ時間も必要なのではないか」
ファイスの言葉に、リーズヘルトはそこを狙うと言う。
嫌な手を考えていると分かるからか「卑怯だなー」とベーリスの文句を綺麗に無視。
「まだしっかりしてない所から狙うとか、そんな嫌らしい手を使うなんて……。断らせない為だからって」
「時には必要な事だよ。汚れ役は私がなるから良いだろうに」
「では、そのように王に報告と今後の計画を立ててきます」
「うん、悪いね」
リンエイは素早く仕事に入る。先を見通せる将軍と言われているリーズベルトの頭脳を支えるのは大変な事だが、彼はその辺の仕事がかなり上手いらしい。
「……よし、ワシも同行しよう」
「あ、ちゃっかり乗っかるなよ!!」
「良いじゃろ別に。休ませろっての」
ぎゃいぎゃいと騒ぐベーリスとファイスの2人を微笑ましそうに見ながら、あっさりと同行を許した。将軍が1人で動くのは珍しい事だが、今回の場合は引退したとはいえ元将軍のファイスだけでなく副官のリンエイと部下を3名程の計6人の旅になる。
王からの許可を貰いつつ、ファイスとの連絡をしっかりと行い今後の行動を決めていく。
後日、ラーグルング国への入国許可としてフォーレスから来るリーズヘルト達は要人扱いとして対応する事となる。
まさか、そんな時にトラブルに巻き込まれるとはこの時ラーグルング国もリーズヘルト達ですら思わなかっただろう。




